第11話 衣装とメイクとクリームブリュレ

 客席から大きな拍手が湧き、その拍手と歓声が舞台裏のリハーサル室にも届いた。

「秋山さんだよね。あの歓声」

黒田凛子がリハーサル室の入り口の扉の側で、外の様子を伺い声に出した。

 PM4・20。午後の部のトリを務めたスターの秋山に惜しみない拍手が贈られているのを聴きながら、ようやく自分達の出番だと暗に語る黒田に、一幕から出番の美沙希はメイクも衣装も完璧に整え、微笑みながら頷いた。

「ここまで聞こえるのやっぱり凄いね。陽菜は大丈夫かな」

 遅く来て、支度もそこそこでリハーサル室から抜け出し、舞台の秋山を観に行った陽菜を美沙希は心配していた。

 午後の部が終わったのが皆に伝わり、ここから夜の部開場時間まで場当たりがはじまり、Sスタジオの生徒達は舞台での練習をする為に、緊張した面持ちで皆リハ室を後にした。

 ここに来てようやく、Sスタジオの生徒達で埋め尽くされていた鏡の前が空き、流衣達は簡易テーブルの前に座り、自分達の準備に取り掛かった。

「仁君カッコよかった〜」

うっとりしながら陽菜が帰って来た。

「陽菜。早く支度しないと、これから仁君と踊るんでしょ?」

美沙希が浮かれ気分の陽菜に注意する様に急がす。

「〈タランテラ〉はうちらの〈四季の精霊〉の前だからそんなに急がなくても大丈夫じゃない?」

柚茉がトウシューズを履き直しながら、練習も出番の順番通りなら、最後だと後一時間はあると余裕をかもし出している。

「陽菜は時間かかるやろ」

常日頃スローペースの陽菜に、美沙希だけではなく理子も心配する。

「私は直ぐにリハの出番だからもういっとくね」

美沙希は雰囲気から全て〈リラの精〉を纏い、済ました顔で言うと、手を振ってリハ室を出て行った。

「美沙希ちゃんもうすっかり入り込んじゃってる〜」

「こっちはまだ時間あるから、メイクは後にして頭(髪の毛)は作っとこう」

 仲間内で最年長の柚茉の一言で、それぞれの準備を念入りにし出す。


 本番の準備に入った緊張感で空気が変わったリハーサル室の一角で、流衣はひとりトウシューズを前に悩んでいた。

——やっぱり持たなかった……かなりキツイ。

練習で履いていたトウシューズを一旦脱ぎ、新しいもう一足のトウシューズと並べた。

——クタクタになっちゃって、流石に足が痛い。新しいトウシューズを履けば良いんだけど、……どうしよう、こっちは足にしっくりくるのに勿体無い、ローザンヌ用にしたいのに。

トウシューズ。ポワントとも呼ばれるシューズは全て職人の手作りで一点もの、故に同じメーカーで同じサイズでも作りが全て異なり、必ずフィッテングして、いつも通り足に合ったものを買ったのだ。

しかし今回は神様の贈り物のように更に“当たり”だった。

——先週買って何回か履いたけど、足にしっかり馴染んで今までのシューズの中で一番いい感じ。このまま少しずつ慣らしてローザンヌでベストにして、出来ればこの子と一緒に戦いたい。と思ってたのに……先輩が、こっちの子が一昨日辺りからぐったりして来ちゃって、今年いっぱい持つと思ったのに〜大誤算〜! ああもう……どうしよう……。

