第5章

【悪夢】

 ガルは走っていた。森の中を全力疾走で駆け抜ける。とっくに彼の身体は限界を超えていた。それでも彼は走ることをやめない。海岸を全力疾走で駆け抜ける。走ること。彼にとってそれは生きる意味そのものだった。1人でも多くの人を救い出したい。それが彼の信念だった。そう思うきっかけとなった火災によって彼は火に対する恐怖心を持った。不運にも彼の任務には火災現場に赴くこともあった。救出を求める声。己の恐怖心。その事実が彼を苦しめる。彼はその苦しみから逃れたいと思って走っているわけではない。彼は誰かが被害に遭い苦しむ前に助け出したい。その一心で走っている。町並みを全力疾走で駆け抜ける。誰よりも速く、走りたい。昨日の自分よりも速く、走りたい。トンネルの中を全力疾走で駆け抜ける。トンネルを抜けることはなかなかできない。いつになったら抜けられるのか。不安が彼を押し寄せる。彼の額から汗が流れる。汗を拭っても彼の疲労は拭えない。それでも彼は走ることをやめない。ラウス。彼の前を走るラウスの姿があった。「どうしてここに?」ラウスは振り向き、合図すると先に走って行ってしまう。自分は本当に速いのか。疑問が彼を押し寄せる。彼は走るとき無心になる。雑念があると彼は速く走れなくなると知っていた。今の彼は迷いが頭の中に消えない。彼は首を振るが雑念は消えない。異変を感じ後ろを向くガル。炎が勢いを強めながら迫っていた。「やめてくれ…!」ガルは全力疾走で駆け抜けるが、炎に囲まれてしまうのだった。


 SONG隊員の彼は彼女と二人で訓練をしていた。獣が群れになって逃げだす。茂みの奥から木をなぎ倒す音が聞こえる。身構える彼女。逃げようと言う彼。首を振る彼女。大型の獣が飛び出す。彼女は応戦するも、獰猛な獣の攻撃で足に怪我を負う。彼は彼女を背負い、逃げる。突進して向かってくる獣。横に飛び、躱す。獣は岩にぶつかり倒れる。逃げ切ったと思ったのもつかの間、突如地震が発生。彼らは割れた地面に落ちる。寸前で地面に掴まった彼女。自力で上がれず助けを求める顔で彼の方に手を伸ばす。その手を掴む瞬間に、限界に達し落下していく彼女。彼女の方に手を伸ばし、それをただ見ている彼。「もう一度チャンスを…!」そう彼が望む。すると、時間が彼と彼女が訓練をする場面に巻き戻る。何度も繰り返されるが結末は変わらないのだった。


 恐怖の念から生じた恐ろしい敵の数々が少年に押し寄せる。「来ないでくれぇ!!」少年の願いもむなしく敵は進撃する。少年を通り過ぎ、他の人々を攻撃する。「やめてくれぇ!!」少年は敵の攻撃から庇うように立つ。しかし、敵の剣が少年をすり抜ける。倒れる人を少年が起こす。「大丈夫ですか!!は…!!」その人の顔は敵と同じ骸骨に変貌していた。「うわぁ!!」その場から走り去る少年。敵の動きはこの世のものではなく、どこへ走ろうと逃げられはしなかった。


 謎の施設に閉じ込められた少女。迫る壁により狭くなる通路を走る少女。「サキ!こっちだ!さあ早く!」謎の声に導かれるまま逃げ続ける少女。逃げた先が行き止まりで、絶体絶命の状況に陥る。「もう終わりよ…」「諦めてはいけない!」天井の戸が開き、一人の男が現れる。「さあこっちへ!」伸びた手に掴まる少女。引き上げられた先は、さっきと同じようなフロア。少女の手を引き、前を走る謎の男。その男の尻には尻尾が、頭にはまるで犬のような耳が見える。少女はそれを見て言う。「まさか、プーちゃん…?」「はい!そうです!今まですっとあなたにお世話になったプー太です」整った顔で答える男。「どうしてここに?」「あなたへの思いが通じたようです」彼らの背後から謎のマシンが迫る。「詳しい話はあとに!」そう言うと、彼は剣を取り、少女を後ろにして、マシンに立ち向かう。


 青年は気が付くと椅子に座っていた。手が動かせず、何も見えない。「どこだ、ここは?」「ここは俺の部屋だ。俺を痛い目に合わせた罰を与える」聞き覚えのある声がする。「誰だ、って聞くまでもないな」「いいか?今から見せるものはお前には苦痛かもしれない。だが、罰とはそういうものだ」そう言って男は目隠しを取り、彼の視界に衝撃の光景が飛び込む。目の前には気を失い、壁に張り付けにされ、手枷をはめられたミミハがいた。男がミミハの頬を舐める。「やめろ!」思わず叫ぶ彼。「わかった。わかった。やっぱりお前の思いは本物だったな。好きにしろ。今なら願うものはなんでも叶うぜ?」男が青年の手にはめられた金具を外す。彼は静かに歩き出し、ミミハの前まできた。気を失ったように俯くミミハ。何かを覚悟する彼。(ゴクリ)生唾を飲み込むと彼の手には刃物があった。


 アジズは、強敵を相手にしていた。相手が足元に振るう長槍をジャンプで躱す。相手が首元に振るう長槍を屈んで躱す。躱してはいるが攻撃が当たらない。相手に近づくことさえ出来ない。「こんな時、ロンクさんなら…」アジズは、意を決し、拳を構える。


 元連合は、大勢の強敵を相手にしていた。スペンサーとスキピオウとオローレが盾で防ぐ。ピーナッツが剣を、スキピヨが槍を、サンタマリアが斧を、プークスが銃を用いて攻撃する。モノが爆弾を投げ、ペープが槌を振るい、コンビネーション攻撃を決める。ソーが集中し一撃を放つ。倒しても倒しても続々と湧いて出る強敵たち。「「諦めない」」元連合は、意を決し、武器を構える。


 英雄たちは、怪獣を相手にしていた。アルメオはマシンAを操り、大地を走る。「俺が仕掛ける!」前方の扉が開き、ミサイルを放つ。「命中だ!」怪獣はびくともしない。「何!?」ミズリオはマシンBを操り、水中を進む。「私が動きを封じよう」ホースを伸ばし、怪獣の通る道を水浸しにする。怪獣が水を警戒する。「上手くいった!」ただし、同時にアルメオの乗るマシンAが流される。「何やってる!?」オックウがマシンCを操り、空を飛ぶ。「は~何やってんだろう。怪獣に勝てるわけがないのに…まあ、一応打っとこう」アンテナを伸ばし、電撃を放つ。怪獣に効果があるようだ。「いいぞ。オックウ、その調子だ」「そのまま決めてしまっていい」「あれ?燃料切れ?」マシンCの電撃には充電が必要だった。怪獣が勢いを吹き返し、マシンCを掴み、放り投げる。「おおっと!」体勢を立て直し、飛行する。怪獣は口に力を集め、光線を吐く。「ああ!」マシンAが避ける。「紙一重だった!」「このままでは、埒が明かない!」「じゃあ、あれしかないな!」「あれしかない」「あれといきましょう」「オックウ、何か分かってるか?」「あれは…あれ?」「合体だ!」「ああ、合体だ。やりましょう」「「合体!」」マシンA、B、Cが変形し、一つの巨大なマシンαに変身する。怪獣は再び光線を吐く。「同じ手を二度も食らうか!」マシンαは両腕でガードし、光線をはじく。「私たちの力を一つに」「一つに!」「…一つに」マシンαの背中のジェットが噴射し、渾身の拳が怪獣に炸裂する。着地と同時に怪獣が爆発。「俺たちの本気、見たかー!」地面からツタが伸び、マシンαを掴む。「何事?」ツタに運ばれた先は、マシンαの5倍はある大きさの怪獣。「マジで面倒くさい展開」


 カリュードの面々は、2体の怪獣を相手にしていた。ロンドはマシンDに、クリスはマシンEに乗り、大地を走る。ライラは、マシンFに乗り、水中を進む。レイピアは、マシンGに乗り、空を飛ぶ。「良いぜ、このマシン。俺に相性の良い形をしてる」「確かに。不思議と操縦がしやすいです」「かなりリアルなのはどうにかしてほしいわ」「早く終わらせましょう」ナタリーは、マシンHに、サトリはマシンIに乗り、道を走る。「2体もいるね」「そうだね。勝てるかな…」「弱音を吐くな!攻撃あるのみだ。行くぞ、クリス」「わかりました」ライオンとトラの形をしたマシンD、Eが陸の怪獣に噛みつく。海の怪獣が助けに向かう。「行かせないわよ」ピロシク型のマシンFが海の怪獣に噛みつく。「一撃で仕留める」ウィングエッジ型のマシンGが鋭い翼で海の怪獣を切り裂く。「まず一体」続いて、陸の怪獣を切り裂こうとするが、鎌状の腕で弾かれる。「うっ」体勢を立て直し、飛行する。陸の怪獣は口に力を集め、光線を吐く。マシンH、Iが避ける。「危なかった」「危ない!」「翼が弾かれるなんて聞いてないわ」「噛みついてるだけじゃダメそうだし…」「じゃあ、あれだ!」「あれしかないですね」「サトリ、何か分かってるか?」「あれ…あれ?」「合体だ!行くぞ」「「合体!」」マシンD、E、F、G、H、Iが変形し、二つの巨大なマシンβ、γに変身する。「あれ?予想と違うな」「二つになってます」怪獣は再び光線を吐く。「ぐっ!」マシンβは両腕でガードし、光線をはじく。「今のうちに」「打て!」「「私たちの力を一つに」」マシンγに光が集まり、光線を放つ。陸の怪獣が爆発。「やった!」「待って…」「様子が変よ」2体の怪獣が先ほどより強化されて復活する。「どういうことだ…」「まずいですね」「うわ…もうやめて」怪獣たちがマシンを掴み、押し倒す。「やられる…」「どうにかしないと…」「皆、しっかりして。分離よ」マシンが分離し、攻撃を躱す。「やるな、レイピア」「甘く見ないでほしいわ」「後はどうやって倒すか」「何か方法があるはずです」「…もしかして同時に倒すとか?」「それだわ!」「確かに、一理あります」「やってみよう」マシンは再び合体し、マシンβ、γになる。それぞれ怪獣の尻尾を掴み、振り回す。十分回した後、投げ飛ばす。転がり、一か所に集まる怪獣たち。「よし!今だ!」マシンβ、γが光線を一斉に放つ。怪獣たちが爆発四散。爆炎と共に生じた光に包まれる面々。


【共通の夢】

 面々は、浮遊していた。辺りを見回すと、色々な情景が入り乱れる空間だった。目の前には、一つの巨大な扉があった。吸い込まれるように、次の場所へと移動した。


 「ここは、どこ…?」サトリが気づくと、オレンジ色の世界だった。空も、雲も、オレンジ色だった。空には、巨大なエイが飛んでいた。訳が分からないまま、サトリは道を歩き出した。辺りを見回すと、不思議な形の木が生えていた。「はあ…」思わずため息をつくサトリ。「マタツイタ。コレデ合計512回目ダ」「だ、だれ!?」サトリの目の前に、羽の生えた妖精が現れた。「私ハ、判決ヲ下ス妖精リー。公平ヲモットーニシテイル。ダカラ、“フェア・リー”ト呼バレル」「何だか、幻を見ているみたい…」「幻デハナイ。本物ノ妖精ダ」「はあ…」「513回目ダ。貴様、タメ息ヲツクト幸福ガ逃ゲルゾ」「聞いたことある。でも本当かなあ」「タメ息ヲツクコトニヨッテマイナス傾向ニ至リ、ソノ結果プラス傾向即チ幸福カラ遠ザカルノダ。1000回ノタメ息ガ1年分ノ幸福ニ値スルトカ…」「1年!もう半分超えてる!はあ…」「514回!ソレヨリモ、私ハ役目ヲ果タサナケレバナラナイ。ツイテコイ」言われるまま、リーの後を行く。「みんながいる」広場に面々が集合した。「サトリ、遅いぞ」「ごめん」「説明シヨウ。ココハ、アラユル記憶ヤイメージデデキタ“夢ノ世界”。ココデイウ夢トハ、普通ニ見ル夢ト異ナリ、スベテノ人ノ夢ヤ記憶ガ蓄積サレテデキタ共通ノ夢。アカシックレコード、トイエバワカルカモシレナイ」「本当にあったんですね」「クリスすごいな。全く分からないよ」「夢ノ世界ハ、無限ニ存在スル平行世界ノ“鏡ノ世界”、死者ヲ思イハセルコトニヨリ生マレタ天国ト地獄ノ“死者ノ世界”トイッタ人ノ想像デ生マレタ世界ト繋ッテイル。タダシ、ソレラノ世界ニハ選バレタ者ノミ行クコトガデキル」「選ばれた者?一体誰に選ばれるの?」「私ダ。公平ヲモットーニ判決ヲ下ス」「どうやって選ぶの?」「悪夢ヲクリアデキタカドウカ、ソノ上キレイニクリアデキレバ得点ガ高イ」「悪夢って、あの怪獣の事かしら」「ソノ通リダ。貴様タチノ他ニモ候補者ガイル。彼ラハ今モ悪夢ト戦ッテイル。アレヲ見ヨ」広場の中心にある噴水から、色々な情景が飛び出た。


