第19話 運動会:昼休み

運動会の要綱には、「昼休み:回復と兵站補給の時間」と書かれてあった。


これは、保護者から差し入れをもらったり、自分達で魔法や魔法薬を使って回復しても良いということだということは、上級貴族の出身者は全員知っていた。

だって これは上級貴族にとってはおなじみの言い回しだから。


C組はA組に敵対していなかったので、この情報はAC組で共有した。


しかしA組にやたら敵意を向けて来たBD組や、金銭要求してきたE組には教えていなかった。

 だがBDE組の保護者達も たいていわが子の差し入れに魔法薬入りの弁当や菓子類を持って来ていたそうだ。


観覧に来ていた家族たちは、入校するときに、あらかじめ厳しく持ち物検査を受けていた。つまり 学園長が認めた回復薬しか持ち込めなかったのだ。

 だって 変な薬で生徒達の健康を損ねるわけにはいかないからね。


平民の金持ちの親たちは バカ高い変な薬を差し入れに持って来てそれらを没収されたうえ、魔法薬の先生たちから 薬の安全性と危険性に関する講義をたっぷり1日中聞かされたらしい。つまり せっかくわが子の晴れ姿を見に来たのに、運動会を観覧できなかった(笑)


中には 成り上がりの下級貴族の親にもそういう馬鹿な人がいて、こっちは 魔法薬学の講義だけでなく 貴族の矜持に関する叱責も受けてペナルティを食らったらしい。

 

