LINK10 お父さんに言いたい!

その夜、俺たちは牛久うしくの観光ホテルに宿をとった。

男女二人旅で別々の部屋をとるのは不自然だし、真心の目が不自由なのを考えると一緒の部屋のほうが安心だ。


監視の中尾は宿泊するホテルを確認すると、いったん引き上げたようだ。

おそらく部屋番号までチェックしている事だろう。


さて、夕飯は何を食べるとしよう。

真心は寺住まいのせいなのか、そういう扱いをされてきたからなのか、パンかおにぎりを食べるくらいで、自分が何かを食べたいという欲求が少ないようだ。


「ここ牛久では鯉が名産だと聞いたけど、真心は知ってたか?」

「うん。お寺で鯉こくとか鯉のあらいを食べたことある」


「どう? うまかった?」

「私、あまり好きじゃなかった」


早くも暗礁に乗り上げた。

真心からの食欲の手がかりを得ようと思ったのに。


「じゃ、肉でも食べに行くか? 茨城県にも『常陸牛ひたちぎゅう』っていうブランドがあるらしいし」

「うん。いいよ。私、すき焼きを食べてみたい」


おおっ! これは、やっと真心から食欲を引き出せた。


「じゃあ、すき焼き食べに行こう!」


俺たちは常陸牛専門店のレストランに入った。


・・・・・・

・・


「ふー! 食った! 食った!」

「ごめんなさい。鍋だなんて知らなかった。私につきっきりで大変だったでしょ?」


「何言ってんだよ。今の俺の言葉聞かなかった? 『ふー! 食った! 食った!』って言った時は、『うまかったなー!!』って大満足したときにでる言葉なんだよ」


そういうと真心は笑顔を取り戻し言った。


「ふぅ。 食った。 食った!」



実際、真心の鍋の出来具合や、具を掬う手伝いをしたが、それを食べた時、真心はおいしそうな顔をする。

そんな真心の表情を見るだけで、俺も食事がおいしかった。

もしかしたら誰かと一緒にご飯を食べる喜びというのを教わったのは俺の方なのかもしれない。


・・

・・・・・・


ホテルの部屋に戻ると、俺は真心にひとつだけ聞いておきたいことがあった。


「真心、俺が『ホテル桜葉』のロビーで君にもう1回「なぜここに来た?」と尋ねなおしたのを覚えてるかい?」

「うん。『燐炎りんか』が月人さんに接触してきて、月人さん気を失ってしまったんだよね。」


そうだった。

それで俺は話す機会を失ってしまったのだ。


「俺が思うに.... 真心、君は自分がこのような境遇になった理由を知りたかったんじゃないのか? 当時4歳の君は何も知らないまま、澄徳ちょうとくさんの言われるままに生きてきた。でも俺とつながった君は真実を知る機会を得た。 ....どうなんだい?」


「 ..うん。月人さんの言う通り。私はお寺で良い娘として過ごしてきた。でもやっぱり納得できないことだらけだった。『なんで私が! 』『なんで私だけが! 』って思ったよ! でもそれをやさしくなだめてくれたのが『燐炎りんか』だった。月人さん、私、まだ間に合うなら全てを知って、そしてお父さんを見つけて、一言いいたいの!」


「何て言うんだ?」


「 ..ば....馬鹿野郎!! って」


「はははは! 真心、君は最高だよ。 実は俺、監視の中尾さんに改めて当時の話を聞いたんだ。君にはショックな話かもしれない。 それでもいいか?」


真心は首を縦に振った。


そして俺は中尾さんとの会話をそのまま話した。


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