 「どうすればいいのかな、この状況」マシンαは5倍の大きさの怪獣のツタに掴まれていた。「気合で乗り切るしかない!」「気合で乗り切れる相手とは思えない。何か策を打たないと勝つ見込みはない」「身動き一つできません」怪獣が唸り声をあげ、ツタがさらに強くまきつく。マシン内部は警告を示す赤いランプが点滅し、ブザー音が鳴り響く。「まずい。限界が近いようだ」「気合だー!」「無理ですって。こんな時、助っ人が欲しい。前に貴方方を助けた僕のような」「確かにもうお手上げだ。だが、そんな都合の良い事を望むものじゃないぞ、オックウ。どんな状況下でも諦めず考え続ければ良い策が見つかるはず…思いつかない」「気合だー!動け!」「うるさいと考えがまとまらない。静かに」「助っ人は都合の良い時に来るから助っ人なんだ。お願いします、来てください」締められるマシンαの横に、光の巨人が現れる。「え…」「本当に来た!」「ほら、言ったでしょ」「まさか、良い策は、オックウの言う、助っ人に頼む、だったとは」光の巨人が、手に持つ剣に、力を集め、怪獣に放つ。巨大な怪獣は爆発四散。「助かりました!あなたの名前は?」光の巨人は消えた。「笑っていたように見えた。何だったんだ?」「知らないすよ。あー、世の中分からないことだらけ」


 噴水から飛び出た情景を見た面々。「英雄さんたちだ」「ナタリーの知り合いですね。悪夢でも僕たちが戦った怪獣たちと違いました」「あと、助っ人が来てくれてた」「そうでしたね。あれは一体何だったんでしょう?」「オックウ君の言う通り、分からないことだらけ」「本当ですね。あ、次の情景が出ましたよ」


 意を決した元連合は、勢いが違った。「ど真ん中だぞ」「OK」モノとペープのコンビネーション。「危ない!」「さすが早いですね。助かりました」スペンサーの守りにピーナッツが答える。「父さん。背中は任せてください」「頼もしくなったな」スキピヨとスキピオウ親子の絆。「守りが固いで評判だ」「すいません!後ろ行きました」「大丈夫です。これ以上後ろには行かせません」オローレ、プークス、サンタマリアの連携。「探したよ…これが根源!」ソーの全力の一撃。爆発四散。


 噴水から飛び出た情景を見た面々。「元連合のみなさんだ」「改めて凄いメンバーだわ」「そうだね。今度は、助っ人が出てこなかった。何か関係があるのかな」「わからないわ。また次の情景を注意して見るべきね」「あ、出てきた」


 意を決したアジズは、勢いが違った。アジズは防御を一切せず、拳に全意識を注ぐ。全力の拳を強敵に向けて放つ為、振りかぶる。その間、相手の長槍が何発か当たっていても気にしない。そして、渾身の拳が相手の頬に直撃。爆発四散。「やりましたよ、ロンクさん…」


 噴水から飛び出た情景を見た面々。「アジズ、強くなったな」「ロンドの相棒ね」「ああ。炎の名コンビと言われた。あの頃は大活躍だった」「自慢話はいらないわ」「おい、レイピア、次々と出てきたぞ」


 青年は刃物を振りかぶる。そして、渾身の刃がミミハの手枷を破壊。手枷が外れ、意識を取り戻すミミハ。「ここは?」「ここは俺の部屋だ。俺を痛い目に合わせた罰を与える」そう答えたのが男の運の尽きだった。「罰だって…あなたがしたことを考えれば罰が足りないくらいだよ」ミミハの怒りが弓と矢を生み出した。勢いよく矢が男のベルトに命中。勢いよく下がる男のズボン。「な!」「いいか?今から見せるものはお前には苦痛かもしれない。だが、罰とはそういうものだ」そう言って青年が部屋の壁を蹴ると、町の観衆が大勢取り囲んでいた。「やめろ!」思わず叫ぶ男。「はっはっは」笑う青年とミミハ。ハイタッチ。


 マシンと戦う彼。それを見守る少女。マシンはあらゆる武器を用いて、彼に襲い掛かる。しかし、彼も負けてはいない。「サキ!必ず助ける!」彼はマシンの攻撃を跳ね除け、目玉のような部分を剣で突き刺す。電撃が走り、崩れ落ちるマシン。「さあこっちへ!」謎の施設の出口に向かい走る。ついに到着。「ここまで来れば安心だ。良かった、無事にサキを助けられて」真っすぐな目で見つめる彼。「プーちゃん、カッコよかった。ありがとう」少女は彼の顎をさする。「あ、そんな撫でたら…」犬に戻るプー太。「やっぱりプーちゃんは、かわいい」「ワオン!」


 絶望する少年。「もうダメだ…終わりだ!」諦め、膝をつく少年。その時、一点の光が現れ、剣士に姿を変える。光の剣士は、恐ろしい魑魅魍魎の敵を、全て切り伏せる。「…ありがとう」光の剣士は、剣を掲げる。少年も真似をして、手を掲げる。すると、手の中に剣が握られている。光の剣士は、頷き、消える。少年も、頷き、立ち上がる。


 SONG隊員の彼は彼女と二人で訓練をしていた。獣が群れになって逃げだす。茂みの奥から木をなぎ倒す音が聞こえる。身構える彼女。逃げようと言う彼。首を振る彼女。大型の獣が飛び出す。彼女は応戦するも、獰猛な獣の攻撃で足に怪我を負う。彼は彼女を背負い、逃げる。突進して向かってくる獣。横に飛び、躱す。獣は岩にぶつかり倒れる。逃げ切ったと思ったのもつかの間、突如地震が発生。彼らは割れた地面に落ちる。寸前で地面に掴まった彼女。自力で上がれず助けを求める顔で彼の方に手を伸ばす。その手を掴む瞬間に、限界に達し落下していく彼女。彼女の方に手を伸ばし、それをただ見ている彼。「もう一度チャンスを…!」そう彼が望む。すると、光の剣士が現れ、剣を割れた地面に投げ入れる。驚いて凝視する彼。剣が絨毯のように広がり、彼女を乗せて浮かび上がる。そのまま彼の前に静かに置く。剣を取ると、光の剣士は消える。「…感謝します、神様」何度も繰り返された結末は彼の願いにより変わった。


 炎に囲まれるガル。立ち止まり、勢いを失う。反対に、炎は勢いを強める。「…これでは走れないじゃないか。僕の迷いがこの炎を生み出したとでも」熱気と記憶が彼を苦しめる。その時、光の剣士が現れる。「君は…」光の剣士の剣が炎を斬る。しかし、すぐに炎は勢いを取り戻し、彼らを取り囲む。「どうすれば…」光の剣士がガルの足を叩き、剣を向ける。「僕に走れ、と…」頷く光の剣士。ガルはスタートダッシュの姿勢を取る。再び、光の剣士の剣が炎を斬る。一瞬、隙間が出来る。そこを目がけてガルが走り出す。炎がすぐそばで燃えているが、気にせず、走り抜ける。「やったぞ!」光の剣士が剣を振る。「ありがとう。これでもう止まることはない」ガルはあっという間に、トンネルの出口に着く。トンネルを抜けた先に、点がいる。「良く克服したわね」ガルの頭を撫でる。「ありがとう、母さん」横を見ると、アポロンがいる。「どうして、お前が?」「居てはいけないのか?俺は父親だ」「え…」


 噴水から飛び出た情景を見た面々。「コレデ、全部ダ」「それぞれ色々あったみたいだけど、悪夢に勝ったようね」「そうだな。アジズの奴、自力で困難に打ち勝つとはなかなかやる」「ガルさんも恐怖を克服できたみたいでした」「あの光の剣士は、一体誰なんだろう?」「アレハ、貴様タチノ心ガ具現化シタ存在。言ウナレバ、心ノ戦士」「心の戦士…」「ココハイメージデデキタ夢ノ世界ダ。願エバ、ソレガ実現スル」「つまり、ガルさんの場合で言うと、炎を克服したいと願ったから、現れたということですね?」「ソウダ」「現実の世界にもいてくれたらいいのに…」「何ヲ言ッテイル。現実デモ心ノ戦士ハ存在シテイル。貴様タチノ心ノ中二」「心の中…」その時、オレンジの空の一部が黒い靄に変わる。「なんだ、あれ?」サトリが目を凝らすと、文字だった。「マズイ。文字化ケダ」「文字化け?」「アア。夢ノ世界ヲ構成スルプログラミング言語二支障ガ出テイル。夢ノ世界ハ人ニヨッテ造ラレテイル事ハ貴様タチモ知ッテイルダロウ」「うん。知ってるよ」「マダココモ試作段階。不具合ガ生ジテモ不思議デハナイ」「そう言えば、ボーンさんが、言ってたような…」回想。「君たちが夢の世界へ行く前に補足事項として1つ言っておくことがあった。夢の世界は、まだ試作段階だから、多少のバグが起こるかもしれないけど、勘弁してね。大丈夫、君たちなら乗り越えられるはずだから」回想終わり。文字が落下し、地面に突き刺さる。地響きが起こる。「多少っていうレベルじゃない!」さらに、雲や木が文字に変わる。文字たちは、建物や地面を滑るように移動しながら、一か所に集まっていく。「こわい」「身の危険を感じますね」一部の文字が面々に向かって来る。咄嗟にロンドとクリスが対応する。「結構痛いな」「重みを感じます」弾かれた文字が元に帰っていく。集まった文字が模様を形作り、独立して活動を始める。幾何学模様のそれは、さらに集まり、三角形や円形になる。三角形の攻撃を食い止める者が現れる。「みなさん!」「我ら、元連合が来たからにはもう大丈夫だ」元連合の者らの攻撃を円形が高速回転で防ぐ。「鉄壁だ」「刃が立たない」「見て、あれ!」サトリが指さす先に、文字が文になっている。apoptosisと書かれている。他にも、wednesday、climb、knight、和泉、伊右衛門などが書かれている。「何だ、一体」apoptosisの二番目のpがどんどん大きくなる。「あれは、黙字です。読む時に発音しない文字です」「危ない!『爆走竜』」「今助けるっす」pを破壊するガルとアジズ。他にも大きくなる文字たち。次々と破壊していく面々。「楽勝っす」破壊された文字は爆発し、煙を発生する。「前が見えない」その隙に攻撃を仕掛ける文字たち。「「うわ!!」」三本の聖剣が攻撃を防ぐ。「遅くなった!」「英雄さんたちだ」「あれは囮か」「はい。おそらく。どの文字にも意味があります。その意思表示かもしれません」「怪獣を倒したと思えば、今度は、文字の集合体と戦えっていうのか?」「文字の獣といったところでしょうか」「上手だね」「マジで面倒くさい」文字たちは連なり、様々に変形する。「何か考えてる…?生き物みたい」文字たちは、弓に変形し矢を放った。文字の矢が刺さった所に文字の炎が発生する。「熱いぞ!」「本物みたいね」「感心してる場合じゃない!」文字たちはフラスコに変形し液体をまいた。文字の液体が毒ガスを発生する。「うっ」「プークス!」「どうすればいいの?歌っても効果はなさそうだし」「皆デ願ウノダ」「あっ、心の戦士!」「ソウダ」「心の戦士…?」「みんなの心にいるもの。自分がしたいと思う願いにこたえてくれるもの」「そんなものが…」「今はとにかく願ってください」面々の願いにより、沢山の光の剣士が現れる。光の剣士たちは文字の炎を消化し、文字の毒を消毒した。「あれ?苦しくない」「プークス、治って良かった」「こいつらがいれば、勝てる!」文字たちが怪しく振動し出す。「「うぅ…」」苦しむ面々。「うぅ…頭の中に情報が流れ込んでくる…それもなんて膨大な量…駄目だ、落ち着こう」「そうですね」「平常心だ」光の剣士たちが文字たちを減らしていく。「だんだん和らいできた」「剣士さんたちが頑張ってくれてるから」「もう少しの辛抱よ」ついに文字がすべて消える。光の剣士たちは七福神に姿を変える。七福神が面々の上を通り、飛んでいく。面々の前をしゃちほこの頭のしゃちほこ人たちが走り抜ける。その場は何事もないかのように元通りになった。「倒した…最後の何だったの」「サスガ候補者タチダ。シカシ、候補者ガ多スギル事ガ原因デ不具合ガ起キテシマッタ」「そうだったんだ」「候補者ガ集マッタノデ、コノ先ニ進ム者ラヲ発表スル」リーがサトリの前に来る。「貴様トソノ仲間ダ」拍手する他の者ら。「「おめでとう」」「僕たちの分まで頑張って来て」「任せたっす」「サトリ君らなら出来る」「行ってきます」「ソレデハ転送スル」宙に浮かぶ面々。手を振る面々。「ところで、どこに進んだんだ?」「さあ」


【死者の世界①】

 面々は、浮遊していた。辺りを見回すと、色々な情景が入り乱れる空間だった。目の前には、一つの巨大な扉があった。吸い込まれるように、次の場所へと移動した。


 巨大な門がある。面々は門の前に降り立つ。「誰かいる…」それは二人の門番。面々の前に立ちはだかる門番。「我の名は水行末」「我の名は風来末」「「我ら二人で一人」」「お前ら誰だ?」「「我らは、地獄の門番。この先は、泣く子も黙る危険な場所。それでも進むと言うのなら、我らを倒して進め」」「僕たちは後戻りできません」「「ならば、本気を示してみせよ。本気を出せないのなら、問答無用で門前払いだ」」「行くぞ、相棒」「応」長い槍を高速で回転させる二人。「何をしようというの?」「ゆっくり近づいてる?」「どこかの博士の門番にそっくりね」「「気づいたか!だが、もう遅い!」」二人は回転を止める。「行くぞ、相棒」「応」水行末が槍を風来末に投げ渡す。「“十字・槍”」槍を交差させた状態での突進攻撃。「“高速・居合切り”」クリスの刀が槍を受け止める。「やるな!」風来末は後ろに飛び、二本の槍を水行末に投げ渡す。「もらった!“八字・槍”」サトリを狙う水行末の槍。それをレイピアが払う。クリスは隙の出来た二人に向けて一撃を放つ。「“高速・水流切り”」「甘い!」水行末が水を纏わせた槍を振るい、相殺する。「そんな…」「彼らは一段階上のようです」「なかなか強そうだ」「畳みかけるぞ、相棒」「応」水行末と風来末が近づき、槍を真っすぐ立てて構える。念を唱え出す二人。「待って。クリス、さっきどこから水を出したの?」「そういえば、奇石も持ってないのに放てました」「ここは夢の世界…もしかしたら、想像した物が生み出せるのかも…」「それじゃあ私たち無敵だね」「相手も準備が整ったようよ」「俺たちも一発、大きいのを打つぞ!思い浮かべろ!一番強い獣を!」面々が目を閉じて想像する。「「我らの本気を受けてみよ」」巨大なライオンが二人の技を跳ね返す。「「うわあ!」」ライオンは二人もろとも門を押し開ける。「「やった!」」面々は門の先へ進む。


