18話 湖畔でピクニック!

 ソフィーの本屋を後にして、再び馬を進める。

 次に訪れたのは、一面に畑や果樹園が広がる農園地帯だ。ルークによるとこの街では主に麦とオリーブそれにブドウが名産らしい。

 

(香草や薬草など栽培していれば錬金術の材料にも使えたんだけどな……まぁしょうがない。当面は近くの森や山で採取することにしよう)


 あたりを見回すと半数近くの畑が耕作をしておらず、雑草が生え放題になっていることに気づいた。

 魔族の襲撃で耕作者達も多くが街を去ってしまったということなのだろうか。この様子だと農作物の収穫量もさほど多くなさそうだった。


(とにかくあちこちで人が不足しているということか……)


 農園地帯をさらに進む。やがて大きな湖が見えてきた。


 澄んだ水の色をした湖の水面に太陽の光が反射してキラキラと輝いており、湖畔には風車小屋がポツンと建っている。なかなかに風光明媚ふうこうめいびな風景だ。


「綺麗な湖だなぁ……」

「そうでしょう。この湖はトレーネン湖といって、この一帯でも一番の水源地なんですよ」


 ルークは俺の隣に馬を並べて説明してくれた。

 

 元々この水源を元とした農業用地として開拓されたことがルーンウォルズの興りらしく、そこから徐々に人が集まり、街が形成されていったらしい。

 そのため、街全体にはこの湖を源として、豊富な地下水脈が通っており、水の利用は、使いたい放題。上下水道もほぼ全域に整備されており、王都エルミアの基準をも大きく超えている、とのことだ。

 ちなみに昨日入った領主邸の大浴場も地下から湧き出る温水をそのまま利用しているらしい。


 とかくルーンウォルズは水に恵まれた街ということだ。


 せっかく湖畔まできたので一旦休憩し、ここで昼食をとることにした。

 湖のほとりの木陰に馬をつなぎ、ルークとアリシアが昼食の準備を始める。

 ルークはバスケットからサンドイッチを取り出した。


「わぁ、おいしそう! なんだかピクニックみたいでワクワクするね」


 アリシアは無邪気にはしゃいでいる。

 

(ピクニックか。そんなの何年ぶりだろう)

 

 俺はサンドイッチを手に取った。ふわふわのパンに、チーズ、ハム、レタス、トマトが溢れんばかりに挟み込まれている。


「おいしい!」


 一口かじって思わず声を上げてしまった。

 なんというのか素材本来の旨味が凝縮されているような感じだ。パン自体もバターたっぷりのふんわり柔らかい食感で文句なしだし、具も新鮮そのもの。

 これならいくら食べても飽きないんじゃないかと思うほどだ。

 ミステルもリスみたいに無心でサンドイッチを頬張っている。


 そんな俺たちの反応を見てルークが嬉しそうに微笑んでいた。


「ふふ、実はこのサンドイッチは僕が作ったんです。おいしいと言ってもらえてよかった」

「え、ルーク様が作ったんですか!?」

「はい。せっかく皆さんと外出できる機会だったので。ちょっと早起きして頑張りました」


 な、なんて家庭的な領主様だ。それにはにかむ笑顔が、なんだかとっても可愛いぞ。だが男だ。


「そうだ、ニコさん、それにミステルさんも。これからは僕のことは気軽にルーク、と呼んでくれませんか。それに敬語もいりません」

「え、でも領主様ですし、失礼じゃないですか?」

「いえ、そっちのほうが僕も嬉しいです。その、様づけも敬語もちょっと堅苦しくて……」


 なるほど、そういうものなのか。


「その、僕、領主という立場もあって同年代の友達があまりいないんです。それこそソフィーくらいで。だからその……皆さんが迷惑じゃなければ、友達みたいな関係に、なりたくて……」


