10日目 ただ遠くへ

パチパチと火の粉が舞う。

焚き火を囲みながら、正面に座っている彼女の少し疲れた顔を見る。

どれくらい歩いただろうか。

あとどれくらい歩けばいいのだろうか。


「…会えてよかったよ」

気づけば、素直な気持ちが声になっていた。

「そっか」

猫を撫でながら、彼女が照れたように笑って言った。

パチパチ パチパチ

火の粉が舞う。


「あとどれくらいで着くかな〜 荷物減らしてこればよかったな〜」

「さあ、どれくらいだろう。とにかく今日はここで寝て、明日また歩こう」

「わかった。じゃあ私もう寝るね」

「うん、また明日」

焚き火に背を向けて彼女は横になる。

オレンジ色の光が彼女の小さく丸まった背中をゆらゆらと照らしている。



パチパチ パチパチ

火の粉が舞う。

パチパチ パチパチ

木が灰になり、積み重ねた木がガサッと音を立てて、少しずつ崩れていく。

パチパチ パチパチ…










































海の音が聞こえた。






















今、海の音が聞こえた。

きっと近くだ。

今まで浅く小さかった心臓の音が急にバクバクとうるさくなる。

ぼんやりと明るくなっていく白い世界は、自分以外いないように思えた。

足元を見ると、近くを川が流れている。

この先だ。







行かなくては。






歩く。

歩く。

歩く。

靴が壊れて、素足が地面に擦れて、赤い印を地面に残していく。



もうすぐだ。

遠く。もっと遠くにある。

ただひたすら、歩き続ける。

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