断章3 シェルター、排気ガス、ビル風の陰

 あいつのことがよくわからない。願いが分からない。平静を装って始めた儀式も、うまくいくかさえ分からない。ひとまず儀式が進む度に力が戻っていると嘘を着いて誤魔化す。

 あいつは良く周りを見ている。気遣いが出来る、というのももちろんあるが、そんなことよりも視線をよく見ている。誰が自分に、どんな視線を向けているのか。なんというか、隙がない。少女の様に興味に敏感で何にでもよく気づくのに、その後は大人のような対応をする。とてもちぐはぐでわざとらしさがあった。

 そのくせあいつは自分のことを話さない。これだけ一緒にいて、未だにわかったことはあいつの名前と宗教集団にいたことと、巫女にされていたこと。それくらいだ。何も分からないせいで、あの子と境遇が被る。誰を見ているのか分からなくなる。

 まあいい。欲にまみれた人間は、俺の計画にどうせ気づかない。きっとこいつもそうだ。 誰かの不幸を願っているに違いない。もしかしたら世を恨んで、全人類の不幸を願っているかもしれない。それなら都合もいい。今度、あいつが大切にしている本を見てやろう。どうせ悪意が透けて見えるはずだ。

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