LINK37 暗号が示すもの
木博士は真莉愛さんの生まれ変わりの『マリア』を持ち去った。
肉体が無くとも愛する人に近くに居てほしい気持ち。
以前の俺なら唾を吐いていただろう。
だけれど、今はわかるような気がする。
「真心、瞼を閉じていた方がいい。目を開けなれていない君には負担が大きすぎる」
うなずくと真心は再び目を閉じた。
さっきまで青かった空に雨雲がかかってきた。
想像以上に真心の疲労が深そうだ。
俺たちは一旦、千葉県
ビジネスホテルに真心を寝かせると、俺と中尾さんは
「最近のビジネスホテルっていうのは全禁煙で困るよ」
「中尾さん、もういい加減タバコなんかやめたらどうですか? タバコ売ってる店を探すのも苦労しますよ」
「がはは、大丈夫だ。普段は車のトランクに大量に積んでるんだ」
「だからトランクの中がタバコ臭かったんですね」
釣り堀公園の近くにベンチを見つけそこに座る。
「中尾さん、これを見てください」
ズボンの後ろポケットから研究所から回収したメモ紙を渡した。
―3597日目から7696日目まで少女の思いは忘却の彼方。
立ち尽くすその丘の上にツクヨミの使いが現れることを願う。
だが短き命は延ばされ140年と222日の命を与えられる。
長月二日、再び少女は歩き始める。
ワダツミの元に行く旅路を―
「ほう。こりゃ、また下手な暗号だな」
「やっぱり暗号ですか?」
さすがはテロ対の捜査官の事だけはある。
「この暗号はド素人が考えたものだ。中二病みたいな詩で覆っているが、バレバレだろ。月人、この短い文章の中でひときわ目立つものってなんだ?」
「ん~数字ですか?」
「そうだ。たった5行の詩なのに3行も数字を表すのに使ってしまっている。それともうひとつ目立つものがあるぞ。『ツクヨミ』と『ワダツミ』だ。まったく陳腐だな。こんなところに神様の名前出すなんて」
俺は中尾さんに言われるまま、数字をひととおり書き出してみた。
『3597 7696 140 222 長月二日』
「中尾さん、長月ってなんですか?」
「それは9月ってことだ」
『3597 7696 140 222 92』
「『ツクヨミ』っていう黄泉の国の神様だ。つまり月の使者ってことだ。『ワダツミ』っていうのは海の神様だな。つまりワダツミのもとへ続く道。わかるか?」
「すいません。わからないです」
「『月の使者』はおまえだ。そして『ワダツミのもとへ行く旅路』は川だな。これで『人』と『目的地』を示すものがわかったわけだ。少女は真心だろう。当てはめて読んでみろ」
―3597日目から7696日目まで『真心』の思いは忘却の彼方。
立ち尽くすその丘の上に『月人』が現れることを願う。
だが短き命は延ばされ140年と222日の命を与えられる。
長月二日、再び『真心』は歩き始める。
海のもとへ行く旅路を―
「どうだ? この詩でわかったことと、足りないものが見えただろう?」
「なんとなく....」
「おまえはこの手は不得意なようだな。『真心は忘れ去られるほどの時を過ごしながら月人が現れるのを願った。彼女は死んだような人生が生き返った。真心が再び人生をやりなおすため歩き始めた。海に続く川に向かって』だとすると、真心は何処から再び歩き始めるんだ? この文章には真心がどの場所から再び歩き始めるかが書いていないんだよ。つまり、その長ったらしい数字は、それを指し示しているのさ」
今まで中尾さんを見くびっていた。
その鮮やかな素早く説得力ある解読にただ感心するのみだった。
俺は書き留めた数字をもう一度改めてみた。
『3597 7696 140 222 92』
そうだ。この長ったらしい数字は、西伊豆の松崎海水浴場で見たあの数字だ。
経緯度だ。
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