【死者の世界②】

 面々は、門の先の光景を見て驚いた。そこは、近代都市のような街並みが見える柵に囲まれた空間だった。「お客様、ようこそ地獄へ」頭に角が生えている者が言う。「角が生えてる…まさか鬼!」「ええ。鬼です。お客様、お飲み物のお茶をどうぞ」「有難うございます」面々がお茶を飲む。「美味しい」「すっきりしてる」「本当ね」「ゆっくりお寛ぎください」鬼が離れる。「ここ、本当に地獄か?」「確かにイメージと違いますね」「あの街はどこだろう…?」鬼が近づく。「では、次の場所へ案内します」鬼が階段を下りていく。その先には旅館のような建物がある。頭に角が生えた着物姿の者が出迎える。中に入ると、立派な部屋が用意されている。「こちらの部屋をご自由にお使いください」鬼が離れる。「おい、ここ本当に地獄か?」「ロンド、同じこと言ってる」「分かってる!」「そうですね。ここは、地獄とは違う場所のような気がします」「もしかして私たち、食べられちゃうんじゃない!?」「ライラ、どうしたの?そんなわけないよ」「でも、地獄には鬼がいて怖い所と聞いているわ。こんな良い場所なわけないから何かありそう」「もし何かあれば私が守る」「有難う、レイピア」鬼が近づく。「皆さんに見せておかねばならないものがあります。ついて来て下さい」鬼について面々が廊下を進む。「やっぱり食べられちゃうんじゃない?」「そんなわけないよ、ライラ」「サトリもそう思うでしょ?」「そうだね…全部怪しく見えてくるよ…」「お前ら、怖がるから怖く見えるんだぞ」「そうか…」「こちらでございます」鬼が扉の前で止まって言う。身構える面々。鬼が扉を開ける。その中の光景を見て驚く面々。自転車のような機械に跨る鬼たち。息が上がる者や、へとへとで気を失いかけている者がいる。その中で、無心で漕ぎ続ける者らがいた。「あれは、レクイエムの人たちでしょうか?」「そうだ…あそこには本部で見たチャック兄弟もいる」「どうして?何をしてるの?」鬼が答える。「我々鬼は死者の中で罪を犯した者。鬼は地獄で罪を償います。ここは、地獄に訪れたお客様を招く電力を供給する場所です」「電力?これだけの人数でつくってるのか?」「そうです。お客様の通った場所を照らす照明、ここの他にもお茶の原料を栽培する装置、一番は玄関で見て頂いた街並みのパネルが凄い電力を消費します」「なるほど。これは、一種の地獄です」


【死者の世界③】

 面々は部屋に戻る。「驚いたな。裏であんなことをしてると思わなかったぜ」「本当ですね。地獄の修行も様々あるようです」「でも、なんで修行するんだろう?」「鬼は地獄で罪を償うって鬼の人が言ってたから、現実で言う更生させる効果があるんじゃない?」「更生か。もう死んでるのに更生ってなんか変だな」「綺麗な人に生まれ変わるためかも」「そうね。綺麗な人に対して文句はないわ」部屋でくつろぐ面々。「あれ?僕たち、ここに何しに来たの?」「そう言えば、そうね」「夢の世界に来る前、ボーンさんは試練を超えれば世界の理や自然の力が手に入ると言ってました」「じゃあ、何か試練があるってことだな。探しに行ってみるか」面々が外に出る。「こっちに道があるよ」「行くぞ」狭い洞窟のような道を通り抜ける。その先に、拓けた広大な場所に出る。「うわ…」「まさに、地獄絵図ね」面々が目に入った光景を見て驚く。地面に赤い血のような川が流れており、その川によって区画が分かれている。区画ごとに一つずつ修行をする人々がいる。一つは、赤い血のような池を泳ぐ区画。一つは、針の刺さった山を登る区画。一つは、熱そうな色をした石炭を運ぶ区画。「これは、イメージ通りの地獄です」「ちょっとみんな見て。池を泳いでる中に、ワスト博士がいる」「ほんとだ」「ちょっと、山を登る人の中に部下がいるわ」「あいつら、苦しそうだな」「悪い事して死ぬとこうなるんですね」「悪いことして死にたくない…」旅館にいた鬼が来て言う。「地獄は全てで8つあります。この他には、痛みに耐え続けるもの、反対に痛みを与え続けるもの、地獄の獣と戦うもの、私が今やってるような雑務を行うものがあります」「へえ。雑務はいいとして、それ以外は辛そうでやっぱり嫌だ…」「はい。鬼の中でも雑務は人気、いや鬼気が高いです」「地獄の獣と戦うっていう区画はどこだ?」「こちらです」鬼についていく面々。城のような建物の中に入る。「これは、やばい」骨の獣が鬼を吹き飛ばしながら走り回っている。「戦うというよりも耐えるという感じですね」「試しに戦ったりできるのか?」「別に構いませんが本気ですか?」「ロンドは本気よ」鬼が開けた柵の中に入るロンド。「近づくと迫力が違うな」「地獄の獣は死んだ獣の魂が具現化したもの。倒しても死ぬことはありません」「あれなら勝てそうだ」寝転がる骨の獣に近づくロンド。「あれはかつてトラだった骨の獣イアルです。中でも凶暴なので注意してください」「もういないです…」「トラのイアルにトライアルだ!変身!ビーストモード!」イアルが起き、凶暴な目でロンドを捉え、爪で斬りつける。「痛ってえ!」「傷を治すイメージをして!」「お、治った」イアルがロンドを狙い、歩いて来る。「ロンド、気をつけてください」「もう出てきてもいいよ」「いや、まだ一撃を当てるまでは出ない。おりゃー!」頭部を目がけ、殴るロンド。イアルは何のダメージも受けない。そのまま頭部を振り、柵にロンドを投げ飛ばす。イアルは止めを刺そうと爪を振り上げる。「危ない!」爪をはじく剣士。「“二刀流・鎌切”」イアルの体中を斬りつける剣士。剣を向け一言いう。「失せろ」イアルは猫のような声を出し去る。「助かった。お前強いな」「まあな。リンクの仲間として当然だ」「え?名前を聞いてもいいか?」「俺の名は、ハイ・ストール」


【死者の世界④】

 「マジかよ。本物か?」疑うようにハイ・ストールを見るロンド。「何だ?俺に何かついてるのか?」「いや、そうじゃなくて、嘘だろ。本物だ」「話にならない」檻の外に出るロンドとハイ・ストール。「ロンド、興奮してますけど、どうしました?」「何で分からないんだよ!この人が、かつての英雄リンクの仲間ハイ・ストールなんだぞ」「へえ。この人がそうなの」「たくましい体」「かっこいい武器ね」「お前ら、感動が伝わらない。かつて世界を救った英雄の仲間だぞ」「確かに、言われてみれば、過去の偉人に会えるのは凄い…」「そうだろ!サトリは分かってくれるか」「話が見えないが、お前らは誰だ?頭に角もない」「俺らは、現実の世界から来た」「なるほど。死んでないから角がないわけか。忍び族は生きてるか?」「忍び族というとバカンスシティで会いましたね」「アヤメさんが頭領を務める一族…」「俺は忍び族出身なんだ。安心した。それで、ここへ何しに来た?」「俺らは、試練を超える必要がある。その試練を探している」「試練。知らんな。まあ、イアルにも勝てないと試練を超えられるか不安だ」「そうだ。滅多にない機会だ。俺を修行してくれ!」「応、と言いたいが、俺は自由の身にない。判断は地獄の王、閻魔王に任せる」「閻魔王に会わせてくれ」「分かった。ついて来い」ハイ・ストールについて行く面々。「あ、あの人の頭見て。角がついてる」「やっぱりここの人はみんな角があるのね」「強い人がつけてるとかっこいい…」城のような建物の屋上に着く。「着いたぞ。あそこにいるのが閻魔王だ」大きな台の前に座る者と、隣に立つ者。台の前に並ぶ行列の人々を仕分けている。「残念ながらこちらの修行をしていただきます。頑張って良い魂になりましょう」「泰山府君?酒が無くなったのだ」「ただいま~」隣に立つ大きい方の者が席に座る小さい方の者に新しい酒を注いで渡す。「大きい方が閻魔王だな」「いや、立場上座っている方が偉いです」「じゃあ、小さい方が閻魔王か」「なんだかかわいい」「聞いてみましょう」「この列並ばなきゃダメかな?」「その必要はない」ハイ・ストールは行列をかき分け、閻魔王の元に向かう。面々もついて行く。「忙しそうだな」「たいざんふくん?泰山府が名前?」「確か泰山府君は人の寿命を司る地獄の管理者の一人です」「凄い人ね」「それにしてもクリスは本当に頭がいいんだね」「勉強が好きなんです」「羨ましい…」「今度教えてあげましょうか」「教えてほしい」「私も教えてほしいわ」「いいですよ。皆で勉強しましょう」そう話す内に、面々は大きい方の者の前に着く。「私は、閻魔王様の臣下。泰山府君である。閻魔王様のために補助をしております」「この者らが、話があるそうだ」「奥の間へ通すのだ」閻魔王は台の上に『急用』と書かれた札を置く。奥の間へ入る面々。「泰山府君?酒を用意するのだ」「ただいま~」酒を用意する泰山府君。酒を一口飲む閻魔王。「で、話とは何なのだ?」「修行を願いたい」「それはできないのだ。見たところ、其方らは生者なのだ。死者でないと地獄巡りはできないのだ」「そうじゃない」「彼に修行をつけてほしいということなのだ。それもできないのだ。彼はヘルセブンの一人、彼には任務があるのだ」「ヘルセブンだったのか…」「ヘルセブンは襲名制。俺はヘルセブンのエンド。エンドはヘルセブンのトップの名。ヘルセブンのトップは地獄の守護を務める任務がある」「ということは、現実の者に憑依はしないのか?」「ああ」「安心したぜ。俺の父親を殺したのがハイ・ストールだったらどうしていいやらだぜ」「それにしてもヘルセブンは何のためにあるのでしょう?」「地獄巡りを行う修行で優秀な成績を納め、合格した者のうち、ほとんどの者は生まれ変わる魂となるが、強い者はヘルセブンに選ばれ、任務にあたるのだ。ヘルセブンは、役割として災害にも耐えうる強き者を倒す任務を行っているのだ」引く面々。訂正するように答える閻魔王。「これは、天国の女神に頼まれたからやってるに過ぎないのだ。天国の女神は、『環境の変化に適応しきれない動物は淘汰される』をスローガンに掲げ、大勢の弱き者の自然淘汰を目的に災害を起こしているのだ」「自然淘汰…何でそんな事をしてるのかしら…」「気になることがありすぎます…」「天国って良いイメージだったけど、怖いな…」「確かに怖いのだ。でも、いずれ、天国の女神を負かして見せるのだ」「天国の女神と戦うのか?」「天国と地獄は常に敵対関係にあるのだ」「敵なのに頼まれたことをやってるのか?」「天国の女神は我輩の姉だから、逆らえないのだ」「天国の女神が閻魔王のお姉さん…どういうことでしょうか?」「オホン。天国の女神と閻魔王も襲名制なのだ」「襲名制…つまり、人が入れ替わるということですね?」「そうなのだ」そこへ6人が現れる。「ヘルセブンのデビル、ラック戻りました」「どうだった?」「今回もダメでした」「またヘブンズセブンに邪魔されたか」「いつも邪魔しやがる。くそ!」「おれは天国の女神が何を考えているか疑問だ」「弟の閻魔王への裏切りかもしれない」「おや?お客が来ているようだ」驚く面々。「これが、ヘルセブンの7人…」


