1日目 食欲

ゆっくりと目を開ける。

天井にぶら下がった丸い裸電球が静かに男を見ている。

電気は通っていないから、もう随分と前から“ただあるだけ”のものになっている。


ゆっくりと体を起こす。

吐いた息が妙に生温かい。


そうだ。

猫に餌をやらないと。

昨日は疲れてすぐに眠ってしまったんだった。


ふと猫の方を見ると、恨めしそうな目で男を見ていた。

床に置いてあったリュックサックは爪で何度も引っ掻かれたような傷ができていた。

「やめてくれ。これしかないんだから」

男は重たい体を動かして床から取り上げる。

猫はまだじっとこちらを見ている。


「主人に対してそんな目で見るなよ」

男はリュックサックの中にパンパンに詰まった猫の餌を無理やり引っ張る。

今にも袋が破れて中身が飛び散りそうだ。

なかば強引に取り出し、くすんだ皿に大体の量を入れる。


この猫は皿の上に乗ったものしか食べない。

逆を言えば、この皿に入れたものはなんだろうが、どんな量だろうが平らげてしまう。

恐ろしい奴だ。

慎重に量を考えて入れないと、いくら特売用の餌といえど、すぐになくなってしまう。

そしたらまた外に出ないといけなくなる。

あの灼熱のなか、また歩かなくてはならないと考えるだけで頭が痛くなる。


「お前も少しは節約を覚えろよ。人間より食う猫ってなんなんだ」

少し嫌味を言ってみたが、猫は知らん顔で皿をぺろりと舐めてみせた。

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