断章1 終わりを待つ神社の陰

 俺は幸福が嫌いだ。幸せになるやつも、幸せを願うやつも、幸せを感じているやつもみんな嫌いだ。あいつらさえ居なければ、不幸なあの子は死なずに済んだんだ。308年前。力を持たないと分かった途端に親に捨てられ、周りの奴らに忌み子と呼ばれた、白い髪に真っ赤な目をしたあの子。

 幸せを司る神様の俺は、当然その子にも幸せをあげようとした。初めは何も持っていなかったその子は、「家族が欲しい!」

 と敬語も何もなってない願いを言った。だから何とか理解者を見つけた。珍しい物好きの変人だったみたいだが、金も地位も十分にある奴だった。仕事も与えられた。

 その子を紹介した俺の存在を知ったらしく、そこそこの信仰も集まり始めた。

 ある日、その地位のある変人を疎んでいた人が、俺を見つけた。幸せを叶える、願いを叶える存在である俺は、その幸せを聞き届けるしか無かった。食中毒と、責任を負っての感電死。俺の所で毎日笑っていたその子の顔には、電気で壊死した内臓からの吐血以外、なにも残っていなかった。

「私に幸せをくれてありがとう、神様! 私は何があってもずっと神様を信じてるよ!」

 あの子の言葉だけが、脳裏にこびりついて離れなかった。

 だから俺は決めた。神様なんてクソ喰らえ。どうせ、幸せを願う時、やつらは誰かの不幸せを願ってる。結局は、醜い足の引っ張り合いなのだ。

 だから、だから俺は悪魔になる。もし次俺を見つける程不幸な奴がいたら、そいつを使って幸せなんて考えたくもない世界に変えてやる。そら、来たぞ、獲物が、

 ……ああ、綺麗な日傘と擦り切れた服を着た、真っ白で真っ赤な少女が。

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