断章2 火の熱風、湖からの風、船の陰

 感傷に流されては行けない。あいつはあいつ、あの子はあの子だ。代わりになんて、なりはしない。どうやらあいつはしっかりしているようだ。常識と知識を持ち、礼節もある。きっと大切にされて育ってきたんだろう。あんな奴なら、俺の計画の種に相応しいだろう。あいつが呼ばれた小説家の家。そこでの問答を盗み聞きする。

「宗教の方々のところに居たんです。神様の使い、巫女だって」

「悪いことをしてたみたいだったので、逃げてきたんです」

 納得した。俺は願いを叶える時に問題がないように、対象の名前が分かる。こいつはフィールだった。でも言ったら入江愛子だという。そういう事か。神の代わりは、神しかなれない。

 ただこいつにそんな力は無い。ただの人だ。ああ畜生。この世界の人間は何回でも同じことを繰り返す。学習は知識しか更新されない。人間性はいつまで経っても欲望に忠実だ。倫理書には同じことしか書いてない。ちょっとは進歩すればいいのに。

 せめて、あの子とこいつを被せるのだけはやめてくれ。

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