第11話 勇者は一夜を過ごす

 風呂をたっぷり堪能したネイサン達四人。

 そして風呂の気持ちよさを知ってしまったネイサン。

 もう暫く浸って居たかったがのぼせてしまうというのと、つがいからの怪しく危ない視線から逃れるべく、泣く泣く風呂から離れる事にした。




「ふぅ〜、今日のお風呂も気持ちよかった!」


 自動ドアを通り抜けた民夫たみおは、腕を上に伸ばしながら言った。


「民夫はいつもここの風呂に入りに来るのか?」


 ネイサンが素朴な疑問を発した。


「はい。ただ、毎日ではないですけどね。汗水垂らして働いた後とかは来てますよ」

「そうなのか。鍛冶炉かじろはどうなんだ?」


 今度は鍛冶炉に質問をした。


「俺か?俺は基本、自分の部屋の風呂に入ってるな。ここに来るのは特別な時くらいだな!」


 鍛冶炉がネイサンの質問に答えると両手を腰に置き、ガーハッハッハと大きい声で笑った。


巨内きょだいは……」


 どうなんだ?と訊こうとしたがネイサンは途中で言い淀んだ。

 巨内が話せない事をすっかり忘れていた。

 すると、巨内の代わりに民夫がその質問に答えた。


「巨内さんもあまりここには来ませんね。今日みたいな特別な日にしか利用しません」

「そ、そうなのか……」

(なんで民夫がそんな事知ってるんだ?)


 本当は口に出したかったが、なんとなくこれ以上は訊いてはいけない気がしたネイサンである。


「ふぁ〜!」


 ネイサンが急に大きな欠伸あくびを洩らした。

 すると、伝染するかの如く民夫、鍛冶炉、巨内の順に欠伸をしていった。


「もう夜も遅くなってきましたね」

「そうだな。今日は色んな事があったからな」

「フフッ、そう言えばそうですね」

「……っ!」


 民夫の見せた笑顔にネイサンは一瞬ドキッとした。


(こいつは男、こいつは男……)


 ネイサンは心の中で、何回も自分に言い聞かせた。


「さて、そろそろ自分の部屋に帰りましょうか」

「あぁ、そうしよう」

「鍛冶炉さん、巨内さん、それでいいですか?」

「「……」」


 巨内は無言で縦に一回首を振り、肯定の意味を示した。

 しかし鍛冶炉は何も言わず、何の動作すらしなかった。


「あれ?鍛冶さんさん?」


 民夫が鍛冶炉に近づき、肩を優しく揺らした。


「……グゥ……グゥ……」


 案の定、鍛冶炉は立ったまま寝ていた。


「ちょっと!鍛冶炉さん、起きてください!」


 民夫がそのまま肩を大きく揺らした。

 さすがの鍛冶炉もこれには起きた。


「……はっ!すまんすまん」

「鍛冶炉さん、気持ちは分かりますけど、ちゃんと自分の部屋で寝てください!」

「め、面目ねー……」


 民夫に怒られた鍛冶炉は、後頭部をポリポリと掻いていた。


(民夫も怒る時はちゃんと怒るんだな)


 ネイサンはそんな事を考えながら、その光景を見ていた。




「じゃあ、そろそろ自分の達の部屋に帰りましょう。巨内さん、鍛冶炉さんをお願いしても良いですか?」


 民夫は巨内に鍛冶炉の世話を頼むと巨内は右手でサムズアップをした。

 どうやら彼に任せても大丈夫なようだ。


「ネイサンさんは僕と一緒に二階に降りましょう」

「分かった」


 そうして、四人は二手に別れる事となった。




「民夫、今日はありがとう。色々と助かった」


 ネイサンが民夫に今日一日色んな事を教えてくれた事に感謝した。


「いえいえ、僕にとっては当然の事をしたまでですよ」

「それでも助かった。ありがとう」

「フフッ、どういたしまして」


 そんな他愛もない話をしていると突然民夫の足が止まった。

 壁の方を見てみると扉が備え付けられており、その扉には201号室と書かれていた。


「ここが僕の部屋なんです」

「そうか。それじゃ、ここでお別れだな」

「そうですね。あ、そうだ!何かありましたら気軽に寄ってください」

「分かった、そうさせてもらうよ」

「はい。では、おやすみなさい」

「おやすみなさい」


 こうして民夫との一日は終わりを告げた。

 ネイサンは民夫が中に入り、扉が閉まるまで待っていた。




 自室に戻ったネイサンは中に入って電気のスイッチを入れた瞬間、一つやっていない事を思い出した。


「そういえば、少し入っただけだったな」


 そう、入り口から少ししか入っていなく、奥までは見れていないのである。

 ネイサンはしっかり見聞する事にした。


 ネイサンが入っておかしいと思う所はやはりこの部屋の広さである。

 何せ、100畳程あるのだから。

 念のため、もう一度言っておく。

 100畳程の一室が入って直ぐにあるのだ!