BDE組の一般的な親たちが差し入れに用意した 増進薬入りの自家製食品や健康食品もまた没収対象だった。

そして 魔法学科の教師たちが、懇切丁寧に、料理に使う一般的なスパイスと、

市販の増進薬・健康食品との違いを具体的に説明し、こうした薬品まがいの食品もどきの危険性について説明した。

 こういうまがい物の添加物は 効果が薄い上、一度 食すると体内に蓄積されて

じわじわと健康をむしばんでいくのだと、健康被害者の診断画像も加えて説明したものだから、保護者達は真っ青になったらしい。


 すごいな予備校、生徒だけでなく 保護者教育までしているよ。


 ちなみに 毎年一般的な保護者達が持ち込んでくる食品に転嫁された市販品は

 いつも最新商品が含まれているので、没収品は、こういった市販の薬物取締部署と 情報共有することになっているそうだ。


 つまり この春の運動会のあとに、僕たち生徒も 保護者も 改めて魔法薬やそのモドキの危険性に関する講義とテストを受けたわけ。


とまあ 後日談は置いといて、運動会の昼食時間に話を戻そう。


僕とキサラギとムサシはいっしょにめいめいの家族と食事をとった。

 つまり3家族合同のお弁当大会になったわけ。


ムサシのお父さんがシュッとしたインテリで

キサラギのお父さんがいかつい近衛だったのには驚いた。


二人とも母親似だったらしい。

ムサシのお母さんは 恰幅の良い力持ち女性で、

キサラギのお母さんは すごくきゃしゃな女性で領地を切り回す才覚にあふれた人だった。


食べ終わるのを見計らったように、1Eの学級委員長がやってきた。

まず最初に、以前 同学年としての共闘ではなく傭兵として雇えと言ったことを謝罪してきた。

それから 余っている回復薬があれば、実費で売ってほしいと頼んで来た。

 なんでも 1Eのメンバーは 3Cの先輩たちにかけられた消耗魔法のせいでいまだ力が戻らないのだそうだ。

 かわりに午後の騎馬戦では1年生を狙わず 全力で2・3年生に立ち向かうことを約束するという。


とりあえず 本当に消耗魔法のせいで力が入らないのか、ただの疲労に気落ちが加わってだるいだけなのか鑑定するために1E全員の様子を見に行くことにした。


一応 1ACの連中に声をかけたけど、今のところそういったことまで鑑定できるのは僕とキサラギだけだった。


1Eの守護者(メリーさん)は一目で魔力枯渇寸前とわかった。

これは素直に医務室に行って手当を受けるべきレベルだ。

 「彼女が抜けると騎馬隊の組みなおしが必要だ!」と1Eの面々は抗議した。

 「仲間の命を犠牲にしてまでやることか!」と僕は怒った。

 ムサシが気を利かせて さっさと保健の先生を連れて来たので その場で診察してもらった。


保健の先生はすぐに彼女の入院を命じるとともに 彼女を引き取って行った。


1Eの連中がふくれっ面をしているところに、保険の先生から入院手続きの連絡を受けた1Eの担任がすっ飛んできた。


「お前たちは アカツキに感謝すべきだ。

 アカツキが 1Eの学級委員長の要請によりお前たちの健康チェックに来て

 素早く、1Eの担任である俺に連絡を入れるとともに保健の先生をよんで来たから

 メリーは 体調不良による自主入院の扱いにすることができた。

 つまり 1Eに対するペナルティを免れた。

 もし お前たちがこのままメリーを騎馬戦に出していたら、試合開始前の健康チェックにひっかかって、

 1Eは自らの健康管理と仲間への配慮をなまったとしてその場で出場資格を失うとともに 午前中に得た得点も没収されていたんだぞ!

 体育大会の要綱の補足を今一度読み直せ!」と 彼は生徒達を一喝した。


「そんな 魔力消耗は 回復薬を飲めば治るんじゃないんですか!」1Eの学級委員長を筆頭に 連中は口々に抗議した。


「馬鹿もん! ただの魔力消耗と 回復薬では追い付かない過度の消耗の区別もつかんのか!!! だからお前たちはEクラスなんだ。

 なまかじりの知識しか持たぬ己の無知を認めず すべてを知った気で まっとうな忠告に逆らうのならば、今すぐ退学しろ。

もっと真摯に学ぶ者を代わりに編入させるわ!」1Eの担任は怒鳴った。


それでも不服そうな顔で押し黙る1Eの面々を見て、担任は1Eの騎馬戦へのエントリーを担任権限で取り消し 全員を引っ立てるようにして講義棟へと連れて行った。


呆然として立ち尽くす僕の所にキサラギのお父さんがやってきた。

そして 僕の肩を叩いて言った。

「今年のE組は 実力があっても、過信・傲慢・他者への思いやりの欠如など 性格に難ありの若者を集めたクラスだからねぇ。

 今日の出来事をきっかけに E組から一人でも多くの若者が更生への道を歩んでくれるといいけど そうならなかった場合は 自業自得だよ。

 君が気に病むことではない。

 いずれ 君も ああいった連中の処遇について本格的に学ぶことになると思うけどね」


ムサシのお父さんもやってきて 僕の背中をバシンとやった。

「さっ お前も回復薬を飲んだ方がいいのではないか?

 ほかの1年生たちも 各々おのおの回復に努めているぞ!」と言いながら。


言われてあたりを見回すと、1年生たちは、医療魔法士の資格を持つ保護者の診断と処方に基づいて、回復薬を飲んだり 自分の家族から回復魔法をかけてもらっていた。

診断力のない保護者は 医療魔法士の資格を持つ保護者にわが子の診断料を支払ったり、処方に添って正規の回復薬を買っていた。

 これは 他学年も同様であった。


こうした手続きに関しては、入校後 観覧席に入る前に学校側から事前説明があったらしい。


道理で入場行進の時、1年生の保護者席にいたのは うちの両親とキサラギ・ムサシの家族だけだったわけだ。


1年生のほかの保護者や、他学年でも初めて見学に来た人達は、別室で保護者心得の説明を受けてから、騎馬戦が始まるまでに観覧席に入ったのだと 今ごろになって知った。


というわけで 僕たち1A~Dの生徒は リフレッシュして騎馬戦に臨むことができた。 上級生たちも同様である。


そして1Eの保護者達は、1Eの生徒達が退出するときに、保護者達もまた校長と学校の警備員に引率されて観覧席から退場させられたままだった。

 

 

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