第11話 たすき掛け

本来なら 王子とご学友との初顔合わせで和やかに あるいは和気あいあいとするはずだった入学式後の昼食会で、私が爆弾発言をかましたものだから

護衛も含めた私たち、総勢9人で 私の「顔と名前を覚えるのに苦労する」対策会が急遽開かれることになった。


「これはもう 1年生全員が 名前を大書きしたタスキを1学期間つけるよりしょうがないな」むさし


「名札じゃなくて 襷にする理由は?」エドガー


「遠くからでもよく見える!」むさし

「目が悪くても 名前が見える!」キサラギ&アカツキ


「一般人だと 名札程度の字の大きさだと役に立たないっていう人が案外多いんだよな。

 それに 女子はドレスに名札を付けるのを嫌がるから。

 それくらいだったら たすきにした方が愉快な気分で楽しめて、しかも実用的だよ」むさし


「だけど たすき掛けを どうやって実現させる?」アカツキ


「最初の学級会で 俺が提案するから、王子とキサラギで援護を頼む。

 どうせ 俺はウドの大木だと思われてるから、

『名前覚えられねぇ。1学期は 名前を大書きしたたすき掛けで頼む』って言うさ。」


「だったら 私はお小遣いをはたいて クラス全員分のたすきを購入して配るよ。

せっかくだから、式典の時に使うサッシュと同じ生地にして

『将来は ここに勲章がつけられるほどの功績を建てよう! 今は友人との輪を取り持つ名札帯の台にするけれど』って言ってあおろうかな。」あかつき


「一クラス30人分のサッシュって いくらくらいするんだ?」キサラギ


「ざっと30万かな、卸値おろしねで。

 以前兄貴と相談した時は、出入り商人価格で1本5万だったから 到底手が出ないね、で話が終わったんだけど、

そのあと 侍女に卸値ルートだと1本1万で入手できるって教えもらったんだ。

 ムサシの提案を聞いて 昔 兄貴とした話を思い出したよ」あかつき


「そのようなことを話し合われていたとは まったく存じませんでした」ハンター


「だって ずいぶん昔のことだもの」アカツキ


「しかし 市販のサッシュを使っては、学園生を装って紛れ込む輩に悪用されてしまいます。

 この際、学生一人一人を厳密に判別できるサッシュに致しましょう」エドガー


「だけど それだと 反発を招いたりしないかい?

 やっぱり お得感と面白味も必要だと思うんだけどなぁ」アカツキ


「学生時代は たすき掛けの名札として利用して、卒業するときには裏返して

勲章をつけるサッシュになるようにすればいいんじゃないか?

 そしたら 学園卒業生のあかしにもなってお得感だけじゃなく 優越感も持てるよ」きさらぎ


「我が家の家訓は 優越感でなく 自信を持て! なんだけど」むさし


「わかった プレゼンテーションの時には 『卒業生としての誇りをもって社会人デビューできる』って言い方にするよ。

 だってさ 最近 卒業生の間で予備校卒業生の証となるリングを作ろうとかって話が出ているくらいなんだから、在校中から 卒業証明にもなるサッシュを作るとなれば賛成する人も多いと思うんだな。」キサラギ


「キサラギは情報通だな」むさし


「兄貴・姉貴情報だよ」キサラギ


「かしこまりました。

 ここでの話し合いの結果をもって 学園長の元に行き、たすき掛け名札に関する根回しをしてきます。

 うまくいきました折には アカツキ王子、30万の出資を確約してくださいませ」

エドガー


「でも それだけでは足りないんじゃないか? 個別認証機能をつけるなら」

アカツキ


「それは 大人の事情の話でございまして、あくまでも 王子様方は クラスの皆様との交流を深めるための「たすき掛け名札」を考え出されたのであり、その実現に向けて 王子が30万のお小遣いを提供なさるということを 学園長にはお伝えする所存でございますから それを上回る分については 王子がお気になさることではありません。」


