LINK34 残された詩
「ぁぁ....」
真心は小さく声を上げうずくまった。
「大丈夫か?」
「ごめんなさい。あの建物を見ていろいろ情報が頭に流れ込んだの ....瞬時に私のAIは分析したよ。あの建物にカメラがいくつあるのかをね」
真心は見えている文字を紙に書いてみせた。
『cam44 motion senser 14』
カメラの数が44機、その中にモーションセンサーのカメラが14機ということか?
それよりも真心が心配だ。
「そんなに心配そうな顔しないで」
「俺のこと、見えるのか?」
「うん。私の目ではない。どこかのカメラの映像。もちろん月人さんの体の構成を分析している。 大丈夫だよ。さっきのは、ちょっとびっくりしただけだから」
・・・・・・
・・
中尾さんの合図で作戦はスタートした。
まずは中尾さんが警備室に行って全警備員を警備室に集めた。
その隙に俺と真心は施設の門をくぐった。
すでにいくつかの監視カメラの前を通過した。
本来ならば、この映像は国立情報管理センターに直結しているため、すぐに警備室に連絡が入り、周辺一帯が警戒態勢にはいってしまう。
「大丈夫だよ。『月人さんと私はカメラに映りたくない』って願ったから」
施設内のロビーに入ると案内カウンターの横に大きな案内図がある。
「E-LAI研究室....3Fか」
エレベーターやエスカレーターは動いていない。
館内はあまりにも静かで、階段を登るわずかな足音も響きわたるようだ。
3Fの突き当りの部屋が
他の部屋も大きな研究室となっている。
カギは電子ロック式だが、電力供給がされていないようだ。
全ての部屋のロックは外されている。
俺は一応、電気、空調そのほか全ての人感知センサーシステムoffを『願い』そして手前の部屋に入ってみた。
「どうやらここは資料室みたいだな」
「月人さん、何か動いたよ!」
真心がそう言った瞬間、奥からタヌキが部屋を走り去った。
どうやら、警備はかなりずさんなようだ。
「何にも残ってないな....」
他の部屋もやはり全て綺麗に片付けられ、何も残っていない。
盗まれるものなど何もない館内、警備員も真剣に警備などしていないのだろう。
そして一番奥の
扉を開けると部屋は2つのブースに別れていた。
一つは事務スペースでもう一つがエアーシャワー付きの実験室だ。
机の上には他の部屋同様何もなかったが、棚の上に何か置かれていた。
それはA4サイズくらいの額縁に入った研究員の集合写真だ。
前に4人後ろに7人の11人だ。
全て、この研究室の関係者だろう。
誇りを祓い注意深く見ると研究員の後ろにある案内図にイベント名が見えた。
「晴海 科学の日アンドロイド博2022」
その写真を手に取ると真心は光が届く窓際に持っていった。
そして、まるで森の小動物を観察するフクロウの目のように何かを分析していた。
「後ろの右から日村さん、お父さん、田中さん、鳴海さん、竹本さん、鷲田さん
前列の右から斎藤さん、金村さん、ナターシャさん、そしてお母さん」
「真心、名前がわかるのか?」
「うん。この人たちの顔を見たら、簡単に名前が出てきたよ」
俺はメモ帳に名前を記録しながら聞き覚えのある名前に気が付いた。
『鷲田....鷲田博士』
このひとは斎木博士が失踪した後に研究を引き継いだ人だ。
しかし結局研究は成功することなく、世論の煽りをくらいながら研究は打ち切られたんだ。
「真心、ここに写真があるってことは、机の中も何か残っているかもしれない。探してみよう」
10個ある机を手分けして探す。
今まで、どの部屋の机の鍵は全て外れていた。
この引き出し以外は。
変だ。
これだけ念入りに全てを片付けた連中がこの引き出しだけ見逃してしまうだろうか?
現にいくつかの引き出しはバールや特殊工具で無理やり開けられているのに。
きっとこの引き出しはこの施設の資料が一旦運び出された後に、誰かの手で鍵をかけられたに違いない。
「真心、この引き出しを開けてみよう」
「どうやって開けるの? 道具用意する?」
「いや、そんなのは必要ない。この引き出しは、開けさせるためにわざと鍵をかけたんだ。ということは....」
その机を下からのぞいてみた。
案の定、机の裏側にガムテープが張り付けてあった。
それを引きはがすと『カチャン』と鍵が落ちた。
「凄い。月人さんよくわかったね。ああ、俺は名探偵〇〇ンを178巻、全て読んだからな」
鍵を開けた引き出しがカラカラと乾いた音を鳴らす。
中には1枚のメモ紙が置いてあった。
3597日目から7696日目まで少女の思いは忘却の彼方。
立ち尽くすその丘の上にツクヨミの使いが現れることを願う。
だが短き命は延ばされ140年と222日の命を与えられる。
長月二日、再び少女は歩き始める。
ワダツミの元に行く旅路を......
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