断章4 寝息、ニュース番組、ベッドの陰

「う、ぉおえ!!!」

 彼女の日記を読んで、吐いた。思い切り。元から使えたけれど彼女には3段階目にしてやっと手に入れた、ということにした、別に基本的な能力なので歯を噛み合せるのと同じくらい簡単だけれど、馬鹿みたいに疲れるということにしてある、人型になれる魔法を使った後、わざわざ吐いた。

 仕方ないだろう。こんな気持ち悪いの耐えられるか。俺が俺として安心するためにはこうするしか無かった。猫のままではせいぜい毛玉が出てくる程度で全く収まらない。だからこうするしか無かったんだ。心中でもなんでも良いから察してくれ。

 今まで色んなやつを見てきた。

 本気で自分が正義の味方だと信じて、仕方なく行っているのだと殺人を願った爺さんも。

 孫も子供も大好きで大好きで仕方なくて、プレゼントのために物を盗もうと考えていた婆さんも。

 友達が欲しくてたまらなくて、その為に自分をいじめるように仕向けた少年も。

 悪いことをしてはダメだと正義感に駆られて、不出来な親を監禁して躾をして従わせた少女も。

 ただこんなことは。こんなやつは初めてだった。

「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!」

 思わず口に出す。すぐ横に本人が眠っているなんて気に出来ない。そうしないと気が狂いそうだ。幸いつけさせたニュース番組を消さずに寝たあいつは起きる気配がない。

 こいつの旅の記録は頭がおかしい。こんな『何も無い』旅なわけあるか。真夏の旅に今まで巫女としてちやほやされてきたやつが耐えられるわけが無い。倒れるほど暑かったはずだ。脚がちぎれるほど痛かったはずだ。久しぶりの風呂は嬉しかったはずだ。俺に、周りの人に変なやつ呼ばわりされてキレたかったはずだ。いきなり捕まって変な建物に連れこまれて泣くほど怖かったはずだ。小説家の男に会って、初めて仲良く話しをして、楽しかったはずだ。なのに新しい文法を知ったなんてしょうもない日記がかけるんだ。そんなことよりも書くことがあるだろう!

 旅の中で人を信頼している素振りをみせて、丁寧かつ謙虚に、他人と仲良く話してたじゃねえか。その裏になんの感情もないなんて、気持ち悪い。こいつはきっと人を微塵も信用してない。なんだコイツは。この調子じゃ、俺の計画も勘づかれてるんじゃねえか?

 何とかしなければ。

 読み直して、露骨に避けられた望みがあることに気がついた。

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