【死者の世界⑤】

 「クロノス、サタン、シヴァ、ハーデス、デビル、カラス。揃ったか」「敷居を跨げば七人の敵、とはこの事だな」「彼ら、強そうね」「あの人は、僕らが最初に会った人…」「頑固の一徹だ。覚えててくれたか。俺も忘れてないから覚えてるか」「任務を果たせないならヘルセブンを解散してもいいのではないですか?」「それはできないのだ。でも、姉は何を考えているのだ。自分で頼んだ事を邪魔して来て意味不明なのだ。泰山府君、酒をおかわり頼むのだ」「わかりました。でも、ちょっと飲み過ぎでは?」「酒には薬の効用があるのだ」サトリは陰から視線を感じ、その方を見る。目を閉じ、合掌する黒い者。「誰かいる…」「ああ、彼は気にしなくていいのだ。ずっとあそこでじっとしているのだ」「あの方は地蔵様です。地獄で修行する者の安全を祈願していらっしゃいます。彼のお陰で地獄が安全であり続けられているといってもいいでしょう」地蔵がサトリに微笑みかける。サトリも微笑み返す。「そうなのだ。其方らに頼むのだ。天国へ行って姉に会って話を聞いてきてほしいのだ」「良いが、どうやって行くんだ?」「あっちに番犬がいるのだ。その番犬が守る扉は、天国と地獄の狭間へ繋がっているのだ。その先の扉を通れば天国に行けるのだ」閻魔王について行く面々。「何て大きいの!」「顔が3つある!」「これは、ケルベロスです。図鑑で見た事があります」「あまり大声を出すと起きてしまうのだ。起きたら暴れて厄介なのだ」サトリがくしゃみをする。「はくしょん!すみません…」ケルベロスが起きる。「ガオー!!」「言ったのに…仕方ないのだ」ケルベロスが突進する。巨大化し受け止める閻魔王。3つの顔が閻魔王の腕に噛みつく。そのまま閻魔王はケルベロスを投げる。「泰山府君、肉を投げるのだ」「ただいま~」肉を投げる泰山府君。肉を食べ、大人しくなるケルベロス。「凄い…」「よし…行くのだ」面々が扉を通る。宇宙空間のような狭間へと着く。「星がきれい」「特に何もないわね」「扉あったよ」「すぐ見つかった…」「本当に天国に繋がってるのか?」「通ってみましょう」面々が扉を通る。扉を通り抜けると、そこは天国だった。雲に囲まれた空間で、雲と雲を繋ぐ階段や雲の中に泉がある。「ここは、イメージ通りの天国です」頭に輪っかがついた者が現れる。「ようこそ、天国へ」「あれ?アーヴィング?」「あ…どうして…」逃げるアーヴィング。「待って」追いかける面々。途中、声をかけられる。「皆サン!」「その声は、ンギーさんですか?」「テルさんも。まさか、死んじゃったんですか?」「そうなんだ。敵組織との戦いでやられちゃった」「俺らが一緒なら守れたが」「本当ね。スミスが来てバランを守ってくれたみたい」「スミスさん、もうちょっと早ければ良かったのに…」「まあ、後の祭りよ」「二人ハ相棒。二人生キテヨカッタ」そこに猛スピードで走って来る者。「あれは、ジュゼットさん!」「おう!いつかの少年!元気か!」「はい!」「俺みたいに早死にするなよ!じゃ」走り去るジュゼット。「そうだ。追いかけてる途中だった…」「そうなんだ。頑張って」「応援シテルヨ」追いかける面々。「どこに行ったんだろう…」「サトリ、いたわよ」アーヴィングが階段に座っている。背後から声をかけるサトリ。「アーヴィング!」「うわあ!」階段を転げ落ちるアーヴィング。「いてて。びっくりさせないでよ」「ごめん。でも、何で逃げるの?」「…僕は、貴方たちを殺そうとする人たちの仲間になろうとした。貴方たちを騙そうとしたんだ。それは許されないことをしてしまった」「反省してるんだね。でも、もう分かったから、大丈夫」「そうは言っても…自分が間違えたのは事実だ」クリスがサトリに話しかける。「サトリ、彼は時間が必要です。そっとしておきましょう」「わかった」アーヴィングに別れを言う。「じゃあね」「待って。貴方たちはここに来た理由があるはずだ。それをせめてもの償いに手伝わせてください」「俺らは、天国の女神に会いに来た」「天国の女神!それなら、こっちの宮殿にいます。ついて来て下さい」アーヴィングについて行く面々。「ここです」「ありがとう」「役に立てたかな?」「うん」「良かった」アーヴィングが笑顔で手を振る。面々は宮殿に入る。シャンデリアやステンドグラスが飾られ、光り輝いている。「うわ。大きい」「きれい」「女神はどこにいるのかしら?」「待っていたわ」羽の生えた者が上から空中をゆっくりと降りて来る。「弟から話は聞いている。私が女神よ」


【死者の世界⑥】

 女神について行く面々。「私に話を聞きに来たのよね?」「そうだ。単刀直入に、どうしてヘルセブンを作った?」「それから、災害を起こしている事についてもお聞きしたいです」「話すと長くなるのだけど、貴方たち奇石は知ってるわよね?」「奇石、知ってるわ」「願いを叶えてくれる、すごい石」「奇石は、元々存在しないものなの」「つまり、オーパーツですね」「存在しない、ってどういうことだ」「落ち着いて。話を聞きましょ」「話は変わるけど、大昔、神の争いが起き、多大な被害が出たの。それで、神の頂点に位置する、創造神ゼウスが神々を変化させて創りだしたのが、奇石なの」「つまり、奇石は、神そのものということに…」「そうよ。ゼウスは奇石を人に与えた」「マジか」「驚きね」「神は八百万の神と言われる通り、奇石も同じ数だけ存在するわ」「8百万あるの?」「でも、結構使っちゃったよね…」「ゼウスは大雑把な性格で人のいる地上に奇石を塊にして置いたの。それで、奇石は、大量に一つの場所にあるの。1か所は、SONG本部の傍にある鎮守の森にあったの。のちに、これを発見した者が、フォレストラフレシアという獣を送り込んでいたの」「まさか、あの時僕が捕まった花はそうだったんだ…ナタリー覚えてる?」「覚えてるよ。森の主が助けてくれた」「送り込んだ者は、奇石を盗み出し、それを利用し、戦争を始めるの」「敵組織の首領か」「ゼウスは悲しんだわ。『哀れな…。まさか神の力を利用し人同士が争うとは。これでは前と同じではないか。哀れな…』と。ゼウスは年老いていた。ゼウスの跡を継いだ私は、災害を起こし、人に試練を与えたの。そしたら、人の中に自然の力を使える者が現れたの。彼らは強かった。その彼らに仕向けたのがヘルセブンなの」「俺の親父は別にネアを使えたわけじゃねえぞ」「ジュゼットさんもそうだ…」「そうなの。ヘルセブンは強い者を手当たり次第に倒して私も困ったのよ。それで、暴走したヘルセブンを止める為にヘブンズセブンを組織したの」「つまり、ヘルセブンはやり過ぎていたんですね」最上階に着く。そこに7人の者がいる。「女神様が連れてきたようです」「彼らが現実から来た者たち」「彼らも強そうですね、先輩」「僕は彼らなら出来ると思う。ゴールデンも同じ?」「俺もそう思う。なあ、ガッテン」「そうだな。リンクはどう見る?」「間違いない。大丈夫だ」「え?待て。本物のリンク様なのか!?」「ああ。俺が正真正銘リンクだ」「握手してください」「ああ。いいよ」握手するリンクとロンド。「うわ!俺、あの英雄リンク様と握手しちゃったよ。これ、夢じゃないよな?」「夢だよ…。でも、良かったね、ロンド」「夢は、願えば叶うものですね」「そう言えば、ガッテンやゴールデンもいるのか。となると、ここには他の仲間も全員いるのか!?」「いや、4人いない」「そうか。アグルとラウスは他の星にいて、ハイ・ストールは地獄にいたからいない。見たところ、ウォーリー博士がいない。あれ?まさか!?」女神が答える。「そのまさかよ。ウォーリーは現存する唯一の神なの」「「ええ!?」」驚く面々。「どういうこと?」「博士は奇石にされずに済んだの?」「ウォーリーは人をそばで見守る役割があるの」「おいおい、驚くことが多すぎて死んじまうぞ」「全然知らなかった…」「驚くところ申し訳ないのだけど、貴方たちに頼みがあるの」「頼みとは、何でしょうか?」「天国と地獄を一つにする手伝いをしてほしいの」


【死者の世界⑦】

 「天国と地獄を一つに…そんなことできるのかな…」「出来るわ。貴方たちが天国と地獄の共通の敵になってくれればいいの」「「共通の敵!?」」「大丈夫よ。貴方たちは、ここに来る時に通った狭間で待っていてくれればいいの」狭間で待つ面々。「誰も来ないぞ」「何も起こらないですね」「ところで貴方たちは誰?」「我々は英雄」「リンク様によって復活してから20代目まで全員いる」「火・水・風・土で、総勢80人」「おいおい、我々初代英雄もいるぞ」「改めて総勢83人」「英雄が83人。すごい…」「ナタリー、元気そうで何よりだ」「父上、久しぶりです」「ナタリーのお父さんも英雄だね」「そこでじっとしているんだぞ」そこに、地獄側の扉からヘルセブンが現れる。「いた。そのままでいれば、手荒な真似はしない」ハイ・ストールが近づく。英雄が立ちはだかる。「天国の者か。邪魔をするなら斬る」「この数の英雄を相手に勝てると思うのか」「確かに俺ら7人だけでは勝てない。だが、俺らには手下デーモンがいる」「デーモン!?鬼か」「ああ。修行に当たる鬼は、地獄の危機には兵士となる。空を飛ぶコウモリ部隊、補助をするクモ部隊、攻撃をするサソリ部隊などに分けられた総勢数えきれない兵士だ。行け!デモンストレーションだ!」大勢の鬼が謎の力に止められる。「何が起きた!?」天国側からヘブンズセブンと女神が現れる。「ハイ・ストール。そこまでだ」「リンク。どういうことだ」「俺らは天国と地獄を一つにしに来た」「俺ら?」女神が言う。「閻魔王。居るなら姿を見せなさい」「姉さん、ここにいるのだ」閻魔王が答える。「閻魔王、いや、黒の剣士、ミズーリオ・オーシャン」驚くサトリ。「黒の剣士!?」「悪宿剣の生んだ張本人ですか」初代英雄の3人が前に出る。「本当にお前だったのだな」「アルフレア・ヴォルケーノ。それに、タイフーン・カルパ、クェーク・メガ。あの時、我輩は過ちを犯したのだ。謝らせてほしいのだ」土下座をする閻魔王。「もういい。頭をあげよ」「何前年も前に終わった事だ。いつまでも引きずるな」「変な口癖までも引き継いでしまったのね。その口調も治すためにも、天国と地獄の統一に応じてほしいの」「統一?そんな事が可能なのだ?」「私も貴方も代表者よ。それぞれの同意があれば統一は可能よ」「統一するとどうなるのだ?」「地獄の修行や天国の泉がなくなり、死者の魂が彷徨う無の空間になるわ」「わかったのだ」女神と閻魔王が文字通り手を合わせ、祈る。激しい光が生じ、狭間は消失する。面々は浮遊する。「ここはどこだ…」目の前に無数の星が見える。「星?」「いえ、星じゃないようだわ」星に見えたものは、ゆらゆらと動く。「ラック、やっと会えた」「グッド兄さん、いつも迷惑かけてごめん。わからず屋は卒業だ」「ああ、これで引き分けだ」2つの魂が去る。「裏切りしかしなかった俺の魂は消える運命だろうな」「「一徹師匠!」」「お前ら!虎徹と粗鉄か!」「俺らはあなたについていきます!」「俺らは優しくしてくれた師匠が本当の師匠だと信じてます!」「嘘だろ…変わった奴らだ。消えると思ってたのに裏切られた」3つの魂が去る。「相棒、遅れるな」「俺の台詞だ」「おい、ワスプ。お前の部下が離れてくぞ」「いいんだ。彼らは彼らで旅をしていたんだ。僕らも行くよ、ジョン」「待て!ワスプとジョン。お前らが悪さをしないように俺とその仲間が見張ってやる!」「リンクか。参ったな、もうお前と戦うのはこりごりだ」「それにお前の仲間何人いるんだ!?」「「英雄たちは皆リンク様の仲間だ」」大量の魂が去る。「ミズーリオ、探したぞ」「アルフレア、タイフーン、クェーク。わざわざ我輩の為に…何て言っていいかわからないのだ」「その口調は取れてないのか?」「あ、わすれてた」「ははは。笑わせるなよ」4つの魂が去る。面々の前に一つの魂が現れる。「貴方たちはやるべきことがある。次の場所へ進みなさい」面々の前に巨大な扉が現れる。その扉に吸い込まれる面々。「安心して。貴方たちにはこの私、アナスタシア・ゴールドがついている」


