第1話 蓬莱 瞳
謎の少女、蓬莱 瞳。
何故か彼女の旅に付き合わされている、ごく普通だった高校生の、俺。
よく分からない二人組は、どこかも分からない荒野の真ん中で、夜を越していた。
「......ここ、荒野だよね......」
「そうだよー。快適な世の中になったもんだよねー。」
そして、俺たち二人は、頑丈な家の中で適当に会話をしている。
......蓬莱さんはベッドに寝転びながら、俺は椅子に座りながら。
......違和感を感じただろうが、まごうことなき真実である。
「『折り畳みハウス』拾い物だけど、超便利だよねー。もう今の時代の旅人の必需品になってるんだよ。」
「......旅人界隈も、進化しているんだね......」
「そ、そ。快適なだけじゃなくて、他にも便利な機能がたくさんあるんだよ、この家。例えば内装をこうやって簡単に......」
......本当に適当な会話だ。でもこういったとりとめのない会話は、退屈を紛らわしてくれるから旅においては意外と大切だ、と蓬莱さんが言っていた......
そんなこんなで1時間ほど経って......
「......そろそろ話題が尽きてきたね。」
「......」
「......会話が続かないと、なんか不安になっちゃうからさ......何か質問とか、ない?」
それ、本気で言ってる?勝手に連れ出しといて......
じゃあ......聞いちゃおうかな。色々と。
「っていうか『世界を救う』って言うけど......」
――――
『あたしはね、世界を救うために旅をしてるんだよ。(ドヤァ)』
――――
慌てて頭の中をハックしてきた蓬莱さんの顔を振り払う。
あのドヤ顔、謎に記憶に残るからやめてほしいな......
「『世界を救う』って言うけど......具体的にどうやって救うの......?」
「おっ、いい質問だね」
瞳はそう言うと、ショルダーバッグの中をあさって、変な機械を取り出した。
本当に変な機械だ......図鑑くらいの大きさをしているが......上半分にはモニターが、そして下半分には
何かビー玉サイズのものを入れられそうなくぼみが、正五角形の頂点の位置にそれぞれ配置されている......
もしかして、ここのくぼみに......
「今、こう思ったよね?」
......ん?
「『もしかして、ここのくぼみに球形の何かを入れるの?』って......(ドヤァ)」
噂をすればそのドヤ顔......!!!でも、図星だったか......
「これは私が夜なべして作った、その名も『石探知レーダー』!」
ババーン。
「......『石』?」
「あ、ただの石じゃないよ。化石とかでもなく......」
と、蓬莱さん、ここで不自然に黙る。
「......どうしたの?」
「......不思議な力を持った、魔法の『石』を見つけることができるんだ。(ドヤァ)」
溜めてただけかよ!!!
とにかく、もう数日は夢にあの顔が出てくることが確定してしまった......普通に可愛いから悪夢にはならないことが不幸中の幸いだけれども。
「......魔法の、『石』......?ここ、現実世界だよ......?」
「やめて!!!現実世界に唐突に魔法の『石』とか、何でもありもいいとこだよね!!!分かってる!!!こっちもよくわかってるから!!!でも事実だから!!!認めて!!!......この何でもありな世界を認めて!!!」
「......お、落ち着いて......」
「うん、落ち着いた!」
「うぅん!??」
蓬莱さんにはこういう、やや情緒不安定なところがある......普通に怖いよ......
「......で、その魔法の『石』っていうのは、何なの......?」
一気に蓬莱さんの顔が変わる。「よくぞ言ってくれました!」と言いたげな顔だ......
「ふふふ、よくぞ言ってくれました!説明してあげましょう......」
やっぱり情緒不安定だな......
――――
「魔法の『石』というのは、このレーダーのくぼみの部分にはめるものでね、」
「......」
「......聞いてる?」
「......聞いてる。黙ってるけど聞いてるよ......」
「あぁ、わかった。で、魔法の『石』は、このくぼみの数からもわかるように、全部で5個あるんだ。
『炎の石』
『氷の石』
『風の石』
『大地の石』
そして......『空の石』の、5つね。」
「......何と言うか......微妙なラインナップだね......」
「私もそう思う。でも最初からこの5つでやってきてるから......誰かが脱退したわけじゃないから、受け入れて。ありのままの彼らを......」
「......何言ってるの?」
「あぁ、いや、何でもない。続けるよ。」
「......うん......」
「この魔法の『石』っていうのは、それぞれの属性の力を持ってるの。俗に言う......『石』の力、ってやつだね。
『炎の石』だと炎の力を使えるようになって......あ、私の炎は違うよ?あれはまた別の手段で出したやつ。」
「......」
「......とにかく、そんな感じで『石』を持ったら、その属性にちなんだ強力な魔法が使えるようになるの。」
「......」
「ちゃんと聞いて......」
「る。」
「よかった......いや、疑ってるわけじゃないけど......よかった。」
「......」
「続けるよ。......でも『石』の本来の力は、それじゃないんだ。」
「......?」
「最近、異常気象が増えたと思わない?」
「......確かに。今年の新東京は記録に残る冷夏だ、って聞いたことあるな......」
「それね、『石』のせいだよ。」
「......?」
「もともと、『石』っていうのは一つにまとまっていたものだったの。」
「......そうなの?」
「そうそう。地球の奥深くでね。この地球上のすべての森羅万象を司る巨大な石、『
へぇ......
「でもあの時......『天魔戦争』のせいで、地下深くにあった『
「あ、それが魔法の......?」
「そういうこと。もともと一つだったものが不規則に割れて『石』になったから、あんな中途半端なメンツだった、ってわけ。納得してくれた?」
「うん......」
そういうことね......
「当然、不完全な『
「......」
「今は何とか大きな災害は起きずに済んでいるけど、今のままの状態がずっと続いていれば、いつ何が起きるかもわからないじゃない......?」
「......」
「だから私は、散らばった石を全部探して、『
「なるほどよくわかったよ」
「......ドヤ顔、させてよ。」
――――
「......で、『石』を探すためにそのレーダーを作ったんだよね?......蓬莱さんは。」
「そうだよー。」
「でも......ぱっと見......」
「うん?......動いてないね。」
何で他人事なんだよ......
「動いてないなら.......意味ないような気がするけど......」
「あー、それはね、大丈夫だよ。」
「......?」
「『魔力』っていうものがあってねー。それさえ用意できれば動くんだよ、これ。」
「『魔力』......?」
「簡単に言うと......『
「うん......」
「あの戦争で『
「......」
「あれはね、地上に漏れ出た『魔力』が溜まって形になった、新しい生物なの。これぞ『魔物』っていう感じだよね。」
「......」
「でも今回キーとなるのはあの魔物なんだよ。さっきあれは『地上に漏れ出た『魔力』が溜まって形になった』って言ったよね?」
「......」
「つまり、あれを倒せば『魔力』が溜まるっていうことなの。」
「......なるほど。」
「ちゃんと理由あるんだよ。意味もなしに殺生なんてしないって~(笑)」
「ふぅん......」
「とにかく、『魔力』さえ入れればレーダーは動くから、安心してよ。」
「......」
「......今、つける?」
「いや......今日は遅いからもういい。」
「わかった、おやすみー。」
「おやすみ......」
蓬莱さんは、そのまま寝てしまった......
部屋にベッドは一つしかない......
はぁ、俺は床で寝るしかない、のか......
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