第3章
【束の間の平和】
面々は、船で北に進んでいる。「快適だ」「晴れてますから眺めもいいです」「何事もない。平和だな」「今日は絶好の航海日和さ」「なんだろう、あれ」「ナタリー、何か見えるの?」「キリンみたい」「あれか。確かに何かいる」「来るわ」その影は速度を上げ、近づいてくる。水しぶきを上げ姿を現したのは、首の長い竜だった。「何だ!」「オロチ種。竜の類です」「竜だと!英雄リンクの伝説に出て来るヤマタノオロチの仲間か?」「そうでしょう。ただ、この個体は、まだ幼体。すなわち子供」「はあ…、子供か。安心した」「安心できませんよ。子供といえど力は他の獣の数段上です」オロチが頭突きを船に喰らわす。「きゃあ!」「逃げなきゃ死んじゃうわ」「確かに逃げた方が良いわね」「ロンド逃げよう」「リーダーどうする?」「スキピヨ!全速でこいつから離れろ!」「了解!」船は全速で離れるが、オロチが先回りをして頭突きをする。「きゃあ!」「駄目です。船のスピードが負けてます」「このままじゃ船もお陀仏だ」「おい!サトリ!あれを出せ!」「え?あれって、奇石?」「そうだ」「まさか、また飛ぶの?」「ああ、飛ぶ!だから、願え!」「“遠くに飛んで”!」奇石が光り、舟は空を飛ぶ。ダイナミックに着いた先は海の上だった。「助かった…」「また海の上よ。私たちついてるわ」「そうですね。陸の上なら衝撃で跡形もないでしょう」「ああ、怖い」「命拾いしたわ」「まあ、とにかくみんな無事だな」「さすがリーダーは皆の心配を第一に考えてるんだね」「まあな」照れるロンド。「珍しく褒められて嬉しいのね」「そうみたい」「天狗にならないで欲しい所だわ」「おーい、聞こえてるぞ」船は進む。「はあ…」「おや?ロンドがため息とは珍しいですね」「退屈すぎる」「海の上は平和で、いいじゃないですか」「俺たちは平和を守るためにいるんだから、何か起きてほしい位だ」「速いのが来る!」レイピアが察知して言う。「本当か!どこだ?」大きな翼を持った獣が面々の頭上を飛んでいる。直後、急降下し、クリスを襲う。前回転し避けるクリス。再び上昇する獣。「あれは、あの時の背中に傷を負った獣…ウィングエッジ!」(久シブリネ。再戦トイキマショウ)ウィングエッジが翼を広げ、急降下する。避けるが初めより距離が縮まっている。また上昇し機会をうかがう。「動きに無駄がない…強くなってますね」「あいつの攻撃を避けるだけじゃやられちまうぞ!」「わかってます!」「だからと言って俺の拳じゃ届かねえ」「僕には何もできない…」ウィングエッジが急降下を始める。(勝負アッタワ!)その時、ウィングエッジの足を槍がとらえる。叫びをあげるウィングエッジ。(ヤッタワネ!コノ女!)怒り狂ったウィングエッジがレイピアに向け急降下する。「避けられない…」爪がレイピアの肩を鷲づかむ。「離せ!」ライオンになったロンドがウィングエッジに噛みつく。(痛イ!痛イカラ!モウ分カッタカラ!)ロンドが噛むのをやめ、ウィングエッジもレイピアを離す。(ハアハア…今回ハコノクライニシテオクワ…手加減シテヨネメスナノニ…)飛び去るウィングエッジ。「あの子、女の子だったんだ」「ナタリー、何か聞こえたの?」「うん。でも、だいぶ落ち着いた様子だよ」「そう。良かった」「良くねえよ!」「血が結構出てる…ごめん」「ああ。レイピア、大丈夫か?」「…リーダーらしくて安心したわ」「冗談言ってる場合か!」「早く手当てしないと危険だわ…!せめて私の歌で…!」「凄いです!出血が治まってます」「前にSONG本部で在籍してた部隊で、歌で治癒効果があると習ったから…」照れるライラ。「…ありがとう、ライラ」「取り込み中悪いんだけど、前方から何か近づいてくるんだが!」スキピヨが慌てた様子で言う。「こんな時に!何だ!」ロンドが船首に行く。海面から飛び、船の上を横切る魚の獣の群れ。「見慣れない影、しかも群れに囲まれた!皆さん、気をつけて!」群れは船を取り囲み、船の後ろにいる面々を襲う。「きゃあ!」「きゃあ!何よこれ!」獣が噛り付き、面々の服が破ける。「何だ…この展開は」「クリス、口が空いてるよ…」「…そう言うサトリこそ鼻血出てますよ」「わ!!」「ま、まさか」レイピアにも魔の手ならぬ魔の口が襲い掛かる。「危ない!」近くにいたライラが覆うようにして身代わりになる。足を噛まれるライラ。「痛い!」次々と飛び襲い掛かる獣。「秘技『高速居合切り』!」群れを一刀両断にするクリス。一瞬静まり、大きな個体が飛び掛かる。クリスが剣を横に構え口からしっぽまで切り裂いていく。「すごい!群れが引いていく!」「ギザギザの歯に巨大な目、獲物を狙う獰猛さ、今のはピロシクーと呼ばれる獣に間違いないです」「それよりこっちも早く取って!」「はい、今すぐ」クリスがライラに噛みついた個体を突き刺して取る。「まさか獣化するわけじゃないでしょうね!?「それは大丈夫のはずです…。この獣はそれほど毒性が強くない、と図鑑に書いてあったので」「こんなのになるなんて御免だわ!」船を見回すクリス。「散々な目に遭いましたね」「なんだかんだで、平和を守ったな」「それより、2人はこのままじゃいけないよね?」肩を抑え座り込むレイピア。腕を抑え苦痛の表情のライラ。「スキピヨ!全力で陸地を目指せ!」「了解!」「いたくない?」「ありがとう、ナタリー」「痛さよりもさっきのになると考えると、寒気がするのよ」「大丈夫、きっと獣化してもライラはライラだよ」「ナタリーは今後も噛まれちゃ駄目よ」「気をつける」「陸地が見えてきたよ!」スキピヨの声に面々は安心する。しかし、この後も、面々の思いもしない展開になっていく。
【治療】
面々は上陸し、怪我を負ったレイピアとライラを背負ったロンドとクリスが二人を下ろす。「動かすと痛いらしい」「安静がいいですね。近くに町があるか探しましょう」「俺たちが見張っておくから、クリスとサトリ頼んだ」「分かりました」「分かった…」二人は森を進む。「ありませんね」「ないね」その時、向こうから人が来るのが見える。「誰か来るよ」「誰でしょう」向こうから声が掛けられる。「久しぶり」「また会エタ」「あなたたちは別動隊の方々!」「自分ら、生きてて安心したで」「それは、こっちのセリフですよ」「ああ。ワイら爆発したもんな。バーンって。あれはたまげたで」「アノ後、何とか逃げたケド、敵にも逃げラレタ」「君たちの仲間が助けてくれたの」「シュンですね。彼、怪盗だったんです」「大物やないか。言われたら雰囲気あったわ」「本当に思ってたのかな」「君タチ、どうしてここにイル?」「私たちの仲間が怪我を負って手当てをしてくれる人を探しています」「それなら、私が治療してあげるよ」「え?本当ですか?」「どこにいる?」「こっちです」サトリらは、別動隊の3人を面々のいる場所に案内する。「お前ら、生きてたのか!」「何や?嬉しいんか?」「驚いただけだ」「強がりダ」スキピヨがきょとんとして言う。「だれ?」「この人たちは私たちの仲間だよ」「そうか。じゃあ10人いたんだ」ナタリーが手で指して紹介する。「左からバランさん、ンギーさん、テルさん」「覚えててくれたんだね」「当たり前です。仲間ですから」「私も仲間として治療をするよ」テルが背負っていた鞄から医療道具を取り出し、治療を始める。「結構深いね。でもすぐ治るよ」「なんであの人、着ぐるみ来てるんだろう…?」「サトリ、世の中には聞いちゃいけないこともあるんですよ」「これ?全然問題ないよ」「聞こえてた…ごめんなさい、どうして着ているんですか?」「顔見られるの恥ずかしいんだ」「ワイらは変に思わないんやけどな」「テルはそう思わナイ。ダカラ、気にシナイ。それが仲間」「良い仲ですね」「そうだね」テルが着ぐるみの上から汗を拭い、言う。「治療終わったよ」「早いな!」「簡単な処置だから。まだ激しい動きはしない方が良いよ」レイピアとライラが礼を言う。「「有難うございました」」「いえいえ。仲間だから当然のことをしたまでで」照れるテル。「怪我の手当ても済んだことだし、先へ進むぞ。お前ら歩けるか」「ご心配には及ばないわ」「そうか。安心したら腹が減ったな。サトリ、町は見つけたか」「いや、まだだよ」「途中で彼らに会いましたからね」「…そや、行くあてがないなら、良い所案内するで」「本当か。頼むぜ」「こっちや」面々はバランの案内で森の奥へ進む。
【罠】
「随分森の奥深くに来たな」「町がある雰囲気じゃないけど…」「何を言うてんねん。町に向かうとは言うてへん」「え?それじゃあどこに来たんですか?」「僕タチの新しいリーダーのアジトダ!」地面から網が飛び出し、面々が捕まる。「何だこれ!」「網で身動きが取れないじゃない!」「どういうつもりですか?」「これは私たちもされたこと。リーダーの歓迎の仕方なんだ」「そんなわけあるか!早く出せ!」「それはできひん。自分らにリーダーの強さを知ってもらわなあかん」「ドウゾ!」森の奥から木をかき分ける音が聞こえる。「一体、何が来るんだ…」現れたのは、巨大なクモ。「お前は…!」「ニクイ、ニクイ、ニクイ…」「このクモはリーダーの忠実な僕。かなり強いよ。怪我しないように早めに降参して」「降参するだと!」「そんなことできません」「だったら、倒すしかないな。頑張りや」「僕タチハ負けた。同じにならない事を願ウ」「ニクイ、ニクイ、ニクイ!!!」クモが鋭くとがった爪を振り上げる。標的に定めたのは、サトリ。「こっち見てる!誰か助けて…!」その時、一つの網が破ける。「あれ?レイピア?」クモの爪が届く寸前で、一羽の鳥がクモを蹴り飛ばす。「助かった…一体何がどうなって」「ちょっと、みんな聞いて。レイピアがいなくなったのよ」「私はここだ」鳥が答える。「まさか、この絶好のタイミングで獣化したんですか…」「そうみたいね」クモが起き上がる。「それより早く俺らを出せ」「言われなくても出すわよ」レイピアに助け出された面々。吠えるクモ。「ニクイ、ニクイ、ニクイ…あれ?ピヨ丸?」スキピヨを見てクモが我に返る。「そうだ。俺だ。サイモン」「…ピヨ丸。助けて…」「え?何て」「おっと、洗脳が解けかけていりゅ。こりゃいけない」現れた男が謎の装置から怪しい電波を流す。「う…耳障りな音…」「意識が遠のいていく…」「お?もしやこのまま全員洗脳できりゅかもしれない」「…俺たちが、そんなことに負けるか!おい!お前ら意識を強く持て!」「はい。僕たちのリーダーの命令に従います」「そうだ…あんな小さい人に負けるわけには…」「小さい人!何て酷いことを!」サイモンが怪電波により、自由を奪われる。「アア…ニクイ、ニクイ、ニクイ!!!」クモが唸りをあげ、暴走する。「ちょっと待ちゅのだ!お前たち、吾輩を守れ!」「「分かりました…」」バランたちがクモから守ろうとする。「ニクイ!」バランたちが弾き飛ばされる。「バランたちによくも!」奥から他の隊員たちが現れる。「ニクイ!」同じように弾き飛ばされる。「何人いるのよ」「この人たち、心の中で叫んでる。助けてほしいって」「どうすればいいの?」「今のうちに逃げりゅのだ」「待ちなさい」レイピアが翼で一撃を食らわせる。「ぎゃあ!」男が装置を落とす。「く、来るなあ!クモ、守れ!」レイピアの前にクモが現れる。「ニクイ!」「そんな感情を昂らせても、正しい道は切り拓けないわ」レイピアが翼を羽搏かせ、激しい風を起こす。クモが堪える。「おい!ヒュージー。バトンタッチでしゅ!」「なんだ、ウォッシュ。逃げる気か?」「吾輩はこんなところで死にたくない!行くでしゅ」ウォッシュが1人を伴い逃げる。その人物を見てレイピアは心当たりがある。「待て」「ここからは俺が相手だ」「お前に用はない」レイピアが翼を打つがクモが間に入る。「…俺は、嫉妬してるんじゃない…」「何を言ってる」「俺は、ピヨ丸を…」「サイモン!目を覚ませ!お前はこんなつまらない事いつまで続ける気だ。早く帰って来い」「ピヨ丸を、尊敬してるんだー!」クモがレイピアの力に負け、弾き飛ぶ。
【別れ】
サイモンは、心の中で戦っていた。(スキピヨはそりゃ、顔も整っているし、声もいい。俺なんかより、ずっと見栄えが良い)(だけど、俺だってたまには主役をやってみたいと思う。それくらい思ったっていいじゃないか)(思うのは自由だ。でも現実を考えたら、やっぱり…)(いや、諦めたら終わりだ。そもそもあいつは王子のくせに家を飛び出して何もしていなかった。声をかけて劇に誘ったのは俺じゃないか)(そうだ。スキピヨは王子だ。裕福な家で育った。俺とは正反対だ)(裕福だけが取り柄の奴に主役を任せておくのか…!)(…ただ、スキピヨには才能があった!初めて教えた劇の台詞をすぐに覚えた!しかもかっこよかった!俺は、そんなスキピヨを、いや、ピヨ丸を尊敬してるんだー!)(な、こいつもか…。なんで俺が憑依する奴らは、馬鹿なんだ。尊敬は嫉妬と同じだ。それなのに…)(同じじゃないっす。尊敬は嫉妬の一個上っすよ)(一個上…なんだよ、それ)サイモンが気づくと、心配そうに見つめるスキピヨの顔があった。「大丈夫か!サイモン!おい!」頬を叩き続けるスキピヨ。「痛いっすよ!」「おう、起きたか、心配したぞ」「すいませんっす」レイピアがヒュージーと洗脳された隊員たちを一蹴する。「よし!片付いた!戻っていいぞ、レイピア」「…ちょっと本気なの?分かるでしょ?」「あっ…今裸なのか。悪い」「そういえば獣化すると、服が脱げちゃうんですよね」「いつもロンドとクリスは茂みとかに隠れて着替えてたね」「じゃあ、私たちは行くから、ゆっくり着替えてね」「おい、全員で倒れた隊員を担げ!」「俺もっすか」「当然だ!」「みんな、有難う」着替え終えたレイピアが合流した時、隊員たちが目を覚ます。「…あれ?俺は何を?」「ここは、どこだ?」「何や、ワレ!ワイらを騙しといて、覚えとらんのかいな。それはないわ」「デモ、助かッタ」「私たちも騙しちゃったね。謝るよ」「テルさんが謝らないでください」「悪いのは、間違いなく、あの小さくて気持ち悪い言葉遣いの男なんですから!」「ヒュージーとかいう男は、いつの間にかいなくなっちまった」「どこに行ってしまったのでしょう?」「さあ。逃げ足の速い人だね」「それなら、俺、知ってるかもしれないっす」「本当か、サイモン」「はい、付いてきてください」隊員たちが別れる。「俺たちはこの地域を警備するモスクルドノワ支部のトロイカ部隊の者です」「災害地で怪我を負い、あの怪しい男に捕まってしまったのです。今回はご迷惑おかけしました」「待たんかい!自分ら何か隠してるやろ?」「何のことですか?」「洗脳を受けたのは、もっと他にもいるんと違うか?」「げっ…実は」「図星やで」「ナンデ隠シタ?」「俺たちの問題と考えて俺たちで解決しようと…」「困った時はお互い様です」「分かりました…。お願いします」「どんだけいなくなったんや?」「俺たちが知る限り、10人くらい」「結構時間かかりそうやな。そういうわけやから、お別れや。ワイらやなくても自分らを助けてくれる奴はおるはずや。ほな」「お世話ニナッタ」「私たちはあなたたちの味方だから」「何だか急で…」「寂しいですね」「何や?最後は明るくいこうで」「そうだな」「「お世話になりました」」「「ほな!」」
【遭遇】
「あの人、本当に気持ち悪いわ」「どうした?」「腕の見たでしょ?目が大きくて、歯がギザギザした顔が描いてたの」「確かそんな感じでしたね。それがどうしたんですか?」「まるで船で襲われた獣そっくりじゃない。特に私なんて噛まれたし」「そうだね。気持ち悪いね」「そうでしょ?それを隊員の人たちにまで着けさせてたわよ。趣味が悪いわ~。ナタリーもそう思うでしょ?」「うん」「私もいつか獣化しちゃうんじゃないかしら…嫌だな~」「止まらないよ…」「そっとしておきましょう」先頭を歩くサイモンとスキピヨが会話している。「サイモン、どうして急に変貌した?」「本当にすいませんっす。自分の中の感情が暴れ出した感覚に襲われたっす」「感情が暴れ出した?またまた劇の台詞みたいなことを」「本当なんす。この目を見てください」サイモンは真っすぐな目でスキピヨを見つめる。「んー、どうやら嘘は言ってないようだな」「信じてもらえてよかったっす」「まー、お前は嘘をつく奴じゃないからな」「俺は心からピヨ丸を尊敬してるっす」「そんなに言われると恥ずかしいな。サイモンの事は俺も信頼する。ところで、道は合っているか?」「おそらく合ってるっす」「おそらく?いきなり心配だな」「俺も意識が曖昧になってて」「それも感情が暴れてたせいか?」「そうっすね。ただ、めちゃくちゃ大きい人間がいたのは覚えてるっす」「大きい人間?それはつまり巨人…」話を聞いていたロンドが驚く。「巨人だと!」「びっくりした!そんなに声を出してどうした?」「巨人といえば、英雄リンクの伝説最終章、『最期の闘い』の中で宿敵ワスプが自らを巨大化させた姿、クジャの事に決まってるだろ!」「そうなのか…知らなかった」「ファンの間では一二を争う有名な話だぞ」「ロンド、みんなが知ってるとは限らないわ」「…ごめん。でも巨人が見れるのか」「何で楽しみにしてる訳?戦う相手かもしれないわよ」「巨人と戦うなんて英雄リンク様と同じ体験が出来るわけだろ?より楽しみだ」「呆れたわね」獣を倒しながら先へ進む面々。「サトリ、巨人だぞ。楽しみだな」「…そうかなあ。寧ろ怖いけど」「何だよ。情けない奴」「落ち込まなくていいよ」「ありがとう、ナタリー」「確かこの辺りだったと思うんすけど…」大きな足音が鳴り響く。山の陰から巨人が現れる。「「出た!」」
