第1章 『氷の石』
第2話 新東京
「ごめんねー、光太郎。」
「......」
「ごめんってー。」
「......」
「......もしかして、怒ってるー?」
「......」
怒ってはいない......ただ、疲れているだけだ。
......俺と蓬莱さんは......今、新東京のビル街にいる。
荒野には照り付けるような暑さがあったが、都会はそれとは違って、蒸し暑い......
ただ、そんなに「暑く」はないのだ。ムシムシはするけど......なぜならさっき言ったように、今年は記録に残る冷夏なのだ......ずっと冷夏であればいいのに。今の気温、結構快適なんだけどなぁ......
......さて、「新東京」とは何なのか説明しないと。「新東京」とは、「天魔戦争」で大打撃を負った東京が再建されるにあたって、改名した都市だ。我が家もここにある。
......まぁつまりは、ほぼ東京だと思ってもらって結構だ。
......でも、さっきまで荒野にいたはずの俺たちが、どうしてここにいるのか?
話は今朝にまで遡る......
――――
「ドヤァ」
――――
「うわあぁぁぁ!!!!!」
起きてしまった......今、何時だ?
「......お、はよ......」
「......おはよう。」
「......光太郎、朝早いねー。」
「......ありがとう。」
彼女の寝相は意外に良かった。でもお姉ちゃん以外の同年代の女性の寝起きを見るのなんて今日が初めてだから、何だか恥ずかしくなってしまう......
「......ご飯、食べよ。」
「......」
ありふれた内装の部屋に、高校生に見える男女が二人。
傍から見たら羨ましい光景だろうが、俺は目の前の彼女のことを全く知らないのだ。
恥ずかしさと不気味さが変に混ざり合って、夢の中にいるような感覚になる......
「......朝になったことだし、『魔力』、入れてみようよ。」
「......『魔力』?」
「ほら、あのレーダー。『魔力』入れたら動くからさー。」
「......動いたら、どうなるの?」
「相変わらず愛想悪いねー。まぁいいけど。説明してあげるね。」
「......」
「本当は『石』があれば魔力なんて使わなくても動くんだよ、これ。『石』自体に十分すぎる量の魔力があるから。」
「うん......」
「あとね、特定の『石』があれば、それに対応した別の『石』の位置が詳しく分かっちゃうんだよ。『炎の石』があれば『氷の石』の位置が分かるし、
『氷の石』があれば『風の石』が、
『風の石』があれば『大地の石』が、
『大地の石』があれば『空の石』が、
......そして、『空の石』があれば『炎の石』の位置が分かる......って具合にね。」
※つまりは、こういうこと。↓
炎の石→氷の石→風の石→大地の石→空の石→炎の石
「ちょ、順番滅茶苦茶じゃねえか!!!覚えられるかよこんなもの!!!」
「やめて!!!、そこ私も納得しきれてないところだから!!!この順番、どう考えてもおかしいよね!!!でも事実だから!!!事実だから仕方がないことだから!!!認めて!!!......この不条理な世の中を、認めて!!!」
「不条理な世の中とか、大げさな......」
「......ふふふ、確かにね。取り乱しちゃった。説明、続けるね。」
「うん......」
蓬莱さんは相変わらずで、ちょっと怖い......
「『石』があれば話は別だけど、今は『石』がないから『どの石がどこにあるか』まではわからなくてー、『一番近い石はどこか』、ってことくらいしか分からないのよ。」
「......『石』の種類まではわからない、ってこと......?」
「そうそう。物分かりいいね~」
「......」
「でも、ちゃんと場所はわかるから!こうやって魔力を入れて~、」
ブゥン
「ほら点いた!」
早速画面を覗いてみる。すると、画面には......
