第3話 ミク・カゴセ
俺は蓬莱さんに引っ張られて、新東京の街を勢いよく走ってゆく。
「......蓬莱さん、いつまで、走る、の......?」
「えーと......あと200mくらいかなー」
レーダーを覗きながら、彼女はそう言う。
「......えぇ?!」
まだそんなn
待て、蓬莱さん今両手塞がっているじゃないか!!!なんでそれでこんなに早く走れるんだよ!!!怖い!!!この不審者さん、怖い!!!!!
思わず身震いをする俺。
......ん?
......俺は今、何で身震いを......?
言葉にしづらいのだが......身震いをするほど怖くは感じなかったのに、なぜか身震いをしてしまった......?
スタスタスタ......
「ふふふ......感じてきたでしょ......?もう少しだよ、光太郎......!」
......幸い、その違和感の理由はすぐにわかった。
本当に、俺の周りの気温がどんどんと下がっているのだ!!!
今は真夏だからかなり快適だが......それにしてもこんな屋外のど真ん中で......不気味である......
「これは『氷の石』だねー。盲点だったよ!こんな少し暑いくらいの場所にあるなんて!!!」
「えぇ.....?!!」
蓬莱さんは、レーダーをちらりと見て、さらにスピードを上げていく......!
「『氷の石』はここから直線50m!こんな人混みの中なら、石が単独で置いてあるとは考えづらい......!!!」
スタスタスタ......
「だから、『氷の石』は、この人混みの中、レーダーが指す位置にいる人が持っているってこと!!!」
スタスタスタスタ......
「そしてレーダーが指す位置にいる人というと......(顔を上げる!)あそこにいる、小さな女の子!!!間違いない、あの子が持ってるよ!!!」
思わず俺も顔を上げて前を見る......
......いた!!!薄い水色の綺麗な髪を肩上まで伸ばしたボブにした、140cmちょいの小さな女の子が......!!!
ん、待てよ、あの子、真冬並みに厚着をしている.....?今真夏なのに......
そんなことも構わず、蓬莱さんは背後から女の子に向かって突っ込んでいく......
スタスタスタスタ......
「つーかまーえたーーー!!!」
ガシッ
「!!!......触ら、なっ!!!」
蓬莱さんと......手を握られたままの俺は、そう言われて投げ出される......
視界の中で世界が回るその刹那、彼女と目が合った。
アクアマリンみたいな澄んだ瞳をジト目にした、身長相応の顔が見える......
冷たい......
寒いというより、冷たい感覚が全身を覆う......
これが蓬莱さんが言う、『氷の石』の力......?
\ドサッ!!!/
蓬莱さんはそのまま、俺を下敷きにする形で道端に倒れた。
周りの人は、厄介ごとに関わりたくなさそうな顔で見ていないふりをする......
「......あ、ごめん、なさい......」
水色の彼女が、下を向きながら申し訳なさそうな顔で近づいてくる。
そのとき!蓬莱さんが素早く俺の耳元に口を近づけて、ちょっと低い声で囁いた!!!
だから何なんだこの不審者さんは......!!!
(気を付けた方がいいよ、光太郎。『石』の力を舐めてはいけない。もし彼女が『氷の石』の力を使いこなしているとしたら......とても危険だ。)
(えっ?危険......?)
そして勢いよく立ち上がる蓬莱さん。下に俺がいることをもう忘れているのだろうか?痛いんだけど......
「いいのいいの!でも一つだけ......ちょっと話があるんだ。」
そう言って蓬莱さんが女の子の肩に手を置いた瞬間......
[[[ぞわっ。]]]
俺は、今までに体験したことがないくらいの恐怖を覚えた。
蓬莱さんの目が......今の一瞬で死んだんだ。
顔は笑っているのに......目だけを一瞬で殺した。そんなこと......できるだろうか?
......蓬莱さんは、やっぱり......?
......とにかく、その感情は女の子も同じだったようで......
「......ぁ、ぁあ......」
ただでさえ色白な顔を真っ青にしてガタガタと震え出していた......
「......ん、ごめん。怖がらせちゃった?」
素早く目を生き返らせて、こう続ける蓬莱さん。
黙って震えながら頷く女の子。
それを観察する蓬莱さん。
「......まぁ、こんなところにいつまでもいるわけにはいかないし、ちょっと場所変えようか。......家、どこ?」
恐怖を武器にして住所を聞き出す、だと!??......ここまできたらもう、不審者の王様、だな......逆に憧れちゃうよ......
「......ぁ、ぁ、すぐそこ、に......」
「そうかそうか、じゃあそこで話そう。......(クルリ)、光太郎、行くよ。」
えっ?
「......?」
彼女が疑心暗鬼な目で俺を見てくる......もしかして俺、この不審者さんの仲間だと思われてる......?
――――
あれから俺たち3人はしばらく歩いて、女の子の家にたどり着いた。
小さなアパートの1室で、かなり整理整頓がされている印象の、ごく普通の部屋だ。
ただ一つ、でかいストーブが置いてあることを除いて。
繰り返すが、今は真夏である。さっきからの厚着といい、さっきからずっと効きすぎた冷房並みに寒いし、彼女の身の回りはやっぱりおかしい。
......この歳で独り暮らしもしてるし......この女の子、いったい何者なのだ?
「......席、どうぞ。あ、お茶、とか......」
「いや、大丈夫。すぐに終わるから......」
......そう言って蓬莱さんが、彼女の対面に座る。俺は何だか居づらかったので後ろに立って、この事態を静観することにした......
「まず......名前を聞かないとね。名前、何?」
「......
