第31話 長い夜の始まり
12月25日のクリスマス。
日曜日のドラッグストアは忙しかった。それは今年最後の日曜日で年末に向けての大掃除の為、クリスマスからお正月への商品切り替えのためである。
流衣はいつもと違う雰囲気に戸惑っていた。クリスマス商品は午後から値引きシールのオンパレード。そして以前検品したお正月商品の品出しながらの接客。普段の平日の午後はパート上がりの主婦、学生、子供連れの母親がメイン。しかし今日は家族だらけで店内が明るく和やかモード。お給料日の後でもあり会社によっては大概ボーナスが出た後の、お財布が緩めの状態プラスポイント10倍デー。
もうお祭りである。
しかし店長曰く。
「今年は洗剤の売り上げがイマイチ」
だそうなのだ、何故なら
「震災で強制断捨離しちゃったから」
「結婚してからこんなに家片づいたの初めて見た。って片付かない原因の旦那に言われた」
「やっと片付け終わったかなって頃の4月の最大余震で、本震の時よりお皿が割れちゃってガッツリ片付けたから、いまさら大掃除要らないもんなあ」
パートさんと店長の話を聞きながら、4月の最大余震の時に流衣は避難所に居て、夜中の大きな地震にあちこちから小さい悲鳴と子供の鳴き声が聞こえて来てたのを思い出した。揺れが治った後もしばらく避難所の市民センター体育館はザワザワした様子だった。大概の大人達は落ち着いていたけれど、中にはぼやいて文句を言う人もいて、それを聞いた母親が布団に入り直して隣で言った。
「騒いでも仕方ないのに煩わしいったら、面倒な人たちね」
言った後に横になって布団を被った。
母親を挟んで反対側に居た父親は複雑な顔をしていた。
「おめえも気にしねえで横になって寝ろな」
流衣に向かって言うと自分も横になった。
避難所生活を送って数週間、色んな人間関係を見てきた。文句を言う人、文句を言いながらも手伝う人、何も言わずに手伝う人、そして一番多いのは文句を言わない代わりに何もしない人。それが良いか悪いかは分からない。全部合ってる気もするし全部間違ってる気もする。
そんな事を考えながら流衣は棚の中にクリスマス商品が残ってないか日配品のコーナーを点検していた。
「あ、これ違う」
カフェオーレの段に混ざっていたドトールコーヒーを元の場所に戻した。
日配コーナーを終え、次に洗剤のコーナーに行くとパンコーナーにある筈のドーナツがハイターの間に置いてあるのをみて、流衣は首を傾げた。
「また? あ、こっちにもある」
更に横のマジックリンの間にはアンパンマングミ、キノコの山が置かれていた。
たまに全く違う商品がポツンと置いてあったりするが、こんなに沢山は初めてで、百舌鳥のハヤニエ状態のお菓子達に益々疑問を感じた流衣は辺りを見渡し、衝撃の場面を目撃する。
家族で買い物中の若い母親が、旦那が押すカートから商品を取り出し、見えない様に後ろ手でパスする様に、お門違いの商品を棚に置いている。
——え? うそ、何で元の棚に戻さないでそこに置くの〜!?
その愚行に驚き、流衣は好奇の眼差しで見ていると、小さい男の子がダダダッと走ってきて、手に持っていたヤンヤンつけボーを背伸びしてカゴに入れた。
「こーくーん。お菓子はもう終わりにしようね」
「うん」
ママが微笑みながら男の子に注意すると、今までゲットしたお菓子類がカゴの中に無い事に気が付かず、男の子は満足気に返事をした。ママはお菓子コーナーに行けない様に手を繋ぎ、反対の手で今子供が入れたお菓子をすぐ横の棚に押し込んだ。
——……だから何でそこに??