――――
「......まさかここが写ってたとは、ね。」
「......」
「いや、本当にごめんねー!灯台下暗し、というか、そういう感じ?......あと、青い鳥?そうだ、そうだよね!『幸せは一番近くにある』って......」
「......もういいよ怒ってないから......」
「うぅん......まぁいいか!あと4つの石もどうせ一緒に探してくれるもんね!」
「......」
何を勝手に......
「......とりあえず、折角戻って来たんだから家行きなよ、光太郎。数日間留守にしてたんでしょ?」
「......いや、大丈夫。」
......と、こんなことを言っているが、俺は別に家が嫌いなわけではない。むしろ大好きな方だと思っている。
ではなぜかというと、実は今は家には誰も居ないのだ。
俺とお姉ちゃん、お父さんの3人家族なのだが、お父さんは長期出張でもう1か月くらい前から居ないし、お姉ちゃんは......同人誌即売会に行くために、1週間前から家を留守にしている。(どんな茨の道だよ......)確かお姉ちゃんは明日には戻ってくるはず、だけど......
「......ふぅーん。ならいいや。」
「......」
......今は学校も夏休み中だし、数日間旅に付き合わされたにもかかわらず、実は俺の実生活においてのダメージは、ほぼ0なのだ。
「でもさ、ここに住んでるってことはちょっとは詳しいでしょ、光太郎?私ここに来るの初めてだからさー、ちょっとこの街、案内してくれない?」
はぁ!!?
――――
「ほぉ、ここがゲームセンター......?」
「......俺が行くようなところ、ここくらいしかないから......」
「いいんだいいんだ、結構面白そうじゃん。」
――――
(♪~)
「あー、あー、全くできないー......凄いね、光太郎。」
「......初めてにしては、上手い方だよ......っていうか、話しかけないで......」
――――
「これ、いいね。やめられない感じがキモチイイ......」
めっちゃ目が輝いてる......メダルゲームをここまで楽しんでいる人、初めて見た......
――――
「慣れたら楽だねー。」
\ジャラジャラジャラジャラ/
いや、上達早すぎるだろ!!!
――――
「楽しかった。他にはないの?」
「......ない。俺が知っているところは......」
「ふーん、残念」
【瞳の好感度が、10下がった。】
「何だよそれ!!!!!」
......と、その時だった。
ピピピピピピピピ......
「うん!!?」
「えっ??」
ショルダーバッグから聞こえてくる......これは?
蓬莱さんのレーダーが......鳴っている?
と、さらに次の瞬間。
「光太郎、走るよ!!!」
「えっ、ちょま」
俺の返事も待たずに、蓬莱さんは俺の腕を握って走り出した。
ビューーーン!!!
凄い速さだ......風を切る音がはっきりと感じられる......
「ちょ、な、何が......?」
「あのアラームはねぇ!......あのー......すぐ近くに『石』があるってことをお知らせするやつ!!!」
「はぁ!!?」
「まさかこんなすぐそばに『石』があるとはね!!!千載一遇のチャンスだ!!!急ぐよ、光太郎!!!しっかり掴まってて!!!」
先に説明しろって......!
相変わらず凄まじい速さで、瞳と俺は人混みをすり抜けながら走っていく。
近くにいる男子高校生から嫌な目をされるのが感じられる......
そりゃそうだ、傍から見れば俺たちはただのカップルなんだから、そして今の状況は、「強気な彼女に手を握られて無理やり引っ張られる内気な彼氏」というまるでフィクションのような状況なのだから。嫉妬するのも無理はない。俺だって嫉妬するさ、こんな光景を見たら......でも実際は違う!!!
俺と蓬莱さんはカップルでも何でもない!!!
ていうか知り合いですらない!!!まだ蓬莱さんは俺にとっては、手から炎とか出したり、『世界を救う』とかぬかしているただの不審者!!!
俺は不審者に連れ去られようとしている、可哀想な人なの!!!
わかって!!!無理だよね!!!あー!!!ちくしょー!!!
どうして俺は、毎回こうも損な役回りなんだーーーーー!!!
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