【後半】5日目 汚れた足

「帰れなくなった」


それが、女が不細工な顔をしていた理由だった。

呆れた。

ちょっと遠出をしていたつもりが、家への帰り道を忘れてしまったらしい。

さっきまで“それ”のことを考えていたからか、緊張がとけてしまった。


「あ、今笑ったでしょ」

「笑ってない」

「まあいいや。寒いから中入ってもいい?」

「寒くないだろ。暑いくらいだ」

「家に入れたくないのはわかるけどさ。もう入るね〜」

「、、、靴は脱げよ」

「はーい」


ドサっと音を立てて女はリュックサックを床に置く。

猫は少しビクッとして、女から離れる。

可哀想に。


「はあ〜重かった」


女は靴下を脱ぐと、指を曲げたり伸ばしたりしてくつろぎだす。

相当歩いて、靴に砂が入ったのだろう。

足は黒く汚れていた。


布団をもう一度頭から被る。


「暑かったんじゃなかったのー?」

「うるさい。寝させろ」

「暑いならさー私に布団貸してよー寒いんだけど」

「暑いし寒いんだよ」


布団の中からでもわかる。

女はじっとこっちを見ている。


「あっそ。まあ寝袋も毛布もあるしいいんだけど」


しばらく猫と戯れていた女も、しばらくするとスースーと寝息を立て始めた。

布団から顔を出し、冷たく澄んだ空気を思いっきり吸う。

猫ともう一つ。自分の近くにいる。

誰かと一緒なんて寝られるわけがないと思っていたが、いらない心配だった。

久しぶりに深い眠りについた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る