「元に戻してくれたらいいのに」
流衣がポロリと本音を漏らした。
「ハハハ、だよね、でも無理なの」
パートの工藤さんがすぐ後ろから声を出した。
「え?」
「あれね、戻しに行くと子供に勘づかれるから、その場に置いて行くんだよね、ごめん許したげて」
「え、そんな、工藤さんが謝らなくても……」
ママ代表で謝る三人の子持ちのパート工藤に、ママ達に不思議な共有感があると流衣は思った。
「日曜日でパパと一緒だと、ママは怒らないって分かってるから調子に乗んの、子供ってズルい生き物だんね」
「そうなんですか。……でもこんなに戻したら家に帰ってからバレて泣いちゃうかも……」
「大丈夫。家に着く頃には忘れてるから! うち3人男の子だけどそんなんよ、たま〜に真ん中は聞いてくることもあったけど、『落としたかも』で納得してんの可愛いいっしょ」
自身の息子達の子供の頃を思い出したのか、工藤はケラケラと笑い出した。
『パパと一緒だとママは怒らない』の一言が妙に心に残った流衣は、店内の家族連れの人達を見渡した。買い物カゴや紙おむつやトイレットペーパーなどを持つパパ達と、その隣で子供の手を繋いだり赤ちゃんを抱っこしてるママ達。普段よりオシャレな明るい色の服を着ているママ達は、子供に叱るにしてもいつもより柔らかな口調で話しかけてる。
その姿はなんだか誇らしげに見えた。
——ママさん達って、パパさんの前では〈彼女〉になるんだ……。
良いな……そういうの。
うちは家族で買い物した事ないから、そう思うのかも知れないけど……。
うちのお父さんとお母さんは、恋愛結婚じゃ無いみたいだし……小さい頃そんな事を分からないから余計な事聞いちゃったな。
「お父さんとお母さんは何で結婚したの?」
流衣は聞いてからハッとした。小学二年生の夏休み、畑で胡瓜の収穫を手伝いながら、昨日見たアニメのパパうえのおおらかなキャラクターが自分の父親とダブり、パパうえとママうえが手を繋いでる場面をみて、自分の両親は手を繋ぐどころか仲良くしてる所もみた事なかった流衣は、不思議に思って聞いてしまったのだが、父親の困った顔を見てそれ以上何も言えなかった。
聞いていけない事を聞いてしまった気まずさが漂い、流衣は黙々と胡瓜を蔓から切り離す作業に没頭した。
「……お母さんは働き者だからなぁ」
父親が重い口を開いて恥ずかしそうに言ったあと、収穫した胡瓜をカゴの中に入れると、それを持って作業部屋に移動した。
——お母さんは働き者なんだぁ……。
流衣は照れた父親が可愛いくみえて、暖かい気持ちになりながら後を追って作業部屋に向かった。
——あの時「働き者」って凄い褒め言葉だと思ったから、お父さんはお母さんの事好きなんだって思って嬉しかったんだけど……。
お母さんは……違う。
お父さんの事を馬鹿にしてる……。
それってお父さんが読み書き出来ないから
なのかな……?
でも、分かってたはずだよね?