発表会で練習量が増えた為の失墜で、決して安くは無いトウシューズの前で流衣は悩みに悩んだ。

——この後にリハーサル、そして本番。……うん。二回なら先輩に頑張ってもらおう。

そう決意すると、新しいトウシューズを大切に仕舞って、有終の美を飾らせるシューズに向き合った。

流衣の足ははギリシャ型の人差し指が長いタイプ、いつもは自作の親指キャップをはめている。

——今日は脱脂綿プラスしよう。

百均で買って鞄に入れて置いた脱脂綿を手で解して、一度フワフワの状態にしてからトウシューズの先に詰めていく。

「珍しいね流衣ちゃんが綿使うの、痛いの?」

綿を詰めて、シューズを履いて、を繰り返してる流衣を見て光莉が心配した。

「ちょっとだけね。応急処置」

「それ痛々しい、治らないね人差し指の爪」

光莉が寒々強い顔をして、タイツ越しでもはっきりわかる、流衣の真っ黒に変色した足の人差し指を見た。

 母親に遠慮して、痛いと言えずにトウシューズを履き続けて、何度も生爪を剥がし、中学生になって人差し指に合わせて、親指底上げしてにキャップを嵌めればいいのだと気付いた時にはもう遅かった。爪は死んでいるし、豆はタコに代わり指先は変形してしまっている

「んー。小さい頃サイズが合わないの分からなくて……もう痛くないんだけどね」

 それは本当だった。まだ身体が出来上がる前にその形に収まったので、痛みは出て来ない。まだ小学生で身体が軽いとはいえ、全体重を足の人差し指一本で支えてたのだから、少しの変形で済んだのはまだマシな方だと言える。

 流衣は大丈夫と笑って話すが、光莉はその部分は直視出来ないでいた。

「ふふっ、光莉ちゃんの水色の衣装キレイだね」

顔を曇らせて、自分の事を心配してる光莉の友情が嬉しい反面、何か淋しい気がして、目に留まったグラデーションの水色のロマンチック・チュチュに話題をスライドした。

「流衣ちゃんの若草色の衣装も良いよね」

「日本と色のイメージ違うから戸惑っちゃうよね。春が緑って新鮮だね」

「言えてる! 日本だと春ってピンクだもんね」

「夏が黄色で、秋が赤やもんな」

理子が話に乗って来た。

(夏がオレンジ、春が青だったりする事があり、バレエ団に寄ってカラーが違うことが有る)

