これから、僕を書く。

なんで今、これを書いているのか。

わからない。思い出せない。

でも、きっと習慣だったんだろう。

気がつくと、この日記と万年筆だけを握っていた。

だから今、これを書いている。

誰が読むのかわからないけど、なぜか書かなければならない気がして

これを書いている。

歩きながら。

汚い字だ。



今、僕は海に行くため歩いている。

どうして海に行きたいのか。それはわからない。

でも海のこと以外、何も考えられない。

なぜだろう頭の中がスッキリとしている。

世界がとても綺麗に思える。


でも体の中が暑い。

いや、寒いのかもしれない。

どちらでもいい。喉が渇いた。















もう書くのはやめて、歩くのに集中しようと思った。

でもふと前のページを見てみたくなって、一枚だけめくってみた。


焚き火をしている日記だった。

わからないけど、なんだか懐かしい気持ちになった。

何か忘れているような。

少し切ない気持ちにもなった。


もう一枚。もう一枚と日記をめくってみる。

そうだ、猫。

記憶のどこかにぼんやりと、黒く黄色い目をした猫がいる。

そして、彼女のことも。

ふたりとも、どこにいったんだろう。

頭の中のもやが少しずつ薄れていく。



ページを戻していくたびに少しずつ、風の音や葉っぱが揺れる音が聞こえるようになっていく。

記憶が鮮明になっていく。

足が痛いということに気づいた。

あれ?

なんで僕はここにいるんだ?

血液が身体の中を勢いよく流れているのがわかる。

早く。

早く戻らないと。




振り返ると、遥か先まで足跡が続いていた。

一人分の足跡。




一歩、足跡の上を踏む。

早く

早く…












海の音が聞こえる。

ああ。まただ。

風の音も葉っぱが揺れる音も、全てじんわりと消えていく。

振り返る。

まだ誰も歩いていない綺麗な地面に、一歩また一歩と足跡をつけていく。

呼ばれている。行かなくては。



















「に”ゃーお”」


どこからか、汚い鳴き声が聞こえた。

あれ、そういえばなんでこれを書いてたんだっけ。

まあいいや。

とにかく今は歩こう。




















これはもういらない。

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