【巨人】
巨人の目は赤く、全身の筋肉が張り、血管が浮き出ていた。「で、デカい」「ど、どうするんすか?」「あれはタイタス族です。恐らくまだこちらに気づいてません。ただ、正気ではない様子です。焦らず作戦を立ててから…」「よし!先手必勝だ!変身!ビーストモード!」ロンドがライオンになり、突進していく。「行っちゃった」「仕方ありません。こちらに気づきました。全力で勝負するしかないです」「本当に呆れたわ。あまりこの姿にはなりたくないのよね」クリスがトラになり崖を登る。レイピアがウィングエッジになり空から様子をうかがう。巨人が拳をロンドに向ける。ジャンプで躱し、そのまま腕を駆け上がる。もう片方の腕の妨害も躱して、顔面に突進。巨人がよろめく。続いて、クリスが崖から飛び、よろめいた巨人の太ももを乱れ引っ掻き。痛みで足をこする巨人。注意が完全に逸れたのを確認し、レイピアが急降下で頭に踵落とし。「いだい…」巨人は後ろに倒れた。面々の元に着地する3人。「倒しました」「案外弱かったわね」巨人に駆け寄るヒュージー。「ちょっと!お前だけが唯一の頼りなのに…!」「もう降参しろ」「降参…するわけがないだろ!」ヒュージーがボールを取り出した。「それは砂漠でも使ってたやつ!」「そうさ。これは優秀なクローンを数分で生み出す至高の作品」「それをあなたが作ったんですか?」「残念ながら、違う。俺の専門は“巨大化”。必要以上のエネルギーを体内に留めるとどうなるのかという実験。それに奇跡的に成功して生まれたのがこいつ。失敗したやつらは、太陽の光も浴びれないようになったさ!ひひ」「なんて恐ろしいの…」「確かこれを作った奴もいたっけ?かわいそうにな」「それもワスト博士の仕業…」「使える物は使う。今、俺が生き残るためにな!」投げると、クローンが大量発生した。「なんて数でしょう…」「数なんて関係ねえ!全部倒すだけだ!」面々が急成長したクローンと戦う。ライラがサトリに耳打ちする。(ちょっと、作戦があるの)「…わ!」(静かに!)(…うん。作戦って?)(えっとね、あの巨人を味方にするの)「え!」(だから、静かに!)「今のうちに、俺は逃げさせてもらう、と。ひひ」巨人が起きる。「はっくしょん!」「なんだ?!」「鼻がむずむずする」(上手くいったわね)(うん)(良かった…)サトリ、ライラ、ナタリーの3人は、巨人の鼻をくすぐっていた。「お前、さっきはよくも!」「悪い…」「そう思うなら俺を乗せて遠くに逃げろ!」「そうはさせないわ!聞いて、癒しの歌」ライラの歌で、巨人が癒される。「いい声、走る気、失せた」「何!」サイモンがクモになり、クローンたちを糸で絡ませた。「よくやった!」「照れるっす」「おい!もうクローンはいないぞ!」「くそっ!!こうなったら、やけくそだ!」「待て!ライオンに敵うと思うのか」逃げるヒュージーの前に、謎の巨人が現れる。「何だ!」それは、地面が盛り上がり、巨人の姿になったかと思うと、そのまま倒れてきた。「うわぁ!!」下敷きになるヒュージー。何事もないように地面が戻り、そこには動かないヒュージーの姿だけがあった。「今の何だ?」「あれは、おそらく、伝説の獣ゴーレムじゃないかと」「伝説の獣ってフェニックスの仲間か?」「まあ。そんな感じです」「出会えるだけで幸運よね、凄いわ、ナタリー」「幸運だね」「それより、死んだのか?」「はい。息をしてません」「死んじまったか」「確か、もう1人いたよね?」「ああ。ウォッシュとか言う奴」「あの気持ち悪い男ね」「誰かを連れて何処かへ逃げた」「敵はいます。でも、一から探すしかないです」「一からやり直し、やってやるぜ!」「はっはっは!」笑ったスキピヨを面々が見る。「いやー、面白い旅だった。でも、俺らはここでお暇させてもらう」「どうしてですか?」「いやー、君たちと旅をして感じたんだ。王の命を救ったり、船を飛ばしたり、別れた仲間と再会したりして、奇跡が起きるってことをね」「だから、俺とピヨ丸は、また劇を再開するっす」「それなら、一緒にいても出来ますよね?」「いや、そうじゃない。俺らは俺らで奇跡を起こしたいんだ」「つまり、二人旅をしたいと…?」「俺らはそうは思わない」「離れていても一緒っす」「何だか、恋人みたいね…」「お互いがお互いを想う、それはまさしく恋人」「無事を祈ってるっす」「君たちの旅に奇跡が起こり続けるように、神は祈っている。行くぞ、サイモン」「はい、ピヨ丸」2人は船の方に歩いて行った。
【救出】
面々が巨人について会話する。「名前は、あるのかしら」「恐らくあると思いますが」「そりゃあるだろ。元は普通の人間だったはずだ」「…僕、名前、メガロ」巨人が面々の背の高さに屈んで言う。「メガロ、良い名前ね」「…」メガロは姿を隠すように山の陰に隠れた。「何で隠れた?」「隠しきれてないけど…」「彼、恥ずかしがりやみたい」「じゃあ、俺ら、先、行くぞ」「「じゃあね」」手を振るライラとナタリー。手を振り返すメガロ。「「可愛い」」「何だか巨人って怖いイメージでしたけど、間違えてましたね」「そうだね。優しい巨人もいるんだ」「あ~あ。期待して損したぜ」「戦えたから満足してるんでしょ」「まあな」面々は獣を倒しながら先へ進む。「普通の獣は手応えがないな」「僕らも強くなってますね」(それに比べて僕は…)「はあ…」「あ、川よ!」「本当だ!」「走ったら危ないわよ」ライラとナタリーが川のそばに走る。「ライラ!人が流されてるよ!」「え?」「ほら、あそこ!」ライラが見ると、子供が1人流されていた。「助けなきゃ…」「ちょっと、危ないよ!呼んできた方が…」「早くしないと助からないわ!」ライラが川に入る。「早く呼びに行かなきゃ」「何?ライラが?」遅れて駆けつける面々。「おい!ライラ!大丈夫か?」「結構流れが速いです…」「急がないと…ライラが…」川の中からライラが物凄い速さで戻って来る。「戻ってきた!」「良かった…でもなんか速い?」「何で勝手な行動をした!」「ごめん。この子を助けたかったの」そこに、女性が現れた。「すみません。その子、うちの子です」「本当ですか?」「さっき川で魚を取っていた時にちょっと目を離したら流されてしまって…助かりました」「頭を上げてください。大丈夫ですから」「私たち、この近くのショクシティで店をやっています。良かったら来てください」場所を記した紙を渡して親子は去った。「はあはあ…疲れた」「一体どうしたんだ?」「…私は孤児院で育ったの。だから、困っている子供を見かけるとじっとしていられなくなるの」「そうだったのか…」「私も困っているのよね、自分の行動に」「知りませんでした…」「たまに物を盗んじゃう癖もあるの。最近は大分抑えられるようになったけど。サトリ、あの時は有難うね」「え?う、うん。いいよ」(道案内した事かな?)「そういえば、さっき店に来てって言ってたな。ライラいつまで水の中にいるんだ」「…それが、訳があって出られないのよ。先に行ってて」「そうか。早く来いよ」「私も一緒に行く」ナタリーとライラが残る。「どうしたの?ライラ」「私、獣化しちゃった」ライラの下半身はピロシクーのようなヒレに変化していた。
【ショクシティ①】
「ほんとだ!人魚みたい!」「変じゃない?」「全然変じゃないよ。寧ろ、綺麗」「そんな嬉しいこと言っても何も出ないよ」嬉しそうなライラ。先を行く面々は、ショクシティに入る。「ここか」「あちこちから湯気が立ってる」「いい香りもするわ」「ここは文字通り“食の都”と呼ばれるほど、食文化が盛んです」「お~。あれもこれも美味そうだ」「よだれが垂れちゃう…」「食欲が暴れ出しそうだ。あの親子がいる店はどこだ?」「渡された紙にある場所はこの辺ですが」ロンドが店に入る。そして、すぐ出る。ロンドが○のポーズを取り、面々が入る。「「いらっしゃいませ!」」威勢のいい声で迎える店員たち。「先ほどはどうもありがとうございました。どうぞ座ってください」座る面々。ズズッと勢いよく麺を啜る音が隣の席から聞こえる。面々が横を見ると、積み重なる器の山にまた一つ器を重ねる男がいた。「店主!おかわり!」「あいよ!それにしても、あんた、何杯食べる気だい?」「だって、美味しすぎるから」「うちは有り難いけどね。はいよ」「どうも。わあ、美味しそう」おかわりを受け取り食べ始める。「美味い!」呆気にとられる面々。「お待ちどう様」親子が器を運んでくる。「うち特製のらーめんだよ」「ありがとう」「お題は入りませんから」「有難うございます。後で遅れて2人来ますが大丈夫ですか?」「もちろん」「じゃあ、先に食べるか」「「頂きます」」麺を啜る面々。「美味い!」「出汁が効いてます」「魚かな?」「分かる人たちだ」隣の男が声をかけてきた。「これは、ここの地域で釣れる川魚グレーパイルから取った出汁ですよ。本来グレーパイルは焼いて食べるのが主流ですけどね、ここの店主は初めて出汁を取った事で有名ですよ」「へえ…詳しいですね」席の位置的に近いサトリが答える。「止まらねえ」「ちょっと行儀悪い」「悪い」そこにナタリーとライラが来店。「「いらっしゃいませ」」「先ほどはどうもありがとうございました。すみません、席がここしか空いて無いですが」「構いませんよ」2人は大食いの男を挟んで座った。親子が運んでくる。「お待ちどう様」「うち特製のらーめんだよ。さっきはありがとう」「いいえ。ありがとう」麺を啜る面々。「美味しい!」「美味しいね」「最高だ!おかわり!」「よく食べるなあ…」「君もおかわりしたら?」「げっ…声に出てた!」「負けてられねえ!おかわり!」「ちょっと、私たちはタダで食べさせてもらってるのよ」「あ、そうか」大食いの男が言う。「いいよ。僕がお金出すから、食べたいだけ食べたらいいよ」「太っ腹だな」そうして、面々は麺を啜り続けた。
【探偵】
ガルとアポロンは、人質を救出に向かった。マシンをガルが操縦し、助手席にアポロンが乗っている。「アポロン、あの日あった事を詳しく教えてくれないか」「わかった」深呼吸するアポロン。「話が長くなる。あの日、俺は風邪気味で家代わりによく泊まるオリエントというホテルで休んでいた。食事をするために食堂へ向かった。途中廊下で少年とぶつかる。すまない、と言うと、大丈夫です、忘れ物、と走って行った。この時、私もキセルを部屋に置き忘れたことに気付いた。しかし、食事をするだけなら大丈夫だと思いそのまま食堂へ向かった。そこで、悲鳴が上がる。食堂で殺人事件が起きた。食堂に入ったのは私が最後だ。つまり、これは密室殺人だ。その時、身体に異変を感じた。体の中が燃えるように熱くなって意識が朦朧となった。しかし、これは一時的に収まった。推理を始める。容疑者は、自分を除いて、その時食堂にいた個人の客3人とシェフなど従業員5人だった。死体を調べると外傷はなく毒殺だと分かった。自殺とも考えたが被害者の持ち物に薬はなく、全員の身体調査をしても薬は見当たらない。つまり、この殺人に使用する分だけ持ち合わせていたということか。考えていると再び熱が体を襲った。また目眩がして倒れそうになるのを婦人に助けられた。婦人からもらった水を飲む。水の中の氷が溶けて音が鳴る。そこで、私は閃いた。おそらく犯人は水の中に薬を全部溶かすことで隠した。それが出来るのは、シェフ、運んだ従業員、被害者本人、あとは…頭が鈍くなっていた。糖分が必要だと、テーブルに備え付けの氷砂糖を見つける。その時、被害者のテーブルだけ切れていた。氷砂糖の置かれたテーブルで食事をしていた老人の客を問い詰めたんだ」回想。「あなた、この人に氷砂糖を渡しましたか?」「ああ、渡したよ。それが一体どうしたんじゃ?わしを疑っておるのか?」「ええ。氷砂糖の入れ物の中に毒薬を混ぜて渡して、それを被害者が使えるように仕向けたんです」「じゃが、わしは彼に言われて渡したんじゃがのう。となるとあなたではなさそうだ」もう1人の若い客が言う。「でもこん中であいつを殺せるのはコーヒーに入れる氷砂糖を渡した爺さんだけだろ、はじめから氷砂糖は切れていたんだからよ!」「なぜ切れていたと知っていたんですか?」「はっ!」回想終わり。「彼は氷が解けるように力を失った。彼と被害者は旧知の中だった。どうも元々悪い仲でいがみ合いが再発し事件に至った。思い出話に花を咲かせたらよくない花だったようだ。若い男を地元の警察に預けた後、すでに限界に近かった私は部屋へ急いだ。食堂の外で待っていた君が婦人に抱き着いたのが見えて、婦人が君の母親と知った。部屋に着いた時には視界がゆらゆらと歪んで見えた。体が熱いと思った時、部屋を燃やしていた。私の熱で発生した炎は一気にホテル全体に燃え移った。火災から避難する人の中に子供の泣く声が聴こえた。その方へ急ぐと、刃物を持つ若い男を取りおさえる婦人の姿が見えた。私は泣いていた君を抱きしめた。君がお母さんを助けてと泣く。私は助けに行こうとした時、婦人は大きく首を振った。その時、思ったのは、君を託された事だった。その直後、燃える瓦礫がと婦人と若い男の上に落ちた。私は、君を抱きかかえ、走った。君のお母さんは、本当に勇気ある人だった。まるで私の元妻のようだった…私は、若い男と一緒の人殺しだ」「貴方はネアの力を思うように扱えなかった。だから、あれは事故だ。それでも、もしあの時死んだ人のことを後悔してるなら、それ以上に多くの人を救えばいい」「…そうだ。確かに君の言う通りだ。君のお母さんのためにも頑張るしかない」
【ガルの旅①】
ガルとアポロンは洋館の前に立つ。「ここが人質のいる場所か」「そう。今助ける。待っていてくれ、ジョシュー」「それより、俺は一緒にいて大丈夫か?」「大丈夫。服を着替えれば、SONG隊員だと分からない。私の替えの服を貸すよ」ガルは探偵服に着替える。2人は洋館に入る。「よく戻ったわね」髪が長く背の高い女が言う。「早くデータを提供するでござる」忍の男が言う。「断れば俺の銃が唸りを上げるぜ」リーゼントの男が銃を回しながら言う。ドスン、ドスンと柱を叩く音が聞こえる。「俺の筋肉も唸りを上げるぜ」ガタイが良い男が言う。「捕獲した隊員は、火山に捕らえている」アポロンが答える。「嘘をついている」階段の上から探偵姿の男が言う。(ばれた…流石は私が認める男、ホークス)「本当の目的は、人質になっている君の助手を連れ戻すこと。そうだろう?」「…そうだ」「正直だ。だが、裏切り者にそう簡単に返すわけにいかない」急に洋館の照明が消える。「うわ!」「屈め!狙われるぞ」「安心し給え。折角だから、君と勝負がしたい」「勝負だと?」「そう。勝負は勝負でも推理勝負だ。この洋館に隠された謎を僕より早く解き明かせたら、君に人質を返そう。僕の記録を教えてあげて、クウ」「はい。拙者のクウ・データによると、15分でござる」「私が15分より早く解けばいいわけだ」「その通りだ。万が一15分を超えた場合、君も人質も命はない。その代り、僕らは君が解いている間邪魔にならないよう一つの部屋に集まっている。いいかい?」「分かった」「では、照明が点いたら開始だ」ガルは不安そうに言う。「いいのか?こんな勝負引き受けて」「寧ろ、好都合だ。奴らもああ見えて強者揃いだ。戦闘なしに返してもらえるなら、その方が良い」「自信あるのか?」「ない」「ないのかよ!」「今まであの男が解決した難事件の話を聞いて、感心するばかりだった」「駄目じゃんか」「自信はないが、手当たり次第探れば何とかなるだろう」「大丈夫かよ」洋館の照明が点く。そこにいた敵の姿はなくなっていた。「始まった。まずはあの部屋だ」ガルとアポロンは部屋に入る。そこには壺や装飾品が並んでいた。「どこも怪しく見えてくる…」アポロンが一番奥の壺に触れた途端、壁が反転し、向こうに消える。「アポロン!」ガルが壁を叩いても反応しない。アポロンは暗い通路に出た。壺に触れても戻れない。先へ進むと、行き止まりで壁が反転し、一つの部屋に出る。そこには壺や装飾品が並んでいた。部屋を出ると、上の階にいた。「一体どうなってる…?」アポロンはガルを呼びに行く。「ガル君、手分けして全部の部屋を探ろう」「どこから現れるんだよ。分かった」手分けして部屋を探る2人。その頃、敵の一味は会議を開いていた。「上手くいくのかい?」「ライラック様、上手くいくに決まっていますぜ、なあベルモンド」「おう、ロイド。だって俺らがいる部屋に謎の答えがあるんだからよ!」「開始から何分だい?」「10分経過でござる」「俺たちの勝ちだ。がっはっは」「さて、君に解けるかな?」ガルとアポロンはお手上げ状態だった。「部屋を調べたら、別の部屋に出るだけで、何もないぞ!」「確かに…」「確かに、じゃないよ!もう時間がないぞ!」黙り込むアポロン。「おーい、諦めたのか?」「…待てよ」チョークを取り出し、描き始めるアポロン。