第16話 春の運動会(練習)

5月1日のHRで、「春の運動会を5月31日に行う!」と発表された。


なんでも クラス内の親睦と団結のために、クラス対抗試合を中心とした運動会を国民の休日に実施し、各々の家族にも観覧してもらう行事を今年からはじめるのだそうだ!


もっとも 観覧者は希望者のみなので、実際には王都近郊に住む人がメインになるだろうけど。


早速 うちの親にもお伺いをたてた。

 両親も こっそりと見に来る気まんまんであるが、防犯のためにそのことは伏せられている。

 国王夫妻と一般人(平民出身の保護者)との交流の場にしたいと王様は考えているらしい。

 警備担当者さん がんばってね。


そういう大人の都合は脇に置いて、僕たち生徒は、優勝を目指して チーム分けやら自主練やらを始めた。必然的にHRの時間は伸びた。


補講Lの時間が夜の8時からに固定されたので、僕もムサシ達といっしょに、

HRのあとはランニングで寮の夕食に駆け込むようになった。

 正直に言って ムサシほど体を鍛えていなかった僕には、ムサシのペースについていくのはきつかったが、心優しいムサシは 僕がついて行けるぎりぎりの速度に落としつつ、鬼教官よろしく叱咤激励で僕を走らせたので、良いトレーニングになった。

 でもきつかった~。

キサラギは 僕と どっこいどっこいだった。



運動会メニューは、学年対抗メニューとクラス対抗メニューに分かれている。


順位は、全学年の中で 総合得点の高かったクラス順に1位・2位・3位が決まる

一方優勝学年は、その学年の各クラスの点数の総和の高い学年で決まる。


それゆえ クラスとしては 全種目で高得点を狙って頑張る必要がある。

自分の学年を勝たせるためには。


次に 運動会のプログラムと種目内容を説明しよう。

1. 入場行進

    先頭は国旗(生徒会長・副会長・2年成績最優秀者と次席)

    3年A組から順に1年E組まで、

     学級委員長が各クラスの旗をもってクラスの先頭に立つ


2.国旗掲揚(生徒会長と副会長)

  国家斉唱(伴奏はブラスバンド部)


3.開会の辞(校長)


4.準備体操:すでにここから採点が始まる。

   個人の体操の正確さが減点方式で、

   団体としての調和が加点方式で、クラス単位で採点されるのだ。


   体操としての正確さが 一人一人について減点方式で採点されるのはきつい

   団体として そろって手足をただ動かすだけではだめなのだから。


5.玉入れ(全学年 クラス単位で全員参加)


 運動場の好きな場所に 自分のクラスの籠を設置する。

 自分のクラスの籠に玉を入れられないように防御しつつ

 よそのクラスの籠に 自分のクラスの玉を入れに行く。


 クラス得点=(よそのクラスに入れた玉の数)ー(自分のクラスの籠に入れられた玉の数)である。


 下手をすると ここでいきなり クラス得点がマイナス始まりになる。


 この玉入れは 事前協定あり だましあいOK 魔法の使用OK 相手にけがをさせなければ肉弾戦(早い話が素手の格闘)OKなのである。


 頭脳と交渉術と魔法と肉体のせめぎあい。


 一体どこに戦略的重点を置くのか?

 事前練習と事前交渉の配分などなど 考えどころが多すぎてむつかしい。


1年A組は、隠し玉(僕)が かごの回りに結界魔法を展開して防御に徹することになった。 うーん 責任重大!


キサラギと真理子さんの二人が、学年で共同戦線をはろうと、1年BCDE組に交渉に行ったのだが、平民の多い1年BD組には、2年3年のBD組からの働きかけが強くて難航。

1年E組に至っては、入札式にして協力金を多くくれるところと組むと宣言されてしまった。この種目 買収もありなのか??