何で結婚したんだろう……怖くて聞けないけど。
クリスマス用商品入れた買物カゴに、ゴツンと何かがぶつかる音がして、しゃがんでた流衣が見上げると、老夫婦の妻が持っていた杖が当たったのだと分かった。
「あらごめんなさいね」
「こちらこそ、すみません!」
お婆さんに先に謝られてした流衣は恐縮して謝った後、カゴを自分に引き寄せ通りやすい様に道を開けた。
「すみませんね」
お爺さんが流衣に向かって詫びを入れると、よれながら歩くお婆さんの腕を掴み支え、ふたりでお互いを支え合うように仲良く歩いて行った。
——お父さんとお母さんも、あんな感じになれば良いのに……無理かな……。
二十年後の両親の理想の姿を思い浮かべ流衣は苦笑いすると、お菓子の箱を手に持ち元の場所に戻しに行った。
「狩野さん……?」
お菓子の棚に戻しつつ陳列を直していると、斜め後ろから女性の声で呼ばれた、振り返るとそこに意外な人物が居た。
「あ! ……臣くんの」
一臣の母が買い物カゴを下げて、確信を持った顔で立っていた。
「やっぱり。似てるからそうかなって思って、良かった声かけてみて、ここでもバイトしてたの?」
スラリとした長身で美形顔は目立つ。それなのに一度会っただけの自分に、後ろから声を掛けるほど気さくな人だと思った。
「はい。いつもは平日なんですけど、今日は夕方までの臨時なんです」
「そうなのか。でもなんでここの店なの? 家から遠くない?」
一臣の母親の言う通り、家から近い場所にドラッグストアは二軒ある。
「通ってるバレエ教室が近くなので、ここの方が来るの楽なんです」
流衣が照れ笑いしながら話すと、母親は何かに気がついた顔をした。
「バレエ教室? バレエ習ってたの!? あらら、どおりで……でも前聞いバイトって飲食店よね? という事は掛け持ちなの? 掛け持ちで働きながら習い事って大変じゃない?」
母親は流衣の身体を上から下まで見つめて、細くて真っ直ぐな姿勢と足が外股なのを見てバレリーナのイメージ通りと納得してから思わず質問攻めにした。
「いえ、バレエ好きなので大変じゃないです」
バイト代でレッスン代を賄う様になってから、母に小言を言われる回数が減ったので、流衣はむしろホッとしていた。
中学生の時はちょっとでも家の手伝いを疎かにすると嫌味を言われ、その都度に苦しかったのだ。
「……そうなの」
一臣の母、
被災したために両親と近所のアパートを借りて住んでて、飲食店の皿洗いのバイトで遅くなった時に一臣に一緒に帰って貰ってると以前に聞いてはいた。
お小遣いを稼ぐためにバイトするなら分かるが、高校生が習い事の為に働くのだと語った事に、この子の親は何をしてるのかと憤りを感じてしまった。しかし自分の子供達の学校生活に関わって、PTA役員や地区の子供会やら色んな行事を過ごして来た上で、各家庭の事情であるその部分に口を挟むのはただのお節介なのだと学び、本人からのSOSを感じない限り、やり過ごす事が第一なのだと悟った。納得できずにスッキリしないまま残るのは仕方がない事なのだ。
ただひとつ、流衣に対するイメージは変わった。
——この娘なんだか気になる……。
最初スカート破いたと言って見せた時はただのポンコツ女子かと思って、微妙な友達カテゴリーが不安だったけど、私の考えすぎでこの娘ほんとに真面目なだけだわ。
それに、背中に付いたシールを取ろうと必死になってる仔犬みたいなんだけど……。取ってあげたくなるというか、手伝いたくなる気持ちになる。
……なるほどね。
親子なだけに一臣と同じ視線で見てしまう紗織は、バイトしてない筈の息子が一緒に帰ってるという、謎の行動の答えが判明してしまい、友達のラインを割ってると複雑な思いに駆られた。
「あ、そうだ。あのスカート履いてて違和感無い? だいぶ大きいでしょう?」
今は店の制服を着用中だが、一臣の姉の制服のスカートはもちろん毎日着用していた。そして流衣にとって大きいスカートは普段長めにして足の寒さ対策、学校では膝丈の規定通りに短くするなどの臨機応変に対応できる必須アイテムとなっていた。
「いえ、あの……逆にすごく便利で……ウエスト巻いてると暖かくて良いんです!」
