LINK26 赤かぶの漬物
やがて野麦峠のふもとを走ることから道の名前は野麦街道へと変わる。
道沿いの
そしてより自然保全の厳しい国定文化財に指定される飛騨山脈南部『上高地』につながる道路を通る。
この地域は
ここの地区を通り過ぎるだけでも4つの検問を通らねばならない。
つまり、事前登録していない車が通り抜けできない区間があるのだ。
『この先、事前登録者以外は通り抜けできません』の看板が立っていた。
管理センターのスタッフが近づいてきた。
「どちらまで行かれますか? 登録証はお持ちでしょうか?」
「高山に。登録証は....ないです」
「では、申し訳ないのですが、事前登録をしていただいた後に通過してもらうか迂回してもらうしかないです」
「と、いうことらしいです。山岡さん、一回引き返して名古屋の方から行くしかないですね」
「月人さん、これをスタッフの方へ渡していただけますか?」
聖子さんが紫色に斜めに二筋のゴールドラインが入ったカードを差し出した。
裏を見ると『共立固有保持蔵相の優会』と書いてあった。
そのカードを見せると数人のスタッフが集まり、そのうちのひとりが何処かに連絡をし始めた。
そして、手持ちのカードリーダーに通す。
「失礼いたしました。どうぞ」
なんか凄いカードのような気がしてきた。
「あっ、もしもし」
聖子さんがスタッフのひとりを呼び止めた。
「はい? なんでしょう?」
「後ろに付いてきている車も私たちの護衛です」
「わかりました」
わざわざ中尾さんにまで気をまわしてくれた。
「すいません。中尾さんにまで気を使っていただいて。置いて行ってもいいんですよ、アレは」
「いえいえ、中尾さんにもいろいろとお世話になりましたから、そうもいきません」
一応、まぁ身内のようなものなのでお礼を言っておいた。
ところでこの夫婦、ただものではなさそうだ。
この管理区間を通り過ぎると、岐阜県高山方面へ向かう道路は山脈を潜っていくトンネルが連続するようになる、中でも長いのが
両トンネルで約10㎞もの長さになる。
この長いトンネルを抜けると既に岐阜県に入っていた。
道はさらに平湯トンネルを抜けそのまま
頃合いも良かったので『赤かぶの里』と呼ばれる休憩所で腰を伸ばした。
「お疲れ様」
伸びをする俺に真心からのねぎらいの言葉だ。
「私も運転できたらいいのにね」
「大丈夫だよ」
「何か耳が変だったね」
「ああ、標高が変わると気圧が変わるからね」
「へぇ、よくわからないけど、月人さん頭いいんだね」
12年もの間、寺に軟禁されていた真心は多くの人が体験から学ぶことを知ることはなかった。
・・・・・・
・・
「コーヒーでよかったかな? 真心ちゃんはカフェオレでいい?」
「「ありがとうございます」」
「ははは。声そろえて本当に仲が良いのね」
聖子さんは飲み物を手渡すと口を覆いながら笑った。
「ここに、くるのはひさしぶりでふよ。もうなんねんまえになりまひゅかね?」
博さんは朝よりもかなり活舌が良くなっていた。
「そうねぇ....あなたが眠ってる間にも2度ほど来たことあるのだけど、8年前かしら」
「そうでふは。もうそれくらい経ってひまいまひゅか....」
博さんは遠い目をしながら言った。
博さんにしてみれば、この5年間の間はもしかしたら一晩くらいの感覚だったのかもしれない。
「ねぇ、さっきそこで買った『赤かぶの漬物』せっかくだから食べてみない?」
そういうと聖子さんは漬物の袋を開け、持参したタッパーに移し替えた。
それを指で摘まんで真心は口に放り込んだ。
「すごく、おいしい」
「あら、真心ちゃんは漬物好きなの?」
「私、お寺育ちなんですよ。だからこういう香の物は食べ慣れてるんです。これは凄くおいしいよ、月人さんも はい アーンして」
「いいよ。自分で食べられるよ」
それでも真心が摘まんだ赤かぶをひっこめないでいるので、仕方なく口に入れた。
「どお? おいしい?」
ここで『別に』など言おうものならまた腕をつねられてしまう。
「ああ、おいしいよ」
「まぁ、月人さんの顔が赤かぶみたいに赤くなってる」
聖子さんが俺をからかうと、真心も、博さんまで楽しそうに笑っていた。
俺も今までこんな事はなかったのでどんな顔をすればいいかわからなかったが、その顔を真心が手でひたひたと触っていた。
すこし漬物の匂いがしたけど、冷たい手が気持ちよかった。
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