「みっちゃん、赤似合うよね」

柚茉も、準備が済んだ皆んなが寄って来た。

「みっちゃんなら黒とかも有りそう」

「〈黒い秋〉ホラー映画のタイトルみたい」

「え〜っ。アニマル柄が良かった〜」

「なんでそんなサービスせなならんの」

「流石の関西でもバレエにアニマル柄無いよね」

「あったら逆に面白いのに〜」

「それバレエやなくて吉本やろ」

「マダムシンコがレオタード来たら絶対アニマルだよね」

光莉が最近テレビで見た派手な人を思い出して言ってみた。

「マダムシンコって吉本やないで?」

「違うの⁈」

びっくりする東北人視野の光莉。

「あれはタダの菓子屋のおばちゃんやろ」

あっさりと単純な説明をする理子。

「あの人さー、糖尿病で人類殲滅する作戦の総司令だよね」

呆れ返ってジト目になる柚茉。

「確かに。あのクリームブリュレ、ママは食べてみたいって言ってたけど、私は無理だと思った」

光莉のママは新しいスイーツ大好き人間。

「通販は冷凍で来るからやめた方が良いよ。というか、東北地方の販売は冷凍だから絶対やめた方がいい……カラメルがジャリジャリで甘いのに苦くて訳分からん食べ物だった」

柚茉がガチの体験をガッカリしながら語った。

「食うたんか柚茉。チャレンジャー通り越してもはや勇者やな。あれは店で食べんとあかん食べもんや」

「話題になるくらいだから、お店で出来立て食べれば違うんだろうね」

密かにママに伝えておこうと心に留める光莉。

「誰も食べないから半分くらい捨てちゃった。コスパ最悪」

「もったいなーい」

言ってくれれば貰ったのに〜と、言いたげな陽菜の様子が笑いを誘う。

——マダムシンコ? クリームブリュレ? なんだろうそれ……。食べ物っぽい。

震災後はTVの無い生活をしていて、世間から遠ざかり、皆んなの会話が何ひとつ理解出来ない流衣は、聞いた所で付いて行けないだろうと、合わせて笑って誤魔化した。


——今日一日頑張ろうね。

 流衣が床に座って、乾いた笑いを引き締めてトウシューズを摩りながら語りかけていると、ガチャと入口の扉が開いて香緒里が顔を出した。

「みんないつまで遊んでんの? 早くステージに行って! もう出番来るよ」

香緒里がお喋りで盛り上がってた生徒に喝を入れた。なかなか現れない自分の所の生徒達を心配して様子を見に来た。

「え? もう⁈」

「みんな舞台袖に集まって順番待ちしてるんだから、皆んなも早くスタンバイして!」

「いや〜ん。香緒里先生ごめんなさい」

「直ぐ行きます!」

ワラワラとリハ室から出る流衣達。

「早いですね」

「踊りだけのリハだから、順番に曲かけてバンバンやってるの」

「美沙希ちゃんのリラ見たかったのに……」

「それ一番最初よ」

香緒里は午後の部が終わる前から進行役のお手伝いで舞台袖にいて、今さっき、代わりとバトンタッチして楽屋に来た。

「リラは二幕も出番あるやん、それにしても早やない?」

「……まあね。オーロラがね、最後だけ踊るらしくて、だいぶ巻いてるの」

みんな一気にシーンとなった。

「まあ、全部踊ったら疲れるかな?」

「ペース配分大事だよね」

「お金持ちってお得だね〜」

陽菜がポロリと本音を吐いたせいで、空気が凍った。

「ダメじゃん。みんなが我慢してる事言っちゃ!」

柚茉が嗜めると。

「え〜、だって〜」

怒られたと口を尖らせる陽菜。

「ええか、大人の事情っつーもんがあってな、例え金持ちだとか、ソロでも無いローズアダージオぶっちぎるワガママだとか、体力無いのに主役踊るなや、とか口が裂けても言うたらあかんねん」

「……いや、それ『ダダ漏れ』越して『ジャジャ漏れ』だし」

「タダよりジャジャの方が量多いの」

「そんな気しない?」

「かもしんない」

「もうパ・ド・カトル〈宝石〉やってるよ」

「嘘ぉ、はやっ」

「そらそうやろ、オーロラなしなら一幕二幕はマリオジャンプでワープや」

「上手い事言うね」

香緒里が感心した。

「ユズちゃんと千尋ちゃんだ、うわっ、ウマッ」

光莉が軽く叫んだ。

「凛子さんも上手〜。そっかプロコースの人だもんね」

自己紹介時いなかった陽菜だが、サファイア役の黒田凛子の事はみんなから聞いたのだ。

「あのダイヤモンドの役の人誰やろ?」

「プロコースの人じゃない? 上手いし」

「綺麗……」

四人のうちひとりは初めて見たが、さっき気さくに喋ってた人達が、プロ並みに上手くて、5人とも感動して見惚れてしまっていた。

「この後、〈キトリ〉〈青い鳥とフロリナ王女〉〈エスメラルダ〉〈白い猫〉〈赤ずきんと狼〉〈タランテラ〉〈四季の精霊〉〈オーロラ〉のアダージオ、パドゥ・ドゥ、コーダで終了。マズルカは省略」

香緒里がスコアを口にすると一同は頷いた。

「私とみっちゃん上手かみてからだから、陽菜ちゃんと一緒だね。向こうに回ろう」

今回の振り付けでは、春と秋が上手から、夏と冬が下手からになっていたので3人は光莉と柚茉とは別れて上手に回った。

「!」

 上手の入り口の前で、秋山が立っているのが見えて陽菜が声にならない悲鳴を上げた。


秋山がタランテラの衣装着ている陽菜を見分けて、近寄って来た。すると何かオリエンタルな香りが漂って来た。

「ん?」

「なんや」

思わず声に出してしまった流衣と理子。

——凄い匂いがする……何これシャンプーじゃ無いよね、いやまさか柔軟剤??

