暗躍の影と証拠隠滅
武之内市長が通う
古来より、この四継市には、東西南北の位置に妖を封じ込めていた。
四百年前の時代、飢饉が流行り、死体から発生した疫病により災いを齎していた四継市に越した章枝の霊媒主は、村民を憐れては知恵を貸したとされる。
四継の村民を助言によって救った事で、彼女の先祖は町の重役としてこの地に在住し続けていた。
「凶だね」
目の見えぬ皺だらけの老婆は茶を飲みながらぽっと囁いた。
武之内市長はその言葉に対して喉を詰まらせる。
今までに無い、老婆の意味深な言葉に、恐れを抱いていた。
「凶とは一体どういう意味ですか」
市長の髪の毛は揺れる。
つい先日白髪染めをしたために彼の髪の毛は茶色でどこか
「見ただけで分かるよ…あの家には凶が出ておる、外神人外が完全顕現しているね…」
「それは…それは、良い事では?」
「馬鹿言うんじゃないよ。外神人外は土地神だよ?この地を守る神様が、ずっと出ている状態なんだよ。十年前なら、多少の瘴気を発生させた後に供物を受け取って住処に戻る筈だ。けれどここまで瘴気を発していると言う事は…土地神がこの地から離れつつある」
それは都合の悪い話だった。
市長はばつが悪そうな表情を浮かべる。
この土地は、外神人外と呼ばれる神が齎す奇蹟によって町の活気を取り戻す、と言うもの。
町が廃れていくのは神の守護が弱くなり人に気分を害する悪影響を及ぼす霊気が満ちてしまう為だ。
だから、供物を捧げ神を興す事で、町にも英気を養わせる。
町興しとは神興しでもあり、未来繁栄の為に秘密裡に行われている事である。
その土地神が、土地を守らずその場から離れるとなれば…町に未来はなくなってしまう。
武之内市長は老婆に近づく。
「そ、それで、どうすれば、」
慌てふためき、老婆に助言を求める。
対して老婆は落ち着いている、お茶を飲みながら一息吐いた。
「落ち着きなされ、土地神は土地に棲むが故に土地神、土地から離れればただの神。町に繁栄を齎す神を、守護霊として使役すれば…言いたい事は分かりますな?」
この状況を好機と捉える老婆だが…武之内市長は困惑していた。
彼には力などない。老婆の様な特別な力を持たない人間には、恐れる事しか出来ない。
「先ずは、この章枝
不敵な笑みを浮かべる章枝珠子。その余裕そうな表情から、武之内市長はやはり信頼出来るお方だと、心の底から関心する。
だが、章枝珠子の脳裏は欲暴に渦巻いていた。
「(よもや、外神人外が地から離れるとは!奴を捕まえれば、私だけの願いが叶うぞッ!)」
僕は家の掃除をした。
首が折れたお母さんは、僕が寝ていた地下室へと入れた。
お父さんの残骸は、掃除をするのも面倒なのでそのまま放置をしておく。
廊下に濡れた血の海は、バケツと雑巾を使って必死に掃除をした。
血が残らない様に掃除をした後は、血が付着した衣類も、地下室に投げ捨てて、部屋の前を段ボールでシャットアウト。
部屋の扉は壊れていたけど、地下室へと入る為の扉は無事だから、ガムテープで塞げば、これで十分だ。
後はホームセンターで、新しい壁紙でも買って、それを張り付けておこうか。
そんな事を考えながら、僕は家の清掃が終わると、『瞳』の様子を見る。
『瞳』と言うのは、僕の妹の本名だ。
あの化け物をどう呼ぶのか悩んだけど、結局は、妹と同じ瞳と呼ぶ事にした。
部屋に入る。
妹の部屋は質素で、机とベッドとクローゼットしかない。
クローゼットの中には、普段は着回している服が三つと、夏用と冬用の衣服しかなかった。
瞳は、部屋の中で全裸のまま寝込んでいる。
すうすうと寝息をたてながら、瞳は眠っているから、化け物でも、眠る事があるんだなと、僕は思った。
「瞳、起きなよ」
そう言って、僕は瞳を起こす。
目を開く瞳は、僕の顔を見るや否や、嬉しそうな表情を浮かべて、手を広げた。
瞳の体は、なんとも柔らかな線で描いた様な体だ。
彼女の腕が僕の体を触れると、優しく抱き締めて声を漏らす。
「ますみ、好きぃ…」
ますみ。
僕の名前だ。
段々と彼女は言葉が流暢になっている。
彼女の好意は嬉しいけど、僕はそれよりも服を着て欲しかった。
「ほら、瞳、服」
僕はクローゼットの中から服を取り出す。
女性モノの服は、僕にとっては異質な代物で、着せ替え人形の様に着せ替える事は難しい。
けれど、見慣れたセーラー服ならば、着こなし具合とかは、学校の女子生徒がしているから、何とかなるかも知れない、僕はそう思って、彼女にセーラー服を渡す。
白色のセーラー服。それを彼女に渡して、瞳に着せていく。
…へぇ、スカートってチャックがついているのか。
なんて思いながら、彼女にセーラー服を着せた。
これで、当面は姿を気にする事は無いだろう。
「ますみ、真純ぃ」
はしゃぎながら、瞳が僕にしがみつく。
その体は、最早人間のものではなく、あの巨体が、どうやって人間の体に入ったのだろうと思っていた。
けど、彼女を抱いてみて、その理解はより難解である事が分かる。
人を越える背丈、父さんを殺す程に強い膂力。
筋肉量は相当なものだろうが…瞳の体重は、殆ど無いに等しく、抱き締められながら立ち上がっても、衣服を着ている様な、そんな軽量さしか感じなかった。
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