【欲望との戦い①】

 面々はカーテンで仕切られた舞台の前にいた。「ここは、どこだ?」「見たところ、舞台の客席にいるようですね」「何か始まるのかしら?」「楽しみ、だけどちょっぴり怖い」「誰か近づいて来るわ」舞台の袖から司会者風の男が現れる。「只今から始まるのは、欲望との戦いです」「欲望…」「欲望とは、動物が飢えたから食べたいというような身体的な必用である欲求とは違います。欲望とは、人間がそれを満たすために何らかの行動や手段を取りたいと思わせ、それが満たされたときには快を感じる感覚のことです。その欲望の中でも、人間を罪に導く可能性があると見做されてきた欲望のことを、七つの大罪といいます。傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲です」そう言うと、司会者風の男は、仮面をはずす。「まず、初めに、この<傲慢>がお相手いたします」<傲慢>は、ロンドに憑依する。ロンドは面々を見て言う。「お前ら、前から思ってたけど、弱すぎる。俺がいるから何とかなってるんだぞ」「それはそうかもしれない…」「そうだろ?もっと強くなれよ」「分かってるけど、そう簡単になれないのよ」「じゃあ、いつまでも俺を頼るしかないな」「そんな言い方ないじゃない!」「いいですよ。次は貴方です」<傲慢>は、クリスに憑依する。クリスは面々を見て言う。「君たち、知識がなさすぎだよ。もっと勉強した方が良いね」「え…クリスが言ってるの?」「そうだよ。いつも僕が説明しなきゃ何も分からない。僕も大変なんだよ。君たちに分かりやすく説明するのはね」「いつものクリスじゃない!」「とてもいいです!この調子で全員を私の虜にしましょう」<傲慢>は次々と面々に憑依していく。「私の歌が無けりゃライオンキングにやられてたわ」「ロンド、あんた、好き勝手言ってくれたわ」「当然の事を言ったまでだ」「最初会った時、私が助けなきゃ、スケルトン種のBLTに押しつぶされて、ぺちゃんこよ」「それを言うなら、俺がいなきゃ、ワスト博士の部下の獣化の奴にかみ殺されたぞ!」「やる気?」「おう。やってやるぜ!」ロンドとレイピアが武器を構え、睨み合う。「いいですねえ。早くも脱落しそうな方が2名います。おや?それに対して、全く影響のない方が2名います」ナタリーとサトリは、普段と変わらない。「4人が変だ…何とかしないと…」「あの人がおかしくしちゃっただけ。私たちがいつも通りに戻してあげよう」「どうやって?」「簡単だよ。いつも通りを再現するの」「そうか!ナタリー、頭いいね」「えへへ」そこに突然、ライオンが出現する。「うわ!ライオンだ!」サトリの声に4人が反応する。「何!お前らは引っ込んで見てろ!」「あんたに譲れないわ!」ロンドとレイピアの強烈な一撃にライオンが倒れる。「ダメだ!もっと強くしないと!」サトリが集中する。巨大なライオンが出現。「…でかい!レイピア、お前、手を貸せ!」「仕方ないわね」ロンドとレイピアが巨大なライオンに立ち向かう。それを見て、クリスとライラにも変化が起こる。「私の歌もあった方が倒しやすいよ」「もしかして…これは、サトリが出したの?」「そうだよ。みんな、変になったから、いつも通りに戻そうとして…」ライラの歌で眠りかけた隙をつき、ロンドとレイピアが止めを刺す。「「止め!」」巨大なライオンは消失。「おかげで助かった」「私もよ。ライラも助かったわ」「いやいや。二人に比べたら大したことはしてないから」「サトリ、君のお陰で皆、いつも通りに戻ったみたいです」「いやあ、それほどでも」「よかったね」<傲慢>が面々を見て言う。「2名の方はいつも通りを大切にしていたことで、傲慢にならずに済んでしまったようです」「俺の器が小さかったと思い知ったぜ」「私もよ」「僕も感謝が足りませんでした。反省します」「クリスの言葉には驚いちゃった」<傲慢>が拍手する。「貴方方は見事に傲慢を制覇しました」その時、舞台のカーテンが開かれる。目つきの悪い少年が現れる。「次は、この<嫉妬>が相手するよ」


【欲望との戦い②】

 <嫉妬>が四角い箱のふたを開け、怪しいガスをまき散らす。「なんだ、これ」「意識が朦朧とします」「みんな、気をつけて…」倒れる面々。ロンドが気づくと、闘技場がある。そこに対戦相手のリンクが待っている。「あの英雄リンク様と試合が出来るのか!?」「待って。試合するのは僕だ。君じゃない」代わりに闘技場へ向かう少年を見るロンド。「おい!俺に試合させろ!」脇にいた警備員に捕まるロンド。「放せ!くそ!」クリスが気づくと、元ミトコンドリアの中心地の建物の最上階にいる。サンタマリアが机に向かい、仕事をしている。「肩が凝った」「父さん、僕が肩を揉みましょう」クリスが向かうより早くサンタマリアの肩を揉む少年。「気持ちいいよ。かたじけない」「いえいえ」「どうして、父さん」ライラが気づくと、夜の町中にいる。怪盗ミラーが宝石店に侵入しようとしている。「憧れのミラー様だわ」怪盗ミラーが宝石を盗み出すと、警報が鳴り響く。警備の者が追いかける。ライラも一緒に逃げようとする。「ここは危ない。離れて」「何で?こんな機会滅多にないのに~」レイピアが気づくと、神の神殿にいる。槍を振るう勇ましい者。「あれは、バステト様!」人とかけ離れた動きで槍を振るう。「是非近くで拝見したい」すでにバステトのすぐ近くで見ている少年が拍手する。「何故?」ナタリーが気づくと、鎮守の森にいる。白い獣が木の上で休んでいる。「一緒にいていいかな」もう一度見ると、白い獣の隣で休む少年がいる。「いいな」サトリが気づくと、総司令室にいる。グレートが何かを物を探している。「あれ?探し物かな?」グレートがサトリの方を見て手招きをする。サトリが行こうとした時、先に少年がグレートの元へ行き、手伝い始める。「何だ…人違いか」<嫉妬>は、面々の苦痛の表情を見て言う。「いいよ。もっと嫉妬して。嫉妬激励」面々の見る幻想の中で、少年の行動がエスカレートする。面々が異口同音に言う。「「ああ、羨ましい」」<嫉妬>は笑う。「はっはー。全員脱落かな?」しかし、面々は異口同音に付け加えて言う。「「これは、これでいい」」ロンドは、観客席でリンクを応援する。クリスは、気持ちよさそうな父のサンタマリアを眺める。ライラは、空を飛ぶ怪盗ミラーを眺める。レイピアは、バステトが少年と実際に戦う姿を眺める。ナタリーは、木の前で休む。サトリは、別の事をグレートに頼まれる。「僕の負けだ」<嫉妬>が四角い箱のふたを閉め、怪しいガスが止まる。「僕たち、勝ったの…?」面々が起きる。<傲慢>が拍手する。「貴方方は見事に嫉妬を制覇しました」舞台の上のレーンが動き、髪が逆立った男が現れる。「次、<憤怒>が、相手いたす!!」


【欲望との戦い③】

 <憤怒>が声を張る。髪の色が赤く変化する。舞台の上が燃えている。面々の周りも激しい炎が燃えている。「熱い…」「火傷しちゃうわ」「燃えちゃう」「一旦落ち着きましょう。おそらくこの炎もイメージを見せられているのでしょう」「そうとわかれば楽勝ね」面々は落ち着き、冷静を取り戻す。しかし、一人だけを除く。「燃えてるぜ!」「ロンドだけ冷静になっていない…」「彼の情熱が冷静になることを拒んでいます」「どうしたらいいの?」<憤怒>が見て言う。「脱落者、一名」「待って頂戴」レイピアがロンドの前に立つ。「燃えろ!燃え上がれ!」「覚悟しなさい」レイピアが思い切りロンドの頬を叩く。「おお!痛い!もっと痛みを!」レイピアが思い切りロンドの頬を往復ビンタする。「おお…俺は何を…」「目が覚めたようね」「脱落者、一名取り消し」<憤怒>の髪が黒色に戻る。<傲慢>が拍手する。「貴方方は見事に憤怒を制覇しました」舞台の上のレーンが動き、豪華な椅子に座る裸の王様風の男が現れる。「次は、<怠惰>が、相手じゃ」


【欲望との戦い④】

 <怠惰>が人を呼ぶ。「おーい、皆来い」「「はーい」」ぶかぶかの服を着た青年とパジャマ姿の女、タンクトップの男の3人が現れる。「僕たち、なまけトリオ。僕の名前は名負太郎。あー、めんどくさい」「私の名前は、ダラケ=シェーンよ。あー、めんどくさい」「ミーのネームは、メンドー=ダ=サボタージュ。あー、めんどくさい」「なまけトリオよ。皆を舞台に呼ぶのじゃ」「「はーい。なまけ王様」」なまけトリオが面々を呼ぶ。「皆さん、ここに上がって来て下さーい」「面倒くさい…」「体が思うように動かないわ」「何でだろう。何もしたくない」「舞台の上に行けばいいだけなのに、こんなに辛いなんて思いませんでした」「怠けたいぜ」面々が全員怠け始める。しかし、レイピアを除く。舞台の上に上がるレイピア。驚くなまけトリオ。「「こんな逞しい人がいるなんて」」なまけ王が命じる。「なまけトリオよ。皆にやる気を出させて差し下げよ」「「はーい。なまけ王様」」なまけトリオが面々を攻撃し始める。「どうしてだ…、こんな相手、勝てない相手じゃないのに…、怠けたい」「「やれー」」弱弱しく蹴りまくるなまけトリオ。「くっ、悔しいような、どうでもいいような…」「いい怠けだ」「あー、怠けたい…」「呆れたわね」レイピアが面々の頬を叩いてまわる。面々が目を覚ます。「あれ?僕は何を?」「早く舞台に上がるのよ」面々が舞台に上がる。しかし、サトリを除く。「やめてよ」なまけトリオがサトリの足を引っ張る。「僕たちも舞台に上げてください」「私たちも面倒くさくて上がれないの」「プリーズ、ヘルプ、アズ」「うわー。めんどくさい。けど、僕がやらなきゃ!」サトリが名負太郎を引っ張り上げる。ライラがダラケ=シェーンを、ロンドがメンドー=ダ=サボタージュを引っ張り上げる。「ありがとう、ライラ、ロンド」なまけ王が頷く。<傲慢>が拍手する。「貴方方は見事に怠惰を制覇しました」舞台の上のレーンが動き、オールバックの男が現れる。「次は、<強欲>が、相手する」


【欲望との戦い⑤】

 <強欲>が7つの玉を面々に1つずつ配る。「この玉を7つ集めても何もない。ただ、これを持った時点で、7つの玉を集めたくて仕方がないはずだ。俺が7つ集めるがな!」「いや、俺だ!」「僕です!」「私よ!」ロンドとクリスとライラが戦闘態勢を取る。サトリとナタリーとレイピアが玉を置く。「嘘!ナタリー、置いちゃうの?」「ライラにあげる」「いいの?」ライラが3つの玉を獲得する。「私、4つも集めたわ!」「俺にくれ!」「僕にください!」<強欲>が見て言う。「おい、お前ら、7つ集めるためには、俺の玉を奪う必要がある」「本当ですね」「俺と勝負しろ」<強欲>が鋼鉄の肉体になり、クリスとロンドの攻撃を跳ね返す。「ダメです」「勝ち目がねえ」「そうだ。俺には勝てない」「でも、欲しい」「手に入れてえ」サトリが言う。「みんな、諦めて、手放した方が良い」「そうは言っても」「わかっちゃいるがやめられないぜ」クリスとロンドが<強欲>に跳ね返される。「手放せば、解放されるよ」「手放せば、いいんですね?」「手放す、のか?惜しい気もするが、仕方ねえ」クリスとロンドが玉を置く。ライラが2つの玉を獲得する。「ライラ!あとは、君だけだよ」「折角6つも手に入れたのに?手放すなんてできない!」「でも、初めに言ってたけど、7つ集めても何もないよ」「それでも、欲しいのよ」「想像すると6つも持ったことで欲しいという思いが強くなってるのではないでしょうか?」「そうか…。一つずつ手放してみたらどうかな?」「そうだ。一つずつなら出来るだろ」「手放すのよ」「頑張って、ライラ」「わかったわ。やってみる」ライラは玉を一つ置く。「出来たわ!」「その調子だよ」「あと5つです」「早くしろ!」レイピアがロンドを叩く。「その言い方はないわ」「お前、叩くのに慣れてきただろ」「頑張って、ライラ」ライラは玉を一つずつ置き、ついに最後の玉となる。「あと1つです」「いけるぞ」「頑張って、ライラ」ライラが玉を置く。拍手する面々。<傲慢>も拍手する。「貴方方は見事に強欲を制覇しました」舞台の上のレーンが動き、花魁の女が現れる。「次は、<色欲>が、相手よ」


【欲望との戦い⑥】

 <色欲>が香水を振りまく。「甘い香り…」「また意識が朦朧とします」「何を見せられるんだ」倒れる面々。ロンドが気づくと、和室にいる。隣の部屋と襖で仕切られている。その部屋から声がする。「入って頂戴」ロンドが襖を開ける。部屋に怪しい色の照明が置かれている。中心に着物のはだけた花魁の女がこちらを見つめている。「隣に来て」ロンドが隣に行く。「ふふ。貴方は我慢できるかしら」クリスとサトリもロンドと同じ状況に置かれている。ライラはが気づくと、洋室にいる。隣の部屋とガラス戸で仕切られている。その部屋から声がする。「入ってくれ」ライラがガラス戸を開ける。部屋に怪しい色の照明が置かれている。中心にスーツを脱ぎかけた鼻の高い男がこちらを見つめている。「隣に来て」ライラが隣に行く。「はは。君は我慢できるかい」ナタリーとレイピアもライラと同じ状況に置かれている。花魁の女は一枚ずつ着物を脱いでいく。ついに下着姿となってしまう。ロンドが手を伸ばしかける。その時、部屋が一瞬歪む。手を引っ込めるロンド。ナタリーもパンツ一丁の男に手を伸ばしかけたが、部屋が歪んだのを見て、手を引っ込める。花魁の女が言う。「よく耐えたわね。貴方の勝ちよ」花魁の女が目を覆う。面々が起きる。<傲慢>が拍手する。「貴方方は見事に色欲を制覇しました」舞台の上のレーンが動き、太った男が現れる。「次は、<暴食>が、相手だよ」


【欲望との戦い⑦】

 面々が驚く。「あなたは、ショクシティの…」「大食いの男!」<暴食>は頷く。「記憶はあるようです」「また会うとはね」「また大食いするつもり?」「おかわりしまくり」舞台のレーンが流れ続け、美味しそうな料理が次々と流れる。<暴食>はラーメンを手に取り、食べ始める。「頂きます」「美味しそう…」「本当ですね」「おなかが空いてきたぜ」<暴食>が言う。「君たちも食べたらどう?」「え?いいの?」「やったー!」「本当にいいのかしら」面々が料理を手に取り、食べ始める。「「美味しい!」」「どんどん食べられそう」「食欲をそそる料理ばかりです」「自分の食欲がおそろしいぜ」「どれも美味しそう」「デザートもいっぱいある」「本当にいいのかしら」食べ続ける面々。見る見るうちに、面々の身体が太っていく。「太ってきちゃった…」「まだまだおなかが空くぜ」「こんなに食べたのに不思議ね」「別腹なのかな」ここで、冷静なクリスと自分に厳しいレイピアは箸をおく。「もう食べなくていい気がします」「私ももういいわ」「2人ともいいの?」「そんな事じゃ強くなれないぞ」食べ続ける4人。「苦しいような…おなかが空くような…」サトリは幻想を見始める。自分の身体がどんどん膨らみ続け、風船のように破裂してしまう幻想だった。「ああ!みんな、今すぐ箸を置いて!」「どうしたんだよ」「そんなに慌てて」「何かあったの?」「このまま食べ続けたら、身体が膨らんで破裂する幻想を見たんだ」「それはまずい」「そうはなりたくないわ」「それは嫌だ」4人は箸を置く。<傲慢>が拍手する。「貴方方は見事に暴食を制覇しました。これで、七つの大罪すべてを制覇しました。次の場所へ進んでください」面々の前に巨大な扉が出現する。扉が開き、その中へ面々は進む。