エドガーは そう言って退室した。

そのエドガーを見送ってキサラギが言った。


「この分だと うちら魔法使いに召集がかかりそうな気がしてきた」


「個別認証機能をつける作業についた魔法使いには 報酬は出るの?」アカツキ


「どうだろう? わからない。

 どういう形式で発注されるかによるね」キサラギ


「あーあ 大人が絡むと大事になるなぁ。

 単純にサッシュに名前を書いて楽しみたかったのに」むさし


「悪いね。僕が余計なことを言っちゃったから 大事になったのかな?」アカツキ


「でもさ サッシュって言うとかっこいいけど

 たすき掛けっていうと 野暮ったくていやだっていうやつも出てくるって。

 だから 王子の案そのものは 悪くないと思うよ。

 ただ サッシュそのものが 誰でも気軽に買えるお値段ではないってところが難点で。

 だからこそ 王子も 費用は自分が持つって言わざるを得ないと考えたんだと思うし その優しい心遣いに感激する子もいると思うんだよね、ぼくは。」キサラギ


・・・結果的には・・・


初ホームルームで、

ムサシが、たすき掛け名札を提案し、キサラギが賛成し、僕がその話に乗って

サッシュを一クラス分提供するといい、ムサシがその案を盛り上げ、キサラギがよいしょして、うちのクラスA組は 全員 サッシュに名札を取り付けることになった。


この 名札取り付け作業の時、「せっかくのサッシュを傷つけないよう きれいに名札を取り付けよう」とキサラギが魔法の使用を提案し、

「それなら 個別認証できるように作って頂けると我々護衛も助かるのですが」とエドガーが発言し・・・


 その場にいた担任が 魔法科の教授がたを引っ張ってきて、個別認証つきサッシュ型名札を完成させてしまった。

 その時 魔法を使える学生は 教授たちから特別レッスンを受けて自分のサッシュ型名札を完成させたので 参加者たちは大いに盛り上がり・・

 魔法の使える護衛たちは、その際不正が行われないか 目をらんらんと光らせ・・


 その後 学園の職員会議で とりあえず新1年生は1年間サッシュ型名札をつけること、来年度からは 全校生徒が サッシュ型名札を付けることが義務付けられた。


 費用面に関しては、来年からは制服の代わりにサッシュ型名札をつけることになったので、各自自己負担となりました。


 A組以外の今年の新入生に関しては、各自自己負担ながらも、経済的に厳しい人には 学校からアルバイトをあっせんするということで決着。


 そのアルバイトは 主に王宮での下働きだったので、あっせん業務を負わされた僕たち(アカツキ・ムサシ・キサラギ)は大変だったけど、

苦学生からは、自力ではありつくことのできない ハイソなバイト先で働けた!と好評であったし、

僕も 否応なく 学生達の顔と名前に接する機会が増えたことにより、少しは僕の課題クリア(=同学年の子の顔と名前を覚えること)に役立ったことだろうと、周囲の大人たちは考えた。

 (実際には 顔も名前もぜんぜん覚えられなかったけど。

  各自の自己申告の名前と名簿を突き合わせ、申告された名前や内容が嘘ではないかを鑑定魔法で確かめて作業するのに忙しくて、ぜーんぜん 相手の顔を覚える暇がなかったんだ。)



「それにしても 王子の 「顔と名前が覚えられない」は筋金入りですね」キサラギ


「それを言うなって。

 どうやら 僕の脳みそには その手の配線がプリントされなかったのか

 早期に廃線になったかしたらしい。


 その代わりに 王宮の下働きの役職に関しては しっかりと覚えたぞ」アカツキ


「これは 将来 僕が護衛兵になる時に活用できる情報だな。

 王子のおかげで 僕も有益な情報を手にできたよ」ムサシ


「私は 魔法がけでこき使われてスキルアップしてからは、ちゃんと一人前のバイト代をもらえたので、良しとしましょう。

 それに 人選に活用する(人物確認のための)魔法術を学ばせてもらえたのは ラッキーでした」

キサラギ


「とにかく 学園の生徒が みんな特大名札をつけてくれるようになって大助かりだ。ほんとに 協力してくれてありがとう」アカツキ


「我々護衛としても 護衛対象者が 知り合いなのか知らない人なのかわからないけど とりあえず知り合いっぽいからついていって暗殺されました、なんて馬鹿な言い訳ができない状況になって やれやれです。

 だから 王子、これからは 全校生徒の名簿でもなんでも持ち歩いて、

目の前にいる人物をしっかり確認する癖をつけてくださいね!独り歩きしたければ!!」エドガー


「はい」私は素直にうなづいた。

  (しかしなぁ いちいち 人と会うたびに、名簿にチェックを入れたり

  「会った記録」をつけ続けるって すごく大変だなぁ・・


  でも それくらいしないと あっさり暗殺されるのが 王子の椅子なのか・・


  頭の中に記録できない=記憶できないと、ほんと実生活で苦労するわ。)







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