15.…………どっちだ?


「お願いします!」

「どうか……どうか、お聞き届けください!!!」


人海戦術とばかりに我儘を言い続ける神官たち。

聖女に罪をなすりつけた神官長たちは、大地の瘴気を浄化させた女性にバカなことを言い出した。


「聖女の称号を与える。このまま神殿に留まれば王子のひとりと結婚させてやる。王族になれるんだ、ありがたくて涙が出るだろう?」

「感謝しろよ。冒険者だかただの旅人か知らんが、貧乏人が聖女を名乗れるんだ」


聖女という称号を名乗って喜ぶのは、信仰心が厚いか、聖女という立場を甘くみているか、仕事のないお飾りのどれかだ。

神殿という閉鎖した空間に閉じ込められて、自由のない生活を強要されて喜ぶものなどいない。

神官長たちはそれを恩着せがましく言っているのだ。


「何を言っているんです? 『罪をつまびらかにせよ』という神の言葉に従わないあなた方に天罰が落ちないとでも?」

「我らは神を前にしても後ろ暗いことはしておらぬ!」

「いやあー、俺の姉らをバカにしやがってる連中がここにいると聞いたんだが。どうやら真実以上だったようだな。オヤジたちまで侮辱するとは」


女性の言葉に明るい……バカにしているような口調で話に割り込む若者。

明らかに不快そうな神官長たちだったが、口を開こうとしても指一本も身動きができなかった。


「アルマン、こんなところまで来て……どうしたの?」

「姉上、ちょっと聞くけどさー。ここで『聖女ごっこ』するの?」

「しないわよ。もうすぐ末っ子が地上に送られるんだから」


女性の返答にハッとした表情をみせる神官たち。

そして気付いたのだろう、神官になる前に神のことを学ぶ場、神聖学校で最初に学ぶ最重要な内容を。


『天空の国からは、人間のために地上に降りたつ方々がいらっしゃられる。彼の方に不当な扱いをすれば……』


「いやあ、主神殿からの使いで来たんだよ」


『国を滅ぼされても文句は言えない。なぜなら……』


「ベルン姉様がさ、」


『彼の方は』


「オヤジたちの名を貶める連中を」


『神や精霊たちを父母に持つ』


「このまま魔物に堕としていいって」


『使徒だからです』


「オヤジたちから許可をもらっちまったんだ」


神聖学校の、物々しい表情でそう生徒に教えていた校長。

彼の言葉と、目の前の若者の声が交差して脳に届く。


「それでさ、」


胸にストンと入り、なぜか違和感も不快な感情も湧き出てこない。

……腑に落ちる。

それは無意識に納得したこの状態をさすのだろう。


「決定を聞いた主神殿が『この国の神官どもは腐ってる』という判断をくだしてさ」


自然とこうべが下がり、神に下されたという裁決をただ聞いている。

内容はすでに魔物化人でなしが決定したという、通常なら取り乱してもおかしくはない状態にも関わらず、いつものような反論も何の感情も湧いてこない。


「この国の神殿を全閉鎖するってよ」


若者の声で胸に広がったのは『申し訳ない』という気持ち。

主神殿は神の決定を重くみた。

お飾りだった聖女を『最後のお勤め』と称して罪を押し付けたこの国の神殿を、そして神官たちを『有罪』と判断した。


「罪を犯していない神官は主神殿で雑用から。しかし」


聖女の功績ではないことを知らないとはいえ、聖女が浄化の能力を持っていないことは国内では知られていたこと。

破門にならなかっただけでも御の字だ。


「神官に戻れる保証は皆無に等しい」


問題を起こした者には罰を。

そして神の教えに背いた者は……神の祝福を得られない魔物に。


「……ああ、迎えがきた」


どちらの迎えだ?

この先、私たちの向かう道は主神殿への道と畜生道………………どっちだ?

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