普段バイト先で散々嗅いでる物とは明らかに違う。

——くっさ、まじ、臭っサ! 何っやこれ。メンズもんの香水やん、確かカルバン・クラインの黒い奴や。めっちゃ匂う! つーか、かけ過ぎやんか! メートル離れとんのに匂うって、どんだけぶっかけとんねん!

香りの定義は人それぞれだが、香りの質より量の問題、湿気の多い日本ではかけ過ぎず、通りすがりにカオる程度が程よい。しかしながら外国、とりわけ乾燥地帯のヨーロッパなので生活すると、香水の量が洪水とバグり公害と化する事がままある。

——これか……舞台で見た時に、踊りにくそうに見えたの……。これ、立ってるだけでこれだけ臭うんだから、動いたら酷いかも……。

一メートルは離れているのに、手が自然に口元から鼻の下へ伸びる。が、臭いと口に出す訳にいかずに途方に暮れる。

「今日、よろしくお願いします」

頭を下げて挨拶する陽菜も、これにはちょっと引き攣っていた。

「よろしくね」

にこやかに笑顔で陽菜に応えて挨拶する秋山は、陽菜ではなく流衣を見ていた。

——見られてる気がするけど、私なんかしたかな……? 初対面だよね? そっかこっちから挨拶しないとダメだよね。

香水のせいで、自分から挨拶をすることすら忘れていた。

「あの、初めまして……」

「君、ローザンヌに行く子だよね?」

頭を下げて挨拶する流衣が言い終わらぬ内に、秋山から声がかけられた。

「はい。そうです。狩野と言います……」

「やっぱりね、春の精霊の衣装着てるからそうだと思った!」

またしても言い終わらぬ内に秋山が喋った。そして品定めする様に流衣を上から下まで、ぐるっと視線を一周させ、またしても勝手に喋り出した。

「ふーん、スタイル悪くないね。小さいけど顔小さいからバランス良いんじゃない? 細いしね」

——え?

流衣は驚いて固まってしまった。

——は?

理子も固まったがこちらは一味違う。

——オマエはバリオペの審査員か! 何ひと批評してんねん!! 何様や、自分、黙って頭からクサヤ被っとけ!

理子には秋山の香水はクサヤと同じらしい。

——流衣ちゃんの事細いって……。やっぱり陽菜は太ってるって意味だったんだ……。

陽菜は真相に気がついてガックリしてしまう。

——私いま褒められた? 批判された? それとも批評なの? 踊りの批判ならわかるけど、なんでスタイル? なんで秋山さんから批評されたの??

「私……ちょっとお手洗いに行って来ます」

思考が堂々巡りし始めたため、流衣は落ち着きを取り戻すために、この場から離れる理由を出した。

「え? 流衣ちゃんさっき行ったばかりじゃん」

空気の読めない陽菜がバラした。

「えーその、化粧を直しに」

「メイクしとらんやろ?」

空気は読めるが突っ込み入れ気質の理子が性分を発揮した。

「そうだった……じゃなくて。えっと……」

流衣は必死に言い訳を探した。

「これから私がメイクする〈や・く・そ・く〉なの!」

流衣の腕をガッチリ掴んだ千尋が言った。

〈宝石〉のリハが終わった千尋が入口で揉めてる四人を見てたのだ。

「あ、はい」

一瞬戸惑ってから同意した。

「ちょっとこっち来て」

千尋が流衣の腕を引いて連れて行こうとすると

「今からメイクしたらあかんわ、出番すぐ来るんちゃう?」

理子がその助け船を本気で受け取ったので、今度はユズが声をかけた。

「みっちゃんはこっちこっち。衣装のほつれ直してあげる」

と言って秋山に見えない様にウインクする。

「!」

ユズの合図でやっと気がついて、理子とユズは通路の影まで移動し、ほつれを直すふりをした。

「今からメイクするんじゃなくて、メイクをするタイミングの打ち合わせするの、そこ入口だから邪魔でしょ? だから移動しまーす」

千尋は誰にとも無くそういうと、邪魔だと言われた秋山は、振り向いて扉の位置を確認し、バツが悪そうに横に動くと、その間にふたりは姿は見えるが声は聞こえない場所に、そそくさと移動した。


