第23話 勇者は行動を考える

 育代いくよのどかが作ってくれた夕食をネイサン達五人は心ゆくまで堪能した。

 六人で同時に「ごちそうさま」と挨拶をした後、ごうがネイサン、民夫たみお便よすが憑郎つきろうに向かってある一つの提案をした。


「なぁ、この後ちょっとだけ話をしないか?」


 ネイサン達四人は特に用事もなかった為、この提案を受け入れた。

 というよりネイサンと民夫の二人は訊きたい事が合った為、この提案は嬉しかった。

 一同がキッチンにトレーを返し終わると、エントランスホールへ向かった。


 エントランスホールには何組か座っており、何やら色んな会話が交差していた。

 少し耳を傾けてみると最近の政治や株価の話などの難しい話や、子供や家族などの心温まる話、バナナはおやつに入るのか真剣に討論している話などが耳に入った。

 六人は空いている席に適当に座った。


「それで話とは?」


 ネイサンが単刀直入に話を始めた。

 すると剛が口髭をさすりながら話し始めた。


「うぬ、その話なのだが君と民夫君も訊きたい事があるのだろ?」

「「!?」」


 どうやら悟られていたらしい。

 流石、特転隊の隊長である。


「はい、確かにあります。ですが口火を切ったのは剛さんですよ。最初に話してもらえませんか?」


 民夫はいつもより少しトーンとボリュームを下げ、剛から話してもらえるよう促した。

 すると、剛は軽く一度首を縦に振ってから話し始めた。


「分かった。それじゃ、お言葉に甘えて俺から話そう。勇君と民夫君が気になっている、『いつまで憑郎君の護衛をしなくてはならないか』についてだ。二人が気になっていた事で間違いないか?」

