2.一分咲き


 目を覚ますと、そこは天界でした。


「いやマジか。」

むくりと起きて辺りを見渡すと、目の前には教会のような、植物園のような奇妙な光景が広がっている。


豪華なガラスハウスの奥を見ると、先程知った顔がのんびりとアメリカンドッグを齧っていた。


「やあ、起きた?回収したばっかりだったのに無理させちゃってごめんね。」

「ここ、どこですか」

「天界だよ。」


びっくりするほど自分の予想が的中し、風花が頭を抱える。

さっき頭の中によぎった公共交通機関のキャッチフレーズのような言葉を思い返し、いやいやありえないでしょ。と抱えた頭を左右にブンブンと振り回した。


「回収した魂は、『星』になるならないに関わらず、天界に一度連れてくるんだ。これが、僕の仕事。」

「……死神じゃないんですか、それ。」


自分の置かれている状況はさておき、風花はずっと感じていた疑問を口にした。


「あの人たちとは一緒にされたくないなあ!

僕らは『星』。魂のめぐりがきちんと行われるようにお手伝いをしているんだよ。」


目の前の青年はアメリカンドッグの棒を振り回しながら憤慨した様子をみせる。


プロキオン曰く、『星』とは現世に未練のある魂が天に従属したものを指す言葉で、いわゆる天使のようなものらしい。



亡くなった人の魂は一度天界へ運ばれ、転生するための準備期間を与えられる。


『星』となる魂は、現世に強い未練があるため、転生するまでに長い準備期間が必要である。

その間、魂の回収任務を行いながら現世での人生を振り返る。


この期間を『星辿期』と言う。


魂の準備ができたら『星』は満期となり、新しい魂に転生することができる。その期間は様々で、早ければ1年、長ければ10年程度必要である。



というのが、プロキオンよる熱い説明から得られた『星』についての情報であった。

間に大量の雑談が入ったためなかなか的を得られず、風花が何度も聞き返して話が進んだのは、今は横に置いておこう。


「で、私も星に?」

「そう、今こっちの空が手薄でさ。

僕だけだと手が回らないから助けて欲しいんだ」

「魂の回収を、ですか?」


うん、と頷くプロキオンを横目に見て、風花は途方にくれた。


魂の回収といえば聞こえはいいが、つまりは人の死を目の当たりにしなければならないということだ。

まだ葬式にも満足に出たことがない年齢の風花には荷が重すぎるのではないかという気がする。


ううん、と腕を組むと視界の端でプロキオンの派手な金色の髪がわさわさと揺れた。


「急にこんなこと言われても困ると思うんだけどさ、そこをなんとかお願いしたいんだ。

わからないことは僕がなんでも教えるから!先輩って呼んでよ。ね。」


肩マントをくるくると翻しながら、プロキオンが懇願する。このイケメンを先輩と呼ぶのは割と魅力的だな、と風花はやや邪な動機を持ちかけた。


そのときである。

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