冬の国の話終章2「蒼い衝動」
~
冬美「…ん、アルエル。おはよう」
アルエル「おはよう冬美」
冬美の一室…今は朝を迎えていた。ちょうどいい時間に目覚めた
アルエルは昨日のことをずっと思っていたが、眠気が来たらすっと寝ていた
冬美は自分のベッドで寝て、その隣にアルエルは寝た。ちょっと窮屈だが全然問題は無かった
冬美「さ、今日も大学あるでしょ?朝ごはん作って行きましょうね」
アルエル「…うん!」
アルエルは昨日のことを忘れるかのように笑顔で返事をした
朝食は冬美が作った。アルエルは朝食を待ちつつテレビを見ていた
こんなのんびりとした時間が流れるのは初めてだろうか。いつも天使協会では慌ただしく朝食を食べてた気がする
恋人と一緒だからこそ…こんな幸せな時間が過ごせるとは。そう思ったアルエルだった
冬美「はーいできたわよー」
冬美は朝ごはんができたみたいだ。白米、味噌汁、そして鮭。冬美はこんな手際よく作れるなんて。アルエルは驚いた
アルエル「…ありがとう。いただきます」
アルエルは冬美の料理に感謝しつつ、白米から食べた。美味しい。ただそれだけの感想である
冬美「白米はまだあるからね」
アルエル「え、まだあるの?」
冬美「うん。貴女いつもパンじゃない?白米の美味しさを伝えたいからちょっと多めに炊いたのよ」
アルエル「そうだったわ。白米も好きだからどんどん食べるわ」
冬美「…」
彼女は今まであまり白米を食べてなかったのか。あの母じゃ白米をぐちょぐちょに炊いて白米本来の味を味わってないのかも…
そう思って残念な気持ちになった冬美であった
~
クリスタルウィンター大学…
今日も学生がいた。冬美とアルエルは、手を繋いで歩いていた。もう、天使学科の人にバレても構わなかった
やはりというか天使学科の天使にジロジロと見られたが、全てを無視した。貴女だけいればいい。その気持ちだった
―――2人だけの世界。
それでよかった。もう、何もかも、関係なかった。2人は大学へと向かう
冬美とアルエルは大学内へ着く。2人は話してた
冬美「…もう、ここまで来たら天使もいないわね」
アルエル「そうね。貴女がいるから何もかもが頼もしいわ」
冬美「当然じゃない。恋人なのよ」
アルエル「ふふふ。そうだね」
その時、後ろから声があった
ギン子「おーい!冬美!アルエル!」
ギン子だった。その声に反応して振り向くが、冬美はアルエルを守るように後ろへ下がらせた
冬美「何よ!」
冬美はギン子を軽くにらみつけるように対応した。ギン子はその睨みに『どうして…友達なのに…』と思い嘆いた
ギン子「お願い、聞いて…アルエルのことよ。ミカエルさんが入院したのよ!」
そう言われるとアルエルは驚きの表情を見せる
アルエル「お、お母様が!?」
ギン子は詳しく説明する
ギン子「あのね、貴女達が降りた後にミカエルさんが発狂して…それでガブリエルさんから聞いたんだけど精神科室へいるのよ。
今、天使協会は大変なことになっちゃってるの!だから…貴女達…行ってあげて…!場所はクリスタルウィンター大学病院よ!」
そこまで言うと冬美とアルエルは互いの顔を見合わす
冬美「…どうする?アルエル?」
アルエル「行きたくないけど…行くしかないわ…」
冬美「わかったわ。とりあえず行きましょう」
その病院へ向かおうとしてた
ギン子「あ!でも貴女達授業は…!」
冬美「関係ないでしょ」
冬美はギン子に突き刺さるような冷たい言葉を投げかけ、行った
ギン子は悲しい気持ちになった。たった1人を守るため、ここまで他を冷酷になってしまったことを
もう、友達じゃないの?ミカエルさんに言ったのがまずかったの?ねえ、サークル、どうするの?
そこまで考えたらギン子の瞳から涙が流れた。滅多に泣かないハーフアニマルが、泣いた。友情とはこんなあっけないものなのか?