「あぁ、そうだ」「はい、そうです」

「うぬ、素直でよろしい。で、その質問に対する答えなのだが、先程育代さんと話し合ったんだ。その結果、期間を一週間とさせてもらった」

「一週間……ですか」


 最後、憑郎の口からポロッと言葉が出てしまった。

 これは一週間も狙われている恐怖と、一週間もネイサン達に迷惑をかけてしまう、という気持ちからであった。


「分かった。で、俺達はどう動いたら良いんだ?」


 ネイサンが質問を畳み掛けた。

 すると、今度は弾銃郎だんじゅうろうが答えた。


「普段通りに動いてもらって構わない。憑郎の行動に二人がついて行くのも良し、逆に二人の行動に憑郎がついて行くのも良し。そこは三人で話し合ってくれ」

「分かった、そこは後で話そう」


 ネイサンが民夫と憑郎の顔を交互に見た。

 それに応えるかの様に二人は一度首を縦に振った。


「ただ……」


 終わると思っていた話に、弾銃郎が再び話し始めた。


「俺だったら勇の行動を中心にして動くと思う」

「どうしてだ?」


 ネイサンが当然の疑問を呈した。


「勇、君はこの日本に転生してまだ二日しか経っていないんだろ?だったら色んな場所に行ける、良い機会だと思わないか?」

「なるほど、確かにそうですね!」


 民夫がポンッと手を叩いた。


「……この小説荘に籠るとかはダメなんですか?」


 憑郎が恐る恐る手を上げながら、剛と弾銃郎に訊いてみた。


「ダメだな」

「推奨はしませんね」


 二人共、同じ答えであった。

 憑郎は体を縮こませ、シュンとしてしまった。


「どうして良くないんですか?ここで籠るのも一つの手段だと思うのですが……」


 納得のいかなかった民夫がどうしてダメなのかを訊くと、弾銃郎がその理由を語ってくれた。


「確かにここに籠り、身を守るのも一つの手ではあります。しかし、考えてみてください。相手は既に憑郎さんの作者を捕まえているのです」

「ーーー!?」


 民夫は目を丸くし驚いた。

 弾銃郎の言っている意味をちゃんと理解したのだ。

 しかし、ネイサンと憑郎はいまいちピンと来ていなかった。


「どういう事だ?」


 素直にネイサンは自分が分かっていない事を白状した。

 それに応える様に民夫が二人に理解出来る様に話した。


「『亡骸なきがいさんが捕まった』という事は、同時に『憑郎さんが何処にいるか分かった』という事に繋がるんですよ」

「どうしてだ?」

「『憑郎さんの居場所が分からない状態で、亡骸さんを捕まえた場合』を考えてみてください」


 そう言うと、憑郎は「あー、そういう事か」と言いながら理解した。

 しかし、これでもネイサンは分からなかった。

 民夫は諦めずに最後まで話した。


「この場合、憑郎さんは警戒し相手にとって見つけるのが困難になるはずです。それに一つ思い出してください。僕達がテレビを見ていた時の事を」


 民夫に言われた通り、ネイサンはあのテレビの出来事を思い出した。

 有名な映画監督が自ら命を絶った話、そして……。


「ーーーもしかして、緊急速報!?」

「ビンゴです!」


 ネイサンもやっとの事で理解した。

 著者若しくは転生者が捕まった・居なくなった場合、「緊急速報」がテレビで流れる仕組みなのである。

 その場合、もう片方の居場所が分からない状態で捕まえると、警戒されて居場所が捉えられないのだ。

 よって、下手に捕まえる事が出来ないのである。


 しかし、今回は著者である亡骸が既に緊急速報で捕まった報道が流れた。

 という事は、既に憑郎の居場所は特定されている可能性が高いのである。


「よって、ここ小説荘でずっと籠る事は推奨出来ない」


 弾銃郎が最後の締めくくりをした。


 しかし、ネイサンの頭の中では次の疑問もあったのだ。


「でも、外に出るのも危ないんじゃないのか?」


 そう、中がダメな事は分かった。

 しかし、外も見つかる可能性は低くないのだ。


「中よりはまだ幾分マシだな」


 剛が腕を組みながら、ネイサンに反論した。

 弾銃郎も剛の補足を入れた。


「そうですね。確かに勇の言う通り、外も危険ではあります。しかし、人混みに紛れれば対象を探すのは困難になる」


 弾銃郎が一度、会話を中断し深呼吸を入れた。

 そして、もう一度口が開かれた。


「『木を隠すなら森』という事だ」


 弾銃郎はゆっくりはっきりと、そう断言した。

 暫くネイサン達の席は沈黙が続いた。

 誰一人喋らず、誰一人動かなかった。

 それはまるで時が止まったかの様であった。


 しかし、時間にして約15秒程経った後、誰かの口が動いた。


「……今日は、もうお開きにするか」


 その声は剛の物であった。

 この沈黙に耐えかねたのか、少し苦しそうな声でもあった。

 どうやら体をじっとしていられないらしい……。


「そうですね。これからお二人は本部の方へお帰りになるんですか?」


 民夫が剛と弾銃郎に訊いた。


「いや、俺は一度戻るけど今日は剛さんが憑郎の護衛に当たる。」


 答えたのは弾銃郎であった。

 そして、弾銃郎の言葉を受けた憑郎は少しホッとした様な表情をしていた。


「そういう事だ。憑郎君、よろしくな!」


 剛はそう言いながら、憑郎の背中を二回軽く叩いた。


「は、はいっ!よろしくお願いしますっ!」


 憑郎の声は何故か裏返っていた。

 その様子が面白く、ネイサン達は徐々に笑いが込み上げた。

 最終的には、大口で笑う程にまで発展した。


「さぁ、明日から大変になる。今日はしっかり休み、明日に備えるんだぞ!」

「あぁ」「そうですね」「は、はい!」


 剛の言葉に各々の言葉で返事をするネイサン達。

 それを聞いた剛は再び腕を組みながら大きく頷き、弾銃郎は右手の人差し指で眼鏡を直してフッと笑みを浮かべていた。


「よし、解散っ!」


 剛の一言でそれぞれは、三々五々散らばった。

 しかし、一人だけその場に立ち尽くす人物が居た。


「……あたし、この場に必要だったかしら?」

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