16話 街の案内

 次の日の朝、窓から差し込む朝日を浴びて目を覚ます。


「ふわぁ……よく寝た」


 結局、昨日はクロエさんに案内されて、酔い潰れるミステルを無理やりベットに押し込んだ後、自分が割り当てられた客室に戻ってすぐに眠ってしまった。

 三日ぶりのベットでの睡眠ということもあり、相当眠りは深かったようだ。目覚めはかなり爽快だった。


 ベットから起き上がり、簡単に身支度を整える。


 そういえば、ミステルは大丈夫だろうか? 

 二日酔いになってないといいけど……


 そう思ったら丁度、扉がノックされた。


「ニコ、起きていますか」


 ミステルの声だ。


「ああ、今起きたところ。どうぞ」

「わかりました」


 扉が静かに開かれて、ミステルが中に入ってきた。

 その様子はいつもと変わらない、クールなミステルだった。


「あのー、昨日は大丈夫だった?」

「……? 大丈夫だったとは、どういうことでしょう?」

「え、いや。夕食後に出されたお酒を飲んで君は……」

「そういえば、夕食後の記憶が曖昧で……いつの間にか眠ってしまったみたいですね」

「は? いつの間にか眠った……?」


(何言ってんだコイツ)


「朝、クロエさんから、ニコが部屋まで運んでくれたことを聞きました。ありがとうございました。」


 マジか……

 どうやら昨日の醜態はまったく記憶にないらしい。

 

 今後、ミステルにお酒を飲ませるときは気をつけなければいけない。いや、そもそもこの子にお酒を飲ませるべきではない。


「ところでニコ。朝食の準備ができたようです。食堂に向かいましょうか」

「オーケー、いこうか」


 俺たちは食堂へ移動した。


 ***


 食堂につくと、中でクロエさんがテキパキと準備をしていた。

 テーブルには既にパンやスープなど、朝ごはんが用意されている。


「おはー、朝ごはん、できてるよー」


 クロエさんは俺たちに声をかけた。

 テーブルにつき、いただきますをしてから、さっそくパンを手に取る。焼きたてのパンのいい香りが鼻をついた。

 一口かぶりつくと、ふんわりと柔らかく、口の中に広がる小麦の甘みが絶品だった。


「わぁ、このパンとってもおいしいです!」

「ふふん。クロエの特製パン。小麦粉はルーンウォルズ産だよ。おかわり沢山あるからねー」


 この人はパンまで焼けるのか。本当に多才な人だな。


 しばらく、俺もミステルも黙々と食事を続ける。パンはもちろんスープやサラダも絶品で、あっという間に平らげてしまった。毎日こんな朝食を食べられるなんて、ルークとアリシアが羨ましいな。


 朝食がひと段落したところで、クロエさんが俺たちに声をかけてきた。


主人あるじさまから伝言。朝食が終わったら、執務室まできてほしい、とのこと」

「わかりました。すぐいきます」


 俺は席を立つ。ミステルもそれに続いて立ち上った。


「ごちそうさまでした、朝食とっても美味しかったです」

「おそまつさま」


 俺たちはクロエさんに礼を言ってから食堂を後にした。


 ***


 俺たちがルークの執務室に入ると、執務机に座った彼が笑顔で出迎えてくれた。


「おはようございます。お二人とも、昨日はよく眠れましたか?」

「おかげさまで。よく眠れました」


 ルークは俺の返事を受けてにこやかに頷くと、今度は視線をミステルに移した。

 

「それはよかった。その、ミステルさんは、今日は体調のほうは大丈夫ですか?」

「はい? 特段問題ありませんけど……」


 ミステルは俺だけじゃなく、ルークからも気遣いの言葉をかけられて、不思議そうな表情を浮かべた。

 

(ミステル、なにも不思議なことはないんだよ。君は昨夜、それだけ心配されるような状態だったということだよ……)


 それから俺は本題に入ることにした。

 

「それでルーク様、本日の要件はなんでしょうか」

「実は……もしお二人のご都合がよければ、ルーンウォルズを案内させてほしいと思いまして」

「案内ですか……? 領主様が直々に?」

「ええ。昨日話したとおり、今回ニコさん達にお願いする依頼は、この街全体の復興です。そのためにはまず、街のことを皆さんに知ってもらうことが必要だと思うんです」


 確かに。街の現状を知っておくことは、今後の活動において重要なことだ。俺たちはまだルーンウォルズという街について、右も左もわからないのだから。


「そのためには、実際に一度、街を直接見て回ったほうがいいかと思って」


 ルークは言葉を区切ってから「それに……」と、少し申し訳なさそうに笑った。


「ここ最近ずっと執務に追われて館にカンヅメ状態でしたので、僕もちょっと気分転換に外出したくて」

「ああ、なるほど」

「こんなこと言ったら、クロエに怒られてしまいますけどね。もちろん、お忙しいようでしたら無理強いするつもりはありません。いかがでしょうか」


 領主様から直々に案内されると言うのは少し気が引けるけれど、こっちとしてはありがたい提案だった。しかもルークの気分転換も兼ねられるなら断る理由はない。


「俺は構わないですよ。ミステルもいいよね?」

「はい、大丈夫です」


 ルークの顔はパッと明るくなった。


「よかった! それでは早速ですけれど出発しましょうか。馬を準備してきますので、少し待っていてください」


 そう言ってルークが執務机から立ち上がる。

 ……と同時に。

 

 バタンと大きな音を立てて、執務室の扉が開かれた。

 扉の向こうに立っているのは――


「お兄ちゃん! 全部聞こえてたよ!」

「アリシア?」

「お兄ちゃんだけずるいよ! ニコさん達と街をお散歩するなんて」

「いや、お散歩じゃなくて……街の案内なんだけれど」

「私も一緒に行く」

「ええ……」

「だめ?」

「……はあ、わかったよ。それじゃ四人で出かけることにしよう。すいません、ニコさん。妹も一緒でお願いできますか?」


 ルークが諦めたように言った。


「やったぁ! お兄ちゃん、ありがとう!」


 アリシアは嬉しそうに飛び跳ねた。

 きっとルークとアリシアはいつもこんな調子なんだろうな。兄妹の仲睦まじい様子がなんだか微笑ましくて俺は笑ってしまった。


「さて、準備ができましたので行きましょうか」


 俺たちはルークに連れられて、館の外へ出た。

 

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