1.開花


事故、だった。


原因は車両の一時停止違反。

犠牲となった女子高生も自転車を運転しており、スピードを出して交差点に進入。


一時停止を無視した自動車と衝突する大事故になった。女子高生は即死。

自動車を運転していた75歳の男性も大怪我を負った。


というのが、その日夕方のトップニュースだった。



✿✿



その事故で犠牲になった女子高生、蓮見 風花は今、大変に困惑していた。



終わり、だと思った。

いや、終わりになるはずだった。自分は先ほど事故にあったのではなかっただろうか。


体を調べてみるが、怪我や傷などは見当たらない。宙を舞った時に、足が普段とは真逆の方向に捻じれていたのが見えたのだが、今は朝と同じ状態できちんと収まっている。


そして、何より奇妙なのはこの、目の前に突然現れた青年だった。


「蓮見風花さん、17歳。高校2年生。あってる?」

かろうじて、首を縦に振る。


屈んで目線を合わせてくる青年は、真っ白いスーツに左肩だけマントがついた、なんとも漫画に出てきそうな不思議な出で立ちをしている。

その奇妙な恰好が、より風花の警戒心を強くした。


「あ、大丈夫だよ。はじめまして。僕は君を迎えに来たんだ。」

「いや、王子様かよ。」


しまった。心の中で突っ込んだはずだったのに、

うっかり口をついて出てしまった。


見ず知らずの男の人に王子様なんて言葉、誰がかけるだろうか。

しかしこの人の顔が好みなのが悪いんだ。

あと服!肩マントって!似合う意味が分からん!



独り百面相をしながら、風花は無言で身をよじる。

なんとも奇妙な女子高生には全く動じず、真っ白な青年は笑いながら風花に声をかけた。


「あはは、この恰好だとそう見えるよね。よく言われる。」

でしょうね!と言いたいのをグッと堪えたところで、風花はとても重要なことに気が付いた。


「あれ、私死んだんじゃなかったっけ?」

「そうだよ、僕はプロキオン。君の魂を回収しに来たんだよ。」


魂を回収って、この真っ白イケメンは死神なのか?ああやっぱり私は死んだんだな。

ウソでしょ明日は卒業式の後センパイにお呼ばれしたのに!


と、一瞬で風花の頭の中を様々な思考が駆け巡る。

やっとの思いで出たのは一文字だった。


「は?」


「君も星にならない?」

さらにもう一文字。


「え?」


「僕はこいぬ座α10番、プロキオン。

北の空で魂の回収任務を担当している一等星です。蓮見風花さん、あなたを『星』に推薦します。僕を手伝ってくれないかな?」

真っ白イケメン、もといこいぬ座のプロキオンが笑顔で手を差し出した。


次の記憶は、ここまで。

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