LINK32 希望を構成する回帰式

部屋は予想通り誰かの手により家探しされていた。

自分の部屋だ、そういう目でみればいくらでも部屋の変化に気が付くものだ。


当然、盗聴器があると思ってもいいだろう。

まぁ、それはいつものことだ。

省庁の奴らだってどこに仕掛けているかわからない。

だが、それは捨て置いたとしても盗撮は許さない。

特にシャワールームだ。


こんな時は自分の能力の便利さに感謝する。

俺はただこう思うだけでいい。


『この部屋の情報を漏らすな』


俺の思考を読み取る生態AIの仕事は少しひねくれている。


たぶん、今頃、やつらのモニターにはAV専門チャンネルなどが写っているに違いない。しかも、今は違法受信には厳しい法律制度があり、各配信サービスには本格的な追跡システムが導入されている。やっこさん、今頃、慌てふためいているだろう。


**


「結局、ここから旅を始めて、手ぶらで戻ってきてしまったな。俺たちは『燐炎りんか』に振り回されただけだったんだ....」

俺は唇をかみしめた。


「月人さん、忘れてしまったの? もともとは私が月人さんの目を借りて、『いろいろなものを見たい』と願ったことから始まった旅だったんだよ。私、いっぱい見たよ。手ぶらなんかじゃない。いろいろな人と出会えた。いろいろな空間を感じた。お母さんを感じた。月人さんをいっぱい知った。両手で抱えきれないほどの思い出を作れた。私はやっと人生を歩んだ気がしたよ。ありがとう」


「真心....」

俺はこの健気な子をそっと抱きしめた。


「私、もう泣き事言わないよ。ちょっとは強くなった。だから私を最後の場所まで

連れて行ってね」

「わかった」


でも、それは違う。

俺たちの『始まりの場所』するんだ。


・・・・・・

・・


翌朝、車に乗り込むと〝 コン コン ″と軽快に窓が叩かれた。


「よう! 諸君!! おはよう」

「何だ。中尾さんか」


「おいおい、朝の挨拶をおろそかにしちゃいかんぞ」

「用件は何ですか?」


「せっかちな奴だなぁ。おまえ、この車を運転してつくば市に入るつもりだろ? それはやめておいた方がいい。あそこは枯れても嘗ては国家の重要案件を研究していた施設が乱立していた場所だ。対テロ、対スパイに備えて他の地域よりカメラの設置が多く、国立情報管理センターに直結していたんだ。今も少なからず警戒されているだろう。月人、おまえなんかすぐに顔認証されて警戒態勢を敷かれて、省庁から息のかかった奴らが押し寄せてくるぞ」


「じゃ、どうすればいいんだよ?」


「だから俺だ」


中尾が言うには、対テロ、対スパイを警戒する自動警戒システムは対テロ捜査官を除外対象としている。まぁ、もっともな話だ。



しかし....俺はトランクの中に押し込められてしまった。


「月人、良いクッションが志摩忠ホームズにあったから入れておいた。携帯冷風機もあるからな。まぁ、快適とまではいかないが寝てればすぐだ」


「月人さん、私もトランクに行こうか?」


「おいおい、やめてくれよ。トランクからお前らの如何わしい声が聞こえてきたら嫌だぞ」


全く下世話な....


「そんなことしねーよ! まぁ、真心、せっかくの提案だけど、俺は大丈夫だ」

「うん。わかった」


かくして、俺たちは茨城県つくば市に向かった。

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