「......?」
「......あの......あたし......ノルウェー国籍で......だからです......」
ノルウェー!??
「ノルウェー?......にしては何というか、ち......日本人、っぽく見えるけど......」
今絶対「小さい」って言いかけただろ......でも確かにカゴセちゃんの容姿は目と髪の色以外は完全に日本人のそれ、だというのは事実だ。それなのにノルウェー......?
「......あっ、疑問に思いました......?じゃあ、説明しますね。」
あっ、なんか始まった。
「まずあたしの両親はどちらも日本人です」
「うん」
「そして両親はある時、ノルウェーに移住しました」
「うん」
「そして2人ともノルウェーに帰化したんです」
「うん」
「その後に生まれた子供が、あたしです。」
「おー」
「だからあたしは、見た目日本人のノルウェー国籍なんです。わかりましたか?」
「なるほどわかった」
「よかったです。」
ジト目から少しだけ開いてニッコリと笑うカゴセちゃん。普段はジト目だけど、割と表情は豊かのようだ。
[[[ブルッ。]]]
......相変わらず、寒いけど。
「でも、それならノルウェー育ちなんじゃないの?日本語、上手だね。」
「......家ではずっと日本語でしたし......漫画もたくさんあったから......いつの間にか話せてました。」
「ふぅーん、じゃあノルウェー語も?」
「Kan snakke.(話せます。)」
「なるほど。......あ、ちょっといい?......さっきは断っちゃったけど、お茶、お願いしていいかな......?」
「あ、別にいいですよ......アイスしか出せないですけど......」
「いいのいいの。ごめんね、気を遣わせて。」
不安そうな顔で席を立つカゴセちゃん。
場に残される俺と蓬莱さん。
ちょっと暖かくなる空気。
(......クロ:シロの確率は、1:9ってとこだねー。)
(......突然どうしたの?)
(いや、あの子が本当に『氷の石』の力を使いこなしているのか、っていうこと。そしたら......『石』を手に入れるために戦わなきゃいけないかもしれないからね。)
(......縁起でもないこと言うなよ......)
(ふふふ、大丈夫だよ。その線はかなり薄いから。さっきの、見たでしょ?もし彼女がクロだったら......あの程度の恐怖に
(あぁ......そう。)
(ただ、私も一か所だけ不自然に思うところがあってねー。あの子と話しているとき、ずっと寒かったじゃない?あれ、ずっと『氷の石』を身に着けている、って証なのよ。『氷の石』に限らず、『石』っていうのは人が身に着けて初めて一気にその力が解放されるものなんだけど、)
(そうだったのかよ)
(そうなんだよねー。だからあの子がずっと『石』を身に着けているってことは、ほぼ確定だと思う。だけど、あの子が『石』の力も知らずにずっと『石』を身に着け続けているって......おかしくない?)
(......確かに。何の得もない......)
(そうそう。やっぱり光太郎は勘が鋭いね。『氷の石』を身に着けていると......周りが寒くなる。周知の事実だ。傍にいる私達だってここまで冷えたんだし......一番傍にいるあの子が、大丈夫なわけないよね?)
(......でもどうせ、その代わりにその......『氷の石』の力、というやつを使えるようになる......そうだろ?)
(当たり。でもあの子は見た感じその力を知っていそうにない......だから実質メリットはゼロ......でも『石』はずっと身に着けている。......不思議だね。ちぐはぐだよね。......本当に不思議だよね。)
(......その話し方、やめて......)
(ふふふ、ごめんね。......あっ、また寒くなってきた......静かに。)
(......)
「......どうぞ、緑茶です。(コンッ......)あ......貴方も、どうぞ。」
え、俺?
「......ありがとう。」
俺はカゴセさんに近づいて、彼女の手に握られたグラスを取った。
その拍子に2人の手が、軽く触れ合う......!
氷に触れた感触。
「......!??」
......条件反射的に手を遠ざける俺。何だ、今の手の冷たさは......!
まるで、氷のような......
「......何か、変なところでも......?」
今までで一番のジト目でこっちを見てくるカゴセちゃん。
思わず目を伏せ、氷もないのにキンキンに冷えた緑茶をすする俺。
「大丈夫大丈夫。ごめんねこんなツレで。」
ツレ言うな不審者!!!!!
「緑茶、ありがと。それじゃあ......本題に入ろう。」
と、急に声が低くなる。
すでに物理的に凍りかけていた空気が、精神的にも急速冷凍された。
カゴセちゃんも思わず、半分に閉じかけた目を見開く......!
「単刀直入に言うね。『氷の石』、どこ?」
......物凄いプレッシャーを感じる......後ろから見ているだけの俺すらここまで感じるのだから......真正面からまともにそれを受けているカゴセちゃんの気持ちは......本当に、心中お察しします、といった感じだ......
というのも、俺も似たような状況になったことがあるのだ。
――――
「黙れ、光太郎......(ニチャァ)」
――――
......嫌だ嫌だ!!!思い出したくもないよあんなこと!!!
......まぁ経験者から言わせてもらうと、大事なのは無理に抗おうとしない、ということだ......圧倒的な力の差があるので、全くかなわないばかりか、不必要に精神を傷つけてしまう恐れがあるから......
「......」
......幸い、カゴセちゃんはそのプレッシャーに抗おうとはしなかったようだ。ゆっくりと、口を開いた......
「......ぁ、ぁ、......飲んじゃい、ました......」
............え?
「......へ?」
何だって?
「「......『飲んだ』???」」
DEVIL BREAK Androidbone @FRICAKE_UNIT
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