「どうしたんだ?」「ガル君、この洋館の部屋の数、いくつある?」「え?下の階だけで13部屋、上も同じ数だから全部で26部屋だ」「そう。アルファベットと同じ数だ。これを見てくれ。調べた結果、隠し通路がない部屋が全部で5部屋あった。それをアルファベットに直すと、5文字が浮かび上がる。それを並び替えるとvinus(ヴィーナス)つまり、女神の意味を示している」「女神?女神と言ったら、上の階にある大きな絵に描いてある…」「そう。あの絵に仕掛けがある」急いで向かう2人。2人が絵を押すと、回転し奥に入れるようになる。「何だ、ここは!」そこは、狭まる壁に囲まれた長い通路だった。奥には一つの部屋が見える。走る2人。途中床に穴が開く。ガルは足の速さで超えるが、アポロンが落ちる。「大丈夫か!?」「先へ行け…!君に託した」「仕方ないな!」ガルが走る。飛んできた矢を避けて、傾く床も超えて、部屋に入る。敵の一味が言う。「広!」「何だい。あんたが来たのかい」「ここまで来たのは褒めよう」「ただ、お前じゃ、謎は解けない」「もう残り1分を切ったでござる」「走れ、少年。間に合わない」ホークスの言葉を受け、ガルが部屋を走る。見渡すと、剣を持つ石造が立っている。(26体…あれ?確かアポロンが言っていた…アルファベット!)ガルが立ち止まる。「まさか、解けたのか…?」「だから、何なんだ!」「分かってないのか…」「残り10秒でござる」銃で狙われるガル。アポロンを思い出し、重圧が伸し掛かる。「クッ…アポロン…お腹痛いよう!」「がっはっは!何だ、それは!」「…正解だ」「「え?」」敵の一味が呆然とする。「正解は、太陽。石造のうち、VとIの石像だけ壊れている。つまり、VINUS(女神)からVとIを取り、並び替えるとSUN(太陽)になる。良く解けた」拍手するホークス。「…どうも」(何か分からないけど、上手くいった)「話が違うじゃないかい!」「約束は約束だ。人質は返そう。頼む、ワシスン」ホークスの肩に乗った鷲が答える。「こちらです」ワシスンは部屋を出て、壁のスイッチを押す。隠し階段が現れ、階下に降りる。そこに、アポロンとジョシューがいた。「もう出会えてたんですね」その時、強い揺れが起きる。「うわ!地震だ!」「こりゃいけない」ワシスンが戻る。ガルらも上の階へ上がる。鷲と鷹が敵の一味を掴んで飛んで行く。「さらば」「あの鷹、探偵か。速い…俺も負けてられない」ガルが狼に変身する。「その姿、獣化」「わ!狼!」「ジョシュー、彼は味方だ」「乗れ!」ガルが崩れる洋館を走る。外へ出た時、瓦礫が落下する。記憶が蘇る。その時、土砂崩れが起きる。咄嗟に乗った2人を投げる。「ガル君!」ガルは土砂の下敷きに流されていった。
【ショクシティ②】
「美味かった!!」面々は食べ終え、礼を言う。「「ご馳走様でした」」「お粗末様でした」「また来てね」手を振るライラ。店を出る面々。「お前、良い食べっぷりだな」「そういう君も勢いがあって良かった」「何の褒め合いですか」「化け物、と疑うくらいの量だったな…」「まだ食べ足りないくらいだよ」「嘘でしょ…あんなに食べてたのに」「台に器が乗らないくらいね」「まるで巨人の食事見たい」思いついた動作をするロンド。「そうだ!お前、巨人のあいつとなら気が合いそうだ」「巨人!?どこにいる!?」急接近する。「えっと…町の外の川と反対側に進んでいくと、渓谷があります。おそらくその辺にいるはずです」礼も言わず、駆けだす。「行っちゃった」「おかわり代払ってくれたけど、何だか怖い人…」「狂気を感じたわ…」「まあ、放っとけ。俺らは町を見回りだ」町を歩く面々。「いっぱい店があるね」「そうですね。今は災害で人が減ったので、これでも少ない方です」「じゃあ、前はどれだけ多かったのかな…」「全部美味しそう」「あの人じゃないけど、さっき食べたのに、また食欲が湧くわ」「…ちょっと、いいかな」シルクハットを被った男に声をかけられる。「道を尋ねたいんだ。赤封(セキフウ)城は、知っているかい」「せき、ふうじょう?」「その様子だと知らないようだ。赤封城は、かつて栄えた王朝の残した世界遺産だよ」「世界遺産!」「お宝も眠るという噂もある」「お宝…」「行ってみたいと思わないかい?」「おいおい、俺らの仲間を口説いてもらっちゃ困るな」「ああ、すまない。君は知らないかい?赤封城」「知らねえよ」「そうか。その近くには、仙人もいるという噂だ。君たちも行ってみるといい」シルクハットの男は立ち去ろうして止まる。「そうだ。これは話してくれたお礼だ」シルクハットの中から白い鳩が飛び出た後、白い花をライラに手渡す。「ごきげんよう」「何だ、あの男。この町、変な奴多いな」「…」「おい、ライラ!」「はっ!」「そんな花を貰ったくらいで。しっかりしろ」「う、うん」「魅力のある人でしたね」「そうか?俺は全く感じなかった。まあ、強いて言うなら、赤封城には興味がある。サトリもそう思っただろ?」「うん、確かに思った」「王朝の残した遺産、見てみたいな。ねえ、レイピア?」「うん、仙人も気になる」「じゃあ、決まりだ。俺らも赤封城を目指すぞ…どこだ?」「この町の人なら知っていると思います。親子の店に戻りましょう」面々は店に戻り、場所を書いた紙を貰い、赤封城へ向かった。
【ガルの旅②】
ガルが気づくと、深い森の中だった。木々の向こうからクマの獣が近づいてくる。「こんな時に…」ガルは戦闘態勢を取る。クマが爪を繰り出す。後ろに躱したガル。次のクマの爪をガルは回し蹴りで爪を弾くと、大きな口で噛みついた。クマが苦しむ。人の姿に戻り、ソウリュウを手に取る。ある事に気づく。(ソウリュウが1本しかない…)クマが最期の力を振り絞り、突進してくる。「『乱竜』」高速移動の刃の攻撃を受け、クマは倒れる。「やっぱり1本じゃ力が出せない…」ガルは、遠くの方に人影を見つける。目を凝らすが、木々が邪魔して見えない。不意に後ろから気配がして振り向く。斬りかかる男。「裸で、刀の練習か?」避けるガル。「これは今だけだ」気づくと、遠くにいた者らも来ていた。合わせて3人いた。「誰だ」「その刀、間違いなくソウリュウ」「まさかソウリュウの使い手が裸とは…」(二度も言われた)「その実力見せてもらおうか」敵がガルを囲みながら、追い込む。ガルがソウリュウを構え、目を閉じる。「技を出す気か!」敵が身構えた時、ガルは狼になると、高くジャンプして敵の囲いから脱出する。「逃げた!」「追え!」ガルは一目散に走る。木々の間を縫うように走る。(どこか隠れる場所は…)横を見ると、洞窟があった。(あそこだ)人に戻るガル。奥から声がする。「…あなた、お疲れのようですが、何かあったんですか?」「誰だ!」「怪しい者ではございません。ここで修行する身の者です」「修行…」(さっきの者たちの仲間ではなさそうだ)「もう一度聞きますが、何かあったんですか?」「そうでしたね。実は、剣を持った者らに襲われまして、恥ずかしながら逃げてきたところです」「それは今外をうろついている者らのことですか?」「そうですね」飛び出す者。「無茶だ!」急いで追うガル。急な雨が降り出し、裸足で滑りやすい。「…かなりの手練れだ!勝ち目がない!」「やってみなきゃ、わかりません!」敵が気づき、剣を構える。「その手の刀はソウリュウ!」「さっきの男の仲間か!」「その実力、今度こそ見せてもらおう」敵が一列に並ぶ。「また逃げられてはいけない」「こちらから仕掛ける」「『三連・玄武』」敵が一斉に剣で斬りかかる。ガルは走る。(間に合わない…)ガルの前にソウリュウが飛んでくる。(そんな…ん?)ガルが目を凝らすと、さっきの者の位置に案山子が立っていた。「馬鹿な!」「案山子!」「一体どこへ?」(確かに、どこだ?)「後ろです」「わ!驚かさないでくださいよ」「あなたこそ、すっぽんぽんじゃないですか」「これには事情があって…」敵が気づく。「そこか!」「覚悟!」「勝負!」「大丈夫ですか?彼ら強いですよ」「知ってます。だから、本気で…『逆鱗竜』!」敵を一刀両断する。「うわぁ…」「やられた…」「その実力見せてもらった…」「強いお方だったんですね」「いや、それほどでも。ただ、勝因は、ソウリュウが2本あるからですよ」刀を鞘にしまうガル。「はっくしょん!」「早く服着たら、どうでしょう」「そうしましょう」にわか雨は止んでいた。
【ショクシティ③】
赤封城に到着した面々。「立派な城だなぁ」「今が西暦2020年ですから、約600年前に建てられた城なんですよ」「へ~そんなに長い間建ってるんだ」「中に入れるのかな?」「どうだろう。あそこに立ってる人に聞いてみようよ」女子が聞きに行く。「今は修繕工事してては入れないみたい」「災害の被害が出てるのかもしれないですね」「残念だな。お宝は探せないや。それより、近くにいるっていう仙人を探そうぜ」「皆さんはいいですか?」賛成する面々。「何でクリスがリーダーみたいになってるんだ」文句を言いながら、ロンドが先頭を歩く。「そう言えば、あの人いなかったね」「そうですね。先に帰っちゃったのでしょうか」「おい、見ろ!看板が立ってる!」「何か書いてる…『仙人の家 こっち→』だって…」「丁寧に案内してくれてるわね…」「早く行くぞ!」「はしゃがないで」「レイピアだって気になるだろ?仙人が一体どんな奴か」「そんなには気にならないわ」「またまた、本当は気になる癖に」「子供ね」走って行くロンド。「おーい、こっちだ!」「元気だな…」「よっぽど楽しみなんでしょう」面々は、小屋の前に着いた。「ここが、仙人の家…」「普通の家ですね」「表札がある」「本当だ。『若峰』て書いてある」「ワクワクする!早く入ろうぜ」「1人だけテンション高すぎよ」ノックするロンド。「何か聞こえる」「ん?」再びノックする。「誰もいないのかな」「んん?」これでもかとノックする。ドアが開く。「はい、はい。そんなに叩かないでも出ますよ」「かなり遅かったから」「わしもこう見えて120歳じゃからのう」「見た目通りだけど、120歳は凄い」「で、どちら様?」「えっと…」「ここが、仙人の家と聞いてやってきた!何か教えてくれるのか」「…」しばらく時が流れる。「何か考えてるんでしょうか」「わからない」「おーい、爺さん。どうした?」「…もしや、何か勘違いしとるようじゃ」「勘違い?何を?」「確かに、わしは仙人じゃ。じゃが、仙人から何かを教えてもらえるとは思わないことじゃ」「何だよ、折角来たのに、がっかりだ。帰るぞ」帰る面々。「おーい、待ちなされ」「何だ、爺さん」「お前さんは、赤封城を知っとるか?」「知ってるぞ。さっき行ってきた」「そうか。実はな、あそこを根城とする一味がおる。その一味を追い出せたら、考えてやらんこともない」「本当か!おい、一味を追い出しに行くぞ!」向かった面々を仙人が見守る。
【ガルの旅③】
ガルは隊服を着た。「ところで、あなたのお名前を聞いてもよろしいですか?」「ガルです。あなたは?」「僕は、シープ弟子といいます」「シープ、でし?珍しい名前ですね」「そう思いますよね?これは名前じゃないのですが、師匠がこう呼ぶので名乗ることにしたのです」「師匠がいるんですね」「はい。紹介します。ついてきてください」洞窟の奥に老人がいた。「あの方が師匠のシープ爺です」「初めまして。SONG隊員のガルです」「ほう。逞しい体じゃ」ガルの体を触るシープ爺。「ちょ、何してるんですか」「いや~、良い筋肉じゃ」「僕、そういうのは、ちょっと…」「何を勘違いしとる。わしも男に興味ないわい。お前さん、こんな良い体しとったらモテるじゃろう」「いや、そんなことないですよ」「おかしいのう。わしはてっきり体つきに問題があると思ってたんじゃがなぁ。お前さん、教えてくれ。わしは、どうして女子に嫌われるんじゃろうか?」「どうしてでしょう…?」「師匠!ガルさんが困るようなこと聞かないでください」「シープ弟子よ。わしはモテたいんじゃ。女子に好かれる方法、これは終わることのない問なのじゃよ」「師匠…そんなことばっかり考えるからいけないのでは?」「嫌じゃ!ああ、モテたい!シープ弟子、酒を持ってこい!」「いつもこれです。嫌になったら酒を飲みたくなる気持ちは分かりますが、飲み過ぎだからしばらく控えよう、と決めたじゃないですか」「うぅ。厳しいのう。わしの何がいけないんじゃ…」「師匠!僕に語ってくれた昔の武勇伝を思い出してください。乱暴者を懲らしめたり、暴れる犬をしつけたり、凄かったです。その事を思い出してください」「…よし。ガル殿、何故、ここに?」「ええと、剣を持つ者らに奇襲を受け、その時に、武器が片方ないことに気づき、この洞窟に逃げ込みました。そこで、シープ弟子さんと会い、もう片方の武器を持っていて、武器が揃った事で倒せました。その後、紹介されてここに」「その者ら、何か言っておったか」「特には何も…」「あっ、“玄武”と言ってました」「玄武。間違いない。その者らは、聖獣の名を持つ強者の一族じゃ。何故、ガル殿が襲われたのか。は!その武器を見せてくださるか」ガルがソウリュウをシープ爺に渡す。「これは、伝説といわれた一族、蒼龍一族に伝わる武器。どこでこれを?」「僕が蒼龍の者なので」「お主が…まさか生き残りがいたんじゃな」「そう言えば、町の人が最近怪しい者がうろついていると言ってました。あそこには近づかない方が良いと」「どこじゃ?」「赤封城です」立ち上がるシープ爺。「行くぞ。わしは、新たな武勇伝を生み、女子にモテるんじゃ!」「待ってください!ガルさんはどうしますか?」「勿論行きます。それとガルでいいです」「僕もシープ弟子でいいですよ」「行こう、シープ弟子」「はい、ガル」「武器は持った。酒も持った」「酒はいりません」ガル、シープ爺、シープ弟子は赤封城へ向かう。
【赤封城の戦い】
面々は再び赤封城の前に着いた。「入るぞ」行く手を塞ぐ者現れる。塞いでいた槍をどける。そのまま回転し牙を剥く槍。ジャンプで躱し、飛び蹴りで倒すロンド。「かっこいい…」中に入ると、壁が崩れ、あちこちに災害の被害が見える。「ひどい…」「中がこんな事になってたなんて」「誰にも見られなくなった遺産。これはアジトにしやすいですね」陰から剣が襲い掛かる。クリスが居合で防ぐ。「危ないですね…ここは任せて先へ」先へ行く面々。またも陰から剣が襲い掛かる。レイピアが槍で防ぐ。「心配しないで。奥へ」先へ行く面々。「暗くて怖い」「歩くのがやっとだ…」「あれは…?」ライラが光るものを見つける。手に取ってみようとして近づく。「きゃあ!」「ライラの声!どうしよう…」ナタリーが聖剣を取り出す。眩い光が辺りを照らす。男に連れられるライラが奥に消えるのが見える。「連れてかれちゃった…」「追いかける」「待って、ナタリー」ロンドは敵を倒し終える。「あれ?みんな、どこに行った?」道を進むロンド。「暗いな」飛んでくる矢。拳で落とす。「どこから打ってきてるんだ」心を研ぎ澄ます。後ろから飛んできた矢を落とす。「そこか!」弓を持つ敵を倒す。「俺もまだ鈍っちゃいない」「当然アル」ロンドのすぐ横に立つ女が言う。「いつの間に!」「『心頭滅却』。これは道場の教訓の一つアルよ」「お前は、ヨーか」「チャオ!久しぶりネ」「何でここに?」「私はロンドのそばにいる女アル」ロンドが道を進む。「ちょっと待つアルヨ」レイピアが苦戦していた。その陰から弓で狙う敵。放たれる矢。蹴落とすロンド。「油断するな」「こういう時は頼りになるわね」「あの女、ロンドの仲間アルか」「狙われてる…」「俺がこの辺の敵は全部倒した。狙う奴なんかいない」ヨーが鋭い目でレイピアを見ていた。ライラを追うナタリーとサトリ。「その剣、眩しいね」「暗いからきれい」笑い声がする。「デートにはふさわしくないですよ」「敵だ…」「ライラを返して」「この先にいます。だから、ここは通しません。『跳梁白虎』!」矢を同時に多数打つ敵。「レディを狙うとは、紳士を志す者として認められません」突如発生した炎が矢をすべて燃やす。「あなたは…」「チェックメイトだ!」「うわぁ!」爆風が起き倒れる敵。「有難うございます」「いえいえ。紳士として当然です。この石は便利ですね。奇石というらしいですが…」「え?奇石は僕も持ってます」サトリが背負う鞄から奇石を取り出す。「これにそんな力が…」サトリが集中する。「…何も起きない」「どうやら何かが足りないようだ」「足りない…」「そう言えば、聖剣にも奇石が使われているんだって」「そうなんだ」聖剣を見つめる2人。「そうだ!早くライラを助けに行かなきゃ」「僕たち行きます」「奥はもっと危険だ。私も行こう」赤封城入口。クリスが敵の増援の相手をしていた。(1人じゃ倒しきれない…どうすれば…」「『乱竜』」次々と倒される敵。「その声は、ガルさん!」「クリス君!何でいるの?」「仙人の教えを受ける為に…そちらは?」「武勇伝を立て女子にモテる為じゃ」「この方は?」「シープ爺。それから、隣にいるのがシープ弟子」「初めまして。クリスさん」「初めまして。シープ弟子さん」(この2人はおそらく呼び捨てできないだろうなぁ)ガルは思った。「おーい!クリス、そっちは片付いたか」「ロンド、片付きましたよ。ガルさんたちが助けてくれたおかげで」「そうか。先に行ったあいつらが心配だ。早く奥に向かうぞ」「向かいましょう」サトリらは、大きな広間に出る。暗いが、等間隔に灯る蝋燭の火でわずかに辺りは見える。「あれ?行き止まり」「あ!あそこに捕まってる!」ライラが口を塞がれ、身動きが出来なくされている。「ここの者はレディへの扱いがなってなさすぎだ」奥に槍を構える敵が十数人。「動けば、この女は死ぬ。良いか、動くなよ」じわじわと迫る槍。「このままじゃ…」「奇石の力をもってしても一度に全員倒すのは不可能。何とも卑怯な手を使う」敵が射程距離に入った。槍を構えた時だった。「し、死ぬ…」サトリの横を猛烈な速度で通り過ぎる者。ライラの首を狙う槍を折る。「仲間は大丈夫だ」サトリらを狙う槍も次々と散らばる。「待たせたな!」「ロンド!」「ヒーローは遅れて駆けつける、は本当だ」「…ええい、全員出てこい!」隠れていた敵が現れる。その数数十人。対する面々11人。「我ら、聖獣一味を相手に勝てると思うなよ」「聖獣一味だと?」「それは、まさか!ソウリュウ!」ざわざわする敵。「聖獣の中でも伝説とされた一族…まさかお会いできるとは…今からでも仲間になってくれないか?そうすれば聖獣一味は完璧なものとなる…」「断る。何をしてるのか知らないが、人質を取るような一味は倒す。俺はSONG隊員だ」「惜しい。ソウリュウ相手でも我らは屈しない!やってしまえ!」各々全力で戦闘。「『高速・居合切り』ガルさん、さっきの言葉、胸に刺さりましたよ」「『逆鱗竜』当たり前の事を言ったまでだよ」「『心頭滅却』こっちは片付いたぜ」「こっちもアルヨ」「あの子やるわね。でも、誰?」「『癒しの歌』ナタリー、今よ」「ありがとう、ライラ」「師匠、そっちに行きました」「とりゃ!わしはモテたいんじゃ!今のわしに敵はない」「みんな、すごい」追いつめられる敵。「こうなったら、あの切り札を使うしかない…『赤い彗星の朱雀』」炎を纏い飛んでくる槍。同じく炎で相殺する。「な…」「まさか同じ手を使ってくるとは」隅に追いやられる敵。「どうか、命だけは、勘弁を!」「…よくも俺の仲間に手を出してくれたな。俺の本気の拳は痛いぜ」「聖獣の名を汚すような行い、同じ聖獣の名を持つ者として許せない」ロンドとガルの本気の技が炸裂する。「『獣王拳』」「『爆走竜』」「ぐぶ…」吹き飛び気絶する敵。「勝ったぜ…」「「ふう」」息を吐き、座り込む面々。