実施要項には、人やモノを傷つけなければ、使用する魔法に制限はないということだったので、僕としてはクラス第一主義で、かごをもって空中にでも浮かんで目くらまし魔法と防御魔法を併用して、場合によっては移動しながら 誰にも玉を投げ込まれないようにするつもりで、HRで発言した。

「買収されることを宣言しているE組を 相手にするのはやめよう。

 僕たちのクラスの籠には 玉を入れさせないよう僕が頑張る。

 だから君たちで ほかのクラスの籠に一つでも多く玉を入れる方法を考えてくれ」


この発言は「強気すぎる」と周りをあきれさせたが、

「王子がそこまで言うなら 反対できないよね」と言う雰囲気が漂い

とりあえずE組との交渉は脇に置くことになった。


代わりに浮上したのが、BD組に対抗して、僕たちも2年3年のA組との協力関係を取るか、それともあくまでも学年優勝にこだわるかの選択である。


「俺としては、上級生にぎゃふんと言わせるためにも、学年優勝にこだわりたいなぁ」ムサシ


「そもそも 先輩たちって 初めから自分達の学年が優勝する気でいるから、

 BD組への働きかけって 単に1年生の団結を崩しにかかっているだけだと思う」ピーコ


「ピーコの意見は説得力がある。

 それを1年BD組への交渉に使わせてもらうよ」キサラギ


「だけど、上級生の方が魔法防御力で優っているから クラス得点を挙げる為には

 同学年を狙う方がいいってBD組の連中が言っているのも一理あると思うのよねー」真理子


「でもさ 平民クラスってほとんど魔法が使えない奴ばっかりじゃん。

 同学年で攻めるなら1年BD組はカモだぞ」フィー


「その辺は 魔法クラスの授業を偵察して確認したほうがいいかも」キサラギ


と言った具合にHRでは 戦略をあれこれ練った。


僕は補講の時に、偵察術や隠蔽術について あれこれ先生に質問した。

先生は「同じ質問をしてきた生徒には 同じ資料を渡して同じ訓練をするよ」と言って、僕の技磨きに付き合ってくれた。


結局1年生が 玉入れについて学年で団結することはできなかった。

僕は 各学年の魔法の授業をこっそりと偵察したり、1年B~D組のHRを盗聴した。

(E組は クラスとしてのまとまりが薄いのか 隠蔽魔法の得意な奴がいるのか盗聴できなかった。一つには そこまで手が回らなかったのもあるけど)


その結果B~D組は 肉弾戦で1年A組に集中して玉を入れに来る予定らしいとわかった。

そこでA組は肉体強化とスピードアップ魔法に特化して、素早く近くの籠に集団で玉を投げ入れに行くことにした。


ちなみに 上級生は、1年生の籠を奪って得点する戦略をメインにしているらしい。

そこで僕は かごを背負って浮遊しながら、魔法防御のうすい籠を発見してターゲットを指示したり、場合によったら、A組メンバーの体を盾にしてA組の籠を守りながら走り回って、敵の籠に突撃して魔法防御を吹っ飛ばして玉を投げ込む戦略を立てた。


というわけで 1年A組は集団で突進する練習をがんばった。

 伝説のローマ兵のように軍団で突撃と防御態勢を素早く切り替えながら戦うのだ。


6.綱引き(学年対抗):魔法なし 体力勝負

   1回戦:1年と2年で それぞれA組どうし B組どうし・・と綱引き

   2回戦:1回戦で勝ったA~E組が3年生の各組と勝負

   

   これって3年生が有利だよね。

   敬老精神?年功序列の現実を知る?ためのゲームかな???


  綱引きに関しては、学年内で クラス対抗方式で練習をした。

  面白かった。


7.騎馬戦:魔法なし 体力勝負

   四人一組で走り回って勝負 大将の体が地面についたら負け

   制限時間内に生き残ったチーム数が 各クラスの得点になる


   体力勝負なので、チーム分けが大変だった。


   だって 男が馬・女が大将だと、よっぽど格闘技に長けた女の子でないと大将があっけなく負けてしまう


   逆に女の子を馬にすると、体重の重い男子を乗せられない


   女だけのチームを作ったら あっさりと女の子チームが負けそうだ。

   かといって 男子チームで女の子チームを囲んで守るにしても・・

   女の子チームの足が遅すぎて 軍団となって走り回ることができない><


   こればっかりは 各自の自主性に任せてチームを組んで、戦うなり逃げ回るなりになったのだけど・・・

   騎馬役の背丈がそろわないと 騎馬が崩れやすくなるし・・

   背丈が同じでも 体力差・脚力差はけっこうあるし・・・


   うちのチームは 僕・キサラギ・ムサシに加えてあと一人をどうやって選ぶ??


   しかもよく考えると一クラス30人で全員参加だったら、4人編成だと二人あぶれるじゃないか!!

   みんなで騎馬戦の要綱をよくよく読み直してみたら、騎馬の人数制限がなかった!


