LINK33 勇気を持って瞼を開けろ

つくば市周辺の地域は宇宙開発の研究をはじめ国家的戦略を担った最先端の科学技術開発施設が立ち並んでいた。

だが、それは15年前の話だ。

今は、そのほとんどの施設は東京の地下にある未来科学都市NeoYURIに移設されている。当時の都知事と政府との間で始まった「フィーチャリング・フューチャー・グリーンスマイル事業」として都民の意見を聞かずに地下に大きな科学都市を作ってしまったのだ。

俺たち視神経に寄生しているアメーバ式生態AIの研究所もその限りではない。


だが、つくば市周辺の研究施設は今も廃墟のまま残されている。

『施設にウィルスが蔓延している』とか『土壌が汚染されている』など風評被害級の噂が広まっている。

科学開発施設の廃墟が立ち入り禁止とし、その上、今もなお警備員を配置していれば否が応でも変な噂がでるのは世のことわりだ。

いわゆる都市伝説の類だ。


牛久城うしくじょう近くの牛久沼のほとりにあった生態AI研究所E-LAI(イーライ)も当時のまま封鎖されている。


敷地内にはいくつものカメラが設置されている。おそらく建物内も警備カメラが複数設置されているのは想像できる。

敷地入口には警備室が設置してあり、その入口の警備が一番厳しいものとなっている。


さて、どうしたものか....


「俺が警備室に行って抜打ちの検査ということで気を引くから、お前はそのまま中に入れ」


中尾さんが協力してくれるのは、とてもありがたい。


『テロ対捜査官』という名がこれほど強みになるとは思わなかった。


「じゃ、カメラは俺の力でシャットダウンしてしまいますよ」


「だめだ、月人。カメラが切れたら異常事態。これは警備の基本になっている。すぐに警戒態勢が敷かれるぞ」


「でも、切らなくても侵入者で警戒態勢がはいるし、俺の顔が顔認証に引っかかればなおさらでしょ」


「私が行くよ」


「真心、無理だ。言いたくはないが、盲目の君では」


「ううん。私は目を開けていく」

「燐炎を出すつもりか?」


「違うの。月人さん。私、最初に言ったよね。私には視力はないけど、でも私が見ようと願うものを生態AIは見せようとする。それはレンズを通しての映像で、生態AIは、見たものを分析しようとする。私はそれが嫌だった。だから瞼をつむったままにしているの。私のAIはどんなカメラの映像をも操る。だから逆にカメラに自分が映りたくないと願ったとしたら?」


「そこに真心は映らない....か。今までやったことないのだろう?」


「うん。でも、月人さんの力は願ったり思ったりすることでAIがシステムを操るんでしょ。それなら私のAIはカメラを操ることに関しては、たぶん月人さんよりも得意なのかも。やってみる価値はあるよ」


真心は強くなった。

最初は怯えながら街を歩く女の子だった。


「わかった。でも君だけを行かせるわけにはいかない。俺の姿も映らないように願ってくれ」

「うん」


「中尾さん、俺は真心を信じる」

「わかった。俺もこの子と月人、お前を信じる」


今、真心は自分の運命を切り開くために勇気を出したんだ。


そして真心の瞼が自らの意志で開く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る