ギン子「…冬美…私…貴女を…う、ううう…」
ただ、ただ、泣くしかなかった…
ミカエルは夢を見ていた。ぼんやりした風景。そして自分がぽつんといた
不思議とわかる夢だった。何かがいる。そう思った。その正体がわかった
ミカエル「か、神様…!それにウリエル…!」
そう。天界にいる神だった。いつも座ってるが、今回は立ってた。ウリエルは横にいた
神「ミカエルよ。たったそれだけの事で入院するとは情けない」
ウリエル「そうだぞ!我だって神様にいつもこきつかわれて嫌なことおお…」
ウリエルはそこまで言うと話すのをやめた。気の所為か神ににらまれていた
神「まあよい。お前は子供が好きではないのか?子供の将来を考えるのが、親として。大天使としての役目ではないのか?」
ミカエル「そ、それは…」
ミカエルが言うと神は更に言う
神「それにここで終わるわけにはいかないぞ?お前が用事が無い限り天界に上るのは駄目だ。まだ使命がある。
…だから、目を覚ませ。ミカエルよ」
ウリエル「そう。見てみろ。貴様の子供と人がいるぞ」
ミカエル「…えっ!」
ミカエルははっとして目をさます。昼なのにいつの間にかぐっすりと寝てしまったようだ
目を覚ましたら、すぐに横に顔を向ける。そしたらアルエルと冬美がいた
ミカエル「あ、貴女達…」
アルエル「お母様…よかった…目、覚ましたんですね…」
アルエルはどこか悲しい顔をしてミカエルを見ていた。冬美は無表情でミカエルを見た
ミカエルは冬美に対するオーラを感じつつ、見た
ミカエル「…アルエル。貴女に通告があるわ」
アルエル「はい、お母様。なんなりと」
そう言うとミカエルは言う
ミカエル「貴女は天使協会から、追放とする。大天使失格よ。恋人を作り、血を勝手に分け与え、勝手に出ていこうとしようとした。
これは私達天使協会の法と秩序を汚した罰よ。貴女はもう…私とは関係ない。出ていきなさい」
追放命令…!冬美は慌てて反論しようとしたが、アルエルの表情は至って真面目だった
アルエル「…わかりました。今日いっぱいで出て行かせていただきます」
たったの一言で、アルエルは無表情のまま、そこから出ていこうとした
アルエル「行きましょう冬美。もう、私は天使協会関係ないから」
冬美「アルエル…!」
アルエルは座ってた席を立ち帰り際にミカエルに言う
アルエル「さようなら。私の元お母さん」
彼女は出ていった。それでもミカエルは何も表情を変えなかった。冬美も言う
冬美「…ミカエルさん。もう、私達のことは関係なくなりますね。二度と。さようなら」
冬美も冷酷にミカエルに言葉を投げかけた。そして2人はミカエルの部屋から出た
ミカエルは黙ってうつむいていた。そして、自分自身で言葉を言う
ミカエル「…そう、これでいいのよ…あの子の、未来のため…これでいいのよ」
そう言うと拳を強く握りしめた。身体も震える。握ってる拳が血が出るかのように強く…
力を弱めると自分の手を見た。やはり痕から血がほんのり出ていた。大天使の血…
ミカエル「私は…愛が…わからない大天使…ごめんね…もう、泣けない。涙はとっくに枯れてるわ…」
その日は延々と、身体を震わせてた。娘に追放命令を出したのか、それとも自分には愛がわからなかったのか
この追放命令を出し、神とウリエルはどんな表情で見ていたのだろうか?
その後…
天使協会から追放されたアルエルはその日のうちに荷物をささっとまとめて出ていった
荷物と言っても基本的に服や貴重品がほとんどだ。ガブリエルや部下の天使に止められそうになったが、全部無視した
そして、天使協会とミカエルからの支援が無くなったため大学を中退することにもなった
大学へ行けなくなったのは悲しいが、それでもアルエルは冬美の側にいたいだけなので、全く気にはしなかった
アルエルが大学を中退したニュースは天使学科全員に伝わり、全員驚愕していた
しかし、一発のニュースなのでしばらくするとそのニュースは風化して忘れられた。ニュースなんてそんなものである
一方冬美はアルエルと一緒に住むことになり、今は2人ぐらしをしている
冬美は、血をミカエルにバラした原因があったギン子、ミサゲ、コークとは一切絶縁状態になってしまう
冬美はボッチで大学へ向かっている。もう友達なぞ作りたくない。相変わらず天使から視線があるが基本無視だ
サークルも自然消滅…こんな悲しい結末を迎えるとは、3人は泣くに泣けない状態となった
ただ、冬美とアルエルは、2人でいたい。そのことだけを胸にこれからも生き続けることになる…
満月の夜…冬美とアルエルの家…そこに冬美が帰ってくる
冬美「ただいまーアルエル」
そう言うとアルエルはリビングからとびっきりの笑顔で玄関まで出向いた
アルエル「おかえりー!私の愛しい人~!」
アルエルはぎゅーっと冬美の身体を抱きしめた
冬美「んもー相変わらず甘えん坊ねえ」
アルエル「だって寂しかったもん!」
冬美「わかったわ」
冬美がリビングへ移動するとアルエルは言う
アルエル「あのね、私最近冬美が務めてるカフェを長く働くようにしたのよ」
冬美「あら?そんな頑張らなくてもいいのに?」
アルエル「だって、お金、大切でしょ?どうせもう2人で暮らそうとした場所もキャンセルになっちゃったし…」
冬美「うーん。まあ、いいか。貴女がやりたいならやりたいだけ頑張ってね」
アルエル「うん!頑張るわよ!」
2人はリビングのソファに座り、身体を寄せ付け合う
アルエル「ねえ、冬美」
冬美「何?」
アルエル「今度、2人だけの結婚式、あげない?」
冬美「え?もしかして天使協会で?」
そう言うとアルエルはむっとする表情になった
アルエル「もう私天使協会関係ないわ!普通の教会よ。そこで…ね?」
ああそうか。そう思うと冬美は言う
冬美「そうねえ。いいわよ!今度こそ、誰にも邪魔されずにやりましょう!」
アルエルは笑顔になる
アルエル「やったー!」
冬美「じゃあ、貴女は河合アルエルになるのね?」
アルエル「そうね!ディバイスなんて名前は捨てるわ」
冬美「とっくに捨ててない?」
アルエル「あら?そうだったかしら?」
2人は笑い合う。そんなアルエルを見て愛しくなったのかアルエルの肩を抱いた
冬美「ねえ、アルエル…私、幸せよ?」
アルエル「冬美…私だって、幸せよ…」
2人は抱き合いながら、満月の夜を見ていた
ユキノウエ、今日も寒かったが満月の夜だった
そんな満月を淡く照らすように2人を見ていた
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