「そう言えば、育代いくよさんは住む人によって空間が変わる、とか言ってたな」


 確かに育代は言っていた。


「……俺、一体何人と一緒に暮らす気なんだ」


 自分の部屋と自分の将来が不安になってきたネイサンであった。


 そんな大きい部屋に、四人用くらいの大きさの木で出来たテーブルが一つと、椅子が一つ、石造りの暖炉が常備されていた。

 一般的な部屋であれば十分であるが、100畳もあるこの部屋では不自然極まりない。


「俺、もしかして部屋のセンスが皆無なのかもな……」


 ネイサンは自分のコーディネートのセンスを疑い始めた。




 ふと入り口から左側を見ると木製のドアが二つあった。

 ネイサンは入り口手前側のドアから見ていく事にした。

 キィ、という軋んだ音をドアが立てながらネイサンは恐る恐る中に入った。


 ネイサンが壁のスイッチを押すと、そこはユニットバスであった。

 手前側に一般的な白い陶器で出来たトイレと木で出来ている浴槽が置いてあった。


「なるほど、ここがトイレと風呂か」


 中を確認したネイサンはまたスイッチを押して電気を消し、部屋を後にした。



 今度は入り口奥側のドアを開けて入ってみた。

 電気を点けるとそこには少し大きめなベッドが置かれていた。

 とても白く、シミ一つ見当たらない純白のシーツであった。

 多分、まだ一度も使われていないベッドである。

 ネイサンはそのベッドに座ってみた。


「うおっ!?」


 フカフカであった。

 一度も味わった事がない位のフカフカ感であった為、ネイサンの口から変な声が洩れ出していた。


「こ、これは良く寝れそうだ!」


 ネイサンはまるで子供の様だと思いつつも、ベッドに思いっきり飛び込んでみた。

 ボヨンッとネイサンの体を跳ね飛ばし、ネイサンの体は少しの間、宙を舞っていた。

 そして、二度、三度と軽くバウンドして落ち着いた。


「き、気持ちいぃ……」


 あまりのベッド柔らかさに、ネイサンの眠気が頂点に達しそうだった。


「……だ、ダメだ!まだ部屋を全部見れていない!」


 我に返ったネイサンは、ベッドから立ち上がり、顔を両手で二度叩いた。


「……いって」


 少々やり過ぎたようである。

 ヒリヒリする頬のまま、ネイサンは寝室を後にした。




 寝室から出たネイサンは奥側、入り口から見て右側の方を見る事にした。

 100畳もある為、向かうには少し時間を要した。


「なんでこんな部屋になったんだ……」


 右側にはドアは無く、その代わりにアイランドキッチンが置かれていた。


「なんだこれは?」


 もちろん、ネイサンがアイランドキッチンを知るはずもない。

 しかし、キッチンであることは理解した。


 辺りを見聞してみたネイサン。

 しかし、キッチン以外は特に何も無かった。

 そして、疑問を口にした。


「一体、この部屋はどうしてこんなに広いんだ。何か理由があるのか?」


 分からない。

 分からない以外、思いつかなかった。


「はぁ〜……まあいいや。今日はもう疲れたから休もう」


 そう決めたネイサンは、寝室まで歩いていった。


「……あぁ、もう!キッチンから寝室まで長いなっ!」


 急にツッコミを入れたくなったネイサンであった。




 100畳の部屋の電気を消し、寝室へと入ったネイサンはベッドに腰を下ろした。

 腰を下ろした時、正面に窓がある事に気がついた。

 何も考えず窓を開けると新鮮な風が寝室にブワッと入り込んだ。

 それは暖かく、嫌な感じは何一つ感じなかった。


「風が、気持ちいいな」


 暫く窓枠に寄りかかるネイサン。

 どこまでも続く地平線と雲一つ無い星空を眺めていた。


「なんだか、昔を思い出すな……」


 冒険をしている時、ある平原で野宿をしていた時の話である。


「……よっ、と」


 再びベッドに腰を下ろしたネイサン。

 すると、急にネイサンに眠気が襲ってきた。


「そろそろ寝ないとマズイかな」


 当たり前である。

 今日一日で色んな事が起こり過ぎている。

 ネイサンの身体は疲労が溜まりに溜まった状態であった。

 ベッドに横になったネイサンは、そのまま眠りの奥深くへと吸い込まれていった。

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