【仙人の教え】
面々は仙人の小屋に向かう。「どうなることかと思ったけど、勝てて良かったね」「サトリは何もしてないだろ」「でも、その通りですね」「それも助けてくれたあの人のお陰ね」「凄い速かったなぁ」「彼も怒りが爆発したのかしら」「ロンドも凄かったアル。まるでライオンみたいだったアル」「確かにグレートさんと同じ腕だけの獣化に成功してました。ところで、何方ですか?」「私はヨーアル」「ヨーアルさん、はじめまして」「ヨーアルじゃないアル。ヨーアル」「ややこしい。こいつは俺の幼馴染で、名前はヨー・チャオカン。俺と同じ道場で鍛えた仲だ」「丁寧な説明嬉しいアル」「珍しい言葉遣いだね」「真似して良いアルヨ」「服装も珍しい」「ショクシティの人も着ていたのを見ました」「ということは、この辺の出身なの?」「そうアル。もう少し山奥の方アルネ」「山奥は、集落が多いと聞くが」「そうアル。動物とも一緒に過ごしてたアル」「あれ?あなたは?」「どうも、改めて挨拶させていただこう。私はライバティーと申す者」「わ!鳩だ!」「普段は、ソーと呼んでくれ給え。マジシャンとして活動する時の名前さ」「ソーさん、炎を出していましたが、あれもマジックですか?」「違う違う。これを使ったのさ」ソーは奇石を取り出す。「これはもう使用済みで、ただの石ころにすぎないがね」「奇石はそんな事も出来たのか!すげー石だ」面々は仙人の家に着いた。いきなりこれでもかとノックするロンド。「うるさいわ!」「早かったな、爺さん」「お前さんだと分かったからのう。ところで、お前さん方、赤封城の一味を追い出したか?」「追い出したぜ。俺たちがボコボコにした後、逃げるように出て行った。今頃泣いてるだろう」「そうじゃったか。では、約束通り、教えを授けよう」そわそわする面々。「ずばり『無の境地』じゃ!」「むのきょうち」「そうじゃ。これは初歩の教えであり、どの武器、どの技にも、ましてや生活においても活きる。昔、刀国に沢庵和尚と呼ばれる人がいた。その著作『不動智神妙録』の中でこう言っている。“心を何処に置こうぞ。敵の身の働きに心を置けば、敵の身の働きに心を取らるるなり。敵の太刀に心を置けば、敵の太刀に心を取らるるなり。敵を切らんと思うところに心を置けば、敵を切らんと思うところに心を取らるるなり。我太刀に心を置けば、我太刀に心を取らるるなり。我切られじと思うところに心を置けば、我切られじと思うところに心を取らるるなり。人の構えに心を置けば、人の構えに心を取らるるなり。とかく心の置き所はない”と。つまり、心を無にすることが最善。般若心経というお経にも“空”の大切さを述べている。空というのは無と同じこと。それに至るのは簡単なことじゃない。だが、無理なわけでもない。その方法はある。それは、“無の境地”、これを知ること。無は有の反対、つまり、何もかも捨て去って自分が全く空っぽの状態になったことを想像する。そこからは、もう自然に身を任せる。自分がまるで透明の空気のように感じた時、“無の境地”に達したといえよう。それでいて、行動するのは、容易ではない。ましてや戦闘をするなんて考えられないこと。仙人のわし位であればできなくもないがな。とまあ、簡単に言えば、精神を研ぎ澄ます事で極限まで集中力を高める技じゃ」「長かった…」「危なく意識が途切れる所でした」「で、爺さん、それはどう使うんだ」「お前さん、既に今が『無の境地』に至っとる。わしの話を静かに聞けていた、それが何よりの証拠じゃ」「そうか、これが…」「ということは私も出来てる…」「出来とる」「私も?」「出来とるよ。お前さん方、みーんな、出来とる。じゃ、わしはこれで」「ありがとな、爺さん」仙人が小屋に戻る。ソーがサトリに問いかける。「君、君の持つ奇石出してもらえるかい?」「はい」「今の君なら使えるかもしれない。試してみればどうかな」サトリが手に取り、集中する。風が巻き起こる。「うわ!出た」「ちょっと、俺も試す。お前らも試せ」面々が集中する。ロンドとレイピアは火を、クリスとライラは水を生み出し、ナタリーは土を動かした。ちなみに、ヨーは火を生み出した。「凄い…人によって違うんだ」「そう。どうやら使う者によって属性が異なるらしい」「あれ?もう出せないな」「そう。これは制限がある。一個につき、一発までだ」「大切に使わなければいけませんね」「制限付きの力か」面々は新たな技と奇石の使用方法を習得した。小屋の中。仙人は飲み物を一口飲む。「これからが本番じゃぞ」
ガルは面々と別れた後、シープ爺とシープ弟子の住む洞窟に戻った。その途中で、実は仲間とはぐれていたことを告げており、2人と別れ、洞窟を後にした。落ちてきた土砂崩れの地で、狼になり登った。登り切ると、崩れ落ちた洋館の前で、アポロンとジョシューが待っていた。3人は共にSONG本部へ戻った。総司令官への報告を終えた。アポロンとジョシューは敵へ加担していた事に対する取り調べを受ける為、一時拘留されることになった。ガルはプレリュード隊に合流した。それから、間もなく、ある村が巨人によって壊滅したと報告を受ける。
【暴食との戦い】
本部に在籍する隊員をはじめとするSONG隊員たちは、巨人による被害を受けた村に集結する。「今回の指揮は、私グレートが行う。先日のガル隊員らを救出する際の作戦“カノン”、それを発展させた作戦“フーガ”を実行する。作戦内容は、近くにある町モスクルドノワに協力を得て、その支部の隊員が支給された備蓄の食糧を運び、本部の各部隊が順番に提供する、というものだ。それが、巨人を抑える唯一の手段と考える。では、作戦を開始する」まず、食糧を提供したのは、プレリュード部隊。「おなか減ったー!」食べるメガロ。「村の食糧を食べ尽したとは思えない。恐ろしい食欲だ」次々と運ぶ隊員たち。「ワイらも負けへんで」「運びマクル」「慎重かつ迅速に」メガロの食べる速度と隊員たちが運ぶ速度が拮抗する。「止まらない…まるで、暴食…」「食べ過ぎであんな巨体になったのか?」「…違うぜ」風で舞う土煙の中を歩くカウボーイ風の男が言う。「あいつは、元々臆病な奴だ。臆病な奴はあまり食べないもんだぜ」隊員たちが男を見て言う。「あの人は、SONGの初代脱退隊員…」「伝説が語り継がれる憧れの的…」「スミス…」「無事だった…」「ワレ、仲間を見捨てて逃げ出した奴がどの面下げて帰って来たんや」「様子を見に来た。今の連中が上手くやってるかをな」「たわけ!」吹き飛ぶスミスのハット帽。「あの人たち、知り合いか?」「聞いたことがある。かつて伝説を生む活躍をした部隊が突然解散した。その人たちじゃないか?」「解散?何があった?」「確か、あの人が勝手な行動を取ったと言われている」スミスがハット帽を被る。「あの時、巨大な影が目に入ってな。それを追うと信じられない化け物だった。そいつからは逃げ出しちまった。いや、正確には立ち去るしかなかった。なぜなら、そいつは何もしてこず、何もかも受けとめたからな」「意味不明や。もっとわかりやすく説明せい!」「そいつっていうのは、あの巨人だ。あの巨人が受け止めたっていうのが…」スミスが散弾銃を取り出し、メガロに放つ。メガロの肩に当たる。食べながら、肩をかく。「ほらな。あいつは、無敵だ。手の打ちようがない。ただ、一つを除いてはな」スミスが再び散弾銃を放つ。散らばる弾は、メガロの食べる食糧を粉砕する。「うわ!」思わず飛び上がったメガロ。その時、地面が巨人の形になり、ゴーレムが現れる。メガロとゴーレムが掴み合う。「土の巨人。あの時も現れた」「あいつ、ワイらを庇ってるんとちゃうか?」「そうだ。あの時もそうだった」グレートが来る。「スミス、作戦がめちゃくちゃだ。邪魔をするなら、分かっているな?」「大丈夫です。あの巨人は、これで収まります」「それが邪魔になっているんだ」グレートがスミスを掴む。メガロがゴーレムを投げ飛ばす。「おなか減ったー!」「収まってないぞ」「おかしいな」グレートがスミスを投げ飛ばす。「気が晴れた」メガロが散らばる食糧を食べ漁る。「さて、どうするか?」「…あの、僕、彼の事分かります」大食いの男が言う。「本当ですか?」「はい。彼は<暴食>に取りつかれています」「はい?」「さっきまで僕に取りついていたんです。ある人たちに巨人がいる話を聞いてここに来たんです」「どうして?」「より多く食べられると意気投合して…当然のように僕は巨人になれないので、どうしようもないんですが」「なるほど。つまり、今回の対象は、巨人に取りつく<暴食>という存在か」息を吐くグレート。「で、どうすればいいんだ。スミスの銃も効かない頑丈な巨人を倒すのは困難だ。ゴーレムの出現で巨人の動きを抑えてはいるが、巨人の腹を満たす前に食糧が尽きる方が早いだろう」「一つ考えがあります」メガロに近づく大食いの男。そばで見守る隊員たち。「ちょっといいかな?」「おなか減ったー!」「なんだか外から見る君は苦しそうだ。戻ってきたら?食べる量も少なくて済むし、美味しいものいろいろ食べられるよ」メガロの動きが止まる。「分かった」メガロが気を失うように倒れる。「うん。分かったよ。彼の代わりに謝ります。ご迷惑をおかけし申し訳ありません」その場には、ゴーレムと隊員たち、その間に倒れたメガロが残される。「対象をゴーレムに変更だ。各部隊は連携を取れ。スミス!君も元隊員として、支部の者らと共に戦え」「はい」ガルが狼になり、ゴーレムを粉砕する。「瞬足のガル!」「ウィンディ・ウルフ!」破片が小さなゴーレムとなり動き出す。「俺の出番だ」「ワレ、調子のいい奴やな」「このまま押シキル」「うん、抑えよう」倒れたゴーレムは地面に消えていく。拍手するグレート。「さすが元プレリュードだ。連携が取れていないように見えて、実際は取れている。現プレリュードにも引けを取らない実力だ」メガロが起き上がる。「…あれ?何があったの?お腹いっぱい…うわ!」隊員たちを見て陰に隠れるメガロ。「どうやらワレの言った通りやな」「恥ずかしがりやサン」「違うよ。臆病だよ」「この様子を見たところ、事態は収束した。色々気になることはあるが、とりあえず作戦成功だ。各部隊は、持ち場に戻れ」スミスが後にする。「待たんかい!」「サヨナラも言わずに去るノカ?」「寂しいよ」「俺は、ぶっきら棒の風来坊。今は旅をしたい気分なのさ」「訳わからんで」「デモ助けに来た」「あの時も巨人から守ろうとしてくれたのかもしれない」「一人で行くバカがおるかい!困った奴やで」グレートが来る。「君らも協力有難う。今は支部にいるのか?」「実は、彼らと別れて支部の行方不明の隊員らを探す手伝いをしてるところです」「なるほど。それで、彼らは今どこに?」「さあ?分かりません。ただ、別れた後、ショクシティの方角へ進んでいきました」「そうか。彼らなら大丈夫だ」頷く面々。(ところで、<暴食>とは一体なんだ?メイドやクリス君に取りついた存在とも少し異なりそうだ。何かがいる…)
【手練れ】
面々は、森の中を歩く。樹にもたれかかる男を目にする。「誰かいるな」「何をしているんでしょう」奥の方から、刀が男の横の地面に刺さる。男が面々の方に来る。「どけ」どく面々。刺さる刀を抜く者が道を塞ぐ。「キサマ!刀を寄越せ!」「お前に渡すような刀は持ち合わせない」「片腕のジョーといえば、名刀使いで有名だ!必ずコレクションに加えてやる!」ジャラっと音を立てて、服を広げ、刀の数々を見せびらかす男。「へへ!この中にキサマの刀をぜひ加えたい!」「刀狩りのジャラ、ここで出会ったが最期。その全てを回収させてもらう!」ジョーとジャラの勝負は一瞬でついた。ジョーの巧みな刀捌きで、ジャラの刀を一本ずつ弾き飛ばし、武器を失ったジャラの首に刀を突きつける。「こんな細い奴だったのか」「チクショ!この刀狩りめ!」「お前が言えることか」「お前なんかに負けるなんて!チクショ!」「静かにしろ」ジョーはジャラの手と口をテープで塞ぐ。「お前たち」呼ばれて面々は驚く。「その服、SONGのものだ。こいつは指名手配犯だ。連れて行け」首を振る面々。「何故だ。仕事だろ」「俺らは、特殊なんだ」「使えないな」ジョーはジャラを担ぐ。「どこへ行くんだ?」「こっちにSONGの支部がある。あ、そこの刀、回収しに来るから置いとけ」去るジョー。「はあ…怖かった…」「怖がりすぎだ」「どの刀も名刀揃いです。傷一つなく手入れしてあります。弾く時にも丁寧にしないと傷つきます。あの人、かなり手練れです」「こんな森に手練れが何人もいるなんて、どうなってるのよ」「ライラ、大丈夫だよ。私たちにも手練れがいっぱいいるから」「そうね」「レイピア、どうした?」「…そこにいるのね」レイピアは森の奥に去る。「おい、追うぞ」
【ワスト博士部下2】
