エピローグ

【選者~エレクト~】

 サトリは目を覚ます。空が明るくなりかけている。日差しで暖かさを感じる。「朝だ…」黒いフードを被ったウォーリー役タランティーノ・ボランティーノが近づいて来る。「起きたかい?」「まだ寝ぼけてます…」「君のお陰で妻と娘が戻って来た。本当に感謝している」「それは良かったです。ところで、この夢ってあんまり願いが叶える夢じゃなかったですよね」「そんなことはない。夢に出てきた奇石、あれに願えば何でも叶った。だが、世界の意思になった妻が娘を助けようと災害を起こして、それを止めるのにほとんど使われてしまった」「そういうことですか。仕方ないですね。僕もこの夢で強くなれた気がしますから」「君の未来が明るくなることを祈っている」登校するサトリ。道端で老人が寝ている。横を見ると、『若峰』と書かれた表札の家がある。「このお爺さんが、仙人…有難うございました」他にも、道端で寝る人が大勢いる。『宣託高校』と書かれた学校に着くと、サトリの足が止まる。「サトリ!」ロンド役のゴショガワラゴウキが手を挙げて挨拶する。「2人ともおはよう」クリス役イズミケンタ、ライラ役ミスズチアキ、ナタリー役ツチモリコハル、レイピア役センザキレイコが登校する。教室に続々と生徒が登校する。グレート役シンタトクノスケとモンステラ役ウラワウララカの二人が近づいて来る。「みんな、昨夜の夢の話で持ち切りね」「そうだね。色々あったけど楽しかったね」「起きたばかりなのに思い出しただけで疲れるわ」「みんな、すごかったなぁ。特にサトリ君の成長はすごかった」放送が鳴る。「エレクトの壮行会を行います。全生徒は体育館に集まってください」体育館に集まる全生徒。エレクトの10人が前に並ぶ。サトリは他のエレクトを全員知っている。何故なら、昨夜の夢で逢っているからである。1年先輩のワカトラ役ワカミネタイガ、クリスピー役ハヤブサショウ、アリス役サトウ・ルイス・ウサギ、チグリス役オオコウチノバラ、同級生のガル役マタタクマ、アジズ役ヒショウエン、1年後輩のアヤメ役ツツゴウアヤメ、ゼックス役ムサシマルベンケイ、ペリドット役ゴショガワラカズキである。校長のモゲレオ役シンタトクシゲが台の上に立つ。「おはよう。昨夜はお疲れさま。ああ、落ち着いて。静かに、静かに。さて、ついにこの日が来てしまった。送る者も送られる者もさぞかし緊張していることだろう。ここで、一つだけ話を。『ゆく川の流れは絶えずしてしかも元の水にあらず』。これは方丈記の一節で、川を流れる水は少し前に川を流れていた水とは違うという意味だ。同じように、生き物の体内を流れる血液も少し前のものとは違うといえる。それは、少し前の自分と今の自分は同じようでも違うと言い換えることが出来る。つまり、何が言いたいかというと、昨日悩んでいたことがあっても今日の自分はそれを変えることができるかもしれないということだ。君たちはその可能性を持っているということ、それだけが言いたかった。最後にもう一言。健闘を祈る」教室に戻り、1人ずつエレクトと別れの挨拶をする。多くの者が「頑張って」「応援してるよ」などの激励の言葉をかける。6人の者だけ異なる言葉をかける。コハルが言う。「大丈夫って信じてる」レイコが言う。「あなたなら出来るわ。私が認めたもの」ゴウキが言う。「俺は間違ってた。目立つ奴だけが凄いと思ってたけど、目立たない奴も凄いって分かった。サトリ。お前は凄い奴だ。先輩を頼れ。弟を頼む。またな」チアキが言う。「ごめん。あの時、強く言ったこと。だって、もうサトリは逃げないもんね。行ってらっしゃい。気をつけてね」ケンタが言う。「サトリ、チアキのこと好きだよね?実は僕もなんだ。サトリが帰るまで告白しないでおく。だから必ず帰って来てね」トクノスケが言う。「サトリ君が、エレクトに決まった時、心から良いと思った。それは、君なら上手くやってくれると心から思ったからだ。健闘を祈る」サトリらエレクトを乗せた宇宙船兼巨大変形ロボットは地球を飛び立つ。サトリは思う。(僕は、強くなった。だから、もう逃げない。必ずやり遂げて生きて帰る。選ばれた者として。みんな、それまで、元気で)


 ドリーム社支店。ジョー役ジョウイチロウとボーン役レイチェルと閻魔王役タダシが電波の復旧作業している。タランティーノとパキラ役メアリーが話している。「いやー、上手くいって良かった」「そうだな。でも、あんな7つの鍵なんて、危険なものを何で用意したんだい?」「だって、それが無くちゃ、物語の終わるきっかけがないでしょう。でも、良かった。リアルを追及するために、バッドエンドも一応用意していたから」「なんだって!?」「全員、夢の中から出られなかったかも」「ああ、恐ろしい。」「ま、うまくいったのは、この町の人のおかげだ。物語が上手く進むには役の動きが重要だった。ボクはただのプログラマーだけど、演者がどうするかが大事だから。皆さんは今どんな感じ?」「ああ。大いに喜んでいるみたいだよ」「それは安心した!それじゃあ、ボクの“ひと夏の夜の夢計画”は上手くいったようだ」「え?まさか、君、このことを見越して電波を発信するように…?」「結果的に上手くいっただろう?」「時々、君のことを、本当に目が見えないのか、って疑いたくなるよ」「ははは、見えなくなってより見えてきたものがあるかもしれない」「それなら良かったのかな」「良かったと思うことにする。君も良かったじゃないか。君の家族も全員戻ってきたことだし」タランティーノは奥の部屋に妻の世界の意思役マサコと娘のタクト役ユメが寝ているのを見る。「ああ。それはその通りだ。本当に良かった。しかし、今回、上手くいったのは、どうしてだろうか?」「それなら、きっと主役の彼のおかげかもね。今頃どうしてるかな。それにしても、いつも君は良い人物に声をかけるよね」「まあね、良い目を持っているんだ…あ!今何時だ…?まずい、遅れる!社長が僕を呼んでいるんだ!行って来るから、留守番よろしく!」「行ってらっしゃい。あの感じだと、いい知らせのようだ」


「この物語は役を演じてくれた人の協力があってこそ成立するものだった。ボク自身、この物語が始まる前につけた設定は3つだけだ。それらは『自然』『歴史』そして『和』だ。これらは、物語を通して現象に現れていた。それ以外の出来事は、人の意思が伴ってはじめて、ほとんど全部出来上がっていた。“演じる”といえば、“演奏する”という言葉もある。これは言わば、物語において、幻想ではあるが、他人とのぶつかり合いや、自分との葛藤など様々な戦争があった、一つの壮大な演奏だったともいえよう。即ち、演者の方々は“エキストラ”であり、“オーケストラ”だった。しかし、中には演者がいない役も存在した。彼らも物語においては重要である。でも、彼らは言わば、自動で動くロボットのようなものである。最期の戦いのように物語を展開することが出来るのは、演者、つまり、生きた人である。最後まで読んでいただけた方にはお分かりのように、これは自らの意思で選んで行動したアドリブ満載で進行したといえる。最後まで演じてくれた彼らに今一度大きな拍手を、実際しないまでも心の中で賞賛してほしい。次の演者となるのは読者の方かもしれません。いつ始まるか分からないので、この一瞬を大切にしていてください。では、ごきげんよう」

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選者(エレクト) ソードメニー @sordmany

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