第7話 社内改革
「蓮、編集部をやめたいってのはほんとうか?」
登校中にたまたま一緒になったので昨日の帰り際に康くんから聞いた話を蓮本人に聞いてみることにした。
「うん。編集部には元一日新聞の礼音くんに入ってもらおうとおもって。」
「しかしなんでまた。礼音くんも入れて編集部3人でいいじゃないか。」
「編集部の仕事は挿絵の外注のおかげで少なくなったし3人いてもどうしようもないとおもってさ。だから礼音くんをぼくと入れ替わりにして僕は取材に行こうと思う。」
そこでぼくは一つ思い当たることがあったので聞いてみる。
「さては蓮、取材じゃなくてやりたいのはスパイなんじゃないか?」
蓮がよく読んでいる小説がスパイもので、そのシリーズを蓮がこよなく愛してることは彼と遊んだ時に気が付いていた。小説が好きすぎるあまりその小説が原作の実写映画をけちょんけちょんに貶しているあたりよほど好きなのだろう。
「勇太には気づかれてたか・・・」
相当意外だったようであからさまにびっくりした表情をぼくに向ける。
「まあね。でもちょうどいい、ライバル社の動向を知るのはこれから必要になってくるからね。だからほら、」
そう言ってぼくは昼休みに考えていた新しい社内組織図を蓮にみせる。
まあ大した違いはないが取材部から二本枝が伸びて取材一課と取材二課に分かれている。
「取材部の部長は蓮にしよう。そして取材一課は康くんと誠くんに任せていつも通りの取材をする。取材二課は蓮直属で動かすようにしよう。必要があれば信用のおける人を2人ぐらいなら雇ってもいい。名目上はYR新聞全クラス版(仮称)のための課ということにする。」
「それはうれしいよ。それも二課なんて・・・」
「一課がよかった?」
「二課のほうがカモフラージュしたスパイ組織らしいから好き。」
「なんじゃそりゃ。」
というわけで社内の組織再編とし人事異動と取材部二課体制がその日の昼にスタート。社員証もいままでのものは悪用を防ぐためハサミで切断したうえで廃棄、クラスのロッカー上の本棚(それぞれの会社関係の公開されている資料はここに集めることでみんな閲覧することが可能になっている)にあった古い組織図も更新。
そして蓮は取材二課にリクルートする友達をふらりと誘いにいった。
それから一週間後・・・
「よろしく三好くん。蒲生くん。」
ぼくは蓮が紹介してくれた二人に挨拶する。
三好くんのほうはぼくも一緒に遊んだことがある。というか幼稚園も同じだったし住んでるところも近いのでたまに一緒に学校へ行く仲である。
少々プライド高いところはあるがとても聡明であり、彼に当てはまりそうな職業と言ったらそれこそ医者か探偵のようなイメージである。
彼と話していると彼が語るその話の情報量に圧倒されたが、それだけ周りにアンテナを張って話を聞いているのだろう。
蒲生くんは4組の子でぼくは”初対面ということになっている”のだが蓮とは同じ塾に通う仲らしい。
なんでもチェスが好きという小学生ではなかなか珍しい趣味を持っている。
手先も器用で、のちに彼と話していて思ったことはとても聞き上手であるということだ。
その人懐っこい表情と絶妙なタイミングで返される相槌と返答は思わずいろんなことを話したくなってしまう魅力を持つ。
蓮、三好、蒲生。この3人とぼくはその日一緒に帰ることにするとちょっと学校から離れたハンバーガーショップに立ち寄った。
「それで俺たちがその『取材二課』っていうことで他の会社のスパイをするわけだね。」
手に持ったコーラを弄びながら三次くんが言う。
「そういうことだね。蓮からはどれぐらいの話を聞いてるの?」
「聞いてるも何も面白いことがあるから来ないかってことだよ。安定した報酬もあるって言ってたしいいかなって思ってきたのさ。」
「僕も同じこと言われたよ。」
「えっと、蓮。確認なんだけどこの2人って今まで会社どっかに入ってたりするの?」
「いや、2人とも会社には入ってないはずだよ。ね?」
「うん。俺はたまに放課後やってるトランプ大会で稼いでるのがメインだな。」
「僕はたまにいろんな会社の手伝いをしてお金貰ってるかな。結構お金くれるんだよ。」
2人ともフリーランスながらそこそこ稼いでいるようである。今後うちの会社に入ってもらうにあたっての条件を見定めるために蓮と協力してふたりに目をつけてから一週間陰ながら監視していた。
その間ぼくと蓮は本業にかかることができなかったが、取材は取材一課の二人、記事の制作も編集部に新しく入った礼音くんとVIデザイナーズに発注している分があるので1週間程度ならそこまで問題にはならなかった。
さすがに朝からは無理だったが業間休みや昼休みなど、ぼくらの仕事がらほかのクラスの周りをうろうろしているのも別に特別不思議なことではないので目立つことはない・・・はずだ。
そうして一週間彼ら二人の人間関係、他の会社との関係、彼らのだいたいの収入の情報を組み立てていく。
そして彼らが完全にホワイトな存在であることを確認したのち、うちに誘う。
彼ら二人はYRの機密を扱う存在になる予定だ。決してライバル社の産業スパイを入れてはならない。
「ところでうちに入ったときの報酬なんだけど・・・」
そう言ってぼくは一週間の調査で得た情報からこれぐらいだろうとする報酬を2人に提示した。
2人とも表情が緩む。
「いいよ。楽しそうだし友達だからな。」「僕もYRに入るよ。楽しみだもん。」
提示した報酬は学年の平均からみても決して安い金額ではないが彼らのフリーランス時代と比べると普通に安い金額だ。
ぼくと蓮はここで金額でごねられたら「冗談だって」と言ってより高い金額を提示する手はずになっていた。そして二人をスパイと称して閑職に置きしばらくしたらクビにするつもりであった。
決してこの金額の提示は人件費を削減するためではない。
金額ごときでごねる人間をだれがスパイにするものか。現実のスパイも給料は国家公務員のそれと同じだと父さんから聞いたことがある。
金額で仕事を決めるのなら敵に金を出されたらホイホイそれについていってしまうからな。
『友情』と『楽しさ』
YRに入る理由は小学生らしいが少なくとも金よりも信頼ができるとぼくは思うね。
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