LINK35 鷲田博士と城戸博士

引き出しの中にメモ紙以外の物が無いと確認すると、メモ紙と壁の写真を抱えE-LAIイーライ研究室の部屋を出た。

施設内で大きな声が聞こえる。

これは中尾さんの声だ。


どうやら中尾さんが警備員を引き連れながら各部屋のチェックを行っているようだ。


「これから2Fの部屋をひとつひとつ回るぞ!」


ひときわ声を張り上げ、自分の場所を教えてくれている。


「真心、行くぞ」

「うん」


素早く階段を下りていき警備管理室に警備員がいないことを確認すると猛ダッシュで車まで走った。

乗り込むやいなや、真心は瞼を閉じる。


「ごめんね。月人さん。少しだけ休ませて」

真心はまるで何日も寝ていないような憔悴しょうすいしきった表情になっている。


「今日はこの写真と机の中の紙で収穫ありだ。ゆっくり休んだらいい」

「うん。がんばった甲斐があった」


そういうと真心はすぐに眠りについた。


こんなに長時間、いつもは使っていない視神経を使ったのだ。

疲れてあたりまえだ。


ポケットから回収したメモを読み返す。


何か中二病の匂いがする詩だ。

いかにも斎木博士が書きそうな詩だ。


おそらくは何かの暗号なのだろう。

しばらくすると中尾さんが帰ってきた。


「よう、どうだった?」

「うん。収穫ありです。まずはこれ」


「おお、これは研究スタッフの集合写真か。2022年だから20年前。つまり研究所移設の5年前、お前たちに生態AIが埋め込まれる8年前ということか。お、斎木博士もいるな。鷲田博士もまだ若いな」

「中尾さん、この11人の中で知っている人はいますか? 斎木博士、鷲田博士のほかに」


「そうだな....まぁ、半分くらいかな」


中尾さんがテロ対チームに配属されたのはNeoYURIに研究所が移設してからだ。その時の研究スタッフは7人程に減らされていたという。


当時、研究スタッフの中には生態AIを寄生させることを推進する斎木派5人と慎重論を唱える鷲田派5人にわかれていた。減らされたのは慎重論を唱えた3人で、鷲田派は結局、鷲田博士・城戸博士の2人しか残らなかったという。


「ちょっと待って。城戸博士..真心のお母さんは慎重派だったの?」


「ああ、城戸博士は鷲田博士の右腕、いやそれ以上の存在だったといってもいい。少なくとも鷲田博士にとっては。3人の考えは違っていたが敵対していたわけではなかったようだ。むしろ本音の意見を言い合えるほど仲が良かったらしいな。生態AIの研究は斎木・鷲田・城戸の3人を中心に進んでいたと言ってもいい」


「....3人」


俺はふと西伊豆の「五平荘」を思い出した。


斎木博士が「五平荘」を利用した記録だ。

そうだ、あの時も2022年の20年前に3人で利用していた。

そして、翌年の2023年に2人で利用し、2030年、生態AI臨床実験の数日前に1人で利用したんだ。


2023年の2人は斎木博士と城戸真莉愛だと推測できる。


だが、2022年の3人だけはよくわからなかったのだ。

3人とは、斎木・鷲田・城戸だったのではないだろうか。


「中尾さん、他の移設後のメンバーは?」

「田中博士、鳴海博士、竹本博士、ナターシャ・オゴーマン博士だな」


「この人は? この少しだけ離れて立っているこの人」

「そいつは護衛の矢島隊長だ」


「隊長? テロ対チームの人?」

「いいや、そいつは警視庁の人間ではない。国土衛生省-国家研究安全局から編成された護衛チームの隊長だ。つくば市の重要施設の多くは、その護衛チームによって守られていたんだ。そして、そいつこそ俺たちが逮捕したスパイだ」


2027年、国の重要研究施設はNeoYURIに移設されることになる。それと同時に護衛チームは解散された。だが矢島隊長だけは新たに編成された警視庁対テロ・スパイ捜査チームの特別顧問として残った。それは国土衛生省の官僚からの推薦だったという。そして矢島はNeoYURIとテロ対チームの情報を探りながらスパイ活動をしていた。つまり、それは日本に蔓延はびこるスパイ問題は根が深いことを示していた。

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