LINK42 日記

その日記は真心への謝罪から始まっていた。


・・・・・・

・・・


―2030年

10月25日

真心、すまない。許してくれとは言わないが、いつか君にはわかってほしい。

私は君を捨てたのではないことを。


君を五曉寺ごぎょうでらに置いていく辛さは私が三度生まれ変わったとしても消えることはないだろう。

だが、奴らはまだ暗躍しているのだ。

奴らの出方を見極めるまでは君を遠ざけておかねばならないのだ。

おそらく3年、いや2年ほどしたら君を迎えに行く。

それまでは———


・・・・・・

・・


―2032年

〇月〇日

やはり奴らはまた動き始めた。

テロ対本部を爆破することを狼煙のろしとしたのだろう。


やっと2年を待ち、君との再会が間近だったのに....

真心、すまない。


五曉寺が君を軟禁するのは予想外だったのだ。

私は新たな名前と戸籍を用意していたのに....


そして私が君に会えないことでもうひとつ君に危険が迫ることになってしまった。

だが奴はまだ11歳だ。

奴が迫れば自動プログラムが働くに違いない。


・・・・・・

・・


―2034

〇月〇日

もう君と離れて4年になろうとしている。

せめて私は思い出の地で君との再会を待つことにする。

このコスモス畑は君の母親が好きだった場所だ。

そしてお腹にいる君にコスモスの花ことばから『真心』と名付けた場所なんだ。

愛しているよ。真心。

今日は君の誕生日だ。

誕生日、おめでとう。


・・・・・・

・・


―2035

〇月〇日

私は奴らから逃げ回るだけではダメだと悟った。

そして君の身に降りかかる危険の排除。


もしも.... もしも私が死んでしまった時に君を任せることができる保険を作っておいた。

その人はどんな機密情報も改ざんできる力を持っている。

君も日本国民として国籍を持てるだろう。

そして私がいなくなった後も、私は君を見守ることが出来る。

せめてもの罪滅ぼしだ....



〇月〇日

『NeoYURI』プロジェクトがまた動き始めた。

私の居場所は奴らにもばれてしまったかもしれない....

ここを離れなくてはならない。

もっと山奥へ。

いつか君の中の彼女がたどれる場所へ私は逃れる。


・・・・・・

・・


13冊目の日記はそこで終わった。


「中尾さん、博士は犯罪組織から逃げてたんじゃないのか? いったい『NeoYURI』プロジェクトって何なんだ。博士は誰から身を隠していたんだ? 真心を死んだものとし五曉寺に預けたのは、『奴ら』の研究材料にされてしまう可能性があったからだ。『NeoYURIプロジェクト』は何をしようとしていたんだ?」


「『NeoYURI』プロジェクトは『地球の環境浄化をTOKYOから始めよう!』と緑の旗をひらめかせながら始まったんだ。その第一段階として地下に科学都市が作られたのだが、当時の知事は科学の底上げこそが地球の環境問題を改善するという信念を持っていたのは確かだ」



「月人さん、中尾さん、誰か来た! ダメだ!『燐炎りんか』が!!」

真心が叫ぶ。

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