【自己との戦い①】

 面々は鏡に囲まれた空間にいた。拍手する者が現れる。「女神!」「貴方たち、欲望との戦いに勝てたようね。安心したわ」「何で言ってくれなかったんだ!危ない目に何度も遭ったぞ」「ごめんなさいね。先に言っても良かったんだけど、説明が難しかったから。やっぱり言おうと思ったけど、貴方たちが一つ目を制覇した時に大丈夫と確信したの。七つの大罪の罪が重い順になっていたから」「あの戦いは、いわゆる試練だったのですか?」「そうよ。ただ、試練は、半分終わっただけよ」「まだ半分もあるのか…」「あとの半分はどんな試練なの?」「あと半分の試練、それは、自分との戦いよ」「自分との戦い…」「それってつまりどういうこと?」「自分の分身と戦うのかな?」「それなら、思う存分戦えるわね」「自分との戦い、それは、自分の苦手意識があるものとの戦いよ。この戦いに勝てた時、貴方たちに世界の理と自然の力が手に入るのよ。さあ、頑張って」面々は鏡が放つ光を受けて、不思議な感覚に襲われる。幾重にも連なり重なる自分の姿。同じであり、全く違う一人一人の自分の姿。それは、並行世界に無限に存在する可能性の自分の姿であり、その中から一つの世界を選んで生きるという感覚に襲われたのである。「その鏡は、目の前に立つ者を映し出す。そこにもう一枚の鏡が現れると、その鏡は、同じ者を幾つも繰り返し映し出す。否、それは決して同じではない。そこに映るのは、並行世界。それは、一瞬ごとの選択による可能性が織りなす世界。故に、決して同じではない。異なる可能性の中で何が起き、どうなるのか、しかとその目で確かめよ」


【自己との戦い②】

 世界は魔王により支配されていた。その魔王を打倒すべく何人もの勇者が挑むもその希望は事あるごとに打ち砕かれた。ただ一人を除いて。その勇者は勇敢な仲間と共に魔王に挑む。しかし、魔王の前に魔王に強化された手下に仲間が次々と倒されていく。勇者は悔しい思いから手下を薙ぎ倒し、ついに魔王との一騎打ちとなる。しかし、魔王の強さはすさまじく勇者はあっという間に倒されてしまいそうだった。その時、勇者は秘められた能力を使った。それは、“変身”だった。それにより、魔王は倒れた。しかし、勇者の様子はいつもと違った。何故なら、変身とは魔王になる事だからだった。そして、時は流れ、新たな魔王により世界は支配された。それを倒すべくまた新たな勇者が立ち向かった。その度に勇者は儚くも倒れた。実は、何百年にもわたり戦いは繰り返されてきた。但し、現在の魔王は今までと少しだけ異なっていた。それは、勇者の時の記憶がわずかにある事だった。そうであっても、今まで同様仲間を連れた勇者は自分に挑んできた。そこで、魔王は手下を使わず彼らの前に現れる。魔王は言った。「来たな。勇者よ。お前一人で来い」勇者は仲間に待つように指示し、魔王に一人挑む。勇者と魔王は鍔迫り合いになる。そこで魔王は言った。「その程度で私は倒せんぞ。あの力を使え。但しそれでお前は魔王になるだろう。しかし、それを阻止する方法は一つある。それは後ろにいる仲間に討ってもらうこと。それによって長きにわたる戦いの連鎖は止まるだろう…」「何を言っている!?」「任せた。時間はない。私が完全に記憶を失う前に、決断しろ、早く…」そして、勇者は変身で魔王を倒した。しかしみるみるうちに身体は魔王になりかけていた。それを見ていた仲間に言った。「…最後のお願いがある!私を討て!」仲間は驚く。「…時間はない。私が完全に魔王になる前に、決断しろ、早く!…」(お前たちならやれる!俺の屍を超えて行け…!)仲間は決死の思いで勇者の胸に剣を刺す。(これで良い…)その後、世界に魔王は現れなくなった。同時に、勇者も現れなくなった。最後の勇者となった彼は、致命傷を負ったが奇跡的に生還した。彼は、功績を讃えられ、ある場所に召集される。


 世界を操る秘密組織の会議が開かれている。「…今日も我々によって世界が動いている」「…その事に誰一人として気づいてはいない」「…あらゆる事件、あらゆる出来事が我々の手によって仕組まれている事である」「…次は、一体どのようにして世界を操りましょう?」その会議室の片隅で、書記がひたすらにペンを動かし、全ての発言を記入していく。「…最近、人口が増えすぎているようだ」「…それはいけない。人口が増えるということは、食物の消費量が増えるということを意味する」「…食物の量も限界がある」「…いずれ食物がなくなり、戦争が起きてしまう」「…その結果、世界は滅亡する」書記がペンを休めず動かし続ける。「…何かの事件を起こし、人口を減らさなくてはならない」「…では、こういうのはどうでしょう?」「…一体どういうものだ?」「…ウィルスを撒くのです。そのウィルスは非常に凶暴で、人に感染すると死に至る。人から人に感染し、忽ち人口は減りましょう」会議室に歓声と拍手が起こる。「…おお」「…それはいい」「…いいぞ」「…賛成だ」「…では、それで決定と致します」書記がペンを置く。代わりに、刀を持つ。「…ん?何だね?君に一体何の権力があって…」書記は会議室にいる者全員を斬る。斬り終えると、用紙だけを持ち、血まみれの会議室を後にした。書記の彼は外に待機していた車に乗る。運転手が尋ねる。「うまくいったのか?」「はい。父さん」「お手柄だ。よく難しい潜入任務を果たしてくれた」彼は、功績を讃えられ、ある場所に召集される。


 世界的に有名な歌手を生むオーディション会場。その待機室で緊張な面持ちの出場者。「出場番号614351~614400までの方は、審査室にお入りください」50人の出場者が審査室に入る。「では、順番にドの音から一人一音ずつ発声してください」ドレミファソラシドが審査室にこだまする。「わかりました。では、審査結果をお待ちください」オーディション会場から落ち込んだ表情で帰る出場者。その帰り道、突然地震が発生する。急いで近くの建物に避難する出場者。「怖かった…」安心したのも束の間、再び地震が発生する。揺れ方が一回目よりも激しく、建物が崩れ出す。気づいた時、出場者は瓦礫の間にいて助かった。そばに泣き声が聞こえ、狭い瓦礫の中を移動すると、複数人の子供たちがいた。「怖かったね…」出場者は、子供たちを落ち着かせるために思いを込めて歌を歌う。その歌を聞き、子供たちは泣き止む。「お姉さん、歌お上手ね」「ありがとう」そして、救助隊が駆け付け、全員無事に救出される。出場者は、功績を讃えられ、ある場所に召集される。


 森の中で、動物と静かに暮らす少女。近頃、動物が怯えるようになった。少女は、心の声を聞く力があり、動物から話を聞いた。その話によると、一匹の凶暴な動物がどこからかやってきて夜になると襲うという事だった。少女は不安になり、砦を作って夜を待った。その夜、晴天で星空を見ていた少女は眠ってしまった。森の中から、木々が倒れる激しい音が聞こえる。砦を囲む動物たちは、少女を起こそうとする。音が近づき、ついに砦の前に姿を現したのは、マンモスだった。少女は熟睡している。マンモスが砦に近づき、動物たちがそれを拒む。しかし、マンモスの力には敵わず、投げ飛ばされる。動物たちが悲しい呻き声を上げる。少女はそれを聞いて目を覚ます。動物たちが傷つき、倒れる様子を目の当たりにする。マンモスが少女の方に牙を剥ける。「やめてーー!」少女の叫びに応えるように、一匹の狼がマンモスに噛り付く。マンモスは急所を噛まれ、倒れる。翌朝、動物たちは喜ぶ。狼は英雄的存在になる。「いや、必死だったんでよくわからないんすけど、この方を傷つけるわけにいかないと思ったんすよ」動物たちは納得する。その後、少女は動物たちと共に王国を築く。少女は王様として、ある場所に召集される。


 眼前には渡ろうとする者のやる気を失わせるかのような深さの海に囲まれ、背後には登ろうとする者のやる気を削ぎ落とすかのような断崖絶壁の山がそびえる理論上はあり得ない地形の島に大勢の人が、身動きが取れない状況に追い込まれた。なぜなら、長年の封印が解かれ、悪鬼のごとき獣の群れが、決断を急がせるかのように彼らに押し寄せているからだった。誰もが恐怖で震え怯えている中、1人の屈強な戦士が勇ましく声を上げた。「いいか?よく聞け。ここは、島だ。僕たちに残された道は一つ。目の前の海だ!ここを渡る以外に逃れる方法はない!」その言葉に堪らず誰かが聞き返した。「でも一体どうやって!?この海は巨人であればともかく、一般人の我々が渡れるような深さではありませんよ!」屈強な戦士は、おもむろに答えた。「安心なされよ。今、僕が目の前に道を切り開いて見せましょうぞ!」そういうと、島を取り囲む海に、彼らの目の前だけきれいに真っ二つに分かれ、一筋の道が現れた。誰もが屈強な戦士に感謝し、その力を讃えた。「今は最大のピンチだ。でも、必ずいつかチャンスは訪れる。さあ、行くぞ」屈強な戦士は、その功績を讃えられ、ある場所に召集される。


 竹が生い茂る平和の国に一人の王子がいる。怖がりで寂しがりやで優柔不断。丸い眼鏡をかけている。その弱弱しい様子から、国民から“なよ竹の王子”と呼ばれる。その王子にお見合いの話が来る。相手は、渡る世間は鬼ばかりと称して鬼退治を掲げる攻撃的な気風の国の姫。器用で世渡り上手なため高飛車で上から目線。まさに国の気風を象徴する姫だった。二人はお見合いで出会う。姫はなよ竹の王子がいつか立派な王になれるよう王子の世話係的な立場として付き合う。王子は姫に愛想を尽かされていると感じる。そんなある日、共通の敵である鬼が攻めてくる。その中で鬼に姫がさらわれる。王から捕らわれた姫を救うよう命じられる。周りから励まされ何とか勇気を出して敵に立ち向かうことを決める王子。自力で抜け出した姫は、窮地に立たされた王子をさりげなく助ける。帰国した二人だったが、姫が城に幽閉される。なんと姫自身が鬼であることが判明したのである。鬼を生かしてはおけないとして、王は死刑を宣告する。刑が執行される前、なよ竹の王子は頭を悩ませる。「…ボクが、行かなきゃ…。彼女を救えるのはボクだけだから…」意を決し、王子は城に来た。大勢の国民が集まっている。「「裏切り者の姫を殺せ」」「「忌まわしの姫だ」」王子は人混みが嫌いだ。それでも姫を助ける為、歩みを進める。(ものすごい視線だ…)城の門をくぐり、姫が捕らわれるの元へ着く。その時、クラッカーが鳴り、花弁が舞う。「おめでとうございます!試練達成です!」「来てくれたのね…うれしいわ。でも、もうこれで会うことはないでしょう。…これからもその決断力で頑張って…」


 「おーい…おーい、起きろ」(…むっ?…誰だ?こんな時間に…おわっ!?)「…隊長!いったいどうしたんですか?まだこんなに暗い時間に…」「何を言っている。もう朝だ」そう言って隊長はカーテンを思いきり開けた。外からまぶしい光が差し込んだ。「わかったか、この通りもう朝だ。早く起きろ」と言って、隊長は布団をはがした。はがされて、露になった体に肌寒い空気がしみわたる。「ああ…(寒い)」「情けない奴だ。起きて早く準備しろ。既にほかのやつらは走り始めている。毎朝必ず起こす羽目になるのはお前だけだぞ、もう入隊してしばらく経つというのに、まったく」朝から散々言われた挙句、起き上がる。「先に行っている。5分以内だ」そして、隊長は去っていった。誰もいない宿舎に静寂が訪れる。あたりを見回して、お気に入りの腕時計を見つけ、右腕にはめる。げっ!まずい…。時計は無情にも正しい時刻を示しており、それは時に見るものに厳しい現実を突きつける。大急ぎで壁にかけてあった隊員服に着替え、乱れた髪のまま靴を履き、うまく履けないまま外へ出る。先ほども感じたまぶしい朝日が全身を包み込み、あったかいなあといつもなら感じるが、今日はそんな余裕はない。猛烈な勢いで走る。靴がうまく履けていないこともわすれて走っていると、後ろから近づく気配を感じた。しかし、ここで振り向いたら到着が遅れてしまう。そう思った僕は気にせず走る。「…待て!…おい!」声が聞こえる。でも今は気にしない。急ごう。「…おい、待て!待ってくれ!」きっと自分とは関係ない。「待てといっているのに、何で待ってくれないんだい?いつもなら待ってくれるのに」仕方ない。振り向いてあげよう。「うるさいですね。見てのとおり急いでるので、話しかけないでください。」「なぜだ?いつも朝は一緒に遅刻して隊長に怒られてるじゃないか。自分だけ一人勝ち逃げか!このままでは」「そうです、今日はどうしても先に行かなくてはならないので、先輩だけ怒られてください」そして、僕は速さを一段階上げる。「そんな、薄情な。そうだ、また昼飯でもおごってあげよう。おーい」「先輩、すみません。お先に失礼します。でも、昼飯は楽しみにしてます。では」この先の道は坂が厳しいため、一段と気合を入れていかなければならない。普段でも厳しい坂を今日は急ぐとあってより大変である。しかし、今日はその道は通らない。なぜなら、寄り道する場所があるからだ。そして僕は、道をそれて森へ入った。この道は、一部の者にしか知られていない裏道で、また近道でもある。ただ、先ほどの坂よりも過酷な道であり、知るものの間では“ばけもの道”と呼ばれる恐ろしい道である。(何も出ないといいなあ)人生において思った通りにいかないこともある。特に、悪い流れの時はより悪い方へ流れてしまうものだ。走る道は凸凹していて走りにくく、昼間でも視界が開けないほど木々が鬱蒼としていた。その時だった。突然茂みの中から何かが吠える声と同時に、飛び出してきた。(うわあ!)驚いた拍子に、道に横たわる太い木の根に気づかず足を取られた。走る勢いのまま思い切り顔面から転倒した。(いてて…)「大丈夫か?」(手を差し伸べてくれる優しい人もいるんだ…)手を掴み、立ち上がる。「一つ尋ねたいのだが、国家防衛特殊部隊という組織の本部はこっちで合ってるか?」「はい。そこに私は所属しています」「それは奇遇だ。良かったら、私たち5人を案内してくれ」


