お食事の時間
夜中辺りの時間帯。
本来ならば空腹を堪えながら寝ている時間。
もう廊下を歩く事を咎める父親も、冷蔵庫を漁るだけで怒る母親も居ない。
だから、僕はご飯を食べる事にする。
「真純ぃ?なぁに、するのぉ?」
瞳は何を食べるのだろうか。
僕は彼女を見ながらそう思った。
とりあえず冷蔵庫の中を開けてみる。
冷蔵庫の中には色んな材料があった。
この食材全ては、僕には関係ないことだと思って手をつける所か、冷蔵庫の中身を確認した事すらなかった(中を見れば怒られたから)。
沢山の食材は、調理前だと言うのに美味しそうに見えて、僕のお腹を大いに刺激した。
もうこの食材を食べる両親はいない。
ならば僕がもらっても問題はないだろう。
僕はそう思いながら冷蔵庫から手当たり次第食材を取り出す。
そして思ったことがあった。
そういえば僕は料理をしたことがないんだ。
どこかにレシピ本などはないかそう思って僕は料理の本を探してみる事にした。
「…うーん、なさそうだな」
けれど、料理の本は何処にも見当たらない。
さて、どうしようか。
本が無ければあとは創作で料理をする他ない。
今日の所は簡単な料理、卵かけご飯とかで腹を満たして、明日になったら本を買いに行こうか?
そう考えて、瞳を見る。
彼女も一緒に連れて行くべきか…、いや、それは難しい話である。
彼女は現在、僕の妹として装っているが、それでも中身は化け物だ。
今は僕を慕ってくれているから、僕を殺す様な真似はしない。
けど、僕以外の人間と出会ってしまえば…彼女は人を殺す、その可能性は大いにある。
人が見ていない家の中で人を殺せば、まだ証拠隠滅できるだろう。
だが人が多い場所で殺してしまえば、多くの目撃者を作ってしまうということになる。
そうなってしまえば僕の手には負えなくなってしまうだろう。
折角僕に好意的な家族ができたというのに。
最早、僕に彼女を手放すという選択肢は僕にはなかった。
「…あ、そうだ」
レシピ本ならあったぞ。
と、僕は学校で使用するバッグの中から教科書を取り出した。
それは家庭科の本だった。
最近の家庭科には料理の作り方なんてものも書いてある。
僕は家庭科の本を見ながら料理をする事にした。
「真純ぃ?」
僕がフライパンを取り出した所で、瞳が何をしているのか気にしている。
そう言えば、瞳は人間が作る料理は食べるのだろうか?
それとも、やはり化け物だから人間を食べるのだろうか。
どちらにしても、材料は足りてあるから問題は無い。
取り合えずは彼女の為に料理を作る。
さて。
僕は瞳の前に料理を出した。
簡単な料理で、それは生姜焼きと味噌汁、そして白米だった。
彼女は僕の方に近づいてきて張り付く。
「駄目だよ」
僕は彼女を引き離して隣の席に座るように指示した。
言われた通り、彼女は僕の隣に座る。
とりあえず、料理を目の前にして、彼女はどの様な反応をするのか様子を見てみる。
同時に、自分で作った生姜焼きを食べてみる。
うん…味はそれなりにおいしい。
久々の濃い料理だから、舌がなんでも美味いと感じているかも知れない。
僕が食べてる様子をみて、瞳も箸を握った。
だけど僕のようにうまく箸を扱えずに、箸を鷲掴みにした。
瞳は生姜焼きを串で突き刺す様にして持ち上げると、それを口に運ぶ。
もぐもぐと、瞳は料理を食べて僕の方を見た。
「おい、しい、ね、おいしぃ、ねえ」
そう言われて、喜ばない人間など居ない。
そうか、と僕は頷いて、彼女の口元に付着した生姜焼きのタレをタオルで拭った。
ゆっくりと舗装された道路を歩く。
今夜はとても良い夜だ。
夜風は程よく肌をなぞり、草木では虫たちが呑気に鳴き声を歌っている。
車の姿も、人影すらない、無人の空の下。
真夜中であるというのに妖しく紫色の光を放つ数珠を表面の硝子の面で擦り合わせ、じゃりじゃりと音を鳴らす。
水晶の様に澄んだ数珠には魚卵やカエルの卵のように、中で何かが蠢いているのが分かる。
それは人のフォルムをしていたり、あるいは四足歩行の獣のような姿も見えた。
三十の珠が連結された数珠を片手に備えながら家の前に立つ。
そこは平人真純の家である。
夜中ではあるがまだ起きているのだろう。
明かりがついており微かながら生活音を聞こえてくる。
「まずは目と音から潰すとするかね」
糸で繋がれた数珠の一つを引き千切り、それを地面に転がして足で踏み潰した。
するとかんしゃく玉でも叩き潰したかのように黒い煙が噴き出る。
老婆は手を合わせ、煙に向けて拝むと、声を漏らす。
「『
暗闇から現れる能面翁。
嬉しそうな表情を浮かべたまま固められた仮面は、口元から黒い液体を垂れ流している。
黒い液体は、平人真純の家に向けて流れ出して、一軒家は黒い液体に飲まれた。
部屋の中で食器を片付けていた平人真純は、急な暗闇に首を傾げた。
「【あれ?】」
平人真純に音と光が奪われた状態だ。
その異常現象に平人真純も即座に気がついた。
停電でも起きたのか、暗闇になった。
「【…?声が】」
そして次に音が消えたのだ。
なんだこれは、何が起こった?
そのような言葉を発したつもりだか。
周囲の暗闇に光と音が吸収されていった。
彼は慌てる事なく、その場に留まる。
平人真純は、どうするかと考えている矢先に、彼の腕に柔らかな感触があった。
「【瞳?】」
平人真純の手を強く握り締める。
瞳も、周囲が見えなくなっていたが、彼の臭いを察して近づく事が出来た。
とりあえず。
平人真純は暗闇の原因を探る為に、まずは電気のオンオフをする事にする。
壁伝いに移動すれば、電灯のスイッチは感覚で分かる。
スイッチに手を触れて調べる…しかし、オンオフをしても明かりが点く事はない。
「【ブレーカーの問題かな】」
そう思った。
口に出したが、闇に飲まれて聞こえなくなる。
さて、困った事である。
スイッチならまだしも、ブレーカーとなれば、彼はその場所を知らないのだ。
この家に来て一年程ではあるが、その居場所が分からない。
「【うーん…廊下辺りかな?そこらへんで見た気がするけど】」
そう言って、壁伝いで廊下へと出ようとする。
しかし、瞳が彼の体を抱き締めて、そちらに行かせない様に邪魔をして来た。
「【なに?】」
そう聞くが、まったく答える声はない。
しかし、瞳は気が付いていた。
玄関からの来訪者に。
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