「おい、走るでしゅ。使えない人形でしゅ」「待て!」「おや?」「その女を返せ」「無理でしゅ」「レイピアだ。覚えているか」「こやつ抵抗してきゅる。あれを使うでしゅ」人形に注射を打つ。「何をした?」「誰でも必ず洗脳させることが可能な“ガラスの破片”を入れたのでしゅ」「よくも!」怒りを露わにするレイピアは槍を振る。それを人形が槍で受ける。「どうして?」「彼女は今彼女ではない。私の操り人形なのでしゅ」「すぐ元に戻してあげる」「洗脳を解くことは簡単にはいかないでしゅ。さあ、やってしまいなさい、ローレライ」レイピアが押される。「くっ」吹き飛ぶレイピア。「その武器は…」回想。「「神バステトのご加護を」」「神バステトが山賊を全滅させてくれればいいのに」「神バステトに頼らなくても、私が倒してみせる」「レイピアは頼もしいわ」「本音を言えば、神バステトの持つ槍は欲しいところだけど」「バステト・ランスね。山賊に奪われちゃって、今はどこにあるのやら」「弱音を言ってる場合じゃない。山賊に取り返しに行くのよ」「強いわね」「何を言ってるの?あなたも行くのよ…」回想終わり。「ローザンヌ、目を覚まして。レイピアよ」意識のないローレライは、槍を向ける。拾った槍で、受けるレイピア。「それは、バステト・ランスでしょう?見つけてくれたのね」猛攻を躱し続けるレイピア。「やっぱりその槍、普通じゃない。私が貴女に押されているもの。でも、私が勝たせてもらうわ。貴女を取り戻す為に」見切るレイピア。バステト・ランスが宙を舞う。膝をつくローレライ。「彼女はもう意思を取り戻した、もうお前の道具ではない!」「果たして、そうきゃな?」「くっ」血を流すレイピア。ローレライの小刀がレイピアの腹を貫いている。「ほらね」「まだだ、彼女は今に過去を思い出し、意思を取り戻す。よく見ていろ!」そこに駆けつける面々。「大丈夫か!?」「来るな!」「く、うああ!」血を見て、叫ぶローレライ。「ローザンヌ、落ち着け!思い出せ!共に山賊と戦った事を」ローレライを抱きしめるレイピア。「うああ!」頭を抱え、叫ぶローレライ。「思い出せ!海賊アルマダに共に武術を学んだ事を。思い出せ!海賊アルマダの船に乗った貴女と私が初めて会った日の事を!」はっと目を見開くローレライ。「…レイピア?」「そうよ。おかえり、ローザンヌ」涙を流すローザンヌ。「そ、そんな、ましゃか…我輩の傑作が敗れた…こうなったら、やけでしゅ。出でよ、クローンたち!」ウォッシュがボールを投げ、クローンたちが現れる。「あれは、巨大化が専門の人が使ったのと同じものです」「蹴散らすぞ」「空を飛ぶとは、趣味が悪い」ソーが奇石で風を起こし、落とす。「サンキュー、後は任せろ」「まずいでしゅ。逃げるが勝ちでしゅ」「逃がさないわよ!」「ひいい!」「どこにも行けないわ」ウォッシュの逃げ道を塞ぐレイピアら。「ちんけで陳腐な貴方方には、我輩の高貴で高度な発明の理解など到底できないでしゅ」小刀を掴むウォッシュ。「やああ!」レイピアがウォッシュを弾き返す。「うっ」木にぶつかり、倒れるウォッシュ。「あっ」様子を見に行くレイピアら。「ましゃか、こんな半端で辺鄙な場所で、死ぬなんて…」「死んだ」「レイピア!大丈夫か!」「こんなのかすり傷よ」膝をつくレイピア。「全然違うじゃねえか」「私が手当てします」ローザンヌの手当てが終わる。「ありがとう」「お礼を言うのはこっちよ。そうだ。はい、これ」「え?貰っていいの?」「何を言ってるの。レイピアが欲しいって言うから見つけたのに」バステト・ランスを受け取るレイピア。確かめる為に振り回す。「大切にするわ」「ちゃんと渡せて安心したわ。洗脳されてる間、どこかでずっと渡したいと思ってたから」「私はしばらく帰れないから、その間故郷の事任せたわよ」「任せといて!そっちも世界の事任せたわ!」ローザンヌと別れる面々。「いい奴だな」「ええ」「お前、もう勝手な事したら許さないぜ」「わかったわよ」端で羨ましそうに見つめるヨー。「…何か2人いい雰囲気アル。悔しい」「一途な思いはいずれ叶うというよ。これをお使い」「ありがとアル」ソーのハンカチが鼻水まみれになった。「おお、お転婆なお嬢さんだ。…それより、いつまで監視してるんだい?」強い視線を送るソー。木の枝にいるカラスが慌てるように飛ぶ。(おっかない。あの時の借りを返す機を伺ったが、あの男が見ていて隙がない。赤封城もSONGに封鎖されてしまった。もう一味は解散したし、朱雀の家を守っていよう)「邪魔者が消えた。さて、私はどちらにつこうかな」
【臨時隊員】
SONG本部総司令官室。「おかえりなさい。総司令官殿。こちら異常はないです。そちらはどうでしたか?」「大変だった。一時はどうなるかと思ったが、何とか抑えられた」「良かったです」「まあ、抑えられたとはいえ、最終的には1人の男性によって解決されたのだが」「それは一体どういうことです?」「また、得体の知れないものが関わっていた。今回の件は、その男性が言っていたが、<暴食>というものが関わっていたようだ」「<暴食>?七つの大罪のあれですか。そんなものをどうやって鎮めたんです?」「その男性と意気投合していて、元に戻った形で解決した」「なるほど。その男と巨人はどうするおつもりで?」「その男性は隊員が監視しているが、食べることと寝ること以外は何もしないらしい。監視で十分だ。巨人は、来てもらった」グレートが窓を開ける。「おーい、こっちだ」メガロが顔をのぞかせる。「彼がメガロ君だ。臨時隊員として働いてもらう」「臨時隊員!」「というのも、あれを渡そうと思って」「あれですか」頷くグレート。SONG倉庫兼宿舎。「こんな所に隠してあったとは!私も知りませんでした」「本部に隠すという裏をかき、あえて資材だらけの倉庫に隠してある。敵を騙すにはまず味方から、だよ」「まんまと騙されました」「その名を聞いただけで知る者は負けを認める程の代物。それだけに支配力も持つためSONGは回収を急がなくてはならない。それが、かつての英雄リンクの仲間の一人ガッテンの珠玉の名作である7つの武器。その一つが、別名“悪宿剣”アブソリュート・スィンだ。SONGが所有するのは、もう一つある。それがこの槌だ」「大きいですね!」「別名“神の裁き”いかづち。唯一巨人を倒せる武器とされる伝説の武器ミョルニルをモデルとしている通り、大きすぎる。おそらくメガロ君にしか扱えない」グレートが引きずりながら、外に出す。「これを君に渡すよ」「…いいんですか?」「いいんだ。それに見合った働きをよろしく頼むよ」「…がんばります」「よし、早速君に合った隊服を発注しないとね」
【さかさまの予言者】
面々は森を進む。「レイピアの友人まで被害に遭っているとは。ワスト博士も侮れないぜ」「同じ被害はもう出さない。私の槍が許さないもの」「お前が仲間で良かったと思ったぜ」「ワスト博士の部下はあと何人いるんでしょうか?」「出来ればもういないで欲しい」「そうですね」「あ、川だ」「本当だ」「泳ぐアルか?」「泳がないよ。…またあの姿になったらやだし」「あの姿とは君も他の生物に変身できるのかい?」「そうです。でも、私、あんまり変身したくないんです」「それは悪いことを聞いてすまない。ただ、興味深いが」「あそこに集落がある」「腹も減ったし、寄ってみるか」集落に入る面々。「どこも家ばっかりで食べ物屋がないじゃねえか!」「残念ね」「あそこのテントだけ異様な雰囲気があるわ」「そうですね」近くまで来る面々。「どうせここも食べ物屋じゃねえぞ」「いらっしゃいませ。ここは占い屋です」アラビア風の衣装の白人の女性が答える。「やっぱりな」「待ってください。店名ラプラス・ラプラタとあります。記憶が正しければ、よく当たると評判の占い師の店です。確か、噂では…」「さかさまの予言者」「そうです。ソーさん、よくご存じですね」「情報は幾らあっても邪魔にならないからね」「さかさま?」「ということは、占いの結果と反対のことが未来に起こるのかしら」「ええ。以前はそうでした。占いに使用している玉がさかさまになっていたんです。今は占いの結果の通りになります」「凄い石だな!」「これって、もしかして…」サトリが鞄から奇石を取り出す。驚く面々。「「奇石だ!」」「でかしたな!」「うん」「でも、この玉は、大きくて綺麗だわ」「透き通ってる」「普通の奇石とはどこか違う雰囲気ね」「この玉があれば誰でも占えるんじゃねえか?」「ちょっと失礼じゃない」「ロンドの言う通りアル」「そう思われても仕方ありません。試しに覗いてみてください」「じゃあ、遠慮なく」覗き込むロンド。「…何も見えない」「当然でしょ」「ロンドを馬鹿にするなアル」レイピアに怒るヨー。「私たち、S・チュアル家は、代々受け継がれる占い師の家系です。何故か女性だけに才能が開花するので、男性は外へ出ていきます。私の父は、あなたたちと同じSONG隊員です」「どうしてわかった!?」「隊服を着てるからよ」「あ、そうか」「名前はナイルといいます」「「ええ!」」(看守のおじさん!)奥から女性が現れる。「いらっしゃいませ。母のインダスです」「皆さんの名前、川の名前になってますね」「これには、心を象徴する水の意味を込めて代々つけられているんです。私はユーフラテス、兄はチグリスといいます」「お母さんということはインダスさんがさかさまの予言者ですか?」「いえ。それは、私の母コウガですね。『来年世界が滅びる』といった事が広まり、非難の声を浴びせられたそうです。父チョウコウが必死になって非難の声から守ったそうです。ついに訪れた予言の日、世界が統一されました。それ以来、呼ばれるようになりました」「歴史があるんですね」「そんな凄い占い師なら、俺らも占ってもらうか」「初めて良い事いったわ」「初めてじゃないだろ」「サトリ、妹の事について聞いてみてはどうでしょう?」「え、そんな僕の事でいいの?」「旅の目的の一つだ。仕方ない」見渡すサトリ。頷く面々。「席についてください」「はい」「何か関係のある物を貸していただけますか?」「母の形見です」ネックレスを渡すサトリ。「占います。見えます。真っ白な湖。山頂の遺跡。それから、過激な衣装で踊る人々。これらがある場所にいるようです」「どうも」「次は俺らの未来を占ってくれ。リーダーの俺の隊員バッジだ」「占います。眩しいほど明るい光。問題は良好な方向に向かうでしょう。ただ、それを決めるのは貴方の選択次第です」顔を近づけるユーフラテス。「おう、任せろ」「最後に、これを占ってもらえますか?」「それは、ガラスの破片。持ってきてたのね、クリス」「何が役立つか分かりませんから。念には念を、です」「占います。三人の影。その内一人はすぐそばの町にいます」「ありがとうございます」「ユーフラテス、大丈夫?」「大丈夫よ」「占いも体力がいります。ちょっと休ませてもらえますか?」「僕たちはもう帰りますので、休んでください」代金を払い、店を出る面々。「何だか長くいたね」「そうですね。おかげでワスト博士の事も分かりました」「三人の影、だよね」「はい。一人はワスト博士本人の可能性を考えれば、部下はあと二人いるようです。早速、一人がいるという町に向かいましょう」「うん」「結局、何も食べてないぞ」
【風来坊】
人通りのない町の酒場。銃を持つ男が席を立つ。それを横目に見て、グラスを置く男。「ご馳走さん」店の扉のベルの音。「待ちな」「俺の事かい?」「あんた以外いない。あんたの腰に下げた銃、あれだろ?」「あんたって名前じゃない。俺はファマだ。そして、これは、7つの武器、通称“七武器”の一つ、イナライトファニングズマさ」「一度お目にかかりたかった。見れて光栄だぜ」「そうかい。性能を見てみるかい?」「いいのか?礼を言うぜ」風で舞う葉をイナライトファニングズマで撃つ男。「何て素早い!いいなあ。欲しくなっちゃうぜ」「奪ってみるか?」「奪うだって?」「何をとぼけている。顔に書いてあるぞ。喉から手が出るほど欲しい、と」「ばれていたか。それなら早撃ち勝負だ」「ああ。この町で流行の遊びか!いいぜ」「もちろんあんなお遊びとは違う。狙う的は、お互いだ」「…え?なんて?」「だから、お互いを狙うんだ。奪うっていうのはそういうことだろう」「なるほど。後で悔やむなよ。俺は、早撃ちの名手、即断即決のファマだ」「ああ。俺も武士の端くれ。死ぬ覚悟くらい出来ている。武士は、そういうものだろう?」「格好いいことをいうねえ。わかった!」「やる気になったか」「そういや、名前をまだ聞いてない」「俺はスミス。ぶっきら棒の風来坊さ」「スミス。あんたにハンデをやろう」「いらん、といいたいが、貰っておこう」「俺は弾を入れるところから、お前は撃つところからでいい」「ありがたい」「あらかじめ言っておくが、弾は一発、3秒以内に撃つこと。相手を仕留めた方が勝ち。10秒で勝負がつかない場合、俺の勝ち。それがルールだ」「了解」「風が止んだら勝負開始だ。言っておくが、俺は強いぞ」「俺も強いぜ」銃を手に持つスミスとファマ。風が弱まる。ついに風が止む。スミスが一発目を放つ。素早く躱すファマ。ファマが弾をこめる隙を狙うスミス。弾はファマの真横を通る。「どこを狙ってる」「ちっ」「この勝負、貰った」ファマの弾がスローモーションでスミスに迫る。(スミス、落ち着け!)横に倒れる風来坊。「楽勝だったな」その時、弾がファマの頭上を掠める。「あっ」予想外の出来事に一瞬の隙が生まれる。ファマのこめかみを銃で押し当てるスミス。「俺の勝ちだ」「まさか、そんなはずはない!俺の早撃ちを避けられる奴なんて今まで一人もいないぞ」「あんたが撃つより先に倒れていたのさ」「まさか…」「倒れてから撃ったらあんたに気づかれて負ける。だから、俺は倒れながら撃つしかなかった。だが、あんたを怯ませられれば十分だ」「初めからそのつもりだったのか」「ああ。早撃ちであんたに勝てる気はしない。不意を突くしかなかったのさ」「だが、俺が弾をこめる間に仕留められたはずだ」「命まで奪う気はない」「俺の負けだ」「そうか。じゃあ、このイナ、ファ、何とかを有り難く頂戴するぜ」「異名『速きこと光陰矢の如く、時すでに遅し』、イナライトファニングズマだ」「なんてややこしい名前だ」「俺の祖先がこれを作る依頼をした時に、好きな音のファと、早さを象徴する雷の意味を名前に込めた結果だ」「こだわりが強いことで」「どう使おうと勝手だが、無暗には扱うな」「それならOKだ」「あんたならそうだろう。それじゃあ、持っていけ」歩き去るスミス。「あんた、どこへ行く?」振り返らず答えるスミス。「俺は風来坊だ。風のまま気の向くまま行くとするぜ」
【ワスト博士部下3】
ある町の丘。「ついに完成したビースト。この“獣化の粉薬”でここにいる人を獣へと変えるビースト」粉薬を散布する男。あちこちで悲鳴や呻き声が聞こえる。「思った以上に結果が出ているビースト。可哀想には思わない。寧ろ強い獣になれることを感謝するビースト。いい景色だビースト」逃げ惑う少年少女たち。曲がり角から凶暴化した大人が現れる。悲鳴を上げ、少年少女たちは逃げ出す。少女は、家の隅に隠れる。あちこちで悲鳴や呻き声が聞こえる。「何が起きてるの…?」泣き出す少女。そこに、少年が現れる。「あなたも逃げてきたのね」突然、凶暴化した少年が少女に襲い掛かる。「きゃあ!」逃げる少女。大量の粉で視界が悪くなっている。行く先にも一匹の獣が現れ、立ち止まる少女。凶暴化した少年が近づく。「来ないで!」凶暴化した少年が吹き飛ぶ。「トニー!来てくれたのね」「ああ。君を守ると約束したからね」「あ!後ろ!」「え?」凶暴化した少年がトニーに噛みつく。「うっ!」トニーのパンチで気絶する。「行こう!」獣から逃げるトニーと少女。「ふう。危なく君が噛まれるところだったよ」「でもトニーが!」「こんなのへっちゃらさ!うぅ…」「どうしたの?」「ちょっと気分が悪い。離れて…」「でも…」「うう!…早く逃げて」泣きながら逃げる少女。町は獣で溢れかえっている。大量の獣に囲まれる少女。家の上にいた一匹の狼が下り、獣を倒していく。「大丈夫だよ。僕はSONG隊員のガル。そばを離れないで」面々は町の惨状を目の当たりにした。「一足遅かったか」「間違いなくここにワスト博士の部下がいます」「ここに入るの…?」「当たり前だ。サトリもSONG隊員だろ?」「そうだけど…」「サトリの気持ち、分かる」「たぶん町の中は危険でいっぱいだよ」「女々しい奴らだな。だったら、行きたくない奴はここで待ってろ。クリス、頼んだぞ」1人で町に入るロンド。「行っちゃった…」「町の中はロンドに任せましょう。僕たちはワスト博士の部下を探しましょう。おそらくどこかで見ているはずです」ガルは少女を守りながら、町の出口を探す。「“乱竜”」「“逆鱗竜”」「はあはあ。きりがない」「大丈夫ですか?」「大丈夫。君は守るから…うぅ」苦しむガル。心配する少女。「そんな…」「まさか、僕が感染するとは…。ごめん」気を失うガル。丘で様子を見る男が言う。「獣を甘く見るものではないビースト」「そこにいたんですね!」「な!お前らは誰だ?」「私たちはSONGのカリュードよ」「こっそり見ているなんて卑怯よ」「卑怯なのはお前らも同じだ。町の中に入って救出していないじゃないか」「それは…」「今はリーダーの命令でそうなっているだけ。そうだろう?」「そうです!」「今にロンドが皆を救出するアル。それより、お前も名乗るアル」「俺はガオル。ワスト博士の部下をやっている。専門は獣化。獣は人より強い。ほら、見るビースト」少女の周りを大量の獣が囲む。「俺が相手だ!」一匹のライオンが獣を倒していく。「おい!ガル!しっかりしろ!くそ!死ぬんじゃないぞ!」見ている面々。「信じられない…獣になっても意識を保っている」「あれが獣化です。獣になった人です。貴方の獣化はただの獣になるだけで、弱いです」「俺の目指したものは間違いじゃない!」ガオルは粉を飲み込む。「俺の獣化は強いビースト」丘から町に下りるガオル。「落ちたよ」「ロンドなら倒してくれます」ガルと少女を乗せ走るロンド。「出口はこっちだ!」目の前にガオルが落下。「何だ」「俺の方が強いビースト!」ガオルの様子が急変する。巨大なライオンになるガオル。「ウオオ!!」巨大な前足がロンドを襲う。防御するが、抑えきれず、家の外壁に激しく衝突。「痛いな」「ウオオ!!」続いて、襲う前足に飛び乗るロンド。ガオルが反対の足で弾く。宙を舞うロンドを飲み込むガオル。「「ロンド!」」「ウオオ!!」叫ぶガオル。「負けたの…?」「ロンドが負けるわけないアル!出て来るアル!いつものかっこいい声を聞かせるアル!」「どりゃー!」ガオルの背中が飛び出すロンド。「ウオオ!!」着地するロンド。倒れるガオル。ガオルのそばに一匹のヤマアラシが現れる。触れるガオル。「…痛いビースト。これが、ヤマアラシのジレンマ」ガオルは死んだ。人に戻り、拳を突き上げるロンド。「やったアル!」「自分の事を強いと言う奴は、強がりな弱い奴だ」その時、激しい地震が起きる。ヤマアラシが人に戻る。「お前、ガルだったのか。避難するぞ」「僕たちも一時避難です」地震が収まると、町は崩れた瓦礫の山だった。「ロンドを探さなきゃ」面々は瓦礫の山を捜索する。「いない…」「別の場所に逃げたのかもしれません。でも、彼は生きています」「そうよね。あんな化け物に食べられても生きてたんだから」「簡単に死ぬわけないわ。きっと生きてるわ」「きっとじゃなくて絶対アルヨ。私はロンドをここで待つアル」ヨーは瓦礫の山の前で胡坐をかく。「ロンドの事頼みました」「分かったアル」「僕たちは先を急ぎましょう。ワスト博士と部下が何かする前に止める必要があります」「そうね」面々は先へ進む。
