第3話 幸せの感じ方

 とある人が言っていたのだが、幸せは薄味である。

 薄味であるが故に、ちょっとした事でそれが感じられなくなる。

 そして、幸せが感じられない人には次々と不幸が訪れる。

 逆に幸せを感じている人には、更なる幸せが訪れる。(身近にそんな人物が存在する人も少なくはないだろう。)

 要するに不幸な人というのは、ある筈の幸せを感じられずにおおよそ世の中の全てに対して感謝ができなくなっている人なのだ。

 例えば小説などの物語の主人公はなにかしらの不幸を抱えている者が多いが、同時に不幸を不幸とも思ってもいない前向きな人物が圧倒的多数を占める。

 そういう人物が現実にも幸福になっていくのだ。

 逆に、多くの物語に描かれる”不幸を嘆いている人の元に救世主が現れる”などという事は、早々ないのだ。

 多かれ少なかれ自分を救う者は自分しかなく、例え救世主がいたとしてもそれを招くのは自分自身である。


 つまり幸せになるためには”まず自分の不幸(不平不満)からはあえて目を逸らし、自分の幸せを探してそれに感謝できるようにならなくてはならない”のだが、これが存外難しい。

 なぜ難しいのかと言えば、我々が幸せを感じるのを邪魔する物が多すぎるのである。

 以下にそれを列挙してみよう。


①:他人と比較する。

 他者と比較して自分が幸せかどうかを判断する人がいるが、これは愚策である。

 他人と比較するのなら、どんな人でも自分が一つは他人より劣っている面を発見できる。

 そして世界一にでもならない限り、あらゆる事に上には上がいるので”あの人と比べて自分は不幸だ”という結論しか出ようがない。

 つまり”他人と比較する”という行為そのものが自分の不幸探しであり、やればやるほど自分の不幸ばかり感じるようになるのである。

 自分は自分で満足できればいいだけの話なのである。

 また”俺はあいつより優れている”という優越感だって長持ちはしない。

 とどのつまり他者を踏みつけて自分が気持ちよくなっているのだから、永遠に自分に踏みつぶされる人物を探し続ける事になるのである。


②:幸せの定義を常識や他者に依存する。

 このエッセイの第2話でも書いたのだが、我々の社会通念における幸せな人生とは『学校をいい成績で卒業して、無難な会社もしくは公務員になり、結婚し、家庭を作る。』となっているのだが、これに当てはまる人はどのくらいいるだろうか?

 仮にそれに完璧に当てはまっている人達がいたとして、その内の何割が本当に幸せなのだろうか?

 そもそもこんな窮屈な定義に従って幸せを探していたら、見つけられる幸せも見つけられない。

 幸せは薄味であるのだから、かすかな味すら見逃せないのだ。

 そんな大仰な理想にばかり目を奪われては、それに感謝するどころか”理想に届かない不幸”にばかりフォーカスしてしまうし、そもそもその理想が自分に当てはまっているかどうかすら考えられなくなってしまう。


③:将来の不安にばかりフォーカスする。

 ”将来に備えてああしとこう、こうしなければ”と考えるのは将来に対して不安を感じている証拠でもある。

 そして不安を感じていると幸せを感じられなくなるし、その不安が実現する方向に無意識に人は進んでしまう。

 そして最後には”俺が予想した通り不安に思っていた事が起こった”と自己完結し、更にそれを教訓にしてまた不安に対してばかり意識をフォーカスする。

 それを繰り返して多くの人は永遠と将来の不安ばかり感じているのであるが、それでは堂々巡りである。

 そしてそれが特に顕著に表れるのが、自分の夢や希望を叶えようとする時である。

 なにか夢を叶えたいと思った時に”将来~~になったらどうするんだ?”、”自分にそんな事ができる訳がない。いったい、いつそれが実現するというのだ?というような考えが脳裏をよぎり、諦めた経験はないだろうか?

 人の身ではどうなるかも読み切れぬ未来に不安を抱いても、人は幸せを感じるどころかそこから遠のくし、今やるべき事もせずに夢を諦める結果にもなりかねないのだ。

 そして夢を諦めて不満を抱えて人生を歩いても、幸せを感じられる訳がないのである。

 もし自分がなにか夢に向かって行動している時に”将来~~になったらどうするんだ?”という考えが脳裏を過ったら”知った事か”と笑えるよう習慣づけると良い。




 結論とすれば、やっぱり”今の幸せ”しかないのである。

 今を楽しめなければ未来の幸せもないし、今にしか自分ができる事はない。

 そして今を大切にしていれば、自然とチャンスや幸せと感じられる出来事はやってくる。

 それをスルーせずに受け取って、自然と与えられた物に感謝できるようになるのが本当の近道である。


 今を犠牲にする事で未来の幸せを得ようとする考え方もあるが、あなたがそれで幸せになれたのなら、こんなエッセイなんぞ読んではいないだろう。

 全体の何割もいない世間一般では理想的とされている成功例など、自分に当てはまると考えない方が得策である。

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