丈を短くすると腹巻きと化する。
「本当? それなら良かったわ」
流衣が試着した時のことを思い出してクスっと笑った。
「大きいスカートじゃ大変だろうなと思って、一応あの破けたスカート直したの。でも急がなくても良さそうね、そのうち一臣に持たせるから受け取ってね」
「えっ、あのスカート直ったんですか! 凄い!」
驚いて大きな声を出した流衣に、通路を横切ろうとした店長の視線が止まり流衣に向かって声をかけた。
「狩野さんどうかした?」
立ち話は仕事をサボっているとみなされる。
「えっと……」
サボり容疑を掛けられた流衣は慌てて、棚整理をしてるフリをしたが、余計に怪しい行動に見えた。
「……ごめんなさい、メラニンスポンジは何処にあるかしら?」
紗織は、買い物客が店員に売り場を聞くと言う体で機転をきかせた。
「あ、はい。こちらです」
流衣はそれを笑顔で受け、売り場に向かう様に動き出すと、店長も疑いの眼差しを解いて戻っていった。
「完全に元どおりではなくて目立たない程度にしか直せなかったんだけどね。本当は直ぐに渡したかったんだけど、あの子に持たせるチャンスが無くて、あっという間に冬休み入っちゃった」
掃除用具売り場に向かって歩きながら、家の中で素通りする息子に話すタイミングが無いと諦め気味の母親の言葉に、学校が冬季休業に入っていると誤解してると思った流衣は
「……えっと、冬休みまだ入ってなくて、明日まで学校あるんですけど……」
紗織の発言をやんわりと訂正する。
「あらだって明日もう26日よ? いつも23日は冬休み入ってるわよね?」
微妙な場所にある天皇誕生日は冬休みの目安になっていた。
「……震災で入学式が伸びちゃったんで、夏休みと冬休みが少し削られちゃって……」
被災地の学校は津波の被害が無くとも、通常と明らかに違うルーティンになっていた。
「あ……あ、そうね……」
何かに押された様にショックを受けた顔をしたので流衣はドキっとした。
流衣は震災の話はタブーだったと思ったのだ。
「……すみません」
「あー違う違う。ホンットに男の子って学校の事とか言ってくれないから、ガッカリしただけなの」
流衣が不安気な顔で謝ったので、紗織はまだ年若い子に気を遣わせたと、気を取り直して言い直した。
「学校の事……。一日くらいならいいと思ったのかな……」
22日が終業式で23日から冬休みなら通常運転。
3連休を挟んで26日が終業ならたった一日の延長である。流衣達の学校は二学期制なので六時間授業で年内の学校授業は終わる。
「ああ……。小さい頃から必要最低限のことしか言わないの、あの子昔からあんなだから気にしないでね」
掃除用品売り場の品物を見つめて、溜息混じりに寂し気に声にした母に、気にしないでと言われると余計に気になる。
——臣くんって子供の頃からクールなのか……そんな感じする。
お掃除とか黙々とこなしそうだし、日直の仕事とかも……ってやばい、また黒板用のおっきい三角定規出てきた、臣くん小さいのにっ!? コンパスもっ、やだやだやめて!
妄想ストップ!
「まあ、私と結衣子……あの子の姉のせいだから文句言えないんだけどね」
「え?」
「一臣が産まれた時一番喜んだのお姉ちゃんだったの、可愛いって言って離さなくて、誰にも触らせないくらいの勢いでね」
流衣がひたすら楽しそうな顔をしてると、何を思ったのか母親が唐突に一臣の姉の事を話し始めた。
「お姉ちゃん……良いな。うらやましい」
流衣の頭の中に美沙希お姉ちゃんが参上していた。
「学校から帰って来ると一臣につきっきりでね。赤ちゃんの時も勿論だけど、幼稚園のお迎えも私より行ってたし、一臣君にはお母さんとママがいるねって周りからからかわれて言われてたくらい、母親が二人いたらそりゃあの子喋らなくなるわよね」
母親が二人……。
『座禅組んでる修行僧だと思っとけ』というハクのセリフを思い出して、そう言う事だったのかと流衣は楽しくなってきた。
一方で紗織は深いため息と共に、母親としての後悔の念を露わにし話を続けた。
「小学校の勉強もサッカーもつきっきりで教えてたし、私は母親としての出番が無かったわ、楽だったけど」
