3日目 水辺の女
雨が降った次の日、近くに川ができていた。
大きくはない。
でも、とても綺麗な川だった。
男はふらふらと近づくと、両手をお椀のようにして丁寧に水をすくった。
外はこんなにも暑いのに、両手のなかはひんやりとしていた。
指の間から雫が垂れる。
川に落ちた雫は、小さな波紋を描いてまた川の中に戻っていく。
男の心は、幸福感で満たされていた。
ゆっくりと両手を口に運び、一口飲み込む。
熱い喉の中を冷たい水がツーっと流れていく。
幸せだ。
それなのに、男は涙がとまらなかった。
家から水を入れるものを持ってこよう。
せっかくだから猫を連れてきてもいいかもしれない。
そうだ、そうしよう。ああ、早く涙をとめないとまた身体が、、、。
今、ぼちゃんという音がした。
川が流れている音じゃない。
明らかに“なにか”が川に入った音だ。
男は顔をあげ、音がした方を見る。
女だ。
そこには一人の女がいた。
髪は自分で切ったのかところどころ妙に短い。
リュックサックには、見るからにガラクタばかりが詰め込まれている。
おかしな女だった。
女も驚いた様子で男を見ている。
ふと視線をおろすと、女は汚い靴のまま川の中に立っていた。
「、、、汚れるだろ」
「え?」
女は自分の足を見る。
まだ川から出ようとしない。
「靴のまま川に入ったら!川が汚れるだろ!」
男の大きな声に女は肩を震わせた。
女はもう一度足元を見て眉をひそめる。
そして、男の様子を伺いながらゆっくりと川から出た。
男は両手ですくって、もう一口水を飲む。
「もう誰もいないんだと思ってた」
女は水を飲む男を見ながら、小さな声でそう言った。
「、、、別に一人じゃない」
男は女の方を見ずに答える。
「え!他にもまだ誰かいるの!?」
「、、、猫」
女は長いため息をついた。
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