第1話 死神の気まぐれ

 現在時刻は朝の七時……の筈だ。

 目を覚ますと、冷たい床に真っ白な空間が最初に目に映った。

 あぁ、恐らく昨日の依頼に関係があるのだろう。このパターンは俺は誘拐でもされたのだろうか。


 だがカーテンを閉めて、部屋の鍵もパスロック式で、部屋の電気も消した筈だ。

 無理矢理ドアを開けようすれば警笛が鳴り、穴を開けてもドア前の物体センサーに引っかかる。

 もしばれても良いのなら、俺の部屋を外から爆破でもしなければ入れない筈だ。


『やぁジャック君! 目を覚ましたかい? 改めて自己紹介しよう。僕はUnknown。良い名前だろ?

 それと同時に死神さ☆ 格好良くない? 昨日依頼したのはこの僕。夜遅くに依頼したのはごめんねぇ〜。だから君が寝ている間にこっそり魂抜いて殺しちゃった!』


 俺は苛立たしい声の方向へ身体を起こして向ければ、そこには小さな六歳くらいの子供がいた。


『今僕のこと子供じゃんって思ったでしょ! でもでもぉ、さっきも言ったけど、ジャックはもう死んでるんだよ。いやぁ、殺し屋生活お疲れ様でぇす』


 俺はその場から動こうとするが、何故か身体は動かず、声も上げられなかった。

 口は開けられるも、息だけが吐けるようで声が出なかった。


『抵抗は無理無理〜。今の君は人間の身体じゃなくて魂なんだから。自分の身体がどうなっているくらいちゃんと把握しなきゃダメだよ?

 さてさて、無駄話はここまでにしてぇ。昨日の依頼の詳細を教えてあげよう』


 身体を拘束している奴の依頼など誰が受けるものか。俺は首を横に振って話を否定する。


『依頼内容はねぇ。君にはこれからとある高校生となって異世界転生してもらいま〜す。

 今君は殺し屋として、精神も何もかもも殺人が染み付いているけど、また高校という青春に戻りたくはないかい?

 "興味は無い?" そっかぁ〜。でもね、これは僕の思い付きなんだ。君を高校生にする訳も無いし、異世界転生させる理由もない。


 でもさ、ガチの殺し屋が高校生になって、生徒と異世界転生とか面白そうじゃない? 子供の鳴き声や怒り狂う声が大の嫌いな君には最適だと思うんだよねぇ〜。

 無情で無慈悲な君がどれだけ耐えられるか。それもちょっとだけ気になる。


 だからさ、遊んであげるつもりで一度行って見ない? あ、一度と言っても命は一つだから死んだら終わりだけどね! てへっ☆』


 完全に俺の心が読まれ、流されながら会話が進んでいく。だがいくら否定しても相手は一切聞かない。こんなのは会話ではなく一方的な要求だ。 

 依頼を飲んでも飲まなくても、この先はもう意味が無いのだろう。抵抗しても無駄か。


『そうそう、そゆこと〜。だから僕も話すの疲れたからそろそろ出発させるねぇ。

 あ、異世界転生については……いつもなら魔法陣と出すんだけど……今日は思い付きだから一丁ド派手にいくからね! 心の準備よろしく〜。そいじゃ! アディオス!』


 そう子供の話を聞き終われば、俺の視界は暗転した。

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