サッカーと聞いてやっと一臣の知ってる部分に触れたと流衣はちょっと目が輝いた。
「サッカー……も、じゃあお姉さん、女子サッカーやってたんですか?」
「それがね、普通に男子と同じチームにいたの」
「え?、男子と一緒!?」
サラッと言った事に流衣は驚いた。
「中学までね。高校は男女別だから」
流衣の驚いた顔を見て、苦笑する母親。
「中学生ではね全国大会で優勝までしたの。でもやっぱりぶつかり合うスポーツだから、高校生になると男子とは体格が違うし力の差も出て来るし、どんなに技術があってもそりゃ無理よね」
「全国大会優勝……凄い」
サッカーをよく知らない流衣だが、体育の授業で男子がプレイしてるのは見てた。授業とはいえボールの取り合いは乱暴に見えたのは覚えてる。その中に女子が入って、プレイしてたのならかなり別格だったのだろうとその想像は容易かった。
「本人はよほど悔しかったのか、一臣をリーガエスパニョーラに入れてみせるって言って徹底的に教え込んで、一臣もまた器用だったせいですっかり上手くなって、スカウト来るまでになったんだけど……」
紗織はそこまで喋ると言葉を詰まらせ、一番上の商品陳列棚にある懐かしいウタマロ洗剤を見た。
流衣は一臣の母親の話を聞き、リーガエスパニョーラがスペインリーグとわからず、棚の商品を手前に送り出して整頓しながら黙って聞いていた。
「……結衣子がいなくなってから、あの子も今だにサッカーに戻らないし……私も、まだ見るのが辛いから何も言えなくて……」
棚を見つめながら寂しげに呟く母親を見て、流衣はふと何かに触れた気がした。
「やだ、愚痴こぼしちゃったわ。お仕事の邪魔してごめんね」
「いえ、そんな……嬉しかったです、声掛けてもらえて」
「そろそろ行くわね。じゃあお仕事頑張ってね」
「はい。ありがとうございます!」
手を振って去って行く一臣の母親を、流衣は何度も頭を下げて見えなくなるまで見送った。
「店長、お先します」
「お疲れさまー」
PM6:00 流衣は店長に挨拶して仕事から上がると、ロッカーで店の制服から学校の制服に着替え、レッスンバックを抱え店から出た。いつもの表通りに向かおうとして足が止まった。
——違った。今日は教室じゃなくて、家に帰るんだった。ってことは反対側のバス停に行かなきゃ。
流衣は反対側のバス停に向うためにクルリと足を反転した。
「私もまだ見るのが辛い……」
一臣の母親の言葉と、一臣の態度とを思い出して比べた。
——あの時……もうサッカーやらないの? て聞いたら「そうだね」って臣くん言った。
思い出すのが辛いんだろうなって思ったけど、今日のお母さんのお話し聞いて、お母さんのためかも知れないって思っちゃった。
臣くん優しいからお母さんが辛そうなの見て、無意識にやっちゃいけないって自分の中に閉じ込めちゃって、それで苦しくて感情壊したのかもしれない……。
流衣は一臣の感情が戻っている事に気付かずに、
一臣に表情が戻って笑顔が見れる日を夢見ていた。
流衣はふとバス時間が気になり、時刻を見ようとポケットから携帯を取り出した。
——あれ? 着信?
誰だろ……日曜日なのに、まさかお母さん⁈
わーん、何〜??
ドキドキしながら、点滅するライトを見て焦って携帯を開くと、そこにあった5回の着歴は全て一臣からだった。
——臣くん? え、なに?
なんでこんなに、なにかあったの!?
「すみませーん」
考え事をしていた為に歩が遅く、まだドラッグストアの駐車場から出ていなかった。そしてその駐車場の端に止めてある車から声が聞こえた。
自分に呼びかけられた事に気が付き、携帯をかけ直そうとした流衣は手を止め振り向いた。
「薬師堂ってどう行けばいい?」
「え?」
流衣が顔をあげてみると以前、同じセリフで道を聞いて来た男が車から身を乗り出していた。
——この人あの時の……。
流衣が驚いて男を凝視すると、安原は馬鹿にした笑いを浮かべた。
その瞬間。後部ドアが開いて流衣は声を上げる間もなく中に引き摺り込まれた。
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