 後に残された秋山と陽菜、〈宝石〉のふたり。静かな空気感が気まずいのか、黒田凛子がダイヤモンドに語りかけた。

「さくら、膝どう?」

んーと唸りながら〈ダイヤモンド〉の庄子さくらは自分の左脚を見た。

「膝? さくらちゃん怪我したの?」

プロコースの生徒である黒田凛子と庄子さくらは顔馴染みであるため、秋山はさも心配してる口ぶりで聞いた。

「膝裏の筋肉炎症起こしちゃって、トウシューズ禁止になってたの」

そのせいで、ここ一カ月ほど病院通いに労力を費やしていた。

バレエに怪我はつきもの、アスリート同様、問題はその後の処置で選手生命が左右される。

「痛みも無いし、大丈夫そう」

庄子さくらは五番アンディオールでルルベ、ゆっくり戻り笑顔になった。

「本番に間に合ったね」

「病院(整骨院)からの直行だけどねー」

笑いながら語る庄子さくら。

 リハーサル室にいなかったのは、ギリギリまでマッサージを受けていた為だということが、少し距離を置いて話を聞いていた陽菜には分かった。

「無理しないでよ、本当の本番は四月のニューヨークでしょう、きょうはたかが発表会なんだからさ」

「そうだね、ここで悪化させたらいけないよ、何ならダイヤモンドいなくても成り立つしね」

プロの秋山も、プロ志望の黒田も庄子も、それが当たり前のことである。


——たかが発表会……。

 陽菜は会話に混ざれず、手持ち無沙汰での手を後ろ手にくみ、距離をおいた場所に立っていた。陽菜にとって発表会は、憧れの仁君と踊れるのを楽しみに、緊張感しながら待ち望んだ日なのに、この人達は「たかが」の事なんだと、心の中のメーターが下がって行くのを感じた。


「はーい。美沙希が辞退して寂しいけど頑張って来まーす」

庄子さくらが宣言する。

「あー、美沙希さん。辞退する必要なかったんじゃないかな、勿体ないよね、彼女なら絶対留学資格取れたのに」

悔しいそうに言う秋山に、女子ふたりは反応した。

「え〜、ちょっと、わたしら〈ちゃん〉なのに美沙希は〈さん〉なの?」

「だってさ、年下だけど、なんか〈ちゃん〉付け出来ないオーラあるよね彼女」

「秋山さんは美沙希〈推し〉なの? 〈春の精霊〉の子褒めてたから、あの子がタイプなのかと思った」


——ん?

思わず聞き耳を立てる陽菜。


「まさか! 金田先輩から「ローザンヌ経験者ならアドバイスのひとつもしてやれ」って言われたからだよ、でなきゃあんな地味な子に声なんかかけないよ!」


秋山は流衣の事を貧相だと馬鹿にして否定した。


……え、仁くんって……。


あぜん……とする陽菜。

 

 人に言われたからの程で声を掛ける配慮の無さ、アドバイスにもなっておらず、年下の女の子を地味だと斜めにディスる思いやりのない「秋山仁」の人となりを垣間見た陽菜は。


——この人……空っぽだ……。

 下がり出したメーターが加速し、憧れが現実に変わった途端に、大人の香水の匂いが鼻につきだした。


「なんかさっきから気になってたんだけど、お香の匂いしない? 線香みたいな」

慢性鼻炎のさくらは芳香源まで辿り着けなかった。

「線香?」

鈍感な秋山は自分の事だと思いもしてない。黒田凛子はひとり苦笑い。


「トイレの芳香剤じゃないですか?」

陽菜はハッキリとそう言い残すと、裏口から舞台に向かってスタスタと歩き出した。

残された三人は一斉に、鼻を突き出して奥のトイレから臭いがするのか確かめ出した。







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