LINK31 気が付いたもの
飛騨高山から白川郷、そして東海北陸道から東名高速、さすがにタフな俺でも沼津を過ぎるころから目の前にホルスタインが空を飛ぶ白昼夢が見え始めた。
「ちょっと....次のサービスエリアで休んでいこう」
「うん」
時間はもうpm5:00を回っていた。
例えば、今日、牛久に行ったとしても、辺りが暗くては施設を探すなどできないだろう。
取り敢えずは、やはり東京に一度戻り、仕切り直してから牛久へ行く方が賢明だろう。
「ねぇ、月人さん。私ね、もうそんなに怖くないよ。だから、ひとりで抱え込まないで私にも相談して」
「....ああ、じゃあ、これから飯でも食べようと思うけど、どう?」
「うん。お腹ペコペコだね」
サービスエリア内の簡易食堂は飛騨高山での贅沢三昧とは別世界のようだ。
「真心は何食べるよ?」
「う~んとね。醤油ラーメンがいいなぁ。あのね、西伊豆の海で月人さんが食べてた醤油ラーメンが実はずっと気になってたの」
「ははは。じゃあ、俺はカレーライスにするかな。俺も真心が食べてたカレーライスがうまそうで気になってたんだ」
そう、今は胃もたれしそうな贅沢な料理よりも真心と食べる飯が一番うまい。
「おっ、
気が利かない中尾さんに少しムッとした。
「おい、おい、別に好きで2人の邪魔したわけじゃないんだ。おい、月人、おまえ気が付いてないだろう。1,2....3人か。入り口でメニュー見てる2人と窓の向こうの喫煙所に1人だ。見るなよ」
中尾はテーブルの上にあるメニューを見ながら少し小さな声で話をした。
「なに? 省庁の連中?」
「いや、違うなぁ。省庁の連中よりも溶け込みがうまい」
「..中尾さん、俺、ある人物から『俺たちに気が付いたものがいる』って聞いたよ。」
「馬鹿野郎、そういうのはもっと先に言え! ....とするとその連中か」
「どうしたらいい?」
真心が不安そうな顔になっていた。
「こんなに人ごみの中、紛れてるんだ。今、どうこうしようって事じゃないだろう。たぶん、お前らから目を離さないようにしてるだけだ。だが注意しろ」
そういうとひときわ大きな声で中尾は『じゃあ、俺は味噌バターラーメン餃子付きにしようかな』と言った。
「中尾さん、もしも、あいつらが真心に手をかけるようなことしたら、悪いけど俺は抑えられない。いや抑えるつもりないよ」
「月人さん、やめて」
「そうだ。月人、やめておけ。使えば、お前は余計に面倒な連中に目を付けられるぞ。それはお前だけの問題じゃないだろ?」
(真心か....)
「わかったよ」
「よし。何かしようっていうなら、とっくにしているだろう。あいつらはおそらく飛騨高山から尾行を始めたに違いない。奈良井宿を自家用車で入ったのはお前らだけだからな。そんなところで気が付かれて逃げられたら元も子もないだろう。まずは、お前らは普通に予定をこなせ。俺が思うにあいつら———」
****
飯を食べ終わり車を出す。
尾行者の存在で俺の緊張が高まり、牛が空を飛ぶ白昼夢も見えなくなった。
バックミラーで何度も後ろを確認するが中尾の車以外はどれがその車かなどわかるはずもない。
サービスエリアでの中尾の話をいったん信じよう。
東名高速から首都高に入りそのまま幡ヶ谷出口にでた。
そしてほど近い俺のマンションに帰ってきた。
ほんの数日だったが、もう何カ月も旅をした感覚だ。
俺は真心を裏口ではなく正面玄関から堂々と連れて部屋に戻った。
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