LINK41 青いクーラーボックス
『連照寺』の朝。
ご厚意に甘え、朝食をとる。
斎木博士に前掛けをし、魚の小骨を取り除き、身をほぐし、それをひとつひとつ口に運ぶ。
スプーンを借りると味噌汁を『ふぅふぅ』と熱を冷ましながら注ぎ入れる。
本当は真心がやりたいのだろうが、俺は真心に許可をとり彼の介助を申し出た。
「俺は反省するよ。月人、すまない。俺はお前なんかに『介助の仕事』ができるものかと馬鹿にしていた」
「気にしないでください、中尾さん。あの時、出まかせだったのは本当なんです。俺は今、意味を持ってやっている実感があるんです」
静かな朝食を終えると、真心が静かに語り始めた。
「月人さん、中尾さん、私、見たの。お父さんの記憶を」
意外ではなかった。
ひと晩、斎木博士と身を寄せ合い眠りについた真心の生態AIが、隣にいる斎木博士の記憶の断片を見ることは、全然、あり得ることだ。
真心は続けた。
「『ログハウス』を覚えてる? あそこにいたのはお父さんだった。そしてお父さんは毎日、牛久大仏公園のコスモスの植え込みに何かを掘り起こしては埋めていたよ。それが何かはわからない」
おそらくはそこに全てがあるのだろう。
真心を連れて失踪した理由、
・・・・・・
・・
9月半ば。
背高く色鮮やかなコスモスが牛久大仏を目の前に一面に咲き誇っている。
真っ青な空の下、そよ風が花のほのかな香りを漂わせる。
「月人さん、私にも見えるよ。凄く綺麗」
「ああ、綺麗だ」
「ぅ....ぅう..あっ..あ....」
おもむろに斎木博士が歩き始めた。
その足取りはゆらゆらと頼りなく。
だが、斎木博士の目にはコスモスの花々が映っていた。
大仏の印を結ぶ右手と畑の中央が交差する場所で博士はうずくまり手で土を搔き始めた。
「あそこだ」
そこに駆け寄る用意したスコップで掘り起こす。
ガゴン。
30cmほど下に青い箱が見える。
クーラーボックスだ。
クーラーボックスを引き上げると、その横にも赤いクーラーボックスが埋められていた。
その赤いボックスはとても重く中尾さんと2人で引きあがるほどだった。
そよ風が少し湿った汗に冷たく感じる。
「開けてしまおう。もう、ここで全てを知るんだ。いいよね、真心」
「うん」
青いボックスには、サクランボの飾りがついた髪留めと13冊ほどの日記が入っていた。
その日記は真心への謝罪から始まっていた。
―10月25日
真心、すまない。許してくれとは言わないが、いつか君にはわかってほしい。
私は君を捨てたのではないことを。
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