 そして、国家防衛特殊部隊、通称SONGに集まった6人。総司令官グレートが言う。「君たちをカリュードに任命する。君たちは僕のお気に入りだからね」夢世界の中の巨大な鏡。「何が起き、どうなろうと、お前たちは出会う。そして、世界を救う、英雄となる。そういう宿命にあるのだ。さあ、手を合わせよ。そして、世界を救え。終わりの戦いはすぐそこまで迫っている。きっと困難を強いられる。しかし、お前たちは、きっと乗り越える。我は、静かに事の行く末を果てしない天の上から見届けよう」


【自己との戦い③】

 ロンドは理解した。自分の苦手意識のあるものの正体は、敗北である、と。その時、ロンドの周りが明るくなる。明るい闇の中に、トラとウマが合わさったような生物がいる。「面白くなってきたな」クリスは理解した。自分の苦手意識のあるものの正体は、権力である、と。「トラとウマでトラウマということですね」ライラは理解した。自分の苦手意識のあるものの正体は、失敗である、と。「これと戦うのね」ナタリーは理解した。自分の苦手意識のあるものの正体は、暴力である、と。「きっと大丈夫」レイピアは理解した。自分の苦手意識のあるものの正体は、己の強さである、と。「勝ってみせるわ」サトリは理解した。自分の苦手意識のあるものの正体は、己の弱さである、と。「僕に勝てるかな…」トラウマは、足を動かし、ゆっくりと近づいて来る。ロンドは、拳を固め、迎え撃つ。クリスは、刀の束を持ち、構える。ライラは、マイクを握り、構える。ナタリーは、聖剣を構える。レイピアは、槍を持ち、高く跳ぶ。サトリは、奇石を握りしめる。面々はそれぞれのトラウマに攻撃する。トラウマは、攻撃を受け、弱まる。「あと一撃で勝てる」その時、ロンドの脳内にイメージが流れる。「うあ…やめろ!見せるな!」ロンドが敗北する場面が次々と流れる。同じように面々の脳内に苦手意識のあるものを感じた場面が次々と流れる。「これが、攻撃、だとしたら強すぎます」「く、苦しい」「やめて!」「そうよ」「そうだ…そこが嫌なんだ…」トラウマが体を揺らし、イメージを流し続ける。ロンドは、拳を強く固める。クリスは、足を踏みしめる。ライラは、歯を食いしばる。ナタリーは、聖剣を強く握る。レイピアは、目を瞑り、槍を立てて片手で持つ。サトリは、目を瞑り、奇石を胸の前に両手で持つ。「「…でも、負けていられない!」」ロンドが拳を、クリスが刀を、ライラがマイクを、ナタリーが聖剣を、レイピアが槍を、サトリが奇石をぶつける。トラウマが一撃を受け、ゆっくりと消えていく。面々は、光の中に集まる。「お前らも勝ったみたいだな」「危ない所でした」「あれ?サトリがいない」「本当だ。どこ?」「まさか、まだ戦っているのかしら」「勝てよ」「僕らは待ってます」


 僕はまだ闇の中にいた。「どうして?消えたのに…また現れた!それに…さっきより大きい!」僕のトラウマは、一度消えた後、もう一度現れた。一度目より、大きくなっていた。「どうして、倒せないんだ…」トラウマは、姿を変える。それは、人の姿で、僕と同じ顔と同じ背丈、だけど、違う笑みを浮かべていた。「自分からは逃げられない」もう1人の僕はそう言った。「君は奇石を使いトラウマが消えるように願った。でも、それは言ってしまえば反則だ」「だから、君が現れた」「そうだよ。トラウマには君自身の力で勝たなければ意味がない」もう1人の僕は、剣を持ち、構える。「さあ、君も剣を持って構えるんだ」僕は、もう1人の僕を見る。「覚悟を決めるんだ。僕に勝たなければ前には進めない」僕は、もう1人の僕を、いや、敵を倒すために、剣を持ち、構える。前に進むために。「その意気だよ。僕は、君の弱さから生まれた。君の弱さが今まで失敗を招いて、また君自信を弱くした。僕は君が弱いほど強いんだよ」僕は今までの事を振り返る。この時、僕は何か言い返したい思いが芽生えた。「今まで失敗はいっぱいあった。だけど、そこから新たな発見もあった。そばにいた人が助けてくれたりして何とか前に進んでこれた。結果的に、今の僕は強くなった。だから、今までのことに後悔はない!」「くっくっく、それは良かった。だけど、君はまだ不安を抱えてる。どうして?」「それは…」「分からないなら、教えてあげるよ。君は自信がないんだ。これから上手く生きていく自信が。それが君の弱さの正体だ」はっきりと言われて、僕は茫然とする。「君も今まで大変だった。だからこそ、君は僕に勝たなくてはいけない。今ここで変わるために」「今から変えて見せる!」「それは、この僕を倒すということ。できる?」「今頃みんなも戦っている。やるしかないなら今まで通りやるだけだ!」「それならやってみせてよ!」邪悪な笑みを浮かべる敵が僕の方に向かってくる。剣と剣が衝突し、音が鳴る。敵が話かけてくる。話を仕掛けてくる。「この僕は君自身だ。君のことが分からないわけがないだろう」それを剣とともに受け流していく。同じ力、同じ動きで戦い続けて、体力が限界になってもお互いに譲らなかった。だけど、敵が口を開いたとき戦局に変化があった。「これほどまで君は後悔をしていたんだ…この気持ちを抱えたまま生きるのはつらいよね…痛いほどよく分かるよ…だって僕は君だから。この気持ち今一番誰に伝えたいですか?」「…うるさい!」この時、僕の中で何かが弾けたような感覚があった。それは、今まで溜めこんだ自分がしたくてもできなかった後悔、自分の弱さに対する自分への怒り、さまざまな経験により受けた悲しみ、心の傷の我慢などのすべての思いだった。僕の臨界点から溢れ、爆発した思いは、自分でも抑えきれなかった。そして、僕は覚醒した。一振り目で敵の剣は折れ、二振り目で敵は成すすべもなく真正面から受けるに至った。「君の気持は十分に伝わった。だけど、これだけは言っておくよ。僕はまた復活する。君の心が弱い限り…」そう言って、もう1人の僕は消えた。だけど、まだ終わりではないような気がしていた。


 僕はまだ闇の中にいた。目の前にもう1人の僕がいた。「言ったでしょ。君の心が弱い限り復活するって。だから、戻ってきたよ」「戻ってこないでよ。僕はどうしたらいいんだ…」「僕に、完全に勝ってここを出ること。それが君のするべきことだよ」「だから、どうしたら君に完全に勝てるのかわからないんだよ!」「それは、僕を受け入れることだ」「君を受け入れる…?つまり、どういうこと?」「つまり、君が君の弱さを受け入れるということ」「そんなこと、できっこないよ!」「そうだよね」しばらくの間、2人の僕は黙り込んだ。「僕が弱いばかりに君にも長居させてしまったね」「僕の事は気にしないでいいよ」「どうしたらいいのかなあ…」「そうだねえ。あ、一つだけ方法があるよ」「え?本当?」「本当だよ。ただ、ちょっと危険が伴うけど聞く?」「教えて」もう1人の僕が僕に伝えた事は、衝撃的な内容だった。僕は一度考えてから答える。「…わかった。言う通りにやってみるよ」もう1人の僕が頷いてから言う。「闇の力を甘く見ないほうがいい…」そう言って、敵はその手に漆黒の剣を持った。僕は出来る限り明るい未来をイメージした。僕の手に純白の剣が現れた。敵が僕の方に向かって来る。再び、激しい戦闘になる。「やるね」「さっきの闇は何だ!?」「あれは、君の抱える闇だよ」剣と剣がぶつかる。「君は闇を抱えている。その闇がこの僕だ!残念だけど君は勝てない!」そう言って、僕は弾き飛ばされ、剣先をむけられる。「もう終わりにしよう。諦めも肝心、だというでしょ?」「そんなこと…できっこないよ!」僕は起き上がり、剣を振るったが、相手に弾かれ剣が遠くに飛んで行った。「君は僕には勝てない。諦めるんだ」僕はもう一度明るい未来をイメージした。純白の剣が手元に現れた。「何度来ても無駄だよ」僕は剣を振り、鍔迫り合いになる。「相変わらず頑固だね。まあ、そこも含めて僕自身なんだけど。それでどれだけ後悔したか、君も忘れちゃいないだろう?」しばらく続いた鍔迫り合いもむなしく敵が力を込めると簡単に剣が吹き飛ばされる。僕は明るい未来をイメージした。「ははは。頑固すぎる。同じ手では変わらないのに。もうお遊びは終わり、君が見ぬふりをしていた闇の力、思い知るんだ…」そう言うと、敵は闇に包まれ球体になった。球体は大きくなっていく。ぼんやりと見ていた僕は、闇に飲み込まれた。


 自分が嫌になる。でも、これが自分だから仕方がない。性格は、生まれつきの解けない呪いだ。「それは違う」「誰?」「おいらは心の戦士。突然出てきて驚いたかい?どうしてもこれだけは言いたくて。性格は、時に思い通りに出来ない邪魔者に感じる時もある。反対に、それは時に自分自身を守る。何が言いたいかというと、“呪い”なんかじゃないっていうこと。そうだね、生まれつきの“鎧”だ。それだけだから。あ、それと中には癖のあるものもあるけど君のは悪くない、むしろいい方だから。じゃ」


 僕は今まで何をしてきたのだろう。今までの失敗が思い浮かぶ。何を思っていたのだろう。辛い感情が思い浮かぶ。何を耐えていたのだろう。そもそも耐えられていたのか。奴の言うように逃げていただけじゃないのか。僕は何が真実なのかわからなくなっていた。「…ここは?」気がついたら、さっきとは真逆の真っ白な空間だった。「ここは、どこだ…?」僕は、とりあえず辺りを見回しながら歩いた。そのとき、扉が見つかった。恐る恐る開けると、雨の降る町に出た。戸惑っていると、後ろから声をかけられた。「あの、あなた、一緒に行ってくれます?私ストーカーに追われているんです」それは、ライラだった。声をかけようとしたら、景色が切り替わった。気づくと、コロシアムの裏にいた。目の前にロンドがいた。「おい、見たか!俺の雄姿を!華麗な蹴りを!」また声をかけようとしたら、また景色が切り替わった。僕は死んでしまったのかなあ…。「違うよ。君はできる人間だ。だめじゃない」振り向くと、看守のおじさんがいた。「君の力が必要なんだ」グレートが言った。他にも、出会った人たちとの記憶や言葉が僕に押し寄せる。その中で、仲間の5人の記憶が強く蘇った。顔は一緒だけど、来ている服や髪の色が違う。「何だ…この記憶は?知らない…いや、これは…!」それを思い出して、僕は分かった。「まだ終わっちゃいけない…」すると、光が僕の周りに集まり球体になった。「この記憶は奥底に眠る希望の光…」光の球体は膨張し続けた。その時、敵が現れた。「これは、何だ!こんなはずは!」「君こそ気づいてなかった。僕は今自分に闇しかないと思い込んでいた。でも僕には眠る光もあった」光はどんどん大きくなり、そのまま闇を包み込んだ。「だけど、闇もそう簡単に消えはしない!」光の球体がしぼみ始めた。敵が闇の剣を光の球体に突き刺していた。風船から空気が抜けるように穴から光が零れる。「お前は、さっき言ったように頑固だ!それに、マイペースでのろまだ!更に更に、大したことでもないのにこだわりが強い!不器用で緊張して失敗する!そして、それを引きずる!面倒くさがり!自分に甘い!とにかくダメな奴だ!これでも闇の方が強いと分からないのか!」「そう…確かに全部当たってる。僕は、こだわりがある頑固者で、マイペースで、不器用で、失敗を引きずり、自分に甘い、駄目な奴だ。でも、それは、言い換えることができる。粘り強く、意思があり、失敗を覚え、自分を大事に来る、駄目でもない奴だ、と。不器用は言い換えられないけど…。昔の偉人の言葉『短所は長所でもある』だ。僕は自分のダメなところしかないと思ってたのは、間違いだった。短所が長所と同じように、闇は光と同じだ。つまり、闇があってこその光なんだ!僕は闇を抑えていたけど、逆効果だった。だから、変えてみるよ。これからはもっと大変になるかもしれない。それでも、闇に抱えられているより、光が闇を抱えている方がいいと思うから」「…それが君の選択でいいよね」「いいよ」もう一人の僕は剣を捨て、僕たちは握手した。「僕は厄介だよ」「それでも一緒にいた方がいい」そして、僕たちは一つになった。