というわけで、体自慢の大太おおたと小次郎(ほんとにこういう呼び名のクラスメートが居たんだよ)が クラスで一番体重の軽い女の子二人をそれぞれ肩車して逃げ回ることになった。

 練習の時 最初のころは女の子達はキャーキャー大騒ぎをしたが、

 さすがに毎日毎日肩車されて走り回るようになるとすっかり慣れておとなしくなった。


そして残りの26人だが・・

 一応 遊撃隊として4人一組の騎馬隊を二つ作った。


さらなる残りが18人

 これはもう3人一組の騎馬隊が6組でくさび隊形を作って突撃をかますより仕方がない。

 これ、一人でもこけると 18人全員が共倒れになる危険があるのだが・・


しかし3学年全員 総勢30人x5クラスx3学年=450人が集団でぶつかり合うのだから・・・ ほとんど 騎馬隊押しくらまんじゅう状態に近いのだから・・・


というわけで、数学の得意な連中が、担任から渡された各クラスの配置図を見ながら

序盤の運動場の込み具合の予測をたて、どんな陣形で突撃したり、散開するかシュミレーションを始めた。


それこそ3人一組チームは 騎馬役2人が縦に組んで突撃チームになるのか、それとも騎馬役二人が横に組んで防御態勢に徹するのか、実地に練習しながらフォーメーションを研究した。


結局3人一組チームは 縦並びの遊撃隊4組と 横並びの防御型2組に分かれた。

 やはり 走るのが苦手な人間は とにかく踏ん張ることを優先したのだ。

そして 序盤は、縦並び遊撃組が 防御型2組に近づく敵へと踏み込んで戦うことにした。 そして最後は 遊撃組もかなわぬ相手からは逃げ回り、踏ん張り組は互いに協力して最後まで踏ん張ることにした。

 もっとも状況次第で遊撃組が 踏ん張り組の後ろに回って隠れることもアリにした。


とにかく今回は 生き残る組を一つでも多くすることにしたのだ。


そして僕はと言えば、4人一組チームの大将になった。

 馬の先頭を務めるムサシ曰く、「後ろの馬役の腕が持たなくなった時には

 俺の背中にしがみついておんぶ状態になってでも 最期まで残ってくれ」とのことだった。

 最期の最後には、僕がムサシに肩車されて、後ろ馬役の二人は、ムサシの前後について互いに手をつないで 二人でムサシを挟むようにして守ってくれるらしい。


この学校の騎馬戦は、私が元居た世界の騎馬戦とは ずいぶんちがうようだ。


と言うわけで、僕は体育館の木馬にまたがって、ムサシや大太・小次郎と言った大柄な男子と組み合ったり 押し合いへし合いして 相手を突き落としたり引きずり落としたりする練習をかなりやらされた。

 彼らは本番では馬役なので 練習の時は 大将役を大喜びで務めた。

 おかげで 体格的に劣る僕は かなり何度も突き落とされてしまい、上手に落ちたり、足で馬に絡みついて 腹筋で上体を支えることを覚えることができた。


 最後には遊木の上に立ってのつかみ合い(落としあい)練習までさせられた。

 曰く 揺れる騎馬の上でバランスよく立って戦う練習なんだって。

 この場合、僕一人で遊牧を渡ってくるクラス全員と順番に戦って勝ち残ることができるように頑張れと言われてしまった。

 キサラギは蛇のように体をくねらせて捕まえさせてくれないのに、素早く突きを入れてくるから勝てなかった。

 もう一人、大太の上に肩車される予定のミコさんが これまた小柄すぎて捕まえにくくて、僕は遊牧の上から自分で落ちてしまった><


ほかのチームの大将たちも、僕と同じ目にあっていた。

だから 本番では、僕たちより体格の良い上級生にも負けずに戦えると思いたい。


それにしても騎馬戦の場合、足を浮かせたり、片足だけに体重をかけるうと、騎馬役の人が崩れてしまうから、常に両足をふんばったまま戦わねばならないのでむつかしい。

 しかも 足だけに体重を乗せると、馬役の人の掌が持たないので、ちゃんとお尻にも体重を分散させないといけないし・・

 でも 両足を浮かせてしまうと、今度はお尻を支えてくれている人の腕がくずれるし・・・

 騎馬が走る時と、大将として戦う時の 体重の配分と時間の配分がお互いむつかしかった。


8,結果発表と表彰式


9.国旗降納こうのう(2年生の成績最優秀者と次席) 伴奏の国歌はブラスバンド部 国家斉唱はなし


10 散開

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