5.五分咲き半

南の空に位置する南十字星には、新しく星になる人間の魂に、星の名前を授ける場所が存在する。



風花の目の前にそびえたつ、豪華な彫刻が施された巨大な扉が、ゴゴンと音を立てて開いた。

扉の中は、天界に所属する星たちが星座の形を作って輝いており、さながらプラネタリウムのようだった。


「人は死ぬと星になる。」

この昔から言い伝えられていたおとぎ話は実在するのだということを実感し、17歳の高校生、蓮見風花はあんぐりと口をあけた。


「綺麗でしょ?ようこそ、天界へ。」


そういうとプロキオンは、星空の中へ風花を招き入れた。


少しの緊張と興奮を覚えながら、星の中を歩く。

よく見ると、星の下に書いてある名前が、明るか光っているものと暗くなっているものがあることに気付いた。


先に行く背中に質問を投げかけると、

「星の座についている人がいるときは明るいんだよ~」と間の抜けた声で答えが返ってきた。


おそらく、暗くなっている名前の星は今、天界にはいないのだと解釈して小走りでついていく。

よく見ると、名前が暗い星の方が多い。


手が足りないと言っていたのはそういうことだったのか、と風花は一人で納得した。



ぐるぐると螺旋階段のような回廊を降りていく。

星めぐりの歌のように夜空を歩くのは、純粋に楽しかった。


鼻歌を歌い、あたりを見回しながら進んでいくと、知った名前を見つけた。


「あれ、先輩の名前ですね!」


Procyonという文字が、温かい光を保って輝いている。その文字の上には大きな赤い星が、そしてその隣に小さな星が並んでいるのが見えた。


「そう、あれがこいぬ座だよ。かわいいでしょ。もう一つの星は勝手にアマデウスって呼んでるんだ」

「プロキオンって、確か冬の大三角のひとつですよね!」


初めて出会った星の名前を見つけたことに嬉しくなった風花が、なけなしの天文知識を披露する。


冬の大三角はこいぬ座のプロキオンと、オリオン座のベテルギウス、そしておおいぬ座のシリウスで構成される、冬の北の空に見える1等星の集まりだ。


目の前の夜空で残り2つの星を探すと、オリオン座のベテルギウスは星の輝きがなく、おおいぬ座のシリウスは名前が暗かった。


「いまシリウス、いないんだ……」

このつぶやきを聞いたプロキオンの表情が少し硬くなったことに、風花は気が付かなかった。


せっかく星の名前をもらうのだから先輩と近い所にある星がいいな、おおいぬとこいぬのコンビって可愛いな、でもどちらかと言えばプロキオンの方が大犬じゃね?


などと妄想を膨らめている間に、プラネタリウムの底にたどり着いた。上を見上げると、無数の星たちが瞬いている。

それはまるで、これからこの世界に加わる風花を祝福してくれているように思えた。



プロキオンに促され、中央へ進む。

プラネタリウムの底には、真ん中に天球儀のようなものが置かれている丸い机があり、それを囲むように、弓状の机が配置されていた。


机の真ん中にはカノープスが、そしてその左隣には軍人のような強面の男性、右隣には派手な青年が澄ました顔で座っている。


プロキオンは風花を天球儀の前に立たせ、強面の隣にちょこんと座って風花に『オッケー』のポーズを取った。


姿勢を正して、正面を見据える。

前を向いた風花の顔を見て、カノープスが頷いた。

どうやら儀式が始まるらしい。

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