第21話 運動会の反省会

春の運動会の翌日6月1日は 「お疲れ休み」として臨時休校だった。


「なんだかなぁ、面白かったっていうのがはばかられる顛末だったなぁ」あかつき


「もともと 予備校は社会人になる前の職業訓練だけでなく 適正検査場も兼ねているのです」エドガー


「つまり?」

アカツキといっしょに ベランダでお茶会中だったムサシとキサラギも、身を乗り出すようにして 説明を求めた。


「ほら 領地に居る貴族って その実態が分かりにくいでしょ。

 好き勝手やってても バレにくいというか」エドガー


「それで?」ムサシ&キサラギ


「まして 家庭の事情ってのは 傍からはわからないことも多いですから」マッタ―


「続けて」アカツキ


「それで とりあえず成績順に入学させて、校内での行動を観察して

 あと 学校行事を見学に来た保護者の振る舞いも観察して

 ついでに 非常識な保護者への矯正指導もして

 無知な保護者への再教育とか

 それで 集団行動に適さない人間は再教育、反社会的性格の者は追放・隔離施設におくり、非社会的傾向のある人には その能力に見合った職業教育と就職先のあっせんをするんです」マッタ―


「それに よくいるでしょ、普段は まあまあ可もあり不可もありで、

 いい奴とは言えないけどこっちが我慢すればなんとかなるかな??って感じの人とか、一見無難なように見えても 実は腹黒い奴とか」カモン


「そういう人間って 結局 社会に災いをもたらしたり、厄介事を災害レベルにまで大きくするんですよ。


 たとえば1BDの生徒のように、勝負事になったとたんに、一番弱い立場の人間に狙いを定めて 情け容赦なく踏みにじって 「勝つため・クラスの為・学年の為」と正当化する者のように。」マッタ―


「そういう人間をのさばらせてはいけません。

 そういう人間は 分相応に与えらた仕事だけさせて 社会的影響力をゼロにしておく必要があります。」エドガー


「その場の流れで徒党を組んで悪事をなすような人間は あくまでも孤立させておかないと、周囲の者を巻き込んで まっとうな人間を食い殺す、いわばウイルスみたいなもんです」マッタ―


「ずいぶん 厳しいね」ムサシ


さびみたいなもんです。

 放置しておけば 社会全体をダメにする。

 社会を維持するためには 早期発見・徹底除去が必要。

 ただ 人間だから むやみに殺すわけにはいきませんからね。

 できるだけ 社会に害を与えない部署で 無難な仕事をさせるんです。

 そのための 選別・観察機関が予備校の役割でもあります。


 だから 3クラス分の生徒が退学になっても また次の生徒が来ますよ。

 予備校の第一受験資格者は貴族、空きがあれば 納税額の多い平民の子

 これで たいてい 第1回の入試枠は満杯です。


 でも 補欠もありますし、第2階選考は納税額の基準を引き下げて、第3回選考は基礎学力のある者 第4回選考は志のある者・学習意欲のある者、とドンドン受験条件を引き下げていきます。


 だから 4月の新入生の年齢は同じでも、上級生は 同学年でも年齢はバラバラでしょ」エドガー


「そうなんだ、気が付かなかったよ」アカツキ


「もっと在校生と交流してくださいね」エドガー


「そういえば 補欠や2次選考以後の試験を合格した人のための 補助学校があるときいたことがある」キサラギ&ムサシ


「そういうことです。

 補助学校を経て 再試験を受けて 編入してくる人・新たに編成されるクラスも、これから出てきます。

 そして1Eの中から 再教育を受けて復帰してくる人が多いことを期待しましょう。」エドガー


「そうだな。 自らの選択を誤った他人の過ちの顛末について悩むより これからの学園生活を有意義なものとすることに気持ちを切り替えよう。


 それが在校生の責務だよ。」ムサシが意外とクールなことを言った。


僕が驚きのまなざしを向けたことに気づいたムサシが恥ずかしそうに言った。


「一応 俺 兵士訓練も受けているんだよ。

 そん時に 兵隊仲間が己の判断の過ちでケガをしたら それはケガしたものの責任だって強く言われたんだ。

 もちろん 仲間として救護義務は 果たさなければいけないよ。

 でもさ そいつが愚かで不勉強で不注意なことは そいつの責任で 俺がどうにかできることじゃないって。

 もちろん 世の中には 不運な回り合わせに当たることもあるし、そういうことでケガしたものを 気遣いうのは仲間として当然のことだけど、そいつの責任でケガした顛末に こっちが責任を感じることはないって。

 そいつの至らなさを事前に注意するのは こっちの親切心で それはケースバイケースだって。 でもそいつが至らないが故にけがするのは自業自得だって。


で どうしても 相手が不憫だと思うなら、そういう不憫な人が再度チャンスをつかめるように社会を整えるのは良いことだけど、でもバカな人間のために まっとうな人間が犠牲になるほどの過度の援助は 間違ってるって。


 一番大切なことは まっとうに生きている人間が その成果を受け取り 自分でその成果の配分を考えられる世の中にすることだって」ムサシ 


「言われてみればそうだね。

 むさぼらず 無駄にせず。

 無駄にせずってのは、成果を得るために払った労力を無駄にしないってことも含まれてるんだよね」キサラギ


「今あるものは 自分も含めて 誰かが支払った労力の成果だと考えると・・

 「施し」とは自己満足のための浪費だということがよくわかる。

 言葉ずらの 甘さ・冷たさと言ったイメージに惑わされてはいけないと再度覚悟したよ。」アカツキ

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