 ルークは長いまつ毛を伏せ、顔を少し赤らめる。だが男だ。


「そういうことなら了解だよ、ルーク。俺のこともニコってよんで」

「わたしはこの口調が性分なのですが、今後はルークくんと呼ばせてもらいますね」

「はい、よろしくお願いします!」


 ルークの顔パッとは明るくなった。だが男だ。


「お兄ちゃんだけずるい! アリシアもー!」

「もちろんアリシアも友達だよ」

「えへへ、やったぁ」


 ルークの手料理を食べつつ、雑談に花を咲かせる俺たち一行。ふとアリシアが俺に質問してきた。


「あの……、ニコは錬金術師アルケミストなんだよね?」

「うん、そうだよ」

「その、わたし錬金術を見たことがなくて、どんなものなのか興味があって……」


 錬金術を実際に見てみたいということか。


「そんなことならお安い御用だよ」

「やったぁ!」


 俺が快諾すると、アリシアは目を輝かせた。ルークも横から顔を覗かせてくる。どうやら二人とも錬金術に興味津々のようだ。


 さて何を錬成しようかな?

 回復薬ポーション毒消しアンチトードなら今すぐ作れるけど、せっかくなら二人に喜んでもらえるものを作りたい。

 材料を探してあたりを見回すとルークの用意したバスケットの中に沢山のフルーツとミルク缶が入っていることに気がついた。デザートに用意していたものだろう。

 

(よし、これを使おう)

 

 俺はフルーツとミルク缶、それと空のビーカーを用意すると自分の前に並べた。


「それじゃあ始めるよ」

「はいっ!」

「わくわくするね!」


 二人の期待に応えるべく、俺は精神を集中した。


分解せよニグレド再結晶せよキトリニタス――」


 スキルを発動すると、現れた錬成陣の中で、フルーツとミルクは青い輝きをまといながら、混じり合っていく。


大いなる業は至れりアルス・マグナ――!!」


 これで完成だ。

 輝きが収まった後、先程まで空っぽだったビーカーの中には、クリーミーなオレンジ色の液体が満たされていた。


 俺は人数分のコップに注ぎ分けた。

 ルーク達は注がれた液体を不思議そうな表情で見つめている。


「これは……?」

「いいから飲んでみて。きっと気にいると思う」


 ルークとアリシアは、恐る恐るといった様子で口に運んだ。

 途端、二人は目を見開いて驚いたように顔を上げる。


「すごい! なにこれ! 甘い! こんなおいしいドリンク初めて飲んだ!」

「ほんとうに……濃厚な味わいなのに後味がすっきりしていて。なんだか元気がでてきます……」


 二人は素晴らしい反応を見せてくれる。


(ふはは、そうだろうそうだろう)


「これはなんていうドリンクなの?」

「これはミックスジュースといってフルーツと牛乳を混ぜて作ったドリンクだよ」

「みっくすじゅーす……? 聞いたことない飲み物ですね」

「俺が昔通ってた錬金術師アルケミスト学院アカデミーで流行った飲み物なんだ。錬金術の練習がてらよく作ったんだよ」

「へえー! 錬金術ってすごい! こんなおいしい物を一瞬で作れるなんて!」


 アリシアは大興奮だ。喜んでもらえてよかった。


「あ、ミステルの分もちゃんとあるよ。はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


 俺はミステルの分のコップを手渡した。

 ミステルはひとくち口にすると、ルーク達と同じように目を丸くする。


「美味しい……その、フルーツの皮や種は……?」

「全部、錬成の過程で取り除いているよ」

「それに氷みたいにひんやりしてるのは……?」

「今日は暖かいから、冷たい方が美味しいと思って。錬成するときに温度調整したんだ」

「温度調整って……そんなアッサリと、どれだけ高度な技術なんですか」

「いやぁ、それほどでも」


 俺は照れ臭くなって頭をかいた。

 簡単な錬成だったけど、みんな喜んでくれてよかった。

 俺は満足して残りのサンドイッチを頬張った。


***


錬成の成果

――――――

――――――

 【ミックスジュース】4個

 効果/新鮮な果実を粉々にして牛乳と混ぜた飲み物。とっても甘くて美味しい。健康にもいい。

 品質/A

付加効果エンチャント/なし

――――――

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