【レクイエムの活動①】
レクイエムは活動を急いでいた。「今世界の危機はどんどん拡大している。世界の危機はSONGの危機だ。世界の完全な統一を急がねばならない。それが出来るのはレクイエムだけだ。という、グレート様のお告げを全うするぞ」「「おー!」」独裁者の国ダイバシティ。大きな壁に取り囲まれている。「ここでは民衆が全員奴隷として働く。我々のコードネームのようにコード番号がつけられている。同じ作業に嫌気がさし、脱走する者が続出している。しかし、成功者はゼロだ。そうやって、力で民衆を統一してきた国だ」兵士を殺して進む。独裁者が銃を向ける。「再三の統一の要求に応じず、まだ抵抗するとは。強制的に統一して頂く」タチェットの背浪拳が炸裂する。独裁者は死んだ。壁は壊され、統一された。「残す国は3つ」
【いろいろな人々①】
地震発生の翌日。瓦礫の山から拳が突き出る。「はー、死ぬかと思ったぜ」「ロンド!!生きてたアル!」「ヨー。お前だけか」「そうアル。私だけ待ってたアルヨ」「そうか。ワスト博士を倒さないといけないからな。またこうなる前に。そういえば、ガルと女の子供は見なかったか」「見てないアルヨ」「無事に逃げてりゃいいが」ガルとサキの二人は、瓦礫の山の外にいて助かっていた。「ロンド君がいない。君だけでも無事でよかった。あれ?もう一匹いる」サキは犬を一匹抱きかかえていた。「この子は、プー太です。私のペットです」「そうか。プー太、良い名前だ」「親が、ずっと家にいて仕事しないから名づけました」「ははは。それは面白い。一緒に連れて行こう」ガルはSONG本部に戻り、少女を保護するように頼んだ。少女は支援部隊が面倒みることになった。「彼らは優しい人たちだ」「どうも、ジムだ」「私はユノナよ。貴女のお名前は?」「サキです」「子犬も一緒ね。お名前は?」「プー太です」「ワオン!」「よろしくね。サキちゃん、プー太君」丘に登るロンドとヨー。「合流するぞ。どっちに行ったか分かるか」「こっちアル」「でかした、ヨー」「褒められたアル…」「その前に、腹が減ったな」面々は、町でご飯を食べていた。「今頃、ロンド、大丈夫かな?」「ユーフラテスさんの占いで未来は明るいと言われましたし、大丈夫です」外で悲鳴が聞こえる。「今度は何?」「竜巻だ」巨大な竜巻が、町を襲う。逃げる人々。その中に、サトリの見覚えのあるマシンが疾走する。急停止し、逃げる人を乗せる。何処かに走り去る。すぐに戻って来て人を乗せる。また何処かに走り去る。「人を救ってる」「私たちも行こう」外に出る面々。目の前に現れたマシン。「やっぱりレーサー王のマシンだ」扉が開く。「乗ってください」「…レーサー王ですよね?」「はい、そうです」「本物だ!僕、この間のレース対決でブービー賞だった者です」「君が!それより、竜巻が迫ってます。急いで!」乗り込む面々。「すみません、車内が狭くて」「いえ、助けて下さったのに、僕たちの気遣いまでして下さるなんて、優しい人ですね」ゆっくりと大きくなりながら、町を移動する竜巻。「どんどん大きくなってる…」「急ぎましょう」レーサー王のマシンが平野に停車する。リモコンを操作し、地面から扉が現れる。「中に入っていてください。僕はもう一度、行ってきます」「え!危険ですよ」サトリが鞄から奇石を取り出す。「これを持って行ってください。これを竜巻に投げ込めば、勢いは収まると思います」「ありがとう」親指を上げ、町の方に走るレーサー王。「かっこいい…」「サトリ、ナイスです」「二人とも、早く入って」扉の中を進む面々。ついたのは、壁や床が土で出来た場所だった。生活感がある。「秘密基地みたい」「本当アルネ」「誰か寝てるわ」ライラは、奥の部屋に眠る少女を見つける。白い服を着ている。「かわいい」その時、レーサー王と残りの面々が到着する。「全員避難施設に送ってきました」「速いです」「対戦者に言われるとより嬉しいなあ。まあ、皆さん、一息つきましょう」椅子に座る面々。「お茶をどうぞ。いやあ、最近は災害が増えて困りますね。一体どうしてこんなに災害が増え出したのやら」面々の意識は奥の少女に向いている。「あー、すみません。気になりますよね。彼女は、私の娘のレインボーです。実は、石化病という感情で体が石になってしまう病気になっていまして。その病が悪化して心臓が石になる恐れがあり、それを直すには手術をする必要がありました。その手術がちょうど昨日終わりまして、今は安静にしてるところです」「それで、直ったんですか?」「はい。無事手術は成功しまして、原因と考えられる石は取り除いて、記念にお守りにしました」「これは、奇石ですね」「奇石?」サトリが鞄から奇石を取り出す。「さっき渡した石です」「本当に一緒だ。これは何なんだい?」「これは、持った人が願った事を叶えてくれる石なんです」「すごいな。でも、どうして娘の身体にあったんだろうか…」悩むレーサー王。「…あれ?人がたくさんいる」レインボーが目を覚ます。「起きた」「レインボー、この人たちは、優しい人たちだよ」「よかった」面々はレインボーから目が離せないでいる。「目が虹色に輝いてる…」毛布で顔を隠すレインボー。「すごいきれい」目を覗かせる。「そうなんです。娘の瞳は、この病になってから虹色になりました。初め見た時は驚きました。でも、もっと驚く事がありまして、娘の瞳には、目が合った人の不安を取り除いたり、怪我を治す効果がある事なんです」「それはすごいわ」「レイピアのお腹の傷も治るかな?」「お願いできるかしら」「いいですよ」レインボーがレイピアを見つめる。「あ、治った」「聖水以上の効果です。これは奇石の副作用でしょうか」「副作用には良いものもあるのね」「彼女の力、SONGに活かせそうだな」「娘の病は完治したわけじゃなくて、常に安静が必要らしいんです。特に術後の今は」「確かにそうですね」「私、ここに残って、彼女を看病したいんですけどいいですか?」ライラの言葉に驚く面々。「どうして、ライラ」「私の歌なら、癒してあげられると思う」「確かに、ライラの歌には癒しの効果があります」「僕たちは勿論有り難い話だが、君たちはいいのかい?」「僕たちの任務は、行く先の人々を苦しみから救うことです。ライラにとってここに残る事がその任務を果たす事なのでしょう。ライラ、任せました」「任せて」面々はライラと別れ、旅立った。
【レクイエムの活動②】
レクイエムは活動を急いでいた。「今世界の危機はどんどん拡大している。世界の危機はSONGの危機だ。世界の完全な統一を急がねばならない。それが出来るのはレクイエムだけだ。という、グレート様のお告げを全うするぞ」「「おー!」」世界第3位の国ベロシティ。「歴史上世界1位になる日を目指し、政策を進めてきた国だ。世界が見下ろせる塔を建設した。実力を備え近づきはするものの、3位を維持していた。成長の速さはあるが、それは追いつくだけに留まった」マシンで空中から近づき、拡声器で呼びかける。「このまま独立を続けても、統一国家がある限り世界一にはなれない。統一に応じなさい」代表者は側近に言う。「ついに来たか・・・ここで、諦めては今までの苦労がすべて無意味となる。この国の選択はただ一つ、応戦だ」塔の砲撃が襲う。避けるマシン。「速い…」「甘いな。こちらはウォーリー博士作の高性能マシンだ。再三の統一の要求に応じず、まだ抵抗するとは。強制的に統一して頂く」マシンの攻撃が炸裂する。塔は壊され、統一された。「残す国は2つ」
【いろいろな人々②】
ライラとレインボーは会話している。「幼馴染の男の子がいたの」「そうなんだ」「小さい頃はよく遊んだの。家でも、外でもね。ある日、一緒に石を探していたの」回想。「これは何て名前?」「ウツク石」「何で?」「うつくしい石だから」「それじゃあ、これは?」「スバラ石」「何で?」「すばらしい石だから」「すばらしい石とうつくしい石はどっちがすごいの?」「すばらしい石」スバラ石を飲み込むレインボー。回想終わり。「石を飲み込んだの!?」「そう。彼も驚いてた」「何で飲んだの?」「彼が石ばかり見てるから私にも気づいてほしくて」「好きだったんだね」「そうかもしれない。それからなの。病が始まったのは」「その石が奇石だったのね」「そうみたい。彼にも驚かせてしまったわ。もしまた会ったら謝りたい」「きっと願えばいつか会えるよ」「そうだね。奇石は願えば叶えてくれる石らしいじゃないか」「お父さん…」「そんなことがあったなら言いなさい」「ごめんなさい」「正直に言えばいいんだ。僕も言ってなかったことがある。それは彼の事だ。彼はSONG隊員になったんだ」「知らなかった」「レインボーが倒れて寝てる間にいなくなったからね」「そうだったのね」「さあ、二人とも料理できたよ」「ロペスさん、いつもありがとうございます」「こちらこそ。おかげで娘の調子はいいみたいだから。召し上がれ」食卓を取り囲む三人は、かつての英雄リンクの仲間ハイ・ストールの子孫である。こうして共にいる事は運命という他ない。面々は、崖を慎重に進んでいる。海は荒れている。「みなさん、気をつけて!落ちないように注意してください」「気を抜いたら、あっという間に海の底だ」「ソーさん、不吉な事を言わないでください…」「レイピアの鳥の姿ならひとっとびなのに」「ごめんね、あの姿はあまりなりたくないのよ。もし誰か落ちたらすぐに助けるわ」「ありがとう」その時、激しい波が崖に打ち付ける。「うわあ!」「サトリ君が落ちた!」レイピアがウィングエッジになり助ける。続いて、巨大な波が面々を襲う。レイピアの背に移るソーとクリス。「きゃあ!」ナタリーが波に飲み込まれる。「ナタリーが、波にさらわれた…」「追うわ」「お願いします」面々は必死に追ったが、自然の波には追いつけなかった。「私が初めから変身していれば…」「レイピア、あまり気を落とさないで」「ナタリーも強いです。信じましょう」ナタリーは、気づくと、部屋のベッドの中だった。「ここはどこ?」部屋は小さく、古い感じがした。部屋を出ると、そこは集合住宅の一室だった。隣の部屋から飛び出るように人が出て来る。「女将、ちょっと行ってくるよ」「あいよ!もう帰ってこなくてもいいんだから頑張りな!」少年は、ナタリーの横を通り抜け、階段を駆け下りる。「起きたのかい?」「はい。貴女が私を?」「違うよ。わたしは、今走ってった子が連れてきたから部屋を貸しただけさ」「あの人はどこに?」「助けを求める声が聞こえたとか何とかで町の中心街の方さ」「ありがとう、女将さん」走り出すナタリー。
【いろいろな人々③】
町の中心街。処刑台に上がる彼女は、死を受け入れられず、泣いている。当然だ。すべての罪を擦り付けられ、処刑されるのだから。彼女はユートピア教の信者だった。近頃のユートピア教の活動が活発化していると彼女は言った。彼女は変わってしまったユートピア教を抜け出そうとした。それがいけなかった。ユートピア教は彼女を利用して暴動の中心人物として処刑することにしたのだった。彼女が今目の前で僕の名を叫び、助けを求めている。僕は、それには答えられない。その人はまた名を叫ぶ。「待て」と言って助けられればどれほど格好いいだろう。僕にはどうすることもできない。処刑人が絞首台の床が開くボタンの前に立つ。何もできない無力感と彼女の心情を察して、涙があふれる。その時、一筋の雷鳴が轟く。それは、処刑人に命中する。下にいた二人の処刑人が叫ぶ。「誰だ!」その時、大衆が離れ、一人の人物が露わになる。「直ちに処刑を。私が捕らえる」再び雷鳴が轟き、倒れる処刑人。もう一人が処刑台を駆け上がる。「弱きを助け、強きを挫く」少年は手に持つ聖剣を掲げる。三度目の雷鳴が轟き、階段を上る処刑人に命中する。「まさか全滅させるなんて」僕は処刑台に駆け上がり、彼女を開放する。倒れる彼女を抱きかかえる。「あの人が助けてくれたんだ。あれ?どこに行ったんだ?さっきまではいたんだ。僕が助けた?そう、なのかな」少年をかつての英雄が女神を助ける光景にどこか似ていたと思ったのは僕だけだろうか。(あなただけじゃない)ナタリーは心を読むのを止め、少年を追いかける。少年は裏の路地で休んでいた。「貴方の持っている剣は聖剣だよね?」「そうだけど、君は誰?」「私はナタリー。土守の末裔よ」「土守?聞いたことがあるな。確か土守は、英雄の中で唯一血が受け継がれているという。君がその?」「そうだよ」聖剣を取り出して見せる。「本当みたいだ。僕はオックウ・カルパ。風の英雄をやってる」「オックウ、よろしくね」「宜しく、ナタリー」「オックウって面倒くさがりなんだね」「よく言われるよ。でも、会ったばかりなのに何で知ってるの?」「私、心が読めるの」「へえ。すごいな」「ねえ、英雄は私たちの他にあと二人いるよね?」「いるね」「どこにいるの?」「さあ。ただ、近くにいるはずだよ。聖剣は互いに呼び合うものらしいんだ」「すごい。これって便利だね」「行ってみる?」「うん」「じゃあ、ちょっと女将に挨拶してくる」「助けてくれてありがとう」「一応、英雄だからね」二人は女将に挨拶する。「女将、ちょっと出かけて来る。しばらく帰らないかも」「そうかい。部屋の掃除ができるね」「よろしく」「あんたは男だ、頑張りな」「はいはい」「はいは一回!」「はい」「二人とももう帰って来なくていいんだからね!行ってきな」ナタリーとオックウは二人の英雄を探しに、旅立つ。
【いろいろな人々④】
僕は、英雄に憧れている。ここにかつて活躍した英雄の一人がいるという噂を聞いてやって来た。廃墟となった場所の隅にいるその人を見つけるのは簡単だった。何故なら髪型がアフロだからだ。「あなたが火の英雄アルメオさんですよね?」無反応のアルメオ。「あなたに助けを求めている人がいます。僕はそれを伝えに来ました」アルメオが振り返り言う。「俺なんていいんだ…誰も守れない、何もできない今の俺なんて…」「そんなことはありません。今でもあなたは僕の英雄です。たとえどんな外見になろうとも」髪を触るアルメオ。「もし良ければ、一度あの当時の剣さばきを見せてはもらえませんか。僕はあの剣さばきを見てあなたみたいな剣士になろうと思ったんです」「仕方ないな。そこまで言われては。少しだけだよ」脇に置かれた剣を取り、闘う素振りをするアルメオ。「その剣さばき、忘れもしません。かつて獣100体を相手に1人で挑み勝利を挙げた、それはまさしく英雄」「そうだ!俺は!有名な英雄だった!こんな俺でも覚えていてくれたとは…わかった!君に力を貸そう!」「ついてきてください」「おう!」アルメオが、少年に連れられて来たのは小さな村だった。「どこだ?俺の助けを求める者は」「あそこにいます」少年の指す方に、剣を振り回し、暴れる男がいた。「わかった。危ないから離れてるんだぞ」暴れる男の前に立つアルメオ。「水の英雄ミザリオ。俺だ。アルメオだ」暴れる男は勢いに任せてアルメオに剣を振り下ろす。その寸前で剣を持つ手を掴み、ねじって剣を落とす。「お前は昔そういう奴じゃなかった事は良く知っている。怒りに身を任せてもどうにもならないことはお前はよくわかっているはずだろう!」「…」「一体どうしちまったんだ?話してくれ、何があったのかを!」ミザリオが意識を取り戻す。「私は…私は大切な人を死なせてしまった。この手で守ると誓った大切な人を!」アルメオを殴るミザリオ。「ふっ、さすが俺の認めた男、いいパンチだ…。だが、俺も負けちゃいない!」ミザリオを殴るアルメオ。「ぐっ…自信を失くしたと聞いていたが、今も健在のようだ」アルメオを殴るミザリオ。「その目は優しいお前らしくない。目を覚ませ!」ミザリオを殴るアルメオ。「英雄同士の殴り合い…激しすぎる」「「うおおおお」」二人の一発が同時に命中。二人が同時に倒れる。「「はっはっは」」笑い出す二人。「俺の分まで戦ってくれてありがとな、メザリオ」「…メザリオじゃない、それじゃ目障りみたいじゃないか。僕は、ミザリオだ」「はっはっは。悪い、ミザリオ」「いいよ」握手する二人。少年に礼を言う二人。「ありがとう。君のお陰で私は救われた」「同時に俺の目も覚めた!ありがとよ」「いえいえ~」「そこにいるのは、英雄のお二人でしょうか?」「いかにも。俺が火の英雄アルメオだ」「私は水の英雄ミザリオだ。君たちは?」「僕は風の英雄オックウっす」「わたしは土の英雄のナタリーです」「ほう。君たちが」「英雄が勢ぞろいだ。はっはっは!」「陽気な人っすね」(わたしは大丈夫だよ。英雄さんたちと会えたから)「英雄が四人もいる…幸せ…」倒れる少年。「大丈夫か!病院だ!」英雄たちは隣町の病院へ急ぐ。