【鏡の世界】

 光の空間に現れたサトリ。「遅えぞ」「ごめん…」「良かった。心配したのよ」「大丈夫だと思ってたよ」「勝てて一安心ね」「これで全員揃いました」そこに、女神が現れる。「貴方たちは試練を果たしました。この事で、貴方たちは、世界の理を知る権利が与えられます」「世界の理…」巨大な扉が現れる。「この扉の向こうが鏡の世界です」「そこに行けば世界の理が分かるんだな?」「はい」「行きましょう」(一体何が待ってるんだろう…)面々は扉を通る。


 ミンミンミーン。蝉の鳴き声が聞こえる。町長の家に政治家が入っていく。政治家は町長に宗教の勧誘を行う。町長は了承しようとする。町長の息子の少年は勉強の為、部活動を止めるよう言われている。話を聞いていた少年は政治家に掴みかかろうとして、仲裁に入った母を傷つけてしまう。


 ミンミンミーン。蝉の鳴き声が聞こえる。発表会に向けて毎日練習している部活動の生徒たち。本番当日、発表が上手くいかなかった部活動の生徒たち。その一人の少女が皆を慰める。しかし、他の生徒たちは荒んだ気持から少女のせいにしてしまう。


 ミンミンミーン。蝉の鳴き声が聞こえる。部活動で憧れの先輩が引退した後、少年は同級生や後輩を倒していく。誰よりも強くなるために練習に励む。誰よりも強くなった時、少年は孤独になっていた。


 ミンミンミーン。蝉の鳴き声が聞こえる。大会の決勝戦。友人と一騎打ちになる少女は、友人と交した約束を思い出す。勝負の時は手加減しないことを。そして、少女は友人に勝つ。しかし、少女は、悔し泣きする友人を見て、後悔の念を抱く。


 ミンミンミーン。蝉の鳴き声が聞こえる。学校で飼育する鳥と戯れる少女は、ある日動物がいない事に気づく。探した先で、その鳥が野生の鴉たちに痛めつけられているのを目撃する。助けようとする少女を他の生徒たちが止めて遠ざける。


 キンコンカンコーン。学校のチャイムが鳴り終わる。先生が教壇の前に立つ。「起立、礼、着席」「授業を始める。この時間は、以前から話していたエレクトを決める」教室中で生徒が騒がしくなる。「エレクトだ」「ついに決まるんだ」「誰になるんだろう?」「静かに。学級委員は前に来て」男女の学級委員が黒板の前に立つ。男の学級委員が言う。「エレクトに向いていると思う人を紙に書いて提出してください」先生が紙を全員に配る。生徒が紙に書く。一人の女生徒が後ろの生徒に小声で話しかける。「ねえ、誰にするの?」「え…まだ決めてない」隣の男生徒も話しかける。「早く書かないと白紙では怒られるよ」「そうなんだけど…」さらに後ろの男生徒も話しかける。「決められないのか?だったら、自分にしろ。エレクトに選ばれることは、栄誉のあることだからな!」周りの生徒たちが見る。「おーい、そこ。静かに書け」生徒は悩む。周りの生徒たちは書き終え始めている。窓の外を見る。大きなリンゴの木がある。鳥が鳴きながら枝にとまる。まだ青いリンゴの実が一つ落ちる。鳥が鳴きながら羽ばたいていく。「よーし。全員書いたみたいだから、集める」生徒の名前が書かれた紙が教壇の上に集まる。男の学級委員が言う。「開票していきます。一番票が多かった人がこのクラスのエレクトに決まります」男の学級委員が名前を読み上げ、女の学級委員が黒板に書いていく。「決まりました。このクラスのエレクトは、シンメンサトリ君です」「全員で拍手をしよう」先生と生徒が拍手する。拍手の後、教室中で生徒が騒がしくなる。「あいつが…」「ちゃんとできるのかな?」「誰が票を入れたの?」「俺らだ!」シンメンサトリの後ろの男生徒が立ち上がる。「俺と俺が頼んだ奴が入れた」「どうして?」「こいつは、いつも目立たないと言われてる。だから、たまには目立たせる場をあげようと思ったんだ。お前も嬉しいだろ?」シンメンサトリは絞り出すように言う。「…僕は嬉しくない」「何でだよ。クラスに一人しか選ばれないエレクトだぞ。学校全体でも10人の選ばれし者だ」「…でも、僕はなりたくなかった!」シンメンサトリは立ち上がり、教室を出る。下駄箱で靴を履く。一人の女生徒が呼びかける。「待って。どこに行く気?」「…家に帰る」「逃げる気?」シンメンサトリは心臓を貫かれた気になる。言い返す言葉も見つからず、黙っていると女生徒が言う。「あんたはまた好き勝手ばっかり」シンメンサトリは、学校を出た。


 「あんたはまた好き勝手ばっかり」僕は、何もできない。誰かを助けるわけでもなく、誰かを笑わせるわけでもない。友人もいない、仲間もいない。家族すらも自分の駄目さ加減に愛想をつかしてしまった。もう誰も僕を心配する人なんていない。このままここで死んだって誰も気づかないのではないか?そして、このまま、誰にも悲しがられず、忘れられてしまうのではないか?そうはいったって、死ぬ勇気なんてない。いざとなったら、絶対にやめてしまうことはまちがいない。それを想像している時点で、自分が弱いと思う。これはいつものことだ。毎日何があったわけでもない。普通に過ごしていても悲しくなる時はある。「どこかに行っちゃえばいいのに…」同級生にそう言われた。それを思い返していた僕は、気が付くと、近くの公園に向かっていた。土砂降りの雨の中全速力で。雨は好きだ。何故かといば、自分の悲しさが流れてくれる気がするから。これは詩人のような気分にもなり、お気に入りなのかもしれない。そのくらい少しこの行為にいい意味を持たせないと、自分を本当に心の底から嫌いになってしまうだろう。そんなギリギリの状態でいるのは、自分が弱いからだ。弱さゆえに悪い思考を繰り返す自分。そんな自分の思考回路にすら嫌気がさすまでになろうとしていた。このように自己嫌悪が深くなれば、心で我慢しても、目からは勝手に涙が出る。身体は不思議だ。涙とは、まるで、今、僕に当たる大きな雨粒のように思える。又詩人っぽい。もしかして、これは悲しみの雨かな?そんなこと思っても、誰も僕を褒めてくれないし、同調もしてくれない。ここに来たところで僕に、話しかけてくれる人などいない。誰も…。そう思っていたのに。「あのー、チミ、なぜないているのです?」「…」(え、だれだ?こんな夜の、こんな雨の中公園に来る人なんて僕以外にはいないはず…。うわっ!なんだかゲームに出てきそうな魔術師みたいな出で立ち。変な人だ…。明らかに怪しい。)「うーん、かなしいことでもあったのかな。いやなことでもあったのかな。まあ、なんでもいいか。わたしにはかんけいない。ところで、ちみ、ゆめみたくありません?」「…」(ゆめ?この人、なにいってるんだ?)「もー。チミ、おとこでしょう?しっかりしてくださいよー。これは、くすりですけどね、あやしいものではないですよ?なぜなら、すいみんやくですからね。ただひとあじちがう。ひとつぶのめば、すやすや、ふたつぶのめば、しっかり、みっつのめば、ぐっすりねむれることまちがいないうえ、それだけじゃぁない。これをのむと、すてきなゆめがみえる!なんでもじぶんのねがいがかなうゆめがかなう」「…ますますあやしい」(まずい。声に出ちゃった。)「やっと、あいてしてくれた。チミ、いまないてたよね?」「…僕はどうしようもない人間なんです。それに不運ですし…」「ふうんだなんて。いまこうしてミーにあえたことはこううんとおもってくれてかまわないよ?そんなひかんてきなちみには、これがまさにおすすめ。…そんなこといって、どうせ、たかいんでしょう?っておもったよね?おかねなんていらないよ。ミーはこれでひとだすけがしたいだけ。チミみたいなひとのね。さあ、おためしあれ」「…本当に飲んでも害はないですか?」「ええ、ええ。むがいもなにも、ゆめがみれて、めがさめたら、あたまはさっぱり、こころはすっきりよ。」「どうも怪しいな…それにその話し方はいつもですか?」「…なかなか君も気が置けないな。これは商売する時の話し方さ。悪い癖だよ」(やっぱりなんだか怪しいけど、これも何かの縁というもんかもしれない。それに僕には失うものなんてない。この際、物は試しともいうし、大胆にいこう)「じゃあ、7つ」「おお!だいたんもだいたん。さっきないていたひととはおもえないほどだいたんだね」「試してみるだけだ」「7つものんだらどうなるか、ミーにもわからないけど…」「また、戻ってますけど?」「ああ、悪いね。7つも飲んだら、僕にどうなるかわからない、わけはないね。そうだ、ここで、錠剤について簡単に説明しておこう。この錠剤は、さっきも言った通りいわゆる、睡眠薬で、即効性がある。眠りについたら、夢を見る。夢の中ではその人は思うがままになることができる。そして、錠剤の数は、夢の長さに比例する。7つというのはかなりの長さだけど大丈夫?」「大丈夫です…」「よっぽど辛いことがあったんだろうね?」「まあ…」「これは、君の選択だからね、どうぞ」「どうも」「確認だけど…いまからみるゆめはきみのねがいをかなえるゆめ…つまり、しゅやくがきみのゆめものがたりというわけ。では、おやすみなさい…」「ここはぼくだけのせかい…ボクだけのねがいがかなうばしょ…それならとびっきりのゆめものがたりにしよう…さあ、はじめよう…」


【真実】

 面々は気づくと鏡の空間にいた。茫然とする面々。「今見たのが、世界の理?」「みんなとそっくりな人たちがいた」「ロンドがすごく目立ってたわね」「待てよ。俺はいつあんなこと言った?」「サトリは何か思い出しましたか?」「思い出したよ」驚く面々。「「本当に?」」「あれが、僕たちのいる現実世界だよ」「現実世界…?」「じゃあ、私たちがいるこの世界は、どこ?」「ここは、夢の世界だよ」「いや、そうじゃなくて、ボーンさんの研究所がある世界、災害が起こる世界、獣で溢れる世界よ」「だから、そこが、夢の世界なんだ」「信じられない」「なるほど。今見たのは、僕らの生きる本当の世界。つまり、今いるのは、夢のまた夢の世界ということになります」「そうだよ」そこに女神が現れる。「女神、説明をしてくれ!何が何だか分からなくて、頭がこんがらがってるんだ」「分かりました。説明しましょう。まず、私は女神ではありません」「どういうことだ?」「私は、世界の意思そのものです」「また訳の分からない事を言うな!」「本当なので仕方ありません。私は、かつて女神であり、今は世界の意思なのです」「それをわかりやすく説明してくれ!」「この世界は、造られた電脳空間なのです。私は、この世界に囚われた娘を探しています。その為に、最高権力を持つ存在である、世界の意思になりました」「貴女は一体誰ですか?」「私は、開発者の妻です」「開発者はどうしてこの世界を作ったんですか?」「彼は、夢を追い求める人でした。だから、何でも願いの叶う夢を見れる錠剤を作りました。誰でも笑顔になれることを夢見て」「すてきな夢ですね」「ありがとう。まだ試作段階だから、その時はまだ先になりそうだけど」「笑顔になれる夢というけど、世界は災害が起き、獣で溢れてるわ」「相変わらずレイピアは厳しいな」「だって、本当の話よ」「それは、さっき言ったこの世界に囚われた娘を見つけ出すためだったの」「随分乱暴だな、世界の意思は」「ごめんなさいね」「それで娘は見つかったのか?」「それがまだなの。だから、貴方たちに娘を探してほしいの」「分かったって言いたいけど、手掛かりがないな」「手がかりならあるわ。娘は5歳の女の子。それでも分からなければ、ウォーリー博士、あの人に聞けば分かるわ」「どうしてですか?」「あの人が開発者なの」驚く面々。「「ええ!」」サトリが言う。「そう言われたら、顔が似ているような…フードでよく見えなかったけど…」「あの人も娘を探すために最高権力を持つ存在の神になったの」「なるほど。ウォーリー博士に会って5歳くらいの女の子を探せばいいんですね?」「貴方たちに頼みたい事がもう1つあるの」「まだあるのか?」「むしろ、こっちの方が重要よ。この世界を出る為に必要な“鍵”を手に入れてほしいの」「鍵…」「その手がかりは何かあるのか?」「あるわ。鍵は、最強の獣を倒す事で手に入るわ」「最強の獣…」「最強というくらいだから強いんだろ?早く戦いたいぜ」「最強の獣“セレクト・サモン”は普通の獣と思ったら駄目。簡単に死んでしまうわ」「そんなに強いんですか?」「それは、私が世界の意思になって最初に作った獣よ。どの災害よりも強い力を持たせてあるわ」「そんなの倒せるかな…」「大丈夫よ。貴方たちは試練に合格した、選ばれし者“エレクト”よ。貴方たちなら大丈夫」面々の前に巨大な扉が出現する。女神が手を振るのを見ながら、面々は扉を通り抜ける。


「何も知らず何もできない。このようなものは言わば愚者である。愚者はただ愚かなものという意味ではなくこれから何にでもなれるという可能性がある者、という意味である。可能性を秘めているのは多くは若者と考えられているがあまり関係ない。何も知らないからこそまだ見ぬものとの出会いから何かを生むことができる。選ばれし者のその可能性こそが全ての希望である。今後の運命は、君たちの可能性に懸かっているのだ。」



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