4話 勇者パーティ崩壊の予言【ヒロイン視点】★
「なんだ、その瞳の色は!!」
「まさかあなたは魔族なのですか!? ナハトとの
「うちに近寄るな。汚らわしい魔族もどき!」
レイドボス、
わたしはパーティメンバーからの罵声を一身に浴びていた。
(ほら、こうなった。やっぱりパーティになんて入るんじゃなかった)
わたしは心の中でひとつグチをつぶやいて、目の前でわたしを口汚く罵るパーティメンバーに目を向けた。
ちなみにこの場にさっきわたしと共闘したニコはいない。彼はパーティリーダーの命令を受けて、一足先に
(一応、最低限の反論はさせてもらおう)
「……わたしは必要な索敵はしていましたし、
「黙れ! この僕に意見をするなっ!」
パーティリーダーの青年が大声で叫ぶ。確かラインハルトとかいったか? さっきまでの気取った紳士面とはまるで別人みたいだなと思う。馴れ馴れしく私の体をベタベタと触ってきて、正直気色が悪かった。
彼の取り巻きたち――
「さっきから言い訳ばっかり。少しくらいは反省の色を見せたらどうですの?」
「そもそもナハトの習性をもっと早く教えてくれれば、こんなことにならなかったろ!? なんのための【魔族知識】だよ バーカ」
「耳を貸さなかったのはアナタたちですよね?」
「うっせーな! 黙れよテメー!」
(ああもう、面倒臭い)
「こんな
勇者さまは顔をひきつらせてそう宣言したが、わたしにとっては、どうでもいいことだった。
そもそも、ちょっとした偶然と気まぐれでこのパーティに加入しただけ。長く滞在できるとは思っていなかった。
赤い瞳のことがバレればそれまでだと思っていたし、瞳の色のことで、
それに仮にも王都エルミアに名だたるSランクパーティの実態がこの程度の実力だったことに、わたしは失望していた。
バカの一つ覚えで聖剣を振り回して敵に突っ込んでいく勇者さま。
魔力の温存をまるで考えずに燃費の悪い最上級魔法を連発する
負傷者の傷を癒すという本来の自分の
たしかに個人のスキルや武器は強力かもしれない。だけど、連携も戦術もまるでなっていない、スキル頼りの幼稚なパワープレイ。
これなら足を引っ張られない分、
(そうだな……唯一残念だと思うことがあるとすれば……)
このパーティで支給される
あれだけ高品質な
ナハトとの戦いで見せた
でも、それだけだった。
こんなパーティに未練はなかった。
また、
***
三日後に開催されたわたしの追放会議。
ラインハルトの筋書き通り進むと思っていたら、思わぬ横槍が入った。
他のメンバーがラインハルトに同調する中、ニコだけがわたしの追放に異議を唱えたのだ。
「瞳の色をそんな迷信と結びつけて、それでその人を評価するなんて、そんなのはただの偏見だ。
彼の声が会議室に響く。温厚そうな印象だけど、こんな風に感情をむき出しにして怒るんだなと思う。
そう思ってから、彼は自分のために怒ってくれているのに我ながら随分と
正直いって、わたしには彼の意図がまったく理解できなかったのだ。
だって、わたしのことをかばってもなんのメリットもない。
それどころか結局、彼はわたしのことをかばったせいでラインハルトの怒りを買って、道連れでパーティを追放されてしまった。
ワケが分からない。
お人好しなのか、それともただのマヌケなのか。
だけど、わたしはこれまでこんな人に出会ったことはなかった。
わたしはこの赤い瞳のせいで、ずっと一人で生きてきた。
物心つく前に、家族はわたしのことを孤児院に預けてどこかへ消えてしまった。
孤児院でも周囲から疎まれて、嫌われ続けた。
わたしの世界はいつも独り。
でもそれは仕方がない。わたしの瞳は忌まわしき赤。
なのに、この
わたしの赤い瞳を見て、あろうことかキレイだと言った。
(意味不明だ――)
でも、理解できないからこそ、つい興味がわいた。
この人のことをもっと知りたいと思った。
追いかけるべきだ。きっと、この人とこのまま別れてしまったら、わたしは後悔する。
そんな直感がわたしの体を動かす。
ニコの後を追いかけようと会議室の扉に手をかけた。
(そうだ、一言だけ――最後に)
わたしは振り返り、ラインハルトたちを見据えた。
「なんだ、貴様もとっとと失せろ」
「質問をしてもいいですか?」
「質問だと?」
わたしの言葉を受けて、ラインハルトの眉がピクリと動く。
「アナタ達は、本当にニコ・フラメルをただの
「はあ? どーいうイミ?」
リリアンが眉をひそめた。
「言葉通りの意味です。最後にそれだけ聞かせてくれませんか?」
ラインハルトは憮然と私の言葉を受け止めた後、ゆっくりと口を開いた。
「ただの
「それじゃあ――」
「さっき僕が言った言葉を聞いていなかったのか? 代わりなんていくらでもいる。ヤツはただの雑用係――いや、今となっては二流以下のゴミだ。」
ラインハルトはゆがんだ笑顔を口元に浮かべて、そう吐き捨てた。
「……そうですか、よくわかりました」
「なんだ赤目持ち。何が言いたい?」
「いえ、なんの心置きもなく、このパーティから去れると思っただけです」
「なんだと……?」
ラインハルトの顔つきが険しくなる。
「一つ、私から忠告です。早々にSランクの看板は下げた方が賢明です」
「なにぃ?」
ラインハルトは凄みをきかせてにらみつけた。
そんな振る舞いがあまりに
個々のスキルに頼り、押し攻めることしか知らない戦法。
闇雲に放たれる強力なスキル。その代償として、いたずらに浪費される魔力。
そんな幼稚なパーティをかろうじてSランクパーティたらしめていたものが果たして何だったのか。
彼らはまるで気づいていないのだ。このイビツなパーティを支えていた、大いなる屋台骨を、たった今、愚かにも自ずから手放してしまったことに。
「このパーティに
わたしはそれだけ言い残し、会議室を後にした。
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