【レクイエムの活動③】
レクイエムは活動を急いでいた。「今世界の危機はどんどん拡大している。世界の危機はSONGの危機だ。世界の完全な統一を急がねばならない。それが出来るのはレクイエムだけだ。という、グレート様のお告げを全うするぞ」「「おー!」」開国100周年の国ポセイドン。王が演説を始める。「オホン。こんにちを持ち、わが国が開国して、記念すべき100周年を迎えたことを大変うれしく思っている。元来、この土地は…」警備の兵が会話している。「あの人、すごい美人だなあ。今度、声かけてみようかなあ?」「やめとけ!ここだけの話だが、あの人は男だ」「ええ!嘘だ…」「本当だ。前に話しかけた事があるんだが、声を聞いたら、間違いなく男の声だった」「話しかけてるじゃんか。美人なのになあ。まあ、やめておくけど、君もそう思うだろう?」「それは…確かに」同い年の護衛の男が話しかける。「ミミナミ、見られてるぞ」「放っておいて」王子ミミハの元に兵が駆け寄る。「すぐに行く」「“黒の剣士の子孫”と名乗る盗みや人殺しを行う悪い集団だ」「この7つの武器の弓ハヤテマルが射貫いてみせる」囲まれるミミハ。「ミミナミ!今助ける!」「いいわ。ここは任せて。“円舞弓”」悪い集団の団員が全滅。「よくもやってくれたな!この怒りを利用してその弓をいただく」「親玉だ!ミミナミ!僕が守る」「いいわ。私が決着をつける」「かっこいい…でも、たまには助けさせてほしい」「うおお!」「“必中弓”」親玉のズボンに命中し、脱げる。「うひょ…恥ずかしい」「『風をも射貫く弓』ハヤテマルに恐れ入ったか」宮殿に戻るミミハ。「…以上で演説を終わりとする」演説を終えた王の元に迫るレクイエム。「何だ、お前たちは」「我々は、SONGのレクイエム。もし統一に応じない場合は、強制的に統一をして頂く」「私の国は独立を維持する。SONGとの戦争になっても!」「分かった…」「待ちなさい!レクイエム」「その声は、おひょう婦人!」「近衛衆の私にここは任せなさい」「分かりました」退くレクイエム。「私は王だ。この国はこれからも末永く国としてあり続ける」「分からない人。何度も言ったけど、応じれば殺されずに済むのよ」「…」「私が父に代わり、戦います」王の前に立つミミハ。「私は母よ。この国の存続は認められない。まだ抵抗を続けるつもりなら、力づくでも説得させてみなさい」「私の意思は揺るがない。独立を守るために戦う」「私の意思は揺るがない。世界の平和のためにあなたと戦うわ」「「いざ!」」ミミハの弓から矢が一本も無駄にしない広がりでヒヨウに近づく。ヒヨウが奇石を掲げ、矢が凍りつき、氷の矢がミミハに降り注ぐ。「さすがお母さんね。でも、お父さんは傷つけないで」「これで独立は諦めたわね」頷く王とミミハ。「レクイエム」「はっ」「ポセイドンは統一された、と連絡なさい」「はっ」姿を消すレクイエム。「ミミハ、あなたは八方美人に振る舞いすぎて、誰からも狙われる恐れがあるわ。そのようなことでは、いつか豹に襲われるわよ。気を付けなさい」「豹って、お母さん以上のは知らない…」豹になり姿を消すヒヨウ。「残す国は1つ、ね」
【いろいろな人々⑤】
面々は森の中を進む。「大分減っちゃったね…」「確かにそうですね。やることは一緒です。前に進みましょう」「うん」「何か村のような場所が見える。行ってみるかい?」村に入る面々。少年たちが弓を引く動作をする。「何してるんだろう?」「何も手に持ってません」「放て!」先生らしき男の合図で少年たちが矢を放つ動作をする。一人の少年が放った雷が的に当たる。「雷が出た!」「凄い能力ね」「聞いてみましょう」クリスが長老らしき人に問いかける。「貴方はここの長老ですか?」「そうじゃ。わしら雷族は直系の子孫が長老を務める。いまだに血筋が途切れたことはない」「聞いたことがあります。かつての英雄リンクにも雷を使う仲間がいました」「ロンドがいたら大騒ぎだったわ」「雷は風のネアの発展したものと聞いている。ここの者らはそれを使える。うーん、興味深い」「雷族…すごい」「一つ聞きたいのですが、ワスト博士は知ってますか?」「知らん!」「わかりました」「放て!」再び先生らしき男の合図で少年たちが矢を放つ動作をする。コウが放った雷が的に当たる。「よっしゃ!」「くっそー!出るまでやってやる!」「何で出ないんだ!もう一回やるぞ!」「あの子も凄いけどみんなのやる気も凄い…」「上手い子の名はコウ。そんであの先生をしとるのがライコウ。わしはライドウ。懐かしいのう。わしも昔はコウじゃった」「ということは、襲名制!?」「そうじゃ。村のしきたりじゃ。一流の戦士に受け継がれる名を定めることで皆努力する」「つまり、ここは雷族の学校ということになりますね」「そうじゃ。名がつかなくとも立派な戦士はたくさんいる。みな平等に強くなることが真の狙いじゃよ。そうやってわしらはやってきとる」「獣だー!」空を飛ぶ巨大な鳥の獣が襲来する。「あれは何?」「グリフォンです。対戦した事のあるウィングエッジと肩を並べる鳥の獣です」「戦い甲斐がありそうね」「ここはわしたちに任せてもらおう。ライコウ頼んだ」「みんな!練習の成果を試す時だ!標的をよく狙って放て!」ライコウの掛け声でコウたちが雷を放つ。複数の雷が一つにまとまった巨大な雷がグリフォンに命中。「初めて出た!」「よくやったな!」「うむ。全員で放つ大技“付和雷同”が決まった!こうして戦士はたくましくなってゆく」「私たちの出る幕はなかったわね」「雷族は強い人たちと分かりました」「いろんな人がいるなあ…」村を出る面々。
【いろいろな人々⑥】
面々は森の中を進む。「グリフォンよ」「雷族もいないですし、僕らで倒すしかありません」「大丈夫。サトリ君の持つ奇石がある。こんなにたくさんあれば、楽勝だよ。雷を試すいい機会だ。サトリ君、雷を打てるか試してみてはどうかな?」「はい…」サトリが奇石を使い、風のネアを発動する。風が起こる。「駄目だ…出ない」「初めは誰もできないものだよ」ソーが奇石を使い、風の気を発動する。一筋の雷がグリフォンに命中。「凄い…」「様子がおかしい」グリフォンが小さな鳥の大群に分裂する。「分裂した…」「あれは、ムクです。群れで集合して大きな姿に見せて戦う獣です」ムクが面々目がけ飛んでくる。「「“手裏剣・嵐”」」手裏剣が一枚につき一匹ずつムクに刺さる。「凄い…全滅させた」「手裏剣はあっちの方から飛んできました。行ってみましょう」面々が手裏剣の飛んできたところへ行くが、誰の姿もない。「お前たちか」木の上から降りて来るアヤメ。「アヤメさん!」「貴女がさっきの手裏剣を全部投げたんですか?」「そんなわけない。出てきな!」続いて木の上から降りて来る三人。「あたいら忍び族の全員で投げたのさ」小柄な男と背の高い男と見覚えのある女。「久しぶりに会えてうれしい☆」決めポーズをするユッカ。「ユッカさん、いつも元気そうですね」「はじめまして。ユッカさんの後に忍び族になったフウマ・ロゼッタと申します」容姿端麗で紳士的に言うフウマ。「なかなか腕が立ちそうね」「…」顔を隠すケン。「もう一人は無口な人だね…」顔を隠す頭巾を取るケン。「マロちゃん!久しぶりだね」「えっ?誰?」「忘れちゃったの?いとこのポーヴだよ」「ああ!思い出した!小さい頃よく遊んだポーヴ君か!久しぶりだね。なんでここに?」「僕、見かけたアヤメさんの姿に一目ぼれしちゃって、忍び族に入門したんだ」「そうなんだ」「綾町っていう忍び族の故郷でアヤメさんに稽古してもらって幸せだったなあ」「ああ、そう」「僕、忍者の素質あるみたいなんだ」「へえ。すごいね」「僕、本当の名前、シンメン・ケンっていうんだ」「ケン君か。僕の本当の名前はシンメン・サトリだよ」「じゃあ、サッちゃんだ。それでね、僕、あのシンメンタケゾウ先生の孫として頑張ってるんだ」二本の刀を抜き、目の前を舞う葉を斬る。「居合切りを同時に二本もするなんてすごい実力です」「相変わらず強いね」「だから、アヤメさんの騎士を任されてる」「ケンさんを見習い、命に代えても守ってみせましょう」「私も☆」「頼もしい仲間がいて安心ですね」「こいつらがいなくたってあたいは大丈夫さ」「そんな強がらないでください」「強がってないよ!忍は一人で生きていけないといけないんだ」「それはそうですけど…」「忍が四人もいれば向かうところ敵なしでしょう」「そうだね☆」「まあ、頼りにしてるよ」「一つ聞きたいことがあるんですが」「何だい?」「ワスト博士って知ってますか?」「知らないね。危険な奴なのかい?」「はい。怪しい研究をする部下を従えています。何か研究所のような施設を見かけたりしてませんか?」「研究所は見てないね。ただ、この先の谷にいる怪しい奴らは見たよ」「ちょっと行ってみます」「気をつけな!見るからに怪しい奴らだったからね!あたいらも行くよ!」「「はっ」」木の上に姿を消す忍び族。
【いろいろな人々⑦】
面々は忍び族に聞いた森の奥の谷を目指す。「怪しい人たちってどんな感じなんだろう…?」「もしかすると、ワスト博士の仲間の可能性もあります。気を引き締めて行きましょう」「わ!」面々を見て逃げる者。「追いかけましょう」追いかける面々。「谷に出た…」谷にはたき火を囲む人々がいた。その中の一人が来て言う。「餡子・最終着・泡」「え…?」「マヨネーズ・フォレスト・フカサメ・バレー・幽霊・感嘆符・アルマーニ」「マヨネーズ…?何を言ってるんでしょうか?」「気味が悪いわ」「暗号言葉さ。アンビリバブル。迷う森深い谷つく簡単ではないだろう。そう言っている」「暗号言葉が理解できるのか!?何者だ!?」「混乱しているようだ。私も君たちと同じ立場にいるだけだ」「アショーカ王・億・銅像」「アント・ショコラ。サラブレッド」奥へ進むソー。「どうした?ワスト博士はこの奥にいる」奥へ進む面々。「ちょっと、気になることがいっぱいすぎて何から聞けばいいのか…」「わけぎ、なんだね。暗号言葉を聞いて恐怖を感じただろう?」「感じました」「あれは奥に進ませないための脅しだ。彼らはワスト博士の仲間の元研究員で、ワスト博士の実験の被害者だ」「どういうことですか?」「実験名・巨大化。博士はそれを成功させることに必死だった。膨大なエネルギーを留める実験には危険が伴った。一人の被験者が成功した時、余ったエネルギーが周りにいた者にも降り注いだ。その結果、生まれたのが、一人の巨人と彼ら日陰族だ」「巨人てメガロの事だよね」「そうでしょうね」「日陰族、日向に出られないのかしら」「その通りだ。聞いた話では、太陽光を浴びられない体になったらしい。それもワスト博士の実験のせいだ。それでも、彼らは研究所を守るように谷に居続ける。いや、むしろこう言った方が良い。被害に遭っても利用され続けている」「可哀想な人たち」「ワスト博士許せないわ」「ソーさんは、なんでそんなに知ってるんですか?」「それは秘密だ。おっと、奥に進ませない者が現れたよ」門番の二人が長い槍を突き立てる。「「これ以上先には進めさせん!」」
【ワスト博士部下4】
面々の前に立ちはだかる門番。「我の名はマイルディ」「我の名はワイルディ」「「我ら二人で一人」」長い槍を高速で回転させる二人。「何もしてこない…?」「いえ、こちらにじわじわと近づいてきてます」「「気づいたか!だが、もう遅い!」」二人は回転を止める。「行くぞ、ワイルディ」「任せろ、マイルディ」ワイルディが槍をマイルディに投げ渡す。「“X・槍”」槍を交差させた状態での突進攻撃。「“高速・居合切り”」クリスの刀が槍を受け止める。「やるな!」マイルディは後ろに飛び、二本の槍をワイルディに投げ渡す。「もらった!“V・槍”」サトリを狙うワイルディの槍。それをレイピアが払う。クリスは隙の出来た二人に向けて一撃を放つ。「“高速・水流切り”」「「ぎゃあ!」」倒れる二人。「クリス君、やるじゃないか。奇石を使用した技を放つなんて予想もしなかったよ」「僕も咄嗟に思いついて。出来て良かったです」「これで奥に進めるわ」奥に進む面々。巨大な研究所が現れる。中に入る面々。「ここが、ワスト博士のアジト…」「大きいですね。設備が揃っていそうです。一体どこからそんなお金があるのでしょうか…」「全部が怪しいわね」アジトの階上の窓から顔を覗かせる者。「ひひ。侵入者発見」「誰か見てたよ!」「こっちに来ます。用心しましょう」エレベーターの中から、手を覆うほどの長袖の白衣を着た男が現れる。「侵入者に名乗るのも変だが、ここまで来た皆さんには名乗るよ。私はクレイジー。専門は融合」「部下がもう一人残っていたわね」「皆さんへの挨拶としてこの子に出てきてもらおう。ひひ」違うエレベーターの中から、ライオンの顔に、サソリの身体を持った獣が現れる。「何だ、これ…」「これは、私の試作品、合成獣だ。記念すべき、初戦の相手をしてくれるそうだよ。存分に暴れろ!ひひ」合成獣が吠え、突進して来る。避ける面々。合成獣がアジトの壁に激突。「化け物…どうやって、こんなの作ったんだ…」「ひひ。気になるかい?教えてあげるよ。獣化は知ってるだろう?普通、獣化は人だけに起こる。でも、獣同士でも起こるんじゃないかと私は閃いた!そこで、ある獣の遺伝子を別の獣に与えたら、別々の獣の力を持つ獣が生まれたよ」合成獣がひびの入った壁から姿を現す。「逃げているだけではだめね」「対策を考えましょう。あれは、おそらく砂漠で戦ったSSとライオンの融合でしょう。SSは水に弱かった。水のネアで守りを解けば、ライオンと同じです」「なるほど。クリス君は頭が良い。手伝おう」「ありがとうございます」合成獣が向きを変え、突進して来る。クリスとソーが奇石を使い、水のネアを発動。「「ギャアオオ」」苦しむ合成獣。「すぐに楽にしてあげるわ。この槍で」レイピアが高く跳び、バステトランスで一突きにする。「すごい、倒した!」「ああ…私の合成獣が倒されてしまった」うなだれるクレイジー。「こうなったら!とっておきの試作品を出そう!」クレイジーがリモコンのボタンを押す。扉から煙が出て、中から裸の男が肩を組む形で合成された足が四本、手が二本、顔が二つの生命体が現れる。「うわ、気持ち悪い…」「待ってください。あの顔の人を何処かで見たような気がします。確か、バカンスシティ…」「嘘だ…」「間違いないわ。あれは、ヘズラさんとバギラさんよ」「ひどい…」「ひどいだって?むしろ、私は願いを叶えたんだ」「今度は獣化とかじゃない。どうやって、こんなことが…」「ひひ。奇石の力さ。ただ、それだけでは無理で、融合する者の意志も必要だ。合成獣は簡単に作れた。でも、人間の場合は簡単じゃない。その人間の意志がなければ融合は成功しない。彼らのように仲の良い者同士ではお互いの良さを高め合ってとんでもなく強くなったよ!危険すぎて近づけない程にね!さあ、メルティジェミニ!やってしまえ!」「「ハハハ」」高速で走るメルティジェミニ。尖った腕がクリスを狙う。間一髪で避け、腕が床に突き刺さる。腕を引き抜き、狙いを定める。「「ハハハ」」「“居合切り”!」クリスの刀は腕で防がれ、蹴られて吹き飛ぶ。「うっ」「クリス、大丈夫?」「はい。ただ手を出しにくいのが難点です」「「ハハハ」」容赦ない攻撃を受け流すクリス。再び蹴られ吹き飛ぶ。「ううっ」「これじゃあ、やられちゃう…」「私がやるわ」「レイピア」「動きを封じてくれれば、私が止めを刺す」「わかりました」「「ハハハ」」攻撃を受け流すクリス。「まだ狙えないわ」「僕たちも手伝わなきゃ…」「いや、手を出さないでおこう」「「ハハハ」」「何だか楽しそうです。その仲の良さ、うらやましいです。僕も見習いたいと思います」クリスの腕だけがトラになり、メルティジェミニの腕を掴む。「レイピア!」「ここね」レイピアの投げた槍がメルティジェミニを貫く。「笑ってます」「本当に仲が良い人たちなんだね」レイピアは槍を回収しに行く。貫通した槍はクレイジーの腹部に刺さっていた。「お前も終わりよ」「ひひ、ひ、次はあれとあれを…おかしい、ちょっと寝よう…」槍を抜き、戻るレイピア。「死んだわ。先に進みましょう」
【ワスト博士との決着】
