第33話 勇者は彼の真実を知る

 ドゴォーン……ガゴォーン!

 地響きの様な音をさせながら宙を舞うコンテナ。

 その音は次第に増幅させていた。


「ま、まさか……近づいて来てるのか!?」


 作人さくとの表情や行動から、この状況に恐れ慄いている様子が伺えた。

 作人の言う通り、宙を舞っているコンテナは一個、また一個とその距離を凄いスピードで詰めていた。

 どうしてあの重いコンテナが宙を舞っているのか、その正体が分からない四人は一歩、また一歩と後ろに後退りした。


「た、民夫たみお!あれはどうなってるんだ!?」


 次第に頭が混乱し始めたネイサン。

 一度自身を落ち着かせる為にも、民夫に今起こっている事象を訊いてみた。


「僕にも分かりませんよ!こんな事、ラノベでも日本でも見た事も聞いた事もありません!」


 案の定、民夫にもこの状況は初めてであった。

 それはそうだ、次々と舞い上がるコンテナなど見た事があるだろうか。

 あったとしても竜巻くらいであろう。


「マズい、もうすぐそこまで来てるぞ!」


 ネイサンと民夫の不毛な会話をしているとあくが叫んだ。

 悪の言う通り、コンテナがあと数個宙に舞ってしまったら、いよいよ自分達の番であった。


「もうダメです!逃げられません!」


 民夫は叫び、ネイサンは顔を腕で覆いながら目を閉じた。

 その場に居る四人、全員か死を覚悟した。

 その瞬間、


『大丈夫だ』

「「えっ?」」


 突然、ネイサンと民夫の右耳から声が聞こえた。

 侵入の声だ。


「し、侵入さん。大丈夫ってどう言うーーー」


 民夫が侵入にどうしてなのか訊こうとした時、ネイサン達の目の前にある二つのコンテナが、宙を舞わずに同時に持ち上げられたのだ。

 そして、そのコンテナを持ち上げた人物は、ネイサンも良く知る人物であった。


「よぉ、待たせたな。いさみ君、民夫君!」

「……」

ごうさん、巨内きょだい……!」


 ネイサンは思わず叫んでいた。

 今、目の前でコンテナを持ち上げている人物は、紛れもない特転隊・隊長の剛と巨内の二人であったのだ。


「あ、ちょっと待っておくれ。……よっ、と」

「……」


 二人は持ち上げたコンテナを、自身の外側に向けて放り投げた。

 放り投げた二人は自身の両手をパシパシと叩いた。


「剛さん、巨内さん!」


 民夫は二人の名前を呼びながら、ネイサンと共に駆け寄った。


「二人共、無事かい?怪我とかはしてないか?」

「はい、大丈夫です。それより、剛さん達こそ……」

「ん。俺達か?ご覧の通り、ピンピンしてるぜ!」


 剛は胸を張りながら、問題ないと証明した。

 巨内も右手でOKサインをした。


「それなら良かったです」


 民夫も安心したのか、胸を撫で下ろした。


「ところで、なんで巨内までここに来たんだ?」


 当然というのか必然というのか、ネイサンは何故ここに巨内がここに来たのかを聞いた。

 すると、その質問に剛が答えた。


「あ〜、彼も君達を追ってたみたいなんだよ。だから、途中で俺が車で拾ったんだよ」

「そうだったんですね。……ところで、どうやって乗ったんですか?」

「ん?車内には入れなかったから、車の上でしがみついてもらってたんだが」

「……」


 まるでスパイ映画さながらの状況であった。

 ネイサンは一度想像して、笑いを堪えた。


「さて、勇君と民夫君が引き留めてくれたお陰で、俺は次の仕事が出来るぜ」


 剛はネイサンと民夫の肩に手を置き、「ご苦労様」と言いながら二人の間を通った。

 そして作人達の前に立ち、右手を前に差し出しながら広げて叫んだ。


「悪 代官だいかん本衆ほんしゅう 作人、君達二人の身柄を拘束させてもらう!」

「チッ……」

「……よりによって、特転隊の隊長様が直々にお出迎えをしてくれるとは」


 さすがの作人も、剛がこの場に駆けつけて来る事は想定外だったようだ。

 その証拠に額から大量の汗を掻き、唇が白くなるくらい噛み、左足を一歩後ろに置いた。


「おっと、動くなよ。それ以上動いたら、俺の拳が飛んで来るぜ」


 そう言いながら、剛は懐からメリケンサックを取り出した。

 そして、両手に嵌めた後、拳同士を二発打ち合わせた。

 ガチンガチンッという、重くて鈍い音が響き渡った。


「くっ……」


 剛の拳から鳴らされる音に恐れをなし、作人らその場から動く事をやめた。


「賢明な判断だ」


 剛は続けざまに野太い声で言い放った。


「悪 代官、誘拐と転生者消失罪。そして、本衆 作人、悪と同じく、誘拐と転生者消失罪、並びにーーー」


 剛は一呼吸入れた。


「放火・殺人罪で逮捕する!」

「なっ!?」


 ネイサンは耳を疑った。

 自分の聞き間違いだったのか、将又、剛が言い間違えや他の事件と混ぜてしまったのか。

 作人が放火と殺人をしたなんて嘘だと思い、ネイサンは民夫に訊いた。


「お、おい。作人が放火と殺人だなんて、そんな……」


 民夫の方を向いた瞬間、ネイサンは言葉を失ってしまった。

 民夫は下を向きながら、一筋の涙が頬を伝っていたのだ。


「……」


 一瞬言い淀んでしまったネイサンであるが、意を決してしっかり訊く事にした。


「……民夫、作人が放火と殺人をしたのは、その…本当なのか?」


 ネイサンは努めてゆっくりと、優しく民夫に訊いた。

 すると、民夫は一度間を空けて、それから声を震わせながら答えた。


「……はい、本当です」


 民夫から発せられた言葉を理解するのに、ネイサンはおよそ五秒程掛かった。

 それ程までに信じられなかったのだ。


「実は勇さんが日本に転生する一ヶ月程前に、作人さんの生みの親である『本野ほんの 少紙すこし』先生の家が火事に見舞われたんです。

 その火事のせいで先生は亡くなられました。

 唯一残っていた防犯カメラを警察の方が確認した所、火を付けていた人物が写っており、それが作人君だったんです」


 民夫は懇切丁寧に説明してくれた。

 ネイサンはその説明を理解する事は出来たが、全てを受け入れる事は出来なかった。

 尚も信じられなかったのだ。

 しかし、今の作人を思い返すと、納得せざるを得ない行動と言動がある。

 ネイサンの頭の中では様々な事象が渦を巻き、得体の知れないモノとなっていた。

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