第3話 「小岩井農場」の「あらすじ」(後半)

 【パート五】 【パート六】

 この二つのパートはタイトルだけで詩は存在しません。

 なお、前の「パート四」から次の「パート七」までのあいだに雨が降り出しています(「パート二」では雨は降らないと安心していたのに!)。

 主人公はもともと「くらかけ山」まで行く予定だったのを断念して引き返してきています。あとで汽車の時間を気にしているのはそのためです。

 そういう事情は詩のなかでは語られません。


 【パート七】

 雨の中で空を見上げる農夫を見かけ、主人公は汽車の時間(盛岡に戻る列車の時刻)を訪ねてみようとする。そこに働きに来ているらしい二人の女の子(主人公はその一人をMiss Robinと名づけます)もやって来る。

 主人公は中途半端な距離を縮めて農夫に話しかける。汽車の時間をきき、続いて燕麦えんばくの種をまいているのか、肥料を入れたのかなどと話しかけるのだが、農夫はずっと何かにおびえている感じだ。主人公は、農夫がおびえているのは、労働(働かなければならないこと)か、向こうで銃を構えて立っている男か、女の子たちなのかと考えながら、雨の中に現れた鳥が何という鳥なのかをきく。農夫は「ぶとしぎ」と答える(ちなみに賢治は童話「よだかの星」の主人公をいちどはこの「ぶとしぎ」に設定しようとした形跡があります)。

 雨のなか、ぶとしぎの声を聴きながら、主人公は落葉松らくようしょうの若芽に目を留める。

 ぶとしぎが鳴き声を立てるなか、農夫は向こうに行ってしまい、少女たちは眠る。そこに若い元気そうな農夫がやって来る。たき火をしているところに農夫も戻ってくる(この農夫が、歩き去った年老いた農夫なのか、若い農夫のほうなのか、はっきりとはわかりません)。主人公はから松の芽を集めて自分の童話を飾りたいと思う。寝ていた少女の一人も起き上がる。農夫が「うな いいおなごだもな」(「おまえ、いい女だな」)などと大声で言ったので、主人公は「このひとは案外に若い」と思う。

 主人公もたき火に当たらせてもらい、汽車の時間が三時四十分だということを教えてもらう。


 【パート八】 タイトルすら存在せず、完全に欠番です。


 【パート九】

 四本の桜の姿に、主人公は幻想へと入って行く。現世のほうが自分の感じる場所の外側だと感じられるようになる。

 その幻想のなかにユリアとペムペルという存在が現れ、「おおきなまっ白なすあし」で主人公とともに歩く。主人公の感覚はそこからなかば現世に戻り、農場のその場所が「聖なる地点」であると感じる。瓔珞ようらくをつけた子どもたちの姿がちらっとよみがえる。

 ユリアとペムペルのすあしは「赤い瑪瑙めのうとげでいっぱいの野はら」も平気で進んで行くのだろうと主人公は感じる(この場面は童話「ひかりの素足」に通じます)。

 この幻想を拒否して、主人公は考える。

 正しい願いに燃えて、自分も他人も万象もいっしょに「至上福祉」に到達しようとするのを「ある宗教情操じょうそう」とする。そこから「砕けまたは疲れ」て自分とたったひとつのたましいと完全・永久に行こうとする。これが恋愛である。恋愛の方向では得られない、恋愛の本質的な部分を「むりにもごまかし」獲得しようとする傾向が性慾である。

 その「宗教情操」から「性慾」までの移り変わりの過程にしたがって、目に見えるもの、目に見えないものを含めてさまざまな生物の種類がある。それは「可逆的にもまた正しく」(何を「可逆的」と言っているのかはわからないけれど、「性慾」から「恋愛」を経て「宗教情操」へという過程も成り立つ、ということ?)、それは主人公にとって「あんまり恐ろしいことだ」と感じられる。

 しかし同時に主人公はそれが「明確に物理学の法則にしたがう」変化だと理解し、そのなかに自分が「新しくまっすぐに」起つことを決意する。

 そこにこれまでのさまざまな風景が想起される。自分はさびしくない、と思ったすぐ後には、「またさびしくなるのはきまっている」と思う。そして、その「さびしさと悲傷とを焚いて」自分は「透明な軌道をすすむ」のだと言う。

 最後に雨にみずみずしい青さを増して見える落葉松を印象に残し、主人公が「かっきりみちをまがる」ところで詩は終わる(なお、賢治は、この詩の刊行後、最後の行を「かっきりみちは東へまがる」と、道自体が曲がるという詩句に直そうとしていました)。

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