アジトの最上階。最奥の部屋に入る面々。「よく来た。こんな辺鄙なところへ」「あなたがワスト博士ですか?」「そうだ。私が狂気の科学者、ワスト・シャウトだ」「では、あなたがロニョさんをあの姿に変えた人ですか?」「ロニョ?私は目の前に集中していると、忘れやすいんだ。具体的に話してもらえるかな?」「ロニョさんはゼラチン族と融合させられました」「SONGに助けを求めて飛んできた」「その犯人を僕たちは探しています」「私は狂気の科学者だ。興味の湧く事を突き詰める事が仕事だ。巨大化、洗脳、獣化そして融合。どれも興味が湧き、実験をしたくて堪らなかった。そうだ、私がゼラチン族と人間の融合実験を行ったよ」「…戻る方法は?」「そんなものはない。私の実験は不可逆実験だからね」「…分かった」クリスが刀を抜き、ワストの腕を切る。「う、腕が!痛い!何をする!」「…今までひどいものを見た。そんな事をする人が痛みを感じるのか気になった」「クリス、顔が怖い…」隠し扉から逃げるワスト。「逃げたわよ」「追いましょう」広い場所の脇の長い階段を下りる面々。「あれは、あの時のマシン!」「あれに乗って逃げる気です!」ワストはマシンに乗りこむ。激しい音と風が起こり、飛び去る。急いで外に出る面々。ワストのマシンは木にぶつかりながら飛んでいる。「腕の怪我で上手く操縦できてないわ」追いかける面々。「博士!何処に行くんですか!」「来るな!もう関係ない!何処にでも行け!」「私たちはまだ仲間だと思っています。昔仲間と呼び合っていた関係に戻れるはずです」「もう仲間ではない!もう私と君たちの間には大きな溝がある。もう後戻りなど、今更できぬ!ああ!」ワストのマシンが崖に激突。「さっきの方々!」「あの人を捕まえに来ました」「博士…」ワストのマシンが再浮上する。「そこのネックレスを持つ君!」「え?」「それは、かつて世界を滅ぼしかけた女が身に着けていたものだ。それを持つ君は、私と同じ狂気の科学者の子孫だ」「何を…言ってる…」「つまり、君は、私の“仲間”だ」マシンから放たれた網がサトリを捕らえる。最後の力でマシンは研究施設に飛ぶ。ある実験室。「君には期待している」「何をする気!?」服を脱ぐワスト。「そ、それは!」「そう…。私はサイボーグ。言い換えれば、改造人間」「離せ!僕はサイボーグになんてなりたくない!」「期待にしていたのに…」「勝手に期待されても困る」「そうか…君、シンメンタケゾウは知っているかい?」「…知ってるも何も僕のおじいさんだ」「本当かね!?驚いた。格好いいよね。私は幼い時、彼に憧れがあって一時は剣士を志したものだ。これがその時から持っている剣だ。二本の剣を使うからちゃんと二本ある。ただ、私は体が弱かった。だからね、諦めて科学者になったのだよ」「…」「まさか、君の祖先だったとは。君には剣の才があるのかもね」「ないよ。いとこの子にすべて受け継がれてる」「それは残念だ。いや、やはり私と君は似ている。かつて英雄リンクの宿敵といわれたワスプを祖先に持ち、剣の才がない」「似てなんかいない!自分の実験しか考えていない奴となんか」「仲間に酷い言い様じゃないか」「僕はお前を仲間とは思わない!」「ははは…はっはっは。君は正直者だ。正直者の君にはすでに仲間がいるんだろう。それは、困った時に助けてくれる、相談したら答えてくれる、困難な時には手を取り助け合えるね!なら、仲間はもういらないな、必要な仲間は揃っているからね!」「…そんなことはない」「だったら!私を仲間にできるかね?」「それはできない」「矛盾している!いつも私はのけ者だ…。まあ、仕方ないか。私は狂気の科学者だからね。これで私達は絶交だ。今後永遠に。最後に別れの挨拶だ。さようなら」ワストが改造した胸のボタンを押し、巨大化する。崩れる研究施設。「サトリ!」手だけがウィングエッジになったレイピアに乗ったクリスが手を伸ばす。サトリが手を掴み、背に乗る。瓦礫を避けて外へ出る。「一体どうやって倒せるだろうか」その時、崖のすべてがゴーレムに姿を変える。「ゴーレム…」ゴーレムがワストを殴る。殴り続けるゴーレム。倒れながら背が縮むワスト。そこにウォーリーが姿を現す。「ワストや。痛むのか」ウォーリーに気づき、苦痛な表情が和らぐ。「幻を見ているのか…私も本当は貴方みたいな研究者になりたかった。だが、なれなかった。私は、自分が描いた理想に向かって研究をしていたつもりだったが、それは今思えば、理想なんかじゃない。ただのわがままに過ぎなかった。もう何を言おうと遅いか…。こうなってしまったのもすべて私のわがままのせい、仕方あるまい…。すべて私の負けだ!…すみませんでした、こんなことになって…」「ワストや。わしが見ていた頃は決してここまでするようには見えんかった」「…」「ワスト!」「これからも発明を期待してますよ…」「ワスト。安らかに眠れよ。わしはまだ休んでおれん。大事な大仕事が残っているからのう…」ウォーリーが足音を聞いて姿を消す。駆けつける面々と日陰族。ワストの死を確認する面々。「こうなる運命だったんです」「博士…残念です。いつも期待に沿うために追われるように実験を重ねて…」「期待に沿うって一体誰の?」「博士に資金を提供したある貴族の男です」空を飛ぶ巨大な飛空艇の甲板に立つ男。「博士も利用されていたんです」「じゃあ、その男が真犯人…?」
【ユートピア教】
ユートピア教。世界のどこかにあるとされる平和な楽園を求めて、その存在を信じることで救われるとしている。平和な楽園の呼び名は、場所によって様々ある。ユートピア、桃源郷、ニライカナイ―。デオードシティに伝わる物語がある。かつて大きな地震がこの地を揺るがした。逃げる人々は、安心して休める場所を求めた。逃げ込んだ洞窟の中で、急場を忍んだ。地震は度重なったが、洞窟は比較的安全だった。恐怖を味わった人々は平和な楽園を求めるようになった。その思想を持った人々は、その洞窟を平和な楽園として永住することにした。その洞窟には肌に効果のある鉱質の含んだ水が染み出しており、それを使って人々は長寿になった。この物語が、ユートピア教の起源である。月日が経つにつれて、物語が形を変えて、架空の存在になった平和な楽園を求める宗教、ユートピア教が生まれた。そして、ユートピア教は、ついに平和な楽園を見つけ、動き出した。
【最後の国①】
面々がワストを倒す少し前。ミトコンドリアシティ中心建造部最上階。「ヘンリー、私はユートピア教に入ろうと思う」「何を言い出すんだ、兄さん」「安心してくれ。妻を連れ戻してくるだけだ。あと、可能であれば、内部から壊滅させる」「そんな事を聞いて安心なんてできない」「妻と共に帰って来る。それまで私の代わりを頼む」サンタマリアは、ユートピア教の本拠地へ向かった。教祖は、サンタマリアを歓迎し、告げた。「ユートピアが見つかった。それは、浮遊しながら移動する、この世の理を無視した場所。我らは何としても手に入れたい。その為に、是非とも君の力を貸してほしい」「妻の解放を約束してください。守って頂ければ、幾らでもお貸し致しましょう」「勿論だとも。期待している」ユートピア教の作戦会議にサンタマリアは参加した。作戦は、地上と空中に分かれ、地上から鎖を打ち込み動きを止め、その後空中から占領する内容だった。サンタマリアは地上の組になった。作戦決行の日。車に乗り込むサンタマリア。移動を開始する車。周りにいる信者たちは緊張した面持ちで一言も発しない。サンタマリアも一言も発しない。車は森を走る。人影が見えて、外を覗くサンタマリア。それは息子クリスだった。「止めてくれ!信者が外にいる」サンタマリアがクリスに近づき、言う。「クリス。何も言わずついてきなさい」「父さん!ちょっと待ってください!この車、ユートピア教の…」「ああ。母さんを取り戻すためだ」「母さんを…」クリスは面々に言う。「すみません、そういうことなので…」「クリス…」車に乗るクリスとサンタマリア。「行っちゃった…」「追うわよ」レイピアは腕をウィングエッジの翼に変える。面々は上空からクリスを追う。
【最後の国②】
レクイエムは活動を急いでいた。「今世界の危機はどんどん拡大している。世界の危機はSONGの危機だ。世界の完全な統一を急がねばならない。それが出来るのはレクイエムだけだ。という、グレート様のお告げを全うするぞ」「「おー!」」雲の上の国クモリテ。浮遊しながら移動している。「反重力物質という科学技術を利用して雲の上に浮いているらしい。“選ばれた者”と名乗り、“神”の役割として地上の観測を行っている。訳の分からない国だ。最後の独立した国。ついに世界の完全な統一が実現する時だ」レクイエムのマシンが勢いを上げる。雲の上にクモリテが姿を現す。「信じられない。本当に浮いている。それも終わりになる」その時、レクイエムのマシンが攻撃を受ける。「何だ!」レクイエムのマシンを襲ったのはユートピア教の飛空艇。墜落するレクイエムのマシン。ユートピア教教祖が言う。「我らの楽園を落とされては困る。邪魔者がいなくなった。後は地上の組を待とう」その頃、地上の組は配置に着いていた。「作戦決行だ」約10台の車から格納された鎖が放たれる。クモリテの底部分に突き刺さり、動きが止まる。「作戦第一段階成功だ」「父さん、母さんは連れ戻せるのでしょうか?」「この作戦が成功すれば連れ戻せる」空中の組は動きが止まるのを確認する。「楽園を手にする時だ」飛空艇がクモリテに上陸する。「ここは我らユートピア教の本拠地とする!反対の意志を持つ者は直ちにここを降りよ!降りないのであれば信者とみなし、我らに加わってもらう」クモリテの人々が鎖を伝い降りていく。「そうか。その為に鎖を」降りて来るクモリテの人々を見て言うクリス。「ああ。誰も死なずに占領する。それが作戦成功の必要条件だ」鎖が揺れる。「鎖は合金で出来ている。揺れるはずはない。国が動く以外は…」レクイエムが再浮上する。「誰か知らないが、任務の邪魔をする者は排除する」逃げるユートピア教の信者。その中にいた目を布で覆った女が槍を投げる。レクイエムのマシンの射撃口を破壊する。「くそ!こうなったら、直接手を下すしかない」その時、新たな飛空艇が現れる。「今度は何だ!」高級な指輪を付けた長い髪の男が言う。「SONGの裏の顔だな。ここで統一は止まる」飛空艇の激しい射撃。逃げる人々。墜落するレクイエムのマシン。上陸する飛空艇。茫然とするユートピア教教祖に男が言う。「手を組もう。そうすれば、ここを本拠地として使える。この話受けるか?」「はい。ところで、あなたは?」「おれは、この世界に反感を持っている者の集まった組織の首領、グボアギ。これから戦争を始める男」様子を見ていた面々。「何か大変なことになってる…」「レクイエムもやられたわ」「悪いが、上陸してもらえるかな?」「どうしてですか!?あんな危険な所に…」「君たち、SONGだろう?救助しなくていいのかい?」「そうね」「レイピア!」上陸する面々。「ありがとう。君たちとはここでお別れだ」「何でですか?」「実は私も彼らの仲間なのさ。旅は楽しかったよ。お礼に何もしない」歩いて去るソー。「そんな…」「私たちは救助が先よ」怪我人を担いだ盲目の騎士の女が近づく。「乗せて頂戴」「わかったわ」それに気づくグボアギ。「逃がすな!」砲撃が面々を襲う。「わあ!!危ない!」盲目の騎士が言う。「君!君が担ぐそれ!使って!」「あ、そうか」サトリは奇石を取り出す。「僕たちが逃げれるように、風よ起これ!」大量の奇石が反応し、凄まじい嵐が巻き起こる。「逃げるぞ」グボアギらを乗せた飛空艇が一時避難する。逃げる人々は嵐に巻き込まれる。ただ、嵐は人々を運ぶように移動し、地面に置くように弱まる。面々も無事降り、クリスと再会する。鎖が砲撃に破壊され、クモリテが移動を再開する。茫然とする面々。デオードシティの者たちもこの光景を見ていた。「世界が破滅に向かっておる」
【最後の国③】
面々に話し掛けるサンタマリア。「君たち、クリスがいつも世話になっているね。ありがとう」「いえ。僕たちはいつもクリスのやさしさと知識に助けられています」「そうか。申し訳ないが、もうしばらくよろしく頼むよ。私は行かなければならない」ユートピア教の車に乗り込むサンタマリア。飛空艇が飛んでくるのが見える。(作戦は失敗した。妻を助けることは出来ないこの状況を受け入れることは出来ない。君との別れの時だ)(勘違いしているようだ。我をはじめとする<欲望>と別れることは出来ない)(そうだ。それは受け入れよう)(受け入れられないものまで受け入れると厄介なことになる。貴様は人間の中では強い。自信を持つがいい)「自信なら持っている」サンタマリアは持ち歩くケースを開く。中から、斧を取り出す。サンタマリアの車から他の信者が吹き飛んで出て来る。「裏切り者だ!逃がすな!」勢いよく発車する車。「父さんが危ない!皆さん、協力してもらえますか?」頷く面々。飛空艇が砲撃を発射。車を目がけ進む砲弾。横から炎が炸裂し、直前で爆発。他の車が体当たりして止めにかかる。直後、洪水が他の車だけ押し流す。残るは飛空艇のみとなる。再び砲撃が発射される。直後起きた突風で砲弾が飛空艇の真下で爆発。バランスを崩した飛空艇が落下し爆発。サンタマリアの逃走は成功。「皆さん、ありがとうございます」「ちょっとやり過ぎちゃった…?」「敵も砲弾を撃ってきた。やらなければ、こっちがやられていたわ」「君たち強い。私も強いよ。仲間に入れて」「良いですけど…あなたは?」「盲目の騎士、パキラ。よろしく」「よろしくお願いします。その服、貴女も信者ですか?」「私もあの逃げた人と同じで、壊滅させようとしていただけ。もう信者はお終い」「あなたも槍を使っていたわね」「ああ。君の持つ槍も良いオーラが出てる。良い槍だ。そういえば、私の槍、突き刺したままだった。取りに行って来る」「僕たちも行きます」「あの…私降ります」パキラの担ぐ怪我人が言う。「怪我人を置いていけない」「罰が当たったんです…私たちだけ被害も受けず、逃げるような真似をしたから」「一体何があったんですか?」「私たちはワスト博士の研究所で働いていた者です」「「ええ!」」「ある実験で他の研究員が光を浴びれないようになったんです。私たちは怖くなり、仲間を見捨て、逃げたんです」「そうだったんですか」「それにしても、どうやって空を飛んでるんだろう?」「あれは、奇石の力で浮いているんです」「「奇石!?」「はい。ワスト博士には部下が5人いて、奇石を専門に研究する人がいました。彼は研究所を去りましたが、研究に使った物を残していきました」「それが、あの国ね」「そうです…奪われてしまったので、彼らに会ったら謝ることが増えました」「その人たちなら、この森の奥にある谷にいます」「本当ですか!…やっぱり降ります」怪我人は倒れる他の仲間に声をかける。彼らは谷に向かった。「おーい、追いついたぞ」「ロンド!ヨーさん、あと貴方は…」「ジョーだ」「お前らを追いかけてたら、たまたま刀だらけの所に着いた。そしたら、案の定この男がやって来た」「暇だったから仲間になってやることにした」「頼もしい仲間が増えましたね」「ヨーちゃん、ロンドと二人で大丈夫だった?」「大丈夫アル。むしろ二人きりの生活が出来て幸せだったアルヨ😍」「この方は、パキラさん」「どうも。よろしく」「強そうなオーラを感じる」「君も強いオーラ出てる」ジョーとパキラが通じ合う。「あれ?ナタリーとライラがいないぞ」「ロンドと別れた後もいろいろな事があったんです」「そうか。まあ、生きてればいつか会える。あのシルクハットのおじさんもいないぞ」「言いにくいのですが、あの人は敵組織の仲間だと言って去りました」「敵組織?」「首領の男がこれから戦争を始めると言っていました。飛空艇を所有しています」「もしかすると、あの人が、ワスト博士を利用した人なのかな…?」「おそらくそうでしょう」「誰だか知らねえが、やばい奴だ。やばい奴は倒す」頷く面々。
【宣戦布告】
クモリテ上空。飛空艇甲板でグボアギが言う。「ユートピア教め、もうやられた。ドクターワストも死んで、仲間が増える事は喜ばしい事だった。仕方ない。予定通り宣戦布告を行うとしよう」側に控えていた男と女が答える。「「首領の意志のままに」」操縦室。男が鍵を開け、ボタンのついた装置を取り出す。「いいか。これには順番がある。邪魔するなよ」「わかってるわよ。うるさいと、食べちゃうわよ」「やめろ!ただでさえ、邪魔なのに、僕の苦手な血がいつも口に付いている女はこれ以上なく邪魔だ。なぜグボアギ様は、引き入れたのか…」「私が魅力的だったからよ」「わかった、わかった」返事をしながら、操作する男。「出来た。これで届いたはずだ」SONG本部総司令室。アンドロイドが受信する。「『SONG諸君。世界統一を進める裏の顔の存在。それは統一といってはいるが、占領ともいえる行為。過激な行為を取るSONGに対して反旗を掲げることにした。只今をもって宣戦布告する。首領グボアギ』…」「総司令官殿。お気を確かに」「ああ。直ちに隊員を集める必要がある。私は、奇襲に備えてここに残る。頼んだぞ、ナイル」「了解いたしました」「そうか。この首領の男の仕業だったのか」画面にボロボロになったレクイエムのマシンが到着したのが映る。グレートが向かうと、中から面々とレクイエムが出て来る。「君たちも一緒か」「グレート様。報告します。最後の国クモリテの統一に失敗しました」「そうか。襲撃を受けてよく無事に戻って来た」「情けないです。しかし、なぜ、その事を?」「たった今敵組織の首領の男から連絡があった。宣戦布告をする、と」「宣戦布告…」「受けるのか?」「無論私たちSONGは全力で応じるつもりだ」「それはつまり…」「戦争が始まる、ということだ」飛空艇甲板。「今から撃つ鏑矢が合図になる」男から矢を受け取り、弓に構える。鏑矢が上空に放たれる。「戦争を開始する」
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