5話 スキル


 ミステルとパーティを結成してから、一夜明けた早朝。


 ここは俺たちが昨晩泊まった宿屋の食堂だ。

 俺とミステルは朝食を食べ終え、食後のコーヒーを飲んでいた。


 この宿は冒険者御用達ごようたしの安宿だ。

 そのせいか食堂には今日も甲冑や魔術師のローブを着込んだ、いかにも冒険者風という人で溢れている。

 あちこちから今日一日の活動方針を話し合うパーティの声が耳に入ってきた。


 そんな喧騒の中、コーヒーを飲み終えたミステルはマグカップを置いて、口を開いた。


「さて、今日はこれから冒険者ギルドにいきましょう。そこで私たちでも受けられそうな依頼を見つけて受けていきましょう」

「どんな依頼を受けようか?」

「そうですね。私たちはパーティを組んでまだ日が浅いですから、まずは弱い魔族の討伐や素材の採取など、危険が少ない依頼を受けるのがいいと思います」

「なるほど、簡単な依頼を受けて、俺たちのパーティとしての相性や実力を計るということだね」

「そんなところです。それと、あらかじめお互いのスキルは情報共有しておきましょうか」


 スキル――


 ミステルが何気なく口にしたこの言葉は、冒険者に限らず、この世界で生きる人々が獲得した知識や能力を総称する言葉だ。

 

 才能ギフト技術テクニック魔法マジック知識ウィズダム――それらが研鑽の果てにその者の魂に刻まれたとき。

 秩序ロウの象徴たる青い月ルメリアの祝福により、そのわざはスキルとして発現する――と、ひとまずこの世界では考えられている。

 

 正直、なぜ人が得た技術や知識がスキルとして発現するのか、その詳しい原理は解明されていない。

 青い月の祝福ルメリアン・ギフト説はこの世界でもっとも支持されている古典的な考えだけど、最近では人の持つ普遍的無意識の領域なんかにからめた新説なんかもでてきているらしい。

 とにかく、俺たちにとってもっとも身近でありながら、未だ確かに神の領域にある技術。それがスキルだった。

 

 ちなみにスキルの情報は【スキルボード】により、体系的に確認ができる。

 【スキルボード】とは、人族ならほぼ全員が使用できる初歩的なスキルのことで、自分が現在覚えているスキルを系統別に一覧で確認することができる。スキルボードを使えば、その人の能力や特技を一目で把握することができて非常に便利だ。

 公開範囲も自由に設定できるので、人が多いところでも特定のメンバーだけに見せることもできたりする。


「スキル展開――【スキルボード】」


 ミステルがそう唱えると、宙に青白い光が浮かび上がった。この青く輝く光こそがスキルが発動した証だ。

 最初ただの揺らめきだったその光は、すぐに幾何学的な形に姿を変え、スキルの一覧スキルボードへと収束した。



――――――――――

――――――――――


シューター

【精密射撃】 精密な射撃の技術を習得している

【狙撃】 遠距離からの射撃の技術を習得している

【鷹の目】 後方や隠れた敵を発見する

【エーテルアロー】 魔力を消費して魔法の矢を放つ


レンジャー

【魔族の知識】 魔族の生態等に詳しい

生存術サバイバル】 サバイバルに熟知

【トレジャーハント】 ダンジョンに隠れた宝物を見つけやすくなる


スカウト

【トラップスキル】 設置された罠を察知し解除することができる

【ファストアクション】 敵に気づかれずに先制攻撃を取りやすくなる


プリテンダー

【幻術】 対象の外見を変化させることができる


――――――――――

――――――――――


 

「ご覧の通り、私は狩人ハンターなので射撃系と探索系のスキルを中心に揃えています。昨晩お話をしたとおり、【幻術】のスキルも」

「なるほど、迷宮ダンジョン探索で頼りになりそうな構成だね」


「それではニコさんもスキルボードを開いてくれますか?」

「オッケー」


 次は俺の番だ。


「スキル展開――【スキルボード】」


 俺の前にスキルボードが展開する。



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アルケミスト

分解ニグレド】 錬金術の第一工程。物質を分解する

再結晶キトリニタス】 錬金術の第二工程。物質を抽出し再構築する

大いなる業アルス・マグナ】 錬金術の第三工程。分解・再結晶を経た物質を、完全な物質として固定化する

【遠隔錬成】 行使者と地続きの部分に座標地点アンカーポイントを設定し、その場所に錬金術を発動する


スカラー

【分析】 品物の価値や用途、効果を調べる。特定の知識を持つ場合、より精緻な分析が可能

【薬学】 薬学の知識を得る

【工学】 工学の知識を得る

【初級医学】初級医学の知識を得る


ウィザード

【基礎魔法】 四大属性(火・水・土・風)の基礎魔法を使える


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 これが現在の俺のスキルボードだ。

 錬金術をベースに、分析スキルをサブに据えた構成。バリバリの支援型の構成で、攻撃スキルはほとんどない。


「やっぱり、俺のスキルは戦闘向きじゃないよね」

「そうですね、でも錬金術によるアイテム作成に加えて、四大属性すべての基礎魔法をすべて使用できるのは、ちょうど私の短所を補う形になっています。思ったとおり、わたし達の相性は悪くなさそうです」


 これでお互いの得意分野や苦手分野がわかった。

 後は実戦で試しながら、より良い連携を模索していけばいいだろう。


「それでは、そろそろ冒険者ギルドへいきましょうか」

「了解、行こう!」


 俺たちは宿屋を後にした。

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