23話 素材を集めよう!

 ルーンウォルズは四方全体を、豊かな自然と人を寄せ付けぬ迷宮ダンジョンとに囲まれているが、その西側には広大な森林地帯が広がっている。


 その入り口付近の森は『オイレの森』と呼ばれ、迷宮ダンジョン化しておらず、出現する魔族も低ランクである一方で、薬草や山菜などが多く自生していることから、ルーンウォルズの住人の狩場として重宝されていた。


 ちなみにこのことはソフィーに教えてもらったことだ。

 

 オイレの森はルーンウォルズから歩いて半日程度。往復の移動時間で一日は必要なため、一泊ニ日の工程で探索を行うことにした。

 天候は連日の晴れ。空には雲ひとつない青空が広がっている。まさに絶好の冒険日和だ。


 現地に到着し、俺たちは森の中に分け入っていく。

 オイレの森は、幹が太くうねりを伴って成長した広葉樹が生い茂る森で、木々の間から、僅かながら木漏れ日は差し込むものの、日中でも薄暗い場所が多い。

 

 ただ、足元は何人もの人間や野生動物が分け入った跡が、そのまま通り道となっていて、そこから外れない限りはわりと歩きやすく、迷う心配もなさそうだった。

 

 俺たちは薬草を採取するために、森の奥へと進んでいく。


「お、さっそく薬草が群生してるよ」

「こちらにはロキ草が生えています。解熱作用がある薬草なので少し積んでおきますね」

「あ、あっちにはボルマッシュが生えてるぞ。鎮痛作用があるんだよね」


 さすがは自然豊かな森の中。

 次々と薬の材料になる薬草やキノコが採集できる。


 ちなみに俺は【薬学】のスキル、ミステルは【生存術サバイバル】のスキルを持ってるので、めぼしい薬草ならば二人とも問題なく見分けることができる。


 魔族との遭遇エンカウントもなく、俺たちは薬草採集を続けることができた。こうなってくるとちょっとした山菜採りの気分だ。


「予想以上に沢山取れたね。これだけあればしばらく回復薬ポーションの錬成には困らないぞ」

「はい、山菜とキノコも少し取っておきましたので、今日の野営食に使いましょう」

「お、いいね! 汁物にしてもいいし、キノコは串焼きにしてもいいよな〜、楽しみだなぁ」


 日も傾いてきたので、採集を切り上げ、野営が出来そうな場所を探すことにした。


***


「……!?  何か来る」


 最初に異変に気付いたのはミステルだった。

 彼女は目を細めて遠くを見つめる。


「魔族の気配?」

「はい。まだ向こうはこちらに気づいていないようですが。スキル展開。【鷹の目】」


 ミステルはスキルを発動した。彼女の瞳が青い輝きを放つ。

 【鷹の目】は後方や隠れている敵を見つけるためのシュータースキルだ。


「距離はおよそ三○○メートル、敵の数はニ体、あれは……オークです」

「オークか……厄介だね」


 オークとは豚の頭部を持った二足歩行型の魔族だ。

 知能はそれほど高くないが、武器を扱う。

 略奪を生業とし好んで人族を襲ううえ、群れで行動する習性があるため、状況によっては非常に厄介な相手だ。


「どうしよう。向こうがこっちに気づいていないなら隠れてやり過ごすこともできるかな」

「……生きている限りオークは必ず人を襲います。この森には街の人も多く訪れますから、ここで彼らを討伐しなければ被害が出てしまうかもしれません」


 オークは種族的にオスしか生まれない。そのため繁殖期になると人族の女性をさらい、子をはらませるという忌むべき習性を持つ。辺境の地の民にとっては脅威そのものだろう。

 ミステルの言う通りだ。冒険者として、そうした脅威を見過ごすわけにはいかない。


「うん、そうだね。ルーンウォルズのためにも、俺たちがここで戦おう。近くに他の魔族はいるかい?」


 ミステルは慎重に索敵を続ける。


「少なくとも三○○メートル以内の範囲にはいません。相手はまだわたし達に気づいていません。ここはわたしに任せてください」


 ミステルはそういうと、弓を構え矢をつがえた。


「スキル展開。【精密射撃】」


 空気が張り詰めた。ミステルは凛とした表情で森の奥を見つめている。目視ではオークの姿は全く見えないが、彼女はきっと敵の姿をはっきりと捉えているのだろう。


「射殺す――」


 次の瞬間、風を切るような音とともに放たれた一筋の閃光が、森の奥へ消えていく。

 その光は、的確に獲物を捉えたらしい。遠くから鈍い悲鳴と共に、地面に倒れ伏す音が聞こえてきた。


「まずは一つ。残りは……、こっちに向かってきます」


 森の奥からガサガサとヤブを分け入って走ってくる音が聞こえてきた。


「もう遅い」


 焦ることなくミステルは二度めの矢を放つ。

 再び放たれる閃光の一撃。

 それは先程と同じように、森の暗闇へと吸い込まれていった。


「プギィッ!!」


 今度はさっきよりも大きく断末魔の悲鳴が聞こえ、続けてドサリと巨体が地に伏せる音がはっきりと聞こえた。


「これで二つ。敵はすべて無力化しました。念のため索敵は続けますが、もう大丈夫です」


 涼しげに彼女は言う。


 戦いは――、いや戦いとさえ言えない。圧倒的な力による静謐せいひつ蹂躙じゅうりんは、俺が介入するまでもなく終わっていた。


 俺は改めて彼女の強さに驚く。


「さすがだねミステル。あれだけの距離があるのに正確に敵を射抜くなんて」

「わたしは狩人ハンターですから。遠距離攻撃ならお任せください。それにニコがいるから心強かったです。万が一わたしが失敗しても、きっとフォローしてくれますから」

「そ、そうかな? そう言ってもらえると嬉しいよ」


 少し過大評価な気もするけど、彼女は俺に全幅の信頼を寄せてくれている。その気持ちが嬉しかった。


「それじゃあオークの戦利品ドロップを回収してきますね」

「うん、俺も一緒に行くよ」


 こうして俺たちは危なげなく戦闘